第6話『ユカとキャンプデート・前』
球技大会が終わってから一学期の終業式までの間。
俺はバレーチームだったクラスメイトの女子たちのお願いを聞いて、毎日順番にデートして回る事になった。
我ながら爛れていると思うが、最低限の線引きとして手繋ぎ以上のスキンシップは無し、二十時前には解散、この二つを徹底した。
これならば異性の友達同士で健全に遊んだ事なり、横から突っ込まれても言い訳出来ると思って。
効果があるのかは知らないが、こういうのは用心し過ぎるくらいでいいだろう。
気を付けたおかげもあってか、女子たちとのデート周回は騒ぎになる事もなく終わった。
そして一学期終業式を済ませて夏休みが始まり、いよいよユカのお願いを聞く番になった。
「なあ。もうユカの番だけど、何をお願いしようとしてたんだ?」
「そうね。一泊二日でキャンプしない?もちろん二人きりで」
改めてユカにお願いについて聞いたらそう答えられた。
「そうか。色々確認すべき事はあるけど、行こうか」
外で一泊となるとアリアさんとかに外泊の許可を取る必要があったが……
「ユカさんと一泊でキャンプデートですか?いいですよ、私たちに遠慮しなくても」
とまあ、簡単に取れた。
他の女子にマウント取るのかと思えば公認とはいえ他の女子と遊ぶのも止めないし、最近アリアさんの事がよく分からない……。
そして、準備を済ませた俺たちは早速キャンプ場に出発した。
ちなみに移動はバイクにサイドカーを付け、サイドカーにユカが乗り俺がバイクを運転して向かった。
このバイクにサイドカーもアリアさんに貰った物なのだが、他の女子とのデートに使う事に少し罪悪感が湧く。
……まあ、本人がいいと言ってるんだからあまり気にしない方がいいか。
そしてキャンプ場に着いてチェックインした俺たちは、借りたコテージに入った。
初めてのキャンプで面倒や苦労が多いと、それで喧嘩するカップルが多いとネットで見たから、テントを立てずコテージを借りる事にしたのだ。
「へえ、結構広いわね」
ユカがコテージの感想を呟く。
今のユカは上はTシャツ、下はハーフパンツといったアウトドア向きの装いだ。
ちなみにユカが着てるTシャツは元は俺の物だったりするが……まあ、シェアハウスの面子が俺のシャツを拝借するのはよくある事なので気にしない。
元々男物のTシャツなので胸周りがキツいみたいで、ユカの大きな胸に布地が張り付いてラインがハッキリ出てるのが若干目の毒だが。
「そうだな。家電も最低限揃ってるから、あまり面倒な事無くのんびり出来そうだ」
と言う俺もユカと同じくTシャツとハーフパンツを着ている。
夏場のアウトドアなので当然の帰結ではあるが、せっかくだからペアルックに見えるように、服の色合いも合わせた。
シャツは両方俺の物だったから合わせ易かった。
適当な所に荷物を詰めた鞄を置いた後、軽くコテージの中を見て回り分かった事だが、このコテージは就寝用のベッドが大きめのサイズの一つだけだった。
カップル・夫婦向けの二人用コテージとあったのであまり詳しく聞かずに借りたのだが、こういう事か。
「なるほど、カップル・夫婦向けでベッドが一つ……ね」
ユカも一つだけベッドを見て俺と大体似た感想を漏らした。
「まあいいんじゃない?今更こういうのに照れる仲でも無いんだから」
「そうだな」
キャンプ場への迷惑になるのでそういう事はしないから添い寝するだけだろうが、むしろそれだけなら今更照れる理由も無い。
添い寝なんて、シェアハウスではほぼ毎晩やっている事だからな。
「ああ、それと恭一。スマホの電源切っておいて」
ユカが今思い出した風に言い、自分のスマホの電源を切った。
「うん?どうして?」
「どうせ今もイチゴの盗聴アプリとか走ってるんでしょ?今日のキャンプはあまり、他の人の見世物にされたくないんだよね」
「……そうか」
そういう事なら……と、俺もスマホを出して電源を切ろうとした。
……思えば、他の子とデートしてる時に盗聴アプリを落とすつもりでスマホの電源を切るのは初めてだな。
でもそもそも俺は自分が一線を越えてまで浮気してないとイチゴに証明するため、イチゴは自分の性癖を満たすため、とお互いズレた目的で入れた物だ。
けど今は俺がユカとキャンプで外泊する事はもう伝えて許可も取ってて、ユカもイチゴたち公認で付き合っている恋人だからな。
ユカ相手に浮気してないと証明する必要も無くて、ユカ本人が聞かれたく無いと言うのなら無理に起動させてなくてもいいだろう。
そう思って俺はスマホの電源を切った。
「さて、お昼にしましょ。お弁当作って来たから」
「ああ、楽しみだ」
出発が朝だったけど、移動に時間が掛かって今はもう昼過ぎだからな。
俺とユカはせっかくだからとコテージの外にあるテーブルで一緒に昼飯を食べた。
昼飯はユカ手作りのBLTサンドイッチだった。
「どう?美味しい?」
「ああ、美味しい。流石ユカだな」
「……まあ、正直素材がいいからってのもあるんでしょうけど。パンもベーコンもレタスやトマトも全部アリアのお金で買った物なのよ」
ユカは複雑そうな顔をする。
「そうか。でも作ってくれたのはユカだからな。ありがとう」
「ええ」
そのままゆっくりと昼飯を食べ終えて。
「ねえ恭一。ここ、釣りが出来る所もあるみたいよ。やってみない?」
「ああ、やってみよう」
俺たちは次にやる事を決めて釣り施設に足を運んだ。
そして一頻り釣りを楽しみ……。
「恭一って釣りも上手いのね。本当に初めて?」
「ああ。本当に今回が初めてだ」
「誰にでもそんな事言ったりして?」
「流石にこんな事で見栄張ったりしないさ」
「まあ、そうでしょうけど」
俺とユカはそんな事を言い合いながらコテージに戻って行った。
俺が片手に持つクーラーボックスには、釣った魚が沢山入ってる。
それらのほとんどが俺が釣り上げた魚だ。
正直、釣り針に餌を付けて水の中に投げ込んで、ユカとテーブルゲームでもしながら暇つぶししてただけだったが、ここまで上手く行くとは自分でも思わなかった。
「今晩はお魚で決定ね」
「そうだな」
あの釣り施設の魚は全部がキャンプ場ですぐ食べられるように養殖された魚だ。
なのでよほど調理法を間違えなければ食あたりとかする事もないだろう。
コテージに着いて、クーラーボックスの中身を備え付けの冷蔵庫に移した。
「しかしやっぱ多いわね。明日までに食べ切れるかしら」
ユカは冷蔵庫に詰められた魚を見て心配そうに呟く。
流石に十匹以上は多いし、連続で食べるにしても飽きるか。
「イチゴたちの手土産に持ち帰るとしてもあまり多いと嵩張るし、いっそここに来てる他の人たちに配るか?」
「それがいいわね。貰う側も夕食を準備する前に貰った方がいいでしょうから、今から配って回りましょ」
俺の提案にユカが賛成し、俺たちが食べる分とイチゴたちへの手土産にする分は取って置いて、残りをキャンプに来てる人たちに配って回った。
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