第8話【裏・ストロベリーのお楽しみ】
【Side.イチゴ】
「はあーダメね。これは本当に電源切ってるよ」
シェアハウスのリビングで、ソファに座っている私はノートパソコンと睨めっこしながら言う。
何をしてたのか説明すると、きょーくんとユカちゃんがキャンプデートする様子を聞いて色々楽しむオカズにしようとしてた。
なのにきょーくんもユカちゃんもスマホの電源をワザと切ってるのか、二人のスマホに入れた盗聴アプリの音声データがサーバーに来なくてオカズも供給されないの。
盗聴アプリは別に私の趣味だけじゃなくて、きょーくんたちが絡まれた時に弁護のための証拠を作る護身目的もあったんだけどなー。
一泊二日のキャンプですぐどうこうなる可能性は低いけど、きょーくんもユカちゃんも異性にモテる見た目してるから、今頃お楽しみ以前に高い人気税を払っているのかも知れない。
「他に無いんですか?スマホ以外で仕込んだ盗聴器とか!」
私のダメ出しを聞いて、隣にいるアリアちゃんが食い下がって来た。
「無いねー。二人とも、今まで律儀に電源入れっぱなしにしてたから、そこを信じて別の仕込みをしなかったんだもの」
「そうですか……」
しゅん、となるアリアちゃん。
ワンちゃんみたいでちょっと可愛いかも。
「……あああっ!!!恭一が、ユカさん相手とはいえ、私の知らない所で他の女と一泊を!!!」
かと思ったら、今度は両手を髪の毛を毟りながら叫ぶ。
ストレスで情緒不安定かな?
なら送り出さなければ良かったのに……と思わなくもないけど、ここで重要なのはアリアさんの耳が届かない所できょーくんがユカさんとイチャイチャするかも知れないって所だよね。
アリアちゃんはきょーくんとユカちゃんの二人がどういう風にイチャイチャするか知りたくて送り出したんだから。
私としてはきょーくんたちがちゃんと帰って来ると信じてるから不安とか無くて、二人が知らない所でナニをしているのか色々想像してしまうだけで捗るんだけど。
アリアちゃんはまだそういう域には来てないかー。
せっかくだし、アリアちゃんももっと楽しめるようにしようか。
適度なストレスは生活のスパイスになるからいいと思うから。
「ねえアリアちゃん。きょーくんって、最近ユカちゃんに優しいと思わない?」
私の問いかけにアリアちゃんは一瞬固まり、気持ちを落ち着けてから答えた。
「……それは……人数はともかくユカさんとも交際されてるのですから、当然では?」
「そうなんだけどさー。最近はユカちゃんにだけ特に優しいんだよねー。まあ、アリアちゃんは脅迫で始まったし、私も最近きょーくんの気持ちを蔑ろにし過ぎたから、対比的にユカちゃんの好感度が高くなるのも当然と言えば当然だろうけど」
「………」
アリアちゃんは黙って私の話を聞いている。
脅迫して嫌われてる辺り自覚はあるからだろうけど。
「で、ユカちゃんはハーレムのスケジュール管理とかしてるけど、ああ見えて実は私たちのハーレムについて積極的に賛成してる訳じゃないからねー。もしユカちゃんが完全にきょーくんを誑し込んでから、駆け落ちしようとか言ったらきょーくんも頷いてしまうかも」
「あああああああっ………」
想像出来てしまったのか、アリアちゃんがソファの肘掛けに顔を埋めながら呻き声を上げた。
でもそうしながらも太股を擦り合わせてる所、楽しんで貰ってるみたいで何より。
「えっと……、お兄ちゃんとユカちゃんが駆け落ちとか、するんですか?」
一緒にリビングにいて話を聞いてたリナちゃんが、引き気味で質問した。
「うーん。今のままだと多分しないかもね」
「ですよね!」
私の返答に、リナちゃんではなくアリアちゃんがパッと喜んで顔を上げた。
「きょーくんは義理固いから、よほど追い詰められなければ今更駆け落ちとか出来ないし、ユカちゃんも性格的に強引な駆け落ちは誘わないだろうね」
「じゃあどうして駆け落ちするかもとか言ったんですか?」
「ん?そうなったら面白いかもと思ったから?」
「ええ……」
リナちゃんがドン引きした。
「あの、気になる事があるんですけど、イチゴ姉さんって本当にお兄ちゃんの事が好きなんですか?」
そして疑わしげに質問して来た。
「もちろん好きだけど?」
リナちゃん、ウチの妹になってからそろそろ一年だよ?
今更過ぎるんじゃない?
「でも、それにしてはその……姉さん以外にお兄ちゃんの彼女を増やし過ぎじゃないですか?」
「それはまあ、きょーくんが完璧にカッコイイから仕方ないでしょ?」
「でも……」
リナちゃんは納得出来ない様子。
どうしたんだろうね?今までそんな疑問持った事もない癖に。
高校のお友達に何か吹き込まれたのかな?
「仮にさー。きょーくんと付き合ってるのが私だけで、それがバレたらね?多分あの手この手できょーくんを取られたと思うよ」
例えば私がイジメられたり、権力持ってる誰かさんに退学させられたりしてね。
私は見た目で色々舐められてるから。
実際、小学校の頃はリンゴちゃんにイジメられてたし、去年はアリアちゃんが私を人質にしてきょーくんを脅したんだもの。
その気になれば揃って転校を繰り返したり片方だけ転校しても遠距離になったりしてきょーくんを独占出来なくもないけど、そうするにはコストが掛かり過ぎる。
「だからね?取られるくらいならシェアしてしまった方が良い訳」
当然、きょーくんをシェアする相手は選ぶけど。
「それにしてはやっぱ多すぎるのでは?ここの三人以外にも、あと三人くらいいるのでしょ?」
あーうん。ケイコちゃんとアミちゃんね。
ケイコちゃんは暫定で、アミちゃんは偽装だけど。
あとリナちゃんのお友達のカリンちゃんとも恋人ごっとしてたかな?
セフレも入れたらもっと増えるんだけれども。
「それは、せっかくシェアするんだから、色んな子と色々させてきょーくんの色んな所を知りたいでしょ?ねーアリアちゃん」
同意を求めてアリアちゃんに声を掛けた。
「……そう……ですね。こんなチャンス中々無いですから」
アリアちゃんは渋々といった感じで同意する。
まだ体裁とか気にしてるのかな?
もう私と同じ穴の狢なのはリナちゃんも知ってるのにね。
「はあ……」
リナちゃんはまだ納得出来ない様子。
「そっかー。リナちゃんには分かって貰えないかー。じゃあこれからきょーくんと色々するのにリナちゃんは抜けてもいいよね?」
私がそう切り出すと、リナちゃんの顔色が変わった。
「あっ、いえ!分かります!お兄ちゃんはカッコイイから仕方ないですよね!」
取って付けた言い方だけど、取りあえずいいか。
「だよねー。しょうがないもんねー」
はー。
リナちゃんは目覚めそうにないなー。
アリアちゃん以外にも、この趣味を共有出来る友達が欲しいけどなー。
残念な事に今きょーくんの周りの女の子たちの内、アリアちゃん以外にその辺の素質を持ってる子はいなさそうだから、他で探す必要があるけど。
「それよりも!」
お話が一区切り付きそうだった所に、アリアちゃんが割り込んで来た。
「ユカさんを放っておくのですか?やはりこのままだとユカさんに恭一さんを一人占めされる可能性もあるのでは?」
アリアちゃんは不安そうな顔で言う。
私が言った事を気にしてるんだろう。
「あー、大丈夫」
私は適当に手を振って答えた。
「もう手は打ってるんだから。多分、キャンプから帰ったら状況が変わるよ」
「……そうですか」
アリアちゃんは納得した感じではないものの、取りあえず私を信じる事にしたのか引き下がった。
私の予想通りなら、ユカちゃんがわざわざご褒美と称して行ったあのキャンプは、きょーくんと思う存分イチャイチャする最後の思い出作りなのだろう。
多分ユカちゃんはもう実家に連帯保証の取り立てが来てるのを知っていて、キャンプが終わったらこのシェアハウスから出る可能性が高い。
そこが大きな分岐点。
果たしてユカちゃんが本当に何も相談しないままシェアハウスを出るのか。
そうなったらきょーくんがユカちゃんを引き止めたり連れ戻すのか、そのまま手放すのか。
それともそのままユカちゃんを追ってきょーくんもハーレムから逃げ出すか。
正直こればかりは私でも予想が付かないのよねー。
だからこそ楽しいんだけど。
きょーくんは私たちへの義理があるから、ユカちゃんと駆け落ちする可能性は限りなく低いけど。
逆にこのハーレムにユカちゃんを引き止めるべきではないと思って、そのままリリースする可能性が高い。
でも、もし、万が一にも駆け落ちがあり得そうな、このスリルがたまらない……!
くふふ……、どうなるのか、ワクワクするね?
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