第8話『悪い子になった義妹』
【Side.リナ】
あたしの名前は葛葉
悠翔高校一年生で、学校一ハイスペックでイケメンな葛葉恭一の妹!
だから学校では私もちょっとした人気者なの!
「葛葉さん。前から君の事が気になってたんだ。俺と付き合わない?」
……なのでこうして面倒な人に絡まれたりもする。
この人、ネクタイの色からして二年の人かな。
ほどほどに顔が良くて自信ありそうだけど、恭一お兄ちゃんと比べたらぶっちゃけ月とスッポンかな。
「ごめんなさい。あたし、あなたみたいな人と付き合うつもりはありませんから」
なのでバッサリ断った。
「あ?おいおい、随分バカにしてくれるじゃないか」
そしたら男の先輩が怒った。
ん?あたしに手を出すつもり?
やるならやってみれば?ぜ、ぜぜぜ、全然怖くないんだから!
だってあたしにはお兄ちゃんや姉さんたちがついているんだもん!
「おい、やめろって。こいつはあの葛葉の妹で、花京院会長が可愛がってる後輩なんだぞ」
そこで別の男の先輩が怒ってる先輩を止めた。
「わーってる!だから誘ったんだろうが!」
「なら手ぇ出すなよ。この前、イジメをやってた連中と一緒に、葛葉をボコろうと計画してた奴らも退学になったのを忘れたのか?手ぇ出したらお前、退学じゃ済まなくなるぞ」
「……ちっ!」
それで男の先輩たちは立ち去って行く。
はあ、威圧した事の謝罪は無しですか。
いいんですけどね。あたしもちょーっとだけ言い方が悪かったと思うので。
「リナちゃん。大変だったね。怖くなかった?」
巻き込まれないように遠巻きに見てた、
お団子ヘアが特徴な子で、この悠翔高校に入学してクラスメイトになってから親しくなった友達だ。
「大丈夫だよ。ああいうのに一々怖がってられないから」
ちょっとだけ、強がって答えた。
でも実際、あたしがああいうのにビビる子だって知られたら、そのままあたしがお兄ちゃんの弱点になりかねない
……とイチゴ姉さんたちに言われたから怖がってられない。
あと、イチゴ姉さんたちがいつもあたしを見守っていて、危なくなってもすぐ助けてくれるって言ってくれたのも信じている。
「流石、葛葉先輩の妹は違うね」
「でしょ?ふふん」
カリンちゃんの褒め言葉で気分が良くなった。
あたしとお兄ちゃんは血が繋がってないからこそ、似てるとか言われると嬉しくなる。
「それでリナちゃん。今日の放課後だけど……」
「うん。兄さんも誘って遊ぶんだったね。大丈夫、兄さんも頷いてくれたから」
兄さんとはもちろん、恭一お兄ちゃんの事。
お兄ちゃんへの呼び方は何度か変わったけど、人前では兄さんと呼び続ける事にしてるから。
「ありがとう!私も葛葉先輩とお話するの楽しみにしてたの!」
「そうなんだ。じゃあ目一杯楽しんでね」
カリンちゃんじゃなくても、お兄ちゃんを紹介して欲しいとお願いして来る友達は沢山いて、あたしはその度話を持ち帰ってから姉さんたちに紹介していいのか聞く。
大体弾かれるけどカリンちゃんは珍しくOKが出た。
そして今日のお兄ちゃんは生徒会の仕事も配信の予定もなくて、カリンちゃんにお願いされて三人で遊びたいとお兄ちゃんを誘った。
お兄ちゃんは最初あまりいい顔をしなかったけど、イチゴ姉さんとアリア先輩が後押ししてくれて何とか承諾して貰った。
『……俺は妹にも売られるのか……』
なんてお兄ちゃんは言ってたけど、イチゴ姉さんは照れ隠しだと教えてくれた。
だって、色んな異性と遊ぶとか贅沢なんだから。
だからお兄ちゃんも口ではああ言っても楽しんでくれると思う。
あたしはお兄ちゃんだけで十分だけどね。
放課後。
学校やその近場で合流したり制服のまま遊んで回ったりすると、同じ高校に人に見つかった時に色々言われそうなので、一回おウチに帰って私服に着替えてから繫華街で合流する事にした。
あたしの服装は、ついこの前イチゴ姉さんたちに買って貰ったブランド物のワンピース。
中学の頃は、こんないい洋服を当たり前に着るとか考えなかったな……。
そしてポロシャツにジーンズを着替えたお兄ちゃんと一緒に繁華街に向かい、待ち合わせ場所の噴水前でカリンちゃんを待った。
レインで『もうすぐ着く』と連絡を受けてからもう数分待つと、ブラウスとスカートを着たカリンちゃんが到着した。
……けど、カリンちゃん一人じゃなくて、何か男子が一人くっついて来てる。
「リナちゃん!カリンと遊ぶって聞いたよ。水臭いじゃないか。俺も入れてくれよな」
なんて調子のいい事の言ってるこいつは、カリンちゃんの幼馴染の
学校でもあたしがカリンちゃんと一緒にいる時、何度も絡んで来たから不覚にも覚えてしまった。
正直、北城はどこにでもいる様な、勉強よりも遊ぶのが好きな普通の男子で、これっぽっちも興味がない。
というかあたしを下の名前で呼ぶのも許した覚えがないのに勝手に呼ぶし、自信だけは無駄にあってあたしとカリンちゃんに同時に色目使うのがおに……長岡ゴミクズの事を思い出させて、ハッキリ言って嫌いな相手。
でも質の悪い事に、カリンちゃんの幼馴染だからあまりきつく突き放す事も出来ないの。
『何で連れて来たの?』
あたしはカリンちゃんとアイコンタクトしてから、こっそりレインメッセージを送った。
お兄ちゃんにアプローチする目的のお出掛けに他の男子連れて来るとか、自爆でしかないんだけど?
するとカリンちゃんもこっそりメッセージを送り返して来る。
『ごめん!出て来る所を見つかって、勝手に付いて来られちゃった!』
……なるほどね。
まあ、他人でもない幼馴染が勝手に着いて来ると、突き放すのも難しいよね。
「所で、そっちの人は誰?」
北城はお兄ちゃんに不躾にも敵意が籠った目を向けて聞いた。
引っ叩かれたいのかな?
「リナの兄の葛葉恭一だ。よろしくな」
お兄ちゃんは苦笑してから自己紹介した。
流石、大人の余裕がある。
「……北城直樹です。リナちゃんやカリンの友達です」
一方、北城は不満そうな態度で自己紹介をする。
子供かな?
北城、あたし目当てなのが丸分かりなのに、あたしのお兄ちゃんを露骨に敵視するとか、頭空っぽ?
「そうか。で、どうする。北城くんも入れて遊ぶのか?」
お兄ちゃんがあたしとカリンちゃんを交差に見て聞いた。
「えっと……。あたしは、ちょっと遠慮したいですね」
「私もちょっと……」
当然、あたしとカリンちゃんは難色を示す。
「らしいっすよ、葛葉先輩。ここは遠慮して貰えますか?」
が、北城はどう理解したのか、よりにもよってお兄ちゃんを追い出そうとした。
おめぇが抜けるんだよ、この味噌っカスが。
「……分かった。じゃあ俺が先に帰ろう」
「えっ」
なのにお兄ちゃんは北城の言葉を真に受けて帰ろうとした。
お兄ちゃん……ちょっと笑ってるし、絶対カリンちゃんと距離を置けるのを喜んで抜けようとしてる……!
「リナ、これ小遣い。楽しんで遅くならない内に帰って来るんだぞ」
お兄ちゃんはサイフから千円札を三枚取り出して、あたしに押し付けてから止める間もなく先に帰って行った。
「お、ラッキー!一人千円な!」
北城があたしの手にある三千円を見てふざけた事を抜かす。
は?これ、あたしがお兄ちゃんから貰ったお小遣いなんだけど?
何勝手に山分けを決めてるの?
まあ、お兄ちゃんは優しい人だから本当に一頭千円で三千円かも知れないけど、さっきまでお兄ちゃんを追い出しておいてお小遣いだけ貰うとか、恥知らず過ぎない?
こいつをどうしてやろうか……
あたしはカリンちゃんと目を合わせ、意思を一致させて頷き合った。
「今日はあたしたち女子だけで遊ぶから、あんたは帰って」
「そうよ。あんたは要らないから」
そして北城のそう告げる。
「はあ!?そりゃねぇよ。その金を二人だけで使うつもりか?」
当然北城は反発するけど、聞き入れるつもりはない。
「そうだよ?逆に、何であんたと分けないといけないの?」
「それはもちろん、俺たちが友達だから……」
「友達じゃないんですけど?」
「え?」
「カリンちゃんならともかく、あたしはあんたと友達でも何でもないですから」
あたしは他人行儀に見せるためあえて適当な敬語で喋った。
「リナちゃん?冗談だろ?」
「冗談じゃないです。勝手について来たら警察に通報しますから。行こ、カリンちゃん」
そしてあたしはカリンちゃんと一緒に繫華街の中に歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って!」
でも北城は警告を無視してついて来た。
なので呼びました。お巡りさんを。
「えっと、僕を呼んだのはお嬢さんたちかな?ストーカーがいるって聞いたけど」
「「こいつです」」
すぐ来てくれたお巡りさんに、北城をストーカーとして突き出した。
「リナちゃん!?カリンちゃん!?冗談だよね!?お巡りさん、俺たち、友達ですから!俺はストーカーじゃありません!」
「はいはい。話は署で聞くから」
北城は悪足搔きしたけど、お巡りさんは聞き入れずに北城を交番に連れて行った。
ついでにあたしとカリンちゃんも事情聴取のため同行させられたけど、どうせお兄ちゃんが先に帰った事で予定が空いて時間も余ったから文句なく同行した。
事情聴取の結果、北城はお巡りさんから厳重注意を受け、学校や家族にも連絡するらしい。
ともかく。
カリンちゃんにお兄ちゃんを紹介するお出掛けは、失敗に終わった。
昔、お兄ちゃんやトモリちゃんの三人で遊ぼうとした時にあの長岡ゴミクズが割り込んで来て即解散した事を思い出して、ますます北城への憎しみが募った。
「リナちゃん。嫌な事があったみたいだねー」
おウチに帰ると、出迎えてくれたイチゴ姉さんに慰められた。
「ええ。本当に。これじゃお兄ちゃんを紹介しようとしたあたしも、北城を着いて来られてしまったカリンちゃんも、面子が台無しですよ」
「そうだねー。じゃあさ。こういう風に仕返ししない?」
そして聞かされたイチゴ姉さんのアイデアに、あたしは「うわーっ」ってなりながらも最後まで聞いた。
これって……ドン引きするけど、面白いかも。
翌日。
登校したあたしは、休み時間にカリンちゃんを人気のない廊下の隅に連れ出した。
「リナちゃん。昨日はごめんね。次から直樹が勝手に付いて来たら、問答無用で警察を呼ぶから」
「いいよ。あれとは幼馴染だもんね。突き放せないのも仕方ないよね」
早速カリンちゃんが謝って、あたしは快く許した。
それにしても、長岡といい北城といい、幼馴染って碌なのがいないな。
あっ、いや。恭一お兄ちゃんとイチゴ姉さんだけ例外ね!
「カリンちゃん。ひょっとしてだけど、北城の事、好きだったりする?」
イチゴ姉さんから聞いた計画を実行する前に、カリンちゃんに重要な事を確かめた。
「は?いやいやいや全然!あんな奴、これっぽっちも興味無いから!」
カリンちゃんは両手を振ってあたしの質問に否定した。
だろうとは思った。
ちょっと確認しただけ。
「じゃあさ。あいつに復讐しない?」
あたしはカリンちゃんにだけ聞こえるよう、小声で囁く。
「復讐?」
「そ。詳しくはね」
そしてイチゴ姉さんから教えられた復讐の仕方を話す。
復讐の内容は、カリンちゃんが北城に気を持たせてから付き合って、その後カリンちゃんがお兄ちゃんに乗り換えて北城の脳味噌をフライパンでぶん殴ったみたいに破壊する事。
もちろん、カリンちゃんがお兄ちゃんに乗り換える時はあたしとイチゴ姉さんが手引きして協力するつもり。
「……いいの?」
カリンちゃんは確かめるように聞き返して来た。
最終的に、お兄ちゃんとカリンちゃんが付き合う事になるから、それが本当なのか不安なんだろう。
「それはこっちのセリフだよ。兄さんには他に彼女が沢山いて、カリンちゃんは三番目以降になってしまうから」
「私は……、葛葉先輩とずっと付き合えるとは思ってないから。葛葉先輩が卒業するまででもいい思いが出来ればそれで十分よ」
カリンちゃんは自身無さげに答える。
生々しい話、お兄ちゃんはデートの時に色々気配ってくれるし、デートに掛かるお金は全部奢ってくれるし、カッコイイから一緒に居て恥ずかしくなくて、お兄ちゃんの方から女の子に手出ししないから、ちょっと遊ぶだけでも色々お得なんだよね。
「そっか。じゃあ取りあえず北城への復讐から頑張ろう」
「うん。……一時的にでもあれと付き合うのは嫌だけど、頑張る」
あたしとカリンちゃんは決意と共に握手を交わした。
待ってろよ、北城。目の物見せてやるから。
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その後の北城の末路、説明するまでもなく分かりきってるので省略しようかと思いましたが、それでも要望ありそうなので短いながらも書き上げました
そんな訳で二話構成になり、この話の更新を一日前倒ししてから明日おまけ話を更新いたします
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