第2話『IF・もしイチゴが死んだら』

 このIFは、前提として恭一たちが高校三年生かつ誕生日を過ぎて成人した後で、イチゴの好感度もまだそれなりに高い状態になります

―――――――――――――――



 今日は月に一度の健康検診の日だ。


 これは悠翔高校一年生二学期の頃から取り入れたものだ。


 普通に健康状態を確認する目的以外に、俺が複数の女性と体の関係を持つようになったので、うっかり性病にかかってないか確認する目的もある。


 一応、普段から気を付けてはいるんだが、万が一があれば大災害だからな……。


 そして今回は、ついでという事でイチゴたちも検診を受ける事にしてた。


「俺は問題無しだった。皆はどうだ?」


「私も問題ありません」


「私もよ」


「あたしもです」


 検診を終えた後、待機所でアリアさん、ユカ、リナと合流して結果を報告し合った。


 そしてまだこの場にいないイチゴが来るのを待ったが……


「……遅いな。何かあったのか?」


「落ち着きなさい。個人差だってあるんでしょう」


「……ああ」


 中々イチゴが来なくて不安がってた所を、ユカに窘められた。


 もう少し待つと、ついにイチゴが戻って来た。


 ……何故か保護者として俺たちと同伴してくれてた利幸さんと一緒に。


「あーみんな。ちょっとウチに帰ってから大事なお話があります」


 何か聞く前に、イチゴが俺たちを見回してそう告げる。


 このタイミングでの大事なお話とか、芸能人だったら引退じゃないのか?ってくらい不安しか無いんだが……。


 ともかく他の人もいる病院で話す事でもなさそうだったので、シェアハウスに戻り改めて話を聞く事にした。


「それで、何があったんだ?」


 俺は不安で居ても立っても居られなず、皆がリビングに着いてすぐイチゴに聞いた。


「えっとー。結論から簡潔に言うとね」


 イチゴはちょっと気まずそうに目を逸らしながら喋り出す。


「ガン細胞が見つかって、これが結構なステージまで進んでしまってて、あと余命二年くらいだって」


「なっ」


「そんな!」


 イチゴの説明に、俺はもちろん皆ショックを受けた。


「いやー、ははは。普段ストレス受ける趣味を持った所為かもねー」


 イチゴは苦笑いしながら言う。


 それってまさか俺が他の女子たち相手に色々やらせてた事か?


 つまり自業自得……と言うのは不謹慎か。


「それとも、今まで悪い事した罰が当たったのかも」


 それはそれで何とも言えん。


「と言う訳でね。これからの事を話し合おうって事」


 イチゴはまるで他人事のように言いながらノートPCを開く。


 そんな態度だから俺もイチゴが余命宣告を受けた事が信じられなかった。


「イチゴお前……本当に死ぬのか?」


「二年後にはねー」


 俺が聞いても、イチゴは素っ気ないままだ。


「どうにもならないのか?ほら、自分で治療法を作り出すとか」


「出来なくもなかったかもけどー、今回は時間が足りないかも。治療法が出来る前にガンが手遅れになる所まで進んでしまうから」


「そうか……」


 二年……


 二年後にはイチゴが……


 目の前のイチゴがまだ元気に見える分、実感が湧かない。


 いっそ質の悪い冗談であって欲しいと思う。


 しかし、本当……だろうな。


 流石にイチゴも生き死にで嘘や冗談を言うほど性格悪くないのは知っている。


 そして他でもないイチゴがどうにもならないと言ったからには、イチゴが助かる手立ては無いと思えた。


「取りあえずはー、私が開発して特許を取れそうな技術を纏めておいたよ。きょーくんとアリアちゃんなら勉強すればすぐ理解出来るだろうから、二人の内どっちかの名前で発表してね。後は悠翔高校とか花京院家の会社の経営戦略とかもあってー」


 イチゴは次々と俺たちのためになりそうなものを出して来る。


「ちょっと待ってくれイチゴ」


 それを俺が一旦止めた。


「ん?どうしたの?」


「俺たちの事を考えてくれるのは分かった。でも、その前にイチゴがしたい事とか、そういうのは無いのか?」


「私がしたい事?」


 まるで思いもしかったみたいに、イチゴは目を見開いた。


「ああ。その……最後くらいは、色々楽しく生きて欲しいからな」


「何でも言っていいの?」


「あ、いや。悪い。何でもは無理だ。常識の範疇で頼む」


 俺は危険を察してすぐ予防線を張った。


 もし何でもいいと言って、手当たり次第に女子に手を出して欲しいとかお願いされたら洒落にならない。


「ちぇー」


 俺の心配が当たってたのか、イチゴは残念そうに口を尖らした。


「じゃあー、常識的にギリギリかも知れないけど、きょーくんとの赤ちゃんが欲しいかも」


「えっ」


「恭一の子供!?」


 そして出されたイチゴのお願いに、またも皆驚いた。


「それは……」


 拒否すべきかどうか、非常に悩む。


 俺としてもイチゴとの子供を産む未来を想像した事はあるが、まだ学生なのがネックだ。


 一応、ここにいる皆十八歳の誕生日を過ぎてる成人だけどな。


 しかしイチゴは余命あと二年で、俺たちが卒業するのは後一年くらい先。


 だけどそれを待つと、予想外にイチゴの容態が悪化したりして色々間に合わなくなる可能性が高い。


 ここは……倫理とかは目を瞑って受け入れるべきか……。


「ごめんねアリアちゃん。アリアちゃんが先だと約束してたのにこんなお願いして」


「……いえ。事情が事情ですから」


 急に水を向けられたアリアさんは頭を横に振った。


 この二人、そういう事の約束をしてたのか……。


「あー、でも私はガンだから赤ちゃんにどんな悪影響があるか分からないので、人工授精してアリアちゃんかユカちゃんに産んで貰うのがいいかも」


 イチゴは突拍子のない事を言って二人を見比べる。


 一応この日本で代理母出産は規制されているが、花京院家のサポートがあれば力業で何とか出来るだろう。


 俺たちの関係からして、何なら代理母が実母だと言い張っても構わないのもある。


「分かりました。そういう事でしたら、私の血を継がない所は残念ですけどやはり恭一さんの第一子は私が……」


「ちょっと待ちなさいアリア。それなら私がやるわよ」


 アリアさんが意気込んで立ち上がった所をユカに止められ、アリアさんがユカを睨んだ。


「何ですかユカさん。こんな時に恭一さんの一番を奪って下克上でもしようというのですか?」


「違うわよ。あんたはそれなりに人前に出る立場でしょうが。学生の内で妊娠と出産とか、社会的に死ぬわよ」


 確かにそうだな。


 アリアさんは悠翔高校の理事長の孫にして生徒会長をしながら、一年生と二年生の時の文化祭でアイドルばりのライブステージもして、近隣では結構有名だ。


 そうなのに婚約者相手とはいえ、学生の内に妊娠は間違いなくスキャンダルになる。


「むむ……。ならユカさんはどうなんですか?学生の内に妊娠して困るのは同じでしょう?」


「私は……、最悪専業主婦になって、あんたたちに養って貰うわよ」


「いいのユカちゃん?それ、結構危ういんだけど」


 ユカの答えに、イチゴが心配そうに聞き返す。


 心配する通り、それだとユカの学歴が犠牲になり、嫌でも俺たちに依存するしかなくなるからだ。


「いいわよ。恭一もアリアも、後から私を捨てないって信じてるから」


 そう胸を張って言われると俺もアリアさんも、もしもの事を言えなくなるな……。


「ユカちゃんのご両親にはなんて言うの?」


「ありのまま全部。それでなんとか説得する」


「そう」


 そこまで言うならば……って感じで、イチゴはそれ以上の質問を止めた。


「割って入って悪いけど、僕としても二人の内で選ぶならユカさんにお願いしたいな。ユカさんの言った通り、まだ学生のアリアの経歴が傷付くのはまだ早いからね」


 そこで話を聞いてた利幸が自分の意見を言い出した。


 しかし、父親として娘のアリアさんの経歴を気にするのは当然として……


「まだ早い、ですか?」


「ああ。どうせいつか、家族関係で騒がれる事になるだろ?」


「……あー」


 つまり、イチゴな居なくなるとしても俺のハーレムを崩すつもりは無いと……。


「という訳で、恭一くんとイチゴさんの子供を産むのは反対しない。それにその子供は僕からにしても義理の孫になるから、全力でサポートするよ。でもアリアは、ここは我慢して欲しい」


「……っ、分かりましたお父さま」


 父親相手にまで意地を張れないのか、アリアさんは渋々と頷いて席に座り直した。


 そして、これからの事の詳細を詰める話し合いをした。


 リナは俺の妹というおまけみたいな立場なので話し合いに参加は出来なかったが、それでも一応話の行く末を聞き届けた。


「あたし、来年も高校生なのにおばさんになるんですね……」


 そしてそう呟いき、俺は少しだけ悪い事をしたと思ってしまった。




 それからあっという間に時間が過ぎた。


 ユカのご両親の説得は、彼氏の他の恋人との子供を代理妊娠する、しかもまだ学生の内に、という事で非常に渋い顔をされた。


 当然と言えば当然か。


 もちろん、俺や俺の両親、そして花京院家からも頭を下げた。


 そしてまあ、本当にマネーパワーで何とかなった。


 思い返せば斎藤家の借金、花京院家が肩代わりしてたのもあったからな……。


 ユカのご両親は色々複雑そうだったが、ユカ本人が納得しているのと、少なくともお金で苦労させる事は無いだろう点、最後には俺たちがユカを切り捨てないだろうと信じて受け入れてくれたのだ。


 許可を貰った後は時期を見て海外に出て人工授精された俺とイチゴの子供をユカが代理で妊娠した。


 そのお腹が目立つ時期からは適当な病気だと誤魔化しイチゴと揃って通信制に切り替えて、二人とも何とか悠翔高校を卒業出来た。


 どうも悠翔高校は前々から在学中に病気などの理由で通学出来なくなった生徒向けに通信制の導入を検討していたらしく、そのテストケースにちょうど良かったらしい。


 そして卒業して間もなく出来婚って事にして俺はユカと結婚し、ユカは無事俺とイチゴの子供を出産した。


 元気な男の子で、名前は俺とイチゴから取って恭吾きょうごにした。


 戸籍上は俺とユカの子供にして。


 アリアさんは一番先に結婚するのも、第一子を産むのもユカに取られて大層悔しがったり興奮したりしたが、それでも恭吾の事は条件が違えば自分が産んだはずの子として可愛がってくれたのが幸いだ。


 ……翌年、アリアさんが自分も子供が欲しいと駄々を捏ね、大学を一年休学して俺と結婚して娘のマリンを産む事になったがな。


 とにかくイチゴが死んでしまう前に、なんとか恭吾の顔を見せて抱かせるのも出来た。


 その頃のイチゴは、時間稼ぎにしかならないと知りながらも受けたガン治療で脱毛してて、すっかり様変わりしてるのが痛々しくて余命が残り少ないのを突きつけられたが。


「はー、この子は私ときょーくんの子供なのに、お腹を痛めて産むのも戸籍での親子関係もユカちゃんに取られるとか……。はあああああー。感無量だよ。これでもう思い残す事はないね」


「もっとまともな感想を言え」


 でもイチゴは最後までイチゴだった。


 しかしその後、イチゴはあっという間に死んでしまった。


 もう数か月くらい時間の余裕があったはずだったが。


 恭吾を抱いた事で本当に満足したように。


 葬式には俺や俺の両親に、イチゴの両親はもちろん、アリアさんやユカ、リナに高校での友達も参加した。


「姉さん……ひっく」


「イチゴさん……、まさか本当に亡くなってしまうなんて……」


「冗談じゃ……ないのよね……?」


 俺とリナ、俺やイチゴの両親はもちろん泣いたが、イチゴのライバルでもあったアリアさんやユカも泣いてくれたのには感謝した。


 そして大学生にして二児の父でもある歪な日常が続く訳だが……。


『おはよー!きょーくん!今日も一コマから講義があったよね!朝ご飯出来てるよ!』


「……ああ」


 今日も今日とて、リビングに入った俺は聞き慣れたイチゴの声に迎えられた。


 声の出所は……、イチゴと同じ顔をしてメイド服を着てるアンドロイドだった。


 そう、イチゴは死ぬ前に家事手伝いとして実用化出来るアンドロイドを設計し、そこに自分の人格を模倣したAIも作って移植したのだ。


 ご丁寧に、顔も声もイチゴ本人と同じにして。


 アンドロイドイチゴ本人曰く、自分はゴの次だからゴらしい。


 イチゴの死後一週足らずでこの二ゴが届き、おかげで俺たちの中にあったイチゴの死に対するしんみりした気持ちは何処かに飛んで行ってしまった。


 それもこの二ゴのやる事言う事がどうしても死んだイチゴそっくりだった所為だ。


 二ゴと死んだイチゴは別だと頭では理解出来るんだが、どうしてもイチゴがアンドロイドに転生して帰って来た気持ちになったのだ。


 それで喜べばいいのか、怒ればいいのか、複雑な気持ちのまま俺たちは二ゴを受け入れてた。


『ねえねえきょーくん。きょーくんたちの通う大学に、お金に困ってる美人さんがいるんだけどー。お金の問題を解決してあげれば、その美人さんを好きに出来ると思わない?』


「思わん」


『じゃあ、色々あって孤立してる可愛い子がいるけど、こっちから声掛けて落とすのはどう?』


「要らん。頼むから他人事はそっとしてやってくれ」


 しかしこの二ゴ、アンドロイドだからコンピューターを内臓してる上にネットにも接続出来て、イチゴよりもやりたい放題出来るから始末が悪い。


 一応このアンドロイドは試作機で、将来的に外見や性格をカスタマイズ出来る量産品をお金持ち向けに売り出すらしいが……。


 そうなったら世界が変わってしまうかも知れないな。


 そうでなくても、まだ赤ちゃんな恭吾とマリンが二ゴと普通の人間の違いを理解出来てなさそうで、その辺の情緒教育も不安だったりする。


 将来、恭吾が大きくなった後に実母のイチゴとそのコピーである二ゴの事をどう説明すればいいのかも悩ましい。


 死んでもなお俺たちの生活と世界を揺るがすとは……


 イチゴの恐ろしさを再認識しながら、俺は朝食を食べ始めた。



―――――――――――――――


 という事で、イチゴ病死IFでした


 思ったより早く時間が出来てモチベもあったので一気に書き上げました


 書く途中は2000字前後でさらっと終わるかもと思いましたが、いざ書くと後半は解説多めでも結構長く(本文でおよそ5000字…)なりました



 イチゴの死因については、作中でストレスに晒されるマゾで邪悪な趣味を持ってたから、ある程度自業自得や天罰を意識しました


 まあ、恭一死亡IFみたいにこっちも復活?しましたが……


 ちなみに余計な話になるかもと思って本文では省略しましたが、このルートでもケイコは大学入学した後に恭一たちと同居してベビーシッター役をします


 それと恭一とイチゴの間に産まれる第一子は男の子で、名前が恭吾なのもどの世界線でも同じように収束される決定事項だったりします


 つまり昔載せたユカ&イチゴIFエンドでも恭一とイチゴの息子は恭吾な訳です


『大学生、花京院恭一』と比べると恭吾とマリンのどっちが兄(姉)なのかは変動しますが



 IFですがこれ以降、メインキャラが死んでしまうIFをあれもこれも想定するのは流石に不謹慎だと思いますので、特定のメインキャラが死ぬIFはこれで終わりにしようと思います


 次の不定期更新は、生徒会の先輩たちが引退する時の話か、まともで傍観者なモブ視点で見える恭一たちの話(男女一話ずつ)にするか考えております

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