特別番外・その三
という事で、特別番外『脳破壊されて歪んだ彼の邪悪さが止まる所を知らない』の最終話です
念のため本文開始までの行間を大きく空けました
この話には本編のタグの乗ってない特殊な嗜好の内容が含まれてますので、ご注意ください
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「この、裏切りもの!!!」
夕方の学校の裏庭で。
叫び声と共に、私は頬をビンタされた。
ビンタしたのは転校生の宗方ミツコ。
現役の人気女性モデルで、私とは友達……だった子。
でも宗方さんの幼馴染だった伊藤くんを始め、生徒会長のアリオスくん、風紀委員長の国光先輩と、宗方さんが好きになった相手を立て続けに私が奪ってしまい、友情も破壊されてしまった。
「………」
私だって奪いたくて奪った訳じゃないけど、客観的事実は変わらず何も言い返せなくて、無言でぶたれた頬を片手で抑えた。
「もう二度と話し掛けて来ないで!」
宗方さんは怒ったまま立ち去った。
これでまた同性の友達を失ってしまった……。
私も沈んだ気持ちのまま家に帰った。
あの、悪魔たちの待つ家に……。
「お帰り恭子。……って、その頬どうしたんだ?」
玄関で出迎えてくれた斎藤くんが、赤く腫れた私の頬を見て驚いた。
しまった、適当に隠すべきだったか。
でも、ガーゼを貼るとそれはそれで何かあったと言ってるものだし、どうにもならないか。
「ちょっとよそ見してたらぶつけちゃって……」
「取りあえず冷やそう。こっち来て」
斎藤くんは私の腕を引っ張ってリビングに連れ込み、冷却シートを持って来て私の頬に貼った。
「これでいいか。で、誰かと喧嘩したのか?」
「いや、ぶつけたって言ったでしょ」
「手の跡がハッキリ見えてたぞ。……言いたくないならもう聞かないけど、あまり一人でため込むなよ」
それだけ言って、斎藤くんは夕食の準備をしに厨房に入った。
思えば、最近私を気遣ってくれるのは斎藤くんだけだな……。
斎藤くんだって最初は私の体目当てでイチゴたちと組んでたのに、距離感が近くなったから気持ちも変わったとか?
……笑えない。
結局はイチゴたちと同じ穴の狢のくせに、今更良い人振らないでよ。
私は絶対に、あんたたちの事を許さないんだから。
「聞いてくれ、恭子。宗方さんの親の会社だけど……倒産させた!」
夕食の時、イチゴが突然そんな事を言い出した。
「……は?」
倒産した……じゃなくて倒産させた……?
つまり、イチゴが意図的にそうしたって事?
「宗方さんは前々から恭子を敵視してたからね。その報復さ」
アリオスくんが付け加えて説明した。
こいつも共犯か。
ただでさえ三連続で失恋してつらい宗方さんに追い打ちとか、こいつらは本当に人の皮を被った悪魔だと思う。
「……そう」
でも面と向かって責めたら反発して何するか分からないので、下手な事は言わず適当に相槌を打った。
「恭子。これからも君を傷付けるのは容赦なく排除するから、安心してくれ」
イチゴは自慢げに言うけど、今私を一番追い詰めているのはイチゴなんだけど……。
今夜だって誰かが私の部屋に来て眠れなくなるだろうけど、イチゴは助けてくれる所か助長するだろう。
正直に言って、もうイチゴが好きなのかどうかも分からなくなっている。
でも別れようにも色々とがっつり包囲されていて逃げられない。
もうどうにもならないのか、と心が沈んで行くある日。転機が訪れた。
「危ない!」
休日に一人で街を歩いてたら、誰かの叫び声が聞こえた。
驚いて周りを見回すと、一台の車が車道を外れて歩道にいる女の人に向かって暴走してた。
本当に危ない、あのままだとぶつかる!
私は反射的に駆け出して、女の人を抱きかかえ、暴走する車を躱す。
そして車は私の後ろを通って電柱に激突した。
「ギリギリセーフ。……っと、大丈夫ですか?」
車を躱した後、私は女の人の安否を確認した。
さっきは急いでて気にする余裕が無かったけど、日本では珍しい銀髪で顔立ちも綺麗な人だった。
「ええ、大丈夫です。それよりも、すみませんがすぐ私を連れてこの場を離れて貰えますか?さっき腰を抜かしてしまって、自分では動けないのです」
「へ?……は、はい」
女の人はさっきまで車に轢かれかけてたとは思えない剣幕で、私は思わず頷いた。
そして女の人を抱きかかえたまま、とにかくこの場を離れた。
移動中、「
そして適当なお店でサングラスとマスク、後帽子と替えの上着を買って変装した。
途中、色々話を聞いた。
名前はミーシャって事と、この国には親戚に会いに来たけど身代金目当てでマフィアに狙われたと。
日本語が流暢なのは、この国にいる親戚と交流する内に覚えたらしい。
フルネームを名乗らない時点で半分嘘っぽいけど、私を騙すよりは自分の情報を隠したがってるみたいだから、あまり気にしない事にした。
「立て続けに申し訳ありませんが、次はこの場所に案内していただけますか?」
追ってを撒いたと判断した後、ミーシャさんはスマホでマップアプリの画面を見せてそうお願いして来た。
「分かりました」
乗り掛かった舟だし、最後まで手伝おうと決めて私はミーシャさんを案内した。
目的の場所には黒塗りの外車が停まってて、私たち……というかミーシャさんの姿を確認したのか中から黒スーツの人たちが出て来た。
一瞬追手に先回りされたのかと思ったけどミーシャさんが平然としていたので、追手じゃなくてお迎えなんだと察した。
ミーシャさんは真顔でこっちに振り向いて口を開いた。
「葛葉さん、ここまでありがとうございました。本当はこのまま別れるつもりでしたが、少し気が変わりました。もしよろしければ、これからも力を貸していただけますか?」
「え?」
そしてミーシャさんが自分の事情を説明し始める。
実はミーシャさんはとある小国の王女様で、その国がついこの前に王様が急に亡くなって王位継承で暗闘が始まった事。
そして積極的に王になる気のないミーシャさんは、この国にいる親戚に身を守る協力をお願いしに来たけど断られて、その帰り道に暗殺の手を差し向けられたと。
なんと、さっきミーシャさんが車に轢かれそうになった事が、その暗殺の手だったらしい。
「身勝手なお願いなのは承知してますが、葛葉さん。私の専属護衛として国まで一緒に来ていただけますか?葛葉さんがいればとても心強いです」
普通なら、ここでの生活があるからミーシャさんの誘いを断っただろう。
でも今の生活から逃げ出したい私からしたら、ミーシャさんの誘いは渡りに船だった。
「はい!一緒に行きます!」
「ありがとうございます」
そのまま私はイチゴたちから逃げるように、両親に報告の連絡だけして身一つで日本を出てミーシャさんの国に向かった。
ーそれから数年。
色んな事があった。
最初は暗闘からミーシャさんの身を守るだけのつもりだったのに、一番積極的に暗躍してた第三王子が国王を毒殺した黒幕で、国の利権を売り渡して外国や裏社会の組織までも味方に付けた事を知り、怒ったミーシャさんが立ち上がって政争の末に第三王子を排除した。
その後は生き残った王族が少なくなり、第三王子を倒したミーシャさんが大多数の支持を得て女王に即位。
それまでミーシャさんを守り抜いた私も女王専属の護衛に出世した。
それまで命の危険を感じてひやひやした事もあったけど、まあ充実な日々ではあった。
性的に搾取される事もなかったしね。
ああ、そう言えば私が逃げた後のイチゴたちの事も聞いた。
なんと日本にいるミーシャさんの親戚が花京院家だったらしく、その経由で話を聞けたのだ。
イチゴたちは私を逃がし、しかも男性でもなく女性のミーシャさんに奪われた事で寝取られと性癖を満たす事も出来ず、私を取り返す事も出来なくて責任の所在を巡って喧嘩し、結局は色々空中分解したらしい。
それでも親戚のミーシャさんを通してアリオスくんが私を追って来るんじゃないかと怖かったけど、ミーシャさんは私の所在を隠して守ると約束してくれた。
なら安心だし、もう関わって来ないならイチゴたちの事はもうどうでもいいか。
恋愛とかもう懲り懲りだし、結婚とかせずに独り身で生きていこう。
……と思ってたけど。
「恭子さん。大事な相談があります」
夜のミーシャさんの寝室にて。
ミーシャさんの護衛として同じ部屋で待機していたら、ミーシャさんが真面目な顔で話し掛けて来た。
「何ですか?」
「私はまだ未婚ですが、先の事を考えると結婚し、跡継ぎとなる子を産む必要があります」
「まあ、そうですね」
「ですが下手な相手と結婚すると、その相手に権力を奪われてまた国が乱れる可能性があります」
「それもそうですね」
政略結婚のマイナスな所だなー。
「であるなら、いっそ誰とも結婚せずに子供だけ産む手も考えられます。ただ、相手は父親だと名乗らず私の権力基盤を脅かさないと信頼出来る人に限られます」
「はい」
「そしてつい最近ですが、とある若手の天才科学者が女性の遺伝子から人工精子を作る技術を新しく開発しました。この技術を使えば、相手が男性である必要も無くなります」
「……そうですか」
あれ?ちょっと話の雲行きが怪しくなって来たけど?
「そこでですが、恭子さん。父親役として遺伝子を提供して貰えないでしょうか?あなたより信頼出来る人は他にいないのです」
「………ええーと」
結婚はしないつもりだったのに、まさか同性のミーシャさんから求婚に似た誘いを受けるとは……。
気のせいだろうけど、ミーシャさんが言ってた若手の天才科学者の顔が、イチゴの顔で頭の中に浮かんだ。
――――――――――――――――――――――
という事で性別反転特別番外の最終話でした
どういう風に書くか色々悩んだ末、オリジナル展開に振り切ってこんな内容になりました
これで更新は一区切りのつもり……でしたが、宗方くんのアフターストーリーでなんかいいシーンが思いついたので、もう少しだけ続く予定です
次の更新は月末前後になりますのでよろしくお願いします<(_ _)>
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