第6話『カヨ誘拐事件①』

 ある日の放課後。


 いつもの様にクラスメイトの女子たちと遊んで回ってから、遅い時間になる前に解散したのだが。


「恭一、今日は恭一の所に泊まってもいい?」


 カヨだけは残ってそんな事をお願いをして来た。


「出来れば遠慮して欲しいんだが……何かあったのか?」


「今日、お父さんが恋人と食事するんだけど、私も呼ばれた。でも行きたくない」


 またそういう理由か。


 カヨって、父親の恋人をとことん避けてるな。


「いつまでも避けるのは流石に良くないんじゃないか?」


「でもあの人、私の事を邪魔者扱いしてるから怖い」


「それでも、カヨから歩み寄る姿勢を見せないと。それで仲良くなれるならいいし、ダメでも歩み寄ってもダメだったという事で別の対応も出来るんだから」


 俺が説得すると、カヨは少し悩んだ。


「……何かあったら、恭一が助けてくれる?」


「もちろん。助けるさ」


「分かった。じゃあ取りあえず行くだけ行ってみる」


 踏ん切りがついたのか、それでカヨも帰って行く。


 この時、俺はまだカヨを取り巻く状況を、重いとは思ってもそこまで深刻に受け止めたりはしなかった。




 でもその日の夕方。


 自分の部屋で配信や明日の登校など色んな準備をしていると、突然イチゴが部屋に入って来た。


「きょーくん大変。カヨちゃんが誘拐されちゃったよ」


「は?」


 そしてもたらされた知らせに驚いた。


「いつ?何処の誰に?」


「親の食事会に行く途中で攫われたみたい。誰がやったのかは分からないけど、取りあえず居場所だけ掴んだから」


「そうか」


 相変わらず対応が早い上に、俺がして欲しい事を理解してくれている。


 それにしても、カヨに何かあったら助けるって言ったばかりにこんな事が起こるとはな。


「すぐ助けに向かうから、場所を教えてくれ。あと警察やカヨのお父さんにも連絡を頼むよ」


「分かった」


 そして俺は簡単な身支度を済ませて家を出た。


 イチゴに教えて貰ったカヨの現在位置は何度も移動してて、車に押し込められたままみたいだった。


 俺はそれをバイクに乗って追跡する。


 ちなみにこのバイク、アリアさんにプレゼントで買って貰った物だったりする。


 で、突き返すのも悪い気がして、ちゃんとバイクを貰って免許も取ったのだ。


 今だってヘルメットを被って運転している。


 そして移動している車とのイタチごっこの末(向こうはその認識があるのか疑問だが)、人気のない路地で俺はようやくカヨを誘拐したらしきミニバンの車に追いついた。


 そしてこれ見よがしに車の前にバイクを止めて道を塞ぐ。


 これで万が一間違いだったら大迷惑だが、その時は謝るつもりだ。


「おい、何の悪戯だ?さっさと退け」


 前を塞がれた車の助手席から、ラフな格好の男が降りてこっちに文句を言って来た。


 ここまでは当然の対応か。


「いや、それがですね。どうもそちらさんの車に俺の友達が乗ってるようでして。こんな遅い時間まで連れ回すと家族も心配するんで、解放して貰えますか?」


 一応、まだ色々確定した訳じゃないのでそれなりに丁寧な口調でお願いしてみた。


 ただ、いつ荒事になるか分からないので、防具にもなるヘルメットを被ったままで。


「……何の事だ。この車には俺の仲間しか乗っていない。悪い事言わない内に退け」


 男はそう言うも、ほんの一瞬眉が揺れたをのキャッチした。


 半分黒か。


 その瞬間、車の方が騒がしくなる。


 正面の窓から覗き見るに、後ろの方で何かが暴れている模様だ。


 多分、カヨが救援が来た事に気付いて暴れているのだろう。


 これで黒確定だ。


 俺は早速ポケットから防犯ブザーを取り出して鳴らす。


 ピピピピピピ!!!とうるさい音が周りに鳴り響く。


 これは男たちへの揺さぶるのと同時に、周りの注目が集め後から来る警察も見つけやすくする布石だ。


「なっ!こいつ!」


 男はそのまま俺を止めようと殴り掛かって来て、そのまま取っ組み合いが始まった。


 目の前の男を倒すと次々と別の男が出て来て、それらとも戦い容赦なく倒す。


 喧嘩の最中、車が後進して逃げようとしてたので、逃げられる前に車にしがみ付いて助手席に入り込み、運転手の男を引きずり出して逃走を阻止した。


 そんな感じで色々あった乱闘の末、誘拐犯一味を全員倒した。


 俺は車の後ろ座席にて口に布を噛ませられている上に、ロープで手足を縛られていたカヨを救出した。


「怪我とか無いか?」


 カヨの拘束を解きながら調子を聞く。


「……ちょっと殴られたのと、ロープに縛られてた所が痛いの以外は大丈夫」


 口の布を外されたカヨは平然そうに答えたが、少しだけ声が震えていた。


「助けに来てくれてありがとう」


「約束したからな。……まさかその当日にこうなるとは思わなかったが」


「フラグだったね」


 気を紛らわす為に冗談を言い合い、お互い苦笑する。


 ほどなくして警察も到着し、男たちは逮捕。


 俺とカヨも取り調べの為、警察署まで同行した。


 純粋な被害者のカヨはともかく、俺は誘拐犯の男たちと喧嘩しまった上に俺がほぼ無傷だったので下手したら過剰防衛で捕まる事も危惧した。


 だが担当になった刑事さんが話が分かる人……というか花京院家と癒着してる人だったので正当防衛と認められた。


 恐るべし権力。


 それと誘拐犯たちがカヨを攫った理由も少しだけ聞かせて貰ったが、本人たちが言うには単に身代金目的だったらしい。


 それにしてはカヨを攫った手順が計画的だったので、いつから計画したのか、背後に誰かいるのかもっと探る予定だそうだ。


 ひと通り話を聞き終えた後、カヨのお父さんの小林こばやしすすむさんが署に到着した。


「カヨ!大丈夫だったか!?」


 進さんは早速カヨの両肩を掴んで聞いた。


「ん。恭一が助けてくれたから」


「むっ」


 カヨの返事に進さんは表情を固くして俺の方を向いた。


 進さんからしたら俺はカヨに纏わりつく悪い虫みたいであまりいい扱いをされないのだ。


「……カヨが世話になった」


 でも恩は感じて貰ったのか、固い表情のままではあるものの俺に頭を下げてお礼を言った。


「いえ、友達ですから」


「お父さん。私、今日は恭一の家に泊まるから」


 そこでカヨが突然告げた言葉に、俺も進さんも驚いた。


「は?いや、それはダメだ!年頃の娘を男の家に泊めるなんて!」


「私、今はお父さんと一緒に居たくないから」


「え?どうして?」


「私を誘拐した人たちが、『あの女の情報通り』だと言ってた。……私は、高安の事だと思っている」


「雅子さんが!?」


 カヨの言葉に進さんが驚く。


 高安たかやす雅子まさこ。それは進さんが交際している恋人の名前だ。


 つまり、カヨは今回の誘拐を父親の恋人が裏で糸を引いていたと疑っている訳だ。


「気のせいだ!雅子さんがそんな事するはずない!」


 でも当然、進さんはカヨの話を信じない。


 まだ証拠が出た訳でもなく、単にカヨの推測だから信じないのも仕方ない。


「どう思うかはお互いの勝手。でも、私は高安と仲良くしてるお父さんとは一緒に居たくないから、今日は恭一の所で世話になる」


「いや、ダメだ!家で話そう。話せば分かるから!」


 進さんは強引にカヨを連れ出そうとする。


「まあまあ、ちょっと待って下さい」


 その時、近くにいた刑事さんが近寄って来て進さんを止めた。


「親子でも、あまり強引な事をすると虐待とされる可能性もありますから。ここは穏便にですね」


 刑事さんに虐待扱いされる可能性を示唆され、進さんはカヨから手を話、憎々しげに俺を睨む。


「……カヨに手を出したら許さないからな」


 どちらかと言うと、俺が手を出された方なんですが……信じて貰いないでしょうね。


「家には女性の家族もいますので、カヨの相手はそっちに任せる事にしますよ」


 取りあえず少しでも進さんを安心させるためにそう言った。


 進さんは俺の母親を想像するだろうが、実はイチゴとかだったりするけど。まあ誤差か。


「……信じるからな。明日の学校が終わればすぐ帰って来るんだよ」


 進さんは渋々認め、カヨは俺たちのシェアハウスについて来た。



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 前週と同じく、長くなったので2話分に分割しました

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