第4話『モブ男子視点・取材!葛葉恭一の交際関係!』
【Side.一般男子生徒・佐藤浩司】
一学期終盤のある日。
「来たか
放課後になって新聞部の部室に入ると、先に来ていた部長が唐突にそんな事を言って来た。
「はあ……」
「なんだその反応は。もっと乗れ!」
「そう言われましても……。あの葛葉恭一ですよ?下手に触れたら火傷では済みませんって」
この悠翔高校のお姫様な花京院アリア生徒会長が、似たように(女子限定で)学校の王子様な葛葉恭一を贔屓しているのは周知の事実だ。
なので、葛葉に悪意をぶつけて無事な生徒はこの学校にいない。
ついこの前だって葛葉を呼び出してリンチしようとした男子数人が全校集会で晒し上げられて退学になったんだから。
「それでも!葛葉の記事なら確実にPVが上がるんだ!最近PVが不調だから挽回しないと!」
補足すると、この新聞部の活動は実物の新聞を作って校内に配る訳じゃなくて、学校指定の学生証アプリに記事を載せる形だ。
そして記事のPV数が部活動の実績になる。
「せめて他の人にしませんか。それこそ花京院会長とか」
「それは……やろうとしてたら、先生たちに止められた」
「あー、確かにそうなりそうですね。すみません」
考えてみれば、理事長の孫の記事を簡単に書かせて貰える訳ないか。
「じゃあ、書記の斎藤さんとかどうですか?花京院会長ほどではありませんが男子に人気ですよ」
「それも何故か止められた」
「じゃあもうダメじゃないですか」
てか俺が顔出してなかった時に色々あり過ぎじゃないか?
「いや、ダメじゃない。葛葉の記事ならいいって本人の言質を貰ったんだからな!」
「それを先に言って下さいよ。そしたらこんな問答もしなかったのに」
「お前が文句言わずに取材に出れば良かったんだろ!」
「それはそうかも知れませんが……」
でも本人の許可があったという情報が無かったら、地雷原に突っ込めって意味だったからしょうがないと思う。
「まあ、分かりました。で、葛葉の何を記事にするつもりなんですか?」
「葛葉に彼女がいるかどうかを調べてくれ。どっちにしても興味ある人は沢山いるだろうからな」
「はい。じゃあ取材に行きますね」
「ああ、頼む!」
それで俺は取材を開始した。
俺と葛葉は悠翔高校の同じ二年生なんだが、接点はほとんど無い。
そもそも去年も今年もクラスが違くて、部活で生徒会とのやり取りも部長がやっているからだ。
それでも葛葉の噂は色々聞こえて来る。
やれ毎日女子をとっかえひっかえしながら遊んでいるだの、その時の費用は全部葛葉が出してるだの、さらにたまに服や小物を買って貰ってるだの色々とな。
極めつけには、クループ内の一部の女子とはもうやる事やってる関係との噂もある。
少なくとも色んな女子と遊んでいるのは本当みたいで、葛葉に嫉妬してる男子が多くて話題になりがちだが、スルーしてしまえば俺みたいに無関係でいられるのだ。
一々無駄な嫉妬してたらこっちが持たないしな。
そんな訳で俺と葛葉の接点が無い分、取材は結構困難だった。
部長が取った言質があるので葛葉本人へのインタビューは出来るだろうが、流石に本人の口から交際について言ってくれたりはしないだろう。
それで教えてくれるならそもそも隠してないだろうしな。
なので事前情報を得るためには他の人からも話を聞く必要がある。
しかし、そこが問題だ。
葛葉の事をよく知っているであろう、葛葉と仲のいい女子が取材を拒否しているのだ。
「あの、伊藤さん、ちょっと話いい?」
「ううん。話してる所を見られて誤解されたくないからダメ」
と、取り付く島もなく即座に話を断られた。
それでももう少し食い下がってみる。
「いや、これナンパじゃなくて新聞部の取材なんだけど」
「取材?何の?」
「葛葉について話をちょっと……」
「新聞部に売る恭一くんの情報は無いから、失せて」
しかしもっと手酷く振られた。
伊藤さんの他にも、葛葉の取り巻きのレギュラーと知られている斎藤さん、鈴木さん、小林さんも程度の差はあるが似たり寄ったりの反応で取材を断られた。
葛葉の女たちの忠誠心、高過ぎないか?
ちなみに葛葉の女たちって呼び方は、この女子たちとはやる事やってるだろうと、俺を含む一部の生徒たちが勝手にそう呼んでいるだけで、正式な呼び方ではない。
とにかく、葛葉の交際関係を良く知ってそうなのがあの四人だった分、取材を断られたのは痛い。
花京院会長には聞かないのかって?
いや、流石にそれは……怖いからな。
明らかに蛇が居そうな藪を突くのかって感じで。
という訳で、葛葉と同じAクラスの女子から話を聞こうとして、制服を着崩した上に校則に引っ掛からない範囲でメイクしている如何にも遊んでそうな女子を捕まえた。
名前は、確か山田さんだったか。
「ん?葛葉くんの話?」
「ああ。新聞部で記事を書こうと思って」
「ふ~ん。別にいいけど、タダではちょっとね」
勿体ぶりやがって。
しかし他に話を聞ける当ても無いので、下手に出るしかない。
「……何が欲しいんだ?」
「この前に体育の時間で水泳の授業あったでしょ?」
「あったな」
女子は葛葉の水着姿目当てで、男子は花京院会長や斎藤さんの水着姿目当てで、授業まで抜け出して覗こうとする生徒が多くて騒ぎになった良く覚えている。
「その時の写真が裏で取引されてるみたいでさ。ちょっと葛葉くんの写真を手に入れて来てくれない?」
「はあ……。分かったよ」
面倒だが仕方ない。
これも部活のためだ。
写真は割とすぐ手に入った。
なんと、写真部でこっそり扱っていたのだ。
……十枚セットを五百円で。
金取るのかよって思ったが、むしろ有料だからこそ無分別な流布を防げているらしい。
まあ確かに、今時その気になれば実物の写真でもデータ化した無限にコピー出来るからな。
仕方ないので五百円払って写真を購入した。
ちなみに花京院会長や斎藤さんなどの女子の写真はあるのか聞いたが、生徒会で制止は入ったらしく買えなかった。
そこの所、微妙な男女差別があったのか、それとも葛葉も生徒会副会長だから逆に自信があって許可したのかは知らないが。
ともかく写真と引き換えにして、翌日の放課後に改めて山田さんから話を聞く事にした。
「ありがとねー。で、葛葉くんの話だっけ。何が聞きたい訳?」
「例えば、葛葉に彼女っているのか?とか」
「なるほどー確かに気にしてる人多いもんね。ま、知らんけど」
「知らないのか」
五百円まで支払ったのに、当てが外れたか?
「そう睨まないでよー。知ってるのは全部話すからさ」
つい睨んでしまってたのか、山田さんが両手を上げた。
「……悪い。でも花京院会長とか、斎藤さんとか、伊藤さんとか、それっぽい噂のある女子は結構いるんだが、そこの所どうなんだ?」
「それが分からないんだよねー。ほら、前に葛葉くんと伊藤さんがホテルに出入りする写真が出回った事あるでしょ?」
「あったな」
あれで一時期葛葉と伊藤さんが付き合っているんじゃないかって噂にもなった。
まあ、ラブホじゃなくてレストランやショッピングモール付きの高級ホテルで、お泊りせず付属施設でデートしただけってなって不純異性交遊の疑惑は回避されたが。
それと、写真をバラ撒いた生徒はしっかり摘発されて停学されてた。
つくづく下手に悪い事出来ない時代だって実感した。
「でもあれ、結局はデートではあったけど付き合ってはいないって本人たちが否定して終わったでしょ」
「そうだったな」
なら伊藤さんは候補外か?
まあでも、付き合っていないのに高級ホテルで食事と買い物とかどんだけ金持ってんだよって、葛葉は男子から嫉妬されてたが。
伊藤さんも伊藤さんで葛葉に贔屓されてる事で女子からの嫉妬の的になってイジメが発生したらしい。
でもイジメは即摘発されて、この高校の防犯意識の高さが伺えたが。
「でも、伊藤さんって噂を否定する前までは割と葛葉くんの彼女面してたんだよねー」
「そうなのか?」
「うん。結構ウザいくらい。あれで裏で伊藤さん割とディスられてたよ」
「……そうなのか」
伊藤さんが裏でどう言われているのかを知っているって事は、つまり山田さんも……
……いや、問い詰めるのは止めよう。
下手に刺激して話を切り上げられては困る。
「その時期にさ、花京院さんも斎藤さんも伊藤さんにあんまり反応しなかったんだよね」
「それは……少しおかしいな」
花京院会長と斎藤さんが葛葉と付き合っていなかったとしても、二人が葛葉狙いなのは俺でもよく噂に聞いていた。
そんな二人が、伊藤さんが先を越して葛葉と付き合っているかもって話を聞いて黙っているはずがない。
逆に、二人の内どちらかが葛葉と付き合っていたとしたら、葛葉が伊藤さんと付き合うってのは浮気だ。
ますます無反応な理由がない。
「でしょ?だから分からないわけ」
「なるほど……。つまり、誰とも付き合っていない可能性が高い訳か」
「まあ、大穴で公認で全員と付き合っている可能性もあるけど」
「まさか。気が狂った訳じゃあるまいし」
「だよねー」
「「はははははは」」
そして俺と山田さんは笑い合う。
あの葛葉のイケメン度と財力ならワンチャンあり得るかもって頭の片隅で思ったのを忘れるように。
「逆にさ。山田さんは葛葉の事狙ってたりしないのか?」
「ん?私?いやー、私は一緒に遊んで貰ってるだけで十分かなー」
「そうなのか?」
「まあね。何度見ても飽きないくらい顔はいいし、性格も良くて、遊ぶ時はいつも奢って貰ってて、たまに服や靴も買ってくれるしねー」
「はあ……」
それって、遊び相手兼、サイフとして都合よく扱ってるだけでは?
言わないけど。
しかし葛葉の奴は漫画の世界から出てたりするのか?
普通、男子高校生がそこまで出来るのは無理だろ。
だからこそ、遊びでもいいから葛葉とつるむ女子たちの気持ちも分からなくもないけど。
「それにさ。葛葉くんって色々噂されてる程女子に手出したりしないんだよねー」
「そうなのか?」
「そ。私だって最初は警戒してたけど、今まで一回もそういうのに誘われた事が無いの。それで逆に残念がってる子もいるけど、私としては安心して遊べるって感じ」
「なるほど……」
そういう所もある意味、葛葉の人気の秘訣か?
「その代わり、ギリギリのラインで遊んでるのは間違いないから、彼氏が出来たらそっちと遊べって葛葉くんに言われてて、だから葛葉くんと遊ぶグループの子たちは彼氏作らないけど」
「……なるほど」
ウチの高校は異常にカップルが少ない理由って、フリーの葛葉や花京院会長狙いが多いからって思ってたけど、女子側はそういう理由があったか。
迷惑な……。
「山田さんはそれでいいのか?……あー、彼氏作らなくて」
言ってから質問に具体性が無いと気付いて付け加えた。
「別にいいかなー。恋愛は大学に行ってからでも。逆に葛葉くんみたいなイケメンに奢って貰いながら安全に遊べるチャンスの方が貴重だし」
「……そうか」
確かに、葛葉の存在の方がレアっちゃレアか。
そんな感じで、葛葉の事を話題に他愛のない話をして解散した。
最後に、いよいよ本番の葛葉との対面インタビューだ。
もしかしたら突っぱねられるのかと心配した。
葛葉は悪い噂が付き纏っているが、それでもAクラス……いや、この悠翔高校のトップカーストに属している。
そんな葛葉からしたらモブ当然の俺が声を掛ける事自体出来るのか不安なのだ。
まあ、声すら掛けられなかったら、それはそのま部長に報告すればいいと割り切ろう。
俺は適当な休み時間にAクラスの教室に突撃して葛葉に声を掛けた。
「新聞部の取材でインタビュー?ああ、そう言われてみればそんな約束もしてたな。いいぞ」
そしたら、肩透かしなくらいすんなりと話が通った。
葛葉って、思ったよりも話し安い奴なのかも知れないと思った。
そして放課後。
葛葉に指定されたファミレスで軽食とドリンクをつまみながらインタビューを開始した。
インタビューと言っても格式張った物じゃなくて、記事を書くために軽い乗りで質問するだけなんだが。
「で、最初の質問だけど。ぶっちゃけ、今彼女いるのか?」
直球でそう質問すると、葛葉は気まずそうにして少しだけ目を逸らした。
「……いない」
これは本当にいないと言うよりは、いるけど隠している感じに近そうだ。
「本当にいないのか?いつも女子と遊んでいるのに?」
「あの子たちは友達だ。そういう関係じゃない」
いやいや、明らかに友達の距離感じゃなさそうなのが数人いるだろ?口に出しては言わないが。
「ならさ。どうして女子にばかり奢るんだ?それで男子の恨み妬み買ってるのは分かってるんだろ?」
「それはな。昔男子にも奢った事があったんだが、そしたら俺そっちのけで盛り上がって俺はただの財布扱いされてな。それで切れて男子には奢らないって言ったのが今でも続いているんだ」
「なるほどな」
そんな事があったら男子に奢らないのも理解できる……か?
「……いや、なら何で女子には奢るんだよ」
「それは、まあ。誰にも奢らなくなると手のひら返されて誰にも相手されなくなりそうでな」
お前ほどのイケメンならそんな事無いだろ。
……とは無責任に言えないか。
何か誤魔化された気がするが、この話題ではこれ以上話を聞けそうにないな。
「じゃあ次。葛葉お前……童貞か?それとも経験アリか?」
「……随分と踏み込んだ事を聞いて来るな。記事にして大丈夫なのか?その質問」
葛葉の顔が引きつった。
流石に生々しい質問だったか。
「悪いな。気にしてる人が多くてさ」
「そうか。……まあ、後で先生からも検閲入るだろうからいいか」
「で、答えはどうなんだ?」
「……ある」
「あるのか」
まあ、予想通りではあるな。
逆に童貞だったらそっちが驚きだ。
「相手は誰なんだ?」
「中学の時の彼女。名前などは黙秘する」
「中学の時に!?流石にそれは早くないか?」
「卒業式の日に、記念ついでに思い出作りでな」
「ん?でも彼女はいないと言ってなかったか?」
「進学した高校が違くて、疎遠になったまま自然解消になったんだよ」
「そうか……」
こいつも色々あったんだな。
「じゃあ、新しく彼女を作るつもりは?」
「無い。今配信やってて、アイドルみたいな立場だからな。下手に彼女作るとどう炎上するか分からん」
「そうか」
それはどうなんだろう。
仮に、本当に葛葉に彼女がいないとしたら、勝ち目が薄いのにチャンスタイムが長いと喜ぶ女子もいれば、もどかしい思いをする女子も沢山いそうだ。
それで葛葉を狙う女子も多いままでカップル成立率が低くなり、男子は男子でさっさと決めろと不満に思いそうだな。
俺は交際関係の質問の他に、ついでという事で配信の話やテニス部に助っ人参戦して全国大会まで出た話などを聞いて、注文した軽食も全部食べ終えてそろそろ解散する事になった。
「じゃあお疲れ、また今度な」
先に葛葉が席を立ち、伝票を手に取った。
「あっ、俺の分は……」
「俺が出すから気にするな」
「男子には奢らないんじゃなかったのか?」
「それはさっき言った通り、一方的に俺にたかる奴が多かったからだ。今回みたいなのは構わないぞ」
「はあ……」
「じゃあ、部活頑張れよ」
そう言って葛葉は会計に向かった。
あいつ……思ったよりもずっといい奴か?
奢ってくれたのに絆された訳じゃないが、話しやすいし、取材も途中もこっちを下に見る偉そうな態度も出さなかったし。
最初は偉そうにふんぞり返るのを想像した分、落差がでかい。
あれなら遊び相手だとしても女子たちが入れ込むのも分かるな。
俺はファミレスの飲食代が浮いたのをラッキーと思いながら、ちゃんと葛葉にも感謝しつつ家路についた。
そして次の日、部長には葛葉の取材結果を報告した。
「なるほど、葛葉に彼女はいないのか……。なら私にもチャンスはあるのか……」
報告を聞いた部長をそう呟いてニヤついた。
そう、実はこの部長も葛葉狙いの女子の一人だったのだ。
つまり今回の取材も半分は部長の下心があったのだろう。
「でももう経験済みなのか。むむ……、いや、経験がある分リードして貰えると思った方がいいか。……うおっ!これは水泳の授業での葛葉の写真か!お宝じゃないか!」
部長の生々しい妄想がまだまだ垂れ流し続いている。
……俺、元々は部長目当てでこの新聞部に入ったんだけどな……。
まあ、流石にあの葛葉と張り合うのは無理だから色々諦めもついたんだが。
正直、葛葉を恨んだり妬んだりしても無駄なのは分かっているが、それでもさっさと彼女を作って欲しいものだ。
そしたら、俺が部長にアタックするチャンスも出来るかも知れないから。
今アタックした所で葛葉と比べられて玉砕するのは目に見えているしな。
ちなみに記事については、葛葉の性経験の所だけ検閲されて当たり障りの
ない内容を普通に掲載した。
それだけでもPV数が爆上がりして、世の中理不尽だと思った。
―――――――――――――――
長らくお待たせしました
少しずつ書いてはいたのですが、モチベが燃え尽きたのか筆の進みが遅くて……
完結済み状態の本作ですが、それでもフォローとか★が増えて嬉しいです
他にも新作長編とか短編とか書いてましたが、納得できるものにならなくてハードの肥やしにしてます
新作長編は多分次のカクヨムコンとかになると思います
それまでは本作を、せめてあとがきで書くと言ってた小話だけでもダラダラ更新する予定です
今回のモブ男子視点の話も、満足していただけたのか不安だったりします
次はモブ女子視点の話を今月中に更新する予定ですのでよろしくお願いします<(_ _)>
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