間章五・それぞれの小話
第1話『IF・もし恭一が死んだら』
【Side.リナ】
お兄ちゃんが……死んでしまった。
死んだのはあの長岡修二じゃない。
葛葉恭一お兄ちゃんの事。
いっその事、恭一お兄ちゃんの代わりに長岡修二が死んでくれてたらと何度も思った事か。
でも死んだのは恭一お兄ちゃんで、その事実は変わらない。
死因は事故死。
お兄ちゃんは何の前触れもなく暴走した車に轢かれて、救急車が間に合わずそのまま死んでしまった。
「あー、みんな聞いてください。きょーくんが死んだ事故だけど、計画的な犯行だと分かりました」
でもイチゴ姉さんの調べによって、ただの事故では無いと知った。
みんなが集められたリビングで喋る姉さん曰く、アリア先輩目当てだった何処かの大手会社の御曹司がいて、お兄ちゃんの存在を疎んだ。
それで色んな絡め手でお兄ちゃんを排除しようとしてたけど悉く跳ね返され、キレた御曹司がワザと手下に命令してお兄ちゃんを車で轢かせて、救急車が来るのも人を使って遅れるように妨害したと。
「本当に、油断したよ。まさかこの日本であそこまで徹底してきょーくんを殺そうとしたなんてね。取りあえず証拠は掴めたけど」
忌々し気に言うイチゴ姉さんは、私の義理の両親にしてお兄ちゃんの両親や花京院家の人たちを通して告発しようともしたけど、アリア先輩に止められた。
「待ってくださいイチゴさん。それですと、どうせそのゴミは死なないのでしょう?」
「まあ、一応そいつはまだ未成年だからすぐ死刑にはならないだろうね」
「やっぱり不公平じゃないですか。……あのゴミにも、恭一さんと同じ痛みと苦しみを味わって貰わないと……」
アリア先輩は物凄く暗い目で話す。
他の時だったらあたしもビビっただろうけど、今はアリア先輩の気持ちがよく理解出来た。
「……いいね、やろっか」
それを聞いてイチゴ姉さんもすぐ考えを切り替えたのか、アリア先輩に同調した。
「ユカちゃんはどうする?」
「どうせ……、私には何も出来ないもの。止めたりしないからあんたたちの好きにやりなさい」
みんなと同じく死んだような目で暗い顔をしてたユカちゃんが、イチゴ姉さんから意見を聞かれてどうでも良さそうに答えた。
「リナちゃんは?」
「あたしも何も出来ませんから……。あっ、姉さんたちのやる事は応援します!」
「うん、ありがと」
残念だけどあたしも出来る事はないので、ひっそりと応援する事にした。
それから間もなく。
「みんな聞いてください!きょーくんの仇を獲りました!」
と、またもリビングでイチゴ姉さんが発表した。
報復の内容はドン引きするくらい惨くて話せないけど、とにかくあのゴミ御曹司とその家族、及びお兄ちゃん殺害に関わった奴らはもうこの世にはいないし、イチゴ姉さんたちが尻尾掴まれる事も無いのだけは確実そう。
まあドン引きはしたけど、それでも胸がスッとしたのも確かだった。
「でも……そいつらが死んでも恭一は戻って来ないのよね……」
でも話を聞いたユカちゃんが諦念に満ちた声で話し、また空気が暗くなった。
「それだけどみんな。新しい男を作らずに、私を信じて待っててくれる?」
「……何しようとしてんの?」
そして返って来たイチゴ姉さんの提案に、みんな疑問を抱いた。
「まだ内緒。でも数年は掛かると思う。どう?待てる?」
再度のイチゴ姉さんの問いに、あたしも含めてみんな頷いた。
お兄ちゃんが死んであまり時間が経って無いからってのもあったと思うけどね。
それから本当に三年ほど時間が過ぎた。
あたしはもう悠翔高校を卒業して、アリア先輩やユカちゃんと同じ都内の有名な大学に進学して、今でもみんなと同じマンションで同居している。
それと今まで色んな男子から告白されたり、付き合うの目当てで遊びに誘われたりもしたけど、全部断った。
だって、どいつもこいつもお兄ちゃんと比べたら猿ばっかで、妥協する気にもなれなかったんだもの。
それに新しい男を作らずに待つってイチゴ姉さんとも約束してたしね。
アリア先輩もユカちゃんも似た感じで新しい恋人を作ったりはしていない。
でもいい加減、何を待てばいいのかも分からないまま待っているのも限界になって。
「イチゴ。あんたが裏で何やってるのか、いい加減教えなさい。これ以上何も知らないで待っているのもそろそろ厳しいわよ」
ある日の夕食の時に、真っ先にしびれを切らしたユカちゃんがイチゴ姉さんに問い詰めた。
「そうだねー。そろそろ教えてもいいか。じゃあご飯食べ終わったらちょっと出掛けようね」
イチゴ姉さんははぐらかさず、ユカちゃんの提案を受け入れた。
そして夕食を食べ終わった後、あたしたちはイチゴ姉さんが運転する車に乗って移動し、郊外にある建物の中に入った。
「こっちだよー。あんまり余計な物に触らないでねー」
そこでイチゴ姉さんに案内されるまま部屋の一つに入り、あたしたちは部屋の中にあるモノを見て絶句した。
「イチゴさん。あれは……」
アリア先輩が指差す先には……
「うん。きょーくんだよ。二人目のきょーくんだから正確には恭二くんになるのかな?」
漫画みたいな培養液に満たされたカプセルに入っているお兄ちゃんがいた。
「二人目の恭一って、あんたまさかあれ…!」
ユカちゃんはイチゴ姉さんの言葉で察したようで、そのまま問い詰める。
でも、イチゴ姉さんは涼しい顔で答えた。
「うん。クローンって奴だね。取りあえず体は完成して、今は中に入れる人格と記憶を作ってる最中だけど」
それって……、それって……。
「……凄い!まるでお兄ちゃんが生き返るみたいです!」
私は感激してつい思った事をそのまま口に出した。
「ふふん。まあ凄いでしょ?実はきょーくんの事、法的には死んでるんじゃなくて意識不明の昏睡状態って誤魔化してるから、このまま完成しても問題無いんだよねー」
イチゴ姉さんが胸を張って自慢する。
「そういう問題じゃないでしょ!倫理とか、恭一の命の尊厳とかはどうなるの!」
でもユカちゃんは気に入らないようで、その理由を挙げてイチゴ姉さんを責めた。
「別に?逆にさ。そんな物の為にきょーくんが死んだままでいいと思うの?」
「……っ。それは……」
何気ないイチゴ姉さんの返しに、ユカちゃんが言い淀む。
「可哀想なきょーくん。三人目とはいえ恋人に復活を否定されて二度死ぬ事になるなんて。よよよ……」
そしてイチゴ姉さんが泣き真似をする。
「………」
ユカちゃんはお兄ちゃんを二度死なせるって言葉が効いたのか、それ以上何も言わなくなった。
「アリアちゃんとリナちゃんも反対?」
「いいえ。私は、こんな形でも恭一さんが返って来てくれるのならそれで十分です」
「えっと。あたしも似た感じです」
イチゴ姉さんに聞かれ、アリア先輩とあたしはそれぞれ賛成を意を返した。
「そう。それと、せっかくだからアリアちゃんたちそれぞれ専用にきょーくんを沢山作れるんだけど、どうする?」
「それならー」
イチゴ姉さんの追加の申し出にアリア先輩が何か答えようとした途中。
「やめて!」
ユカちゃんが叫んで会話をぶった切った。
「お願いだからそれはやめて。これ以上恭一の尊厳を穢さないで……」
続いたユカちゃんのお願いに、みんな何も言えなくなった。
確かにあたしだけのお兄ちゃんが欲しいとも思うけど、お兄ちゃんは一人だけだから特別なんだよね……。
「……しょうがないねー。新しいきょーくんのこの恭二くんだけにしようか」
イチゴ姉さんは肩をすくめてから、お兄ちゃんが入ってるカプセルに近寄った。
「ふふふ。きょーくん。何があってもずーっと一緒だからね?」
そう言って笑うイチゴ姉さんは何かおぞましいものに見えた。
けどそれ以上に、お兄ちゃんが帰って来るって事実に私は胸を躍らせた。
―――――――――――――――
という訳で、不定期更新での恭一が死んだら?のIFでした
補足すると、恭一の死後イチゴが花京院家に相談して個人の秘密研究所を用意して貰い、そこで恭二くんを作り出したって訳です
ライン越えてるのかもですが、これがイチゴなのです……
最初に寄せられた意見の死因は自殺でしたが、その後の修羅場が上手く思い浮かばなかったのでこんな感じにしました
ちなみにハーレム状態に恭一のメンタルが追い詰められての自殺でも、似た感じで復活?させられて、その途中で人格はイチゴに都合よく一部改変されると思います
……まあ、その場合は自殺した視点で責任の所在で修羅場ってハーレムが崩壊したかもと思いますが
モチベが回復する次第にまた更新しますのでよろしくお願いします
次は多分、イチゴが何かしらの理由で死んだ場合のIFになると思います
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