第2話「一学期最後の行事は球技大会」

 時間が流れ、期末テストが終わった。


 自己採点の結果、イチゴ、アリアさん、ユカ、リナは中間テストの時と同じくイチゴの予想問題を丸暗記したらそれがドンピシャで全科目満点。


 俺はイチゴの予想問題を見ないで普通に頑張て勉強して、自己採点だが上位入りは固そうで生徒会役員の面子を守れそうだ。


 ケイコたちも一緒に勉強した甲斐があって平均点を上回る結果を出してる。


「それじゃあ、来週に行われる球技大会の種目決めをしまーす」


 そして期末テストの成績を返して貰う登校日のHRにて、クラス委員のケイコが教壇に立ち皆に向けて話し掛けた。


 そう、期末テストが終わり、私立悠翔高校一学期最後の学校行事である球技大会が目前に近付いて来たのだ。


「ねえねえ。恭っちは今年、どの種目に出る?」


「悩んでいる。……まあ、野球だけは無いかな」


 斜め後ろの席からユウリに話し掛けられ、小声で答えた。


「まあ、去年のあれは無かったからなー」


 ユウリは理解を示す感じで相槌を打った。


 去年の球技大会で俺は他の男子の希望を優先し、人数の都合に合わせて野球の部に出る事にしてた。


 ……が、繰り返しになるがこの高校において俺の男子人望は底辺だ。


 試合で、守備は外野で見せ場はあまりなかったが、攻撃では俺が打席に立つたびにホームランを打っていたら観戦していた女子が盛り上がり、逆にチームメイトを含む男子は盛り下がった。


 その所為かチームメイトの男子たちは俺に活躍させまいと、わざとかってくらいミスを連発してチームを一回戦負けさせたのだ。


 それで当時付き合い始めたばかりのアリアさんがキレかけたが、まだ権力を好き勝手にする程では無かったから有耶無耶に流れたんだっけ。


 去年そうなった事もあって、今年はチームプレー()にあまり依存しない種目を選ぼうと思っている。


「それじゃあ、バスケとかどう?恭っちなら最悪一人で無双とか出来んじゃない?」


「……そうだな」


 一人で無双云々はともかく、バスケなら他のチームメイトがサボタージュしても俺の努力次第で野球ほど致命的にならないだろう。


 去年の前歴から、俺が他の男子に遠慮して後から種目を決める理由も無い。


 俺はユウリの勧めを受けてバスケを希望し、そのまま希望が通った。


 他にはユカ、ケイコ、ユウリ、カヨはバレーボールに参加し、イチゴとアリアは出張を辞退して生徒会役員として大会運営の裏方に回った。


 俺とユカも一応生徒会役員だが、別にそれで出張を制限される規則もないので準備期間の間にちゃんと仕事するだけで済んだ。




 そして球技大会の当日。


 体操服に着替えてグラウンドに集まり簡単な開会式を済ませた後、バスケなど体育館で行われる種目に出る生徒たちはそのまま体育館に移動した。


 ちなみに、バスケの試合に出るチームメイトたちと打ち合わせや練習をしたりはしたが……。


 まあ、うん。あって無い様な物だった。


「恭一、お互いに頑張りましょ」


 適当な場所でストレッチをしていると、ユカが声を掛けて来た。


 ユカも勿論体操服を着ていて、それが肌にフィットして制服姿の時よりも大きな胸が目立った。


「ああ、ボチボチやろう」


「ボチボチ……ね。ねえ恭一。私が優勝したら、聞いて欲しいお願いがあるんだけど……」


 恥ずかしがっているのか、ユカは最後まで言い切らずにもじもじする。


「別に、優勝しなくてもお願いがあれば聞くぞ」


「空気読みなさい!そういう約束がないとモチベが上がらないじゃない!」


「……そうか」


 つまりお願いそのものはついでという事か?わざわざ聞いて確かめたりはしないが。


「とにかく、優勝したらお願いを聞いてくれるって事でいいわよね?」


「もちろん」


「恭っち!それってウチらもいい?」


 話を聞いて寄って来たユウリも乗っかって来た。


「ああ、無理のない範疇なら」


 ここでユカだけ特別扱いすると角が立つからな。


「っし!がんばろ皆!」


「「おー!!」」


 俺が受諾すると、ユウリは同じバレーに出る女子六人全員と意気投合した。


 ……ユカに加えてユウリ、ケイコ、カヨまでのつもりだったんだがな。


 他の二人だけ除け者にするのも気まずいから仕方ないか。


 本命の彼女であるイチゴを差し置いて、他の女子たちと仲良くするのにもすっかり慣れて吐く事も減った自分に思う所はあるが、慣れたものはもう仕方ない。


 今は球技大会に集中しよう。


「葛葉恭一!」


 そろそろアップも終わった頃、知らない男子が大声を上げて近寄って来た。


 確かEクラスの松村だったか。


「ん?何か用か?」


「この球技大会で、斎藤さんを賭けて俺と勝負しろ!」


「はあ……」


 また勝負か。


 最近、俺に突っかかって来る男子が減って来たと思ったが、別のクラスはまだ違ったみたいだ。


「断る。ユカは賭けたりするような物じゃない」


「なら俺の不戦勝だな。もう斎藤さんに近付くなよ」


 話聞いてたのか?


 何で勝負を受けないだけで俺の負けになるんだ?


「いいじゃない。勝負を受けてやれば」


 どうしたものかと考えていると、ユカが来てそう言った。


「いいのか?」


「どうせ恭一が勝つでしょ?だから大丈夫よ」


 ユカはほんの少しも俺の負けを疑ってなさそうだ。


「だから、私のために勝ってくれるわよね?」


 そして俺の腕に抱き付いて大きな胸を押し付けて来た。


 まあ、夜には直接マッサージしたりするから、服越しの感触で鼻の下を伸ばしたりしないが。


「おのれ葛葉……」


 ただ、松村は大層羨ま恨めしそうに俺を睨んだ。


「……という訳で、勝負を受けよう」


「首洗って待ってろ!負けても言い訳するなよ!」


 松村は俺を指さしてそう言い放ち、自分のチームの所へ戻って行った。


「それにしても、男ってほんと勝負好きよねぇ」


「……ああ、異世界転生物の決闘並みに好きそうだ」


 ユカはうんざりしならが言い、俺はジョークを混ぜて返した。


 ユウリのオタク趣味に付き合った影響で、俺もユカも最近流行りのアニメなどについてそれなりに通じているのだ。


「じゃあ恭一は転生チートでイケメン無双する主人公ね」


「……ははっ」


 さらにジョークが返って来て、俺は苦笑いで答えた。


 俺にチートがあったとすれば、この顔とスペックじゃなくて、子供の頃にイチゴと仲良くなった縁だろうな……。


 ただそのイチゴとは今……、いや後で考えようか。

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