第9話『悪い子になった義妹・おまけ』

【Side.北城直樹】


 俺、北城きたしろ直樹なおきは今人生の転機にある。


 幼馴染の日向寺ひゅうがじ花林かりんと一緒に入学した悠翔高校で、カリンが仲良くなった友達に葛葉理奈がいたのだ。


 そのリナちゃんは今年の新入生代表で、この学園のお姫様扱いされている花京院アリア生徒会長が目に掛けている後輩でもある。


 悪評が多い葛葉恭一の妹という事が玉に瑕だが。


 でもカリンの幼馴染という繋がりからリナちゃんを口説き落として、リナちゃんを通してアリア会長に近付けば、逆玉の輿もあり得る!


 カリンとリナちゃんを踏み台にして捨てるのは可哀想だから、ついでにハーレムに入れてやろう。


 俺は優しいからな!


 葛葉恭一がアリア会長と近いから警戒対象だったけど、俺を目の前にしたら尻尾巻いて逃げたし、実は大した事ない奴なんだろう。


 リナちゃんも俺にツンツンしてるけど、ツンデレだから時間を掛けて好感度を上げればすぐデレデレになるはず。


 カリンは幼馴染だし、ほっといても落ちてるだろう。


 これは俺の逆玉の輿とハーレムも目前だな!


 そう思っていたある日の放課後、カリンが俺の家に訪れて来た。


「どうしたんだ、急に」


「えっと、ちょっと話があって……」


「話?」


 カリンは緊張してるのか、歯を食いしばった。


「その……私と付き合って!」


 そして出て来た言葉は、予想通り告白だった。


 えー、どうしようかなー。


 そろそろカリンから告白されるだろうとは思ったけど、取りあえず今はリナちゃん狙いだからなー。


 いや、ここでカリンをずぶずぶに落としてリナちゃんを落とすのも協力させればいいか。


 ついでに、俺はまだ童貞だから色々と練習させて貰いたいし。


「いいよ、付き合おうか。……部屋に入る?」


「ううん!今日のこれだけ!じゃあまた明日!」


 カリンは用が済んだとばかりに走り去って行く。


 告白が成功して浮かれたのかな?


 もしかしたら今日のウチに童貞卒業あるかと期待したけど、まだ早かったみたいだ。


 でも時間の問題だしいいか!




 それから数日。


 恥ずかしいからというカリンのお願いで学校では付き合っているのを隠し、放課後に人目を避けてデートしたりした。


 でもスキンシップは手繋ぎ止まりで、キスやエッチな事は全然させて貰えない。


 何でも「そういうのは高校を卒業して大人になってから」だとか。


 初心過ぎんだろ。


 あーあ、これは地雷引いちまったのかな。


 これじゃあ練習出来ないし、リナちゃんには俺とカリンが付き合ってるって知られてるからアプローチしにくいじゃないか。


 もうカリンは捨ててリナちゃんを狙いに行こうかな。


 今日だって放課後デートを拒否られたし。


 そんな事を思って、一人で繫華街を歩き回ってた最中。


 カリンの姿を見つけた。


 ……何故か葛葉恭一と一緒に歩いている所を。


「は?……おい、カリン!」


 俺はすぐカリンに詰め寄って声を掛ける。


「お前、どうしてそいつと一緒にいるんだ!」


 でもカリンは俺の方と一回チラッと見ただけで、俺を無視したまま歩き続ける。


 当て付けるかのように葛葉恭一と腕を組んで。


「待てよ。……待てって!」


 俺はそのままカリンと葛葉恭一を追いかけて……


「また君か。署まで来なさい」


 またもストーカーとして警察に逮捕された。


「違うんです!俺はストーカーじゃありません!カリンは俺の幼馴染で彼女なんです!」


 俺はお巡りさんに弁解した。


 なのに。


「実は……こいつ、北城直樹が私と幼馴染な事に付け込んで家に入って来て、私が着替えてる写真を盗撮して脅して来たんです。写真をバラ撒かれたくなければ、自分と付き合えって。だから私、葛葉先輩に相談して……」


 カリンは泣き真似しながらそんな事を言って、俺がカリンを脅したレインのチャット履歴をお巡りさんに見せた。


「バカな!俺はそんな事してない!」


 本当に俺がレインでカリンを脅してたなんて身に覚えの無い履歴があり、俺は必死に否定した。


 なのにそれを見たお巡りさんは俺の言葉よりもカリンの言葉を信じて、ストーカーとして逮捕されたのもこれで二回目だからと今回も見逃して貰えなかった。


 少年院送りにはならなかったものの、学校からは退学処分を食らい、両親にも殴られて勘当された。


 カリンの奴、俺を裏切ったな!


 それと葛葉恭一、俺からカリンを寝取りやがって。絶対に許さない!


 ……と恨みを募らせるも、転落して都会からも追い出された俺に復讐の機会は一生来なかった。




【Side.葛葉恭一】


 北城くんの事は嫌な事件だったなー。


 またしても俺が女子を奪ったような形になってしまったし。


 でも、北城くん側にも問題が大きかったので、あまり俺に非難は向いて来なかった。


 北城くん、カリンの次はリナを、リナの次はアリアさんを……と次々と乗り換えるようにして逆玉の輿を狙ってたみたいなのだ。


 それらの情報が脅迫の件と一緒に学校中の噂になり、日向寺さんは脅迫の被害者に、俺はそんな日向寺さんを助け出したヒーロー扱いになった。


 まあ、脅迫の件は裏でイチゴたちが仕立て上げた捏造で、裏で噂を流したのもイチゴたちみたいだけどな。


 俺は関与していないが、手口が長岡の時と一緒だったから察した。


 しかしハーレム狙いな奴が多いな。


 最近流行りのラノベの影響か?


 正直、女性をコレクションとか金づる扱いする北城くんたちの理屈には反吐が出る。


 気に入らないのは、成功したかどうかの違いだけで、外から見れば俺も北城くんみたいな奴らと大差ない所なのだ。


 それを自覚した時、気持ち悪くて吐いた。


 もういっそ、全部投げ出してイチゴとだけ付き合えればいいんだが。


 イチゴは反対しそうだから、一人だけ選ぶならユカを選ぶのも……。


 でも今では色々手遅れな感がある。


 俺が一人だけ選んで、他の女子との関係を切ったら……絶対に報復される。


 特に花京院家からは逃げられる気がしない。


 それに……大分情が移った女子たちを切り捨てて傷つけたくない気持ちもある。


 現実的にも気持ち的にも、もう八方塞がりなのだ。


 こうなったら本気で、悠翔高校を卒業した後に皆が考えを帰るのを祈るばかりである。




 その後の事だが、俺は日向寺さんのメンタルケアという事で、しばらく日向寺さんと恋人ごっこをする様になった。


 裏で日向寺さんがイチゴたちと組んだ疑惑はあるが、一応脅迫されて望まない交際を迫られた被害者だからな……。


 それと日向寺さんが俺に憧れを持ってたらしく、北城くんに傷付けられた心を癒すためと恋人ごっこをお願いして来たのだ。


 ごっこ、というのは、日向寺さんとの過度なスキンシップや性交渉がNGだから、俺がそう表現した。


 なんと、NGを出したのは他でもないイチゴなのだ。


 訳を聞いたら、


「今のきょーくんハーレムの面子は大体同い年だし、リナちゃんは義妹だからギリギリ抱え込んでだまらせて行けるけどー、年下はきょーくんが先に成人したら成年と未成年の組み合わせになるから、その時になってつつかれると危ないんだよねー」


 という事だった。


 つまり条例へのリスクヘッジだと。


 既に今でも女性関係がグレーゾーンだから、時間差でブラックゾーンに突っ込んでしまう爆弾を避けるための。


 イチゴに一抹の良識が残っているのに安堵しながらも、性交渉がなければ浮気まがいな事も納得するようになった自分に色々複雑な思いを抱いた。



―――――――――――――――

 次の更新は、7/1(土)を予定しています

 パラレルで少しファンタジーな番外話を予定しております


 それと、五章の執筆も始めました

 詳しくはこの話が更新された後、近況ノートに書き込みますので気になるかたは見に来ていただければ幸いです

(近況ノートは予約更新が出来ないので、時間差がありますが)

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