第7話『ユカとキャンプデート・後』
「ふふ~ん」
魚を配って周りコテージに戻る頃には、ユカがすっかりご機嫌になっていた。
ご機嫌の理由は、たまに魚のお返しと交換して貰った食材が理由では無い……と思う。
「何か気分が良くなる事でもあったのか?」
野暮とは自覚しながらも、気になったので理由を聞いてみた。
「まあね。お魚を貰った人たち、皆一見で私たちをカップルって言ってたでしょ?つまり私たちが文句なくお似合いだって事じゃない?」
ユカは質問に機嫌を損ねないまま答えた。
「もしこれが……言っちゃ悪いけどイチゴとかなら一言多かったでしょうから」
「……そうか」
イチゴを引き合いに挙げられたのは複雑だが、今はユカと二人きりなんだからユカを優先しよう。
コテージに戻った後は、タブレットPC(盗聴アプリとかは入って無い)で一緒に映画を見たり、持ち込んだゲームで遊んだりして時間を潰した。
そして夕食に時間になるとユカが準備に掛かり、俺も何か手伝える事が無いか聞いたが。
「あんたはのんびり待ってなさい。旦那が獲って来た食材を私が料理する……古いけど夫婦っぽいでしょ?」
と断られた。
……まあ、料理するユカの機嫌が良さそうだし、無理に手伝っても機嫌を損ねそうだから言う通りに待っているか。
そして出された夕飯は、魚料理をメインに持ち込んだ食材を使った味噌汁やサラダ、そしで白米のご飯で、美味しかった。
「ご馳走様。美味しかった」
「お粗末様。恭一が獲った魚が良かったのよ」
食後にお互い褒め合った後、一緒に後片付けをしてまたのんびりする時間になった。
「ねえ、外で花火しましょ。周りに迷惑にならない手持ち花火を持って来たから」
「ああ、そうしようか」
俺はユカの提案で、水バケツと花火を持ってコテージの外に出た。
そして周囲に火が燃え移るような物が無い場所に陣取り、手に持った花火に火を付ける。
「綺麗ねー」
「そうだな」
俺とユカは燃えてく花火に見惚れた。
……ここで、花火よりもユカが綺麗だとか言った方がいいだろうか。
流石にクサいと思うが……、褒めて損する訳も無いし、滑ったら冗談だと誤魔化せばいいか。
「あー、……ユカも綺麗だぞ」
「なっ」
言った途端、花火に照らされるユカの顔が真っ赤になり、俺の背中を手で引っ叩く。
「バカね。そういうのは言わなくていいわよ。……でもありがと」
そして照れくさそうに小声でそう言われた。
甘ったるい空気になったけど、恋人同士だしいいだろう。
そのままお互いほぼ無言で花火を楽しんだ後、そろそろ消灯時間が近付いて来たのでコテージに戻る事にした。
「あれ?誰かしら」
コテージ前に着くと、知らない女性がコテージの前で蹲っていた。
このキャンプ場の職員には見えないから、多分他の客だと思うが。
「恭一の知り合い?」
「いや、知らない人だが。取りあえず用件を聞こうか」
ユカと軽く相談し、俺たちはその女性に声を掛けた。
「あの、ここ、俺たちが借りたコテージですが、何か用事ですか?」
すると女性がパッと顔を上げて俺たちを見てから、立ち上がって言い出す。
「やっと来たのね。実はお願いがあるのよ」
「何でしょうか」
上から目線の物言いは気になるが、取りあえず続きを促した。
「ちょっとトラブルで私のテントが壊れちゃったのよ。代わりのテントを買ったり借りようにも今の時間だと事務室や売店も閉まってて、このままだと野宿になってしまうから、ここに泊めて欲しい訳。どう?」
「はあ……」
困った状況なのは分かるが、態度が図々しいなこの人。
「俺たち、恋人同士で来てるから他の人を入れたく無いんですよ。他を当たって下さい」
なので悩む余地もなく断った。
すみませんが、とか付けたりしない。
この手の人種は社交辞令でも人の善意に付け込んで来ると思ったのでな。
「いや、もうちょっと考えてよ。泊めてくれたら色々お礼するから」
女性が俺に抱き付いて誘惑して来るが、それをユカが引き剥がした。
「離れなさい!彼女がいる前で彼氏に色目使うとか、いい度胸じゃない!」
そして当然、ユカはお怒りだ。
が、女性はユカを見て鼻で笑う。
「ふん。何よ、彼氏を束縛する気?こんないい男を独占すると嫌われるからね。あんたが束縛しなければ、彼氏さんだってもっと色んな女の子と遊んだりして色々楽しめたでしょうに」
言うな。
何も知らない癖にこっちの傷を抉るんじゃない。
既に彼女が四人で近い関係が三人以上いるんだ。
「ねえ彼氏さん。こんな面倒くさい彼女は捨てて私と遊ばない?イイ事してあげるから」
頭沸いてんのか?この女は。
旅行に来ておいて、他の女に目移りして恋人を捨てる訳ないだろ。
そんな事する奴がいたら、そいつは本当に救いようのない愚か者だ。
「そのつもりは無いんで、本当に消えてください。あまりしつこいと警備の人を呼びますよ?」
事務室の職員が対応しない時間ではあるが、それと警備は別口だろう。
警備でもダメなら、遠慮なくお巡りさんを呼ぶが。
「……仕方ないね」
すると女性はそこまで揉めるのは得策では無いと思ったのか、女性はやっと引き下がり、立ち去ってくれた。
「災難だったわね」
「ああ、全くだ」
俺とユカは女性が去った方を忌々し気に睨む。
おかげでせっかくの甘い空気が台無しだ。
「やっぱり私も舐められてるのかしら。これがアリアだったらあの女も恭一に唾付けようとかしなかったかも知れないのに」
ユカは俯いて悔しそうに言う。
「いや、あの手の人種はそういうの気にしないと思うぞ。アリアさんだったとしてもダメで元々でちょっかい掛けて来ただろう。万が一上手く行ったら、アリアさん程に女性から男を奪えたとマウント取れると思って」
「……かもね」
「ああいうのは引きずっても損にしかならないから、忘れよう」
言いながら、ユカの手を取って絡めた。
「そうね。忘れましょ」
ユカも気を取り直し、俺の手を握り返して来た。
そして俺たちはコテージに入り、寝る前に一緒にコテージに備え付けられたシャワーで汗を流した後。
灯りを消したベッドの上で俺がユカの全身をマッサージしたり、逆にユカが俺の体をあちこちベタベタ触ったりして、あの女性の所為で機嫌が悪くなった分を取り戻すかのようにイチャイチャしながら眠りについた。
これで嫌な事は忘れて明日は昼までのんびり遊んでから帰れば完璧だと思ったんだが……。
「この人たちが私のテントを壊したんです!」
翌朝、そんな言い掛かりと一緒にキャンプ二日目の平穏は流れてしまった。
――――――――――
話サブタイに・後と書きましたが
一回イチゴたちの視点を挟んでから延長戦に入ります
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