第4話『テニス大会でのBSSアゲイン・③』

 喧嘩は俺の圧勝で、俺は何の怪我も負わず知らない男子三人を地面にのして女子を助けた。


 日頃から鍛えている上に喧嘩には自身があるので一対三でも俺が負ける訳がない。


 それにちゃんと正当防衛の範疇で倒したから、後で言い掛かりをつけられる心配もない。


「あの!助けてくれてありがとうございます!」


 俺が助けた女子は頭を下げてお礼を言って来た。


 同時に彼女のショートな金髪が揺れる。


「いや、俺の問題に巻き込んだ様な物だからな」


「そうなんですか?」


「ああ、親しい女友達に金髪の子がいてな」


「そうなんですね。あっ、私のこれは地毛です。お父さんがアメリカのハーフで、そっち似で」


 なるほど。クォーターという訳か。


 普通、染髪には厳しい学校が多い上に運動部は尚更厳しいからその髪色大丈夫だったのか気になったが、疑問が解消された。


「そうか、それよりも俺はこの後すぐ試合があるのでこれで」


 用は済んだので、俺は試合場所に戻ろうと走る。


「あっ!そうです!私も試合を応援しに行かないと!」


 その後ろを女子が走って着いて来た。


 まあ、目的地が一緒だろうから当然と言えば当然だろう。


「葛葉くん!時間ギリギリだけど、大丈夫だったのか!?」


 試合場所に戻って来るなり、武田先輩が心配してたみたいに聞いて来た。


「ええ、何とか」


「走って来たけど、体力は大丈夫なのか?」


「はい。まだ余裕がありますので」


 本当に体力はまだまだ余裕だ。


 ちょっと走っただけだし、これで疲れるようじゃ試合なんて出来ないからな。


「さっきダブルスで負けた。ここで恭一くんまで負けるとそのまま勝負が決まるから、何とか勝ってくれ」


 武田先輩がスポーツドリンクを差し出したので、受け取って飲み込めるだけ飲み込んで、ここまで走った時に汗を流して失った水分を補充し、コートに入る。


 そしてネットを挟んで鈴木くんと向かい合った。


「お前、何でヒトミちゃんと一緒に来たんだ?」


 鈴木くんはまるで親の仇みたいに俺を睨んで来た。


 ヒトミちゃんってのはあの子の名前か?


 てかこの態度……、もしかして鈴木くんが熱を上げてる一年の女子マネってもしかして……?


 あー、これはやっちまったか?


「……試合の後で話します」


 取りあえず、説明は長くなりそうだったから後回しにした。


「ちっ、まあいい。ここでお前をぶちのめしてヒトミちゃんに俺のカッコいい所を見せてやる!」


 鈴木くんは意気揚々と宣言し。


「そこ、挨拶以外の私語は慎むように」


「はい、すみません!」


 すぐスタッフの人に注意された。


 これは前回と一緒だな。


 そして試合本番に入り……


「おおお!鈴木の奴、葛葉と五分でやれてるぞ!」


 試合運びにギャラリーがざわめく。


 俺と鈴木くんは五分五分にポイントを取り合っているのだ。


 どうやら鈴木くん、必死に実力を上げて来た様だな。


 ……まあ、そもそもあまり練習していない俺と比べるのは鈴木くんに失礼だろう。


 俺は日課のフィジカルトレーニングはやっているが、テニスそのものは武田先輩の話を受けてユウリに漫画を見せられた後の、ほんの数日くらいしか練習してないのだから。


 ともあれここから次のゲームを取った方が勝負に勝つ。


 同じくらいに負ける可能性もある、分水嶺だ。


「葛葉くん!頑張れ!勝ってくれええ!!」


 てか武田先輩の叫びが切実過ぎるんだが……。


「フハハハハハ!どうだ葛葉!次のゲームでお前の息の根を止めてやる!」


 鈴木くんは勝機アリと見たのか、調子に乗っている。


 次のゲームが鈴木くんのサービスゲームだから、先攻サーブを打てる分有利だと思っているんだろう。


「恭っち!頑張れ!勇太なんかに負けるなー!」


「ガンバレー」


 ユウリとカヨも負けじと応援してくれた。


 てかカヨはやる気無さそうだな。


「あー、鈴木先輩ー頑張ってくださいー」


 やる気がないのが向こうにもいた。


 さっき俺が助けた、鈴木くんがヒトミちゃんって呼んでた子が。


「ああ!俺が勝ってみせるからな!」


 そんなやる気の無い応援でも、鈴木くんはやる気を出したけど。


 ……まあいい。ここで決めようか。


 試合が再開され、鈴木くんがサーブを打つ。


 俺はそれを鈴木くんの反対側のコートの端に打ち返し、すぐにコート真ん中から後ろの方に陣取る。


 鈴木くんはボールに追いついて打ち返し、ボールが俺のいる方に飛んで来たのでまたも鈴木くんの反対側のコート端に打ち返す。


 もう一度鈴木くんがボールに追いついて打ち返し、俺はその場に立ったまま返って来た反対側に打ち返す。


 それを繰り返し、体力に限界が来た鈴木くんがボールを逃して俺にポイントが入った。


「おお!エリアだ!あれエリアだよ!」


 俺のプレイングを見たユウリが騒ぐ。


「おい、あれマジか?」


「いや、まぐれだろ」


 試合を観戦している他の生徒たちもどよめいた。


 漫画みたいな事すれば当然か。


 そう、このプレイングもユウリが見せたテニス漫画に出た技で、返って来るボールが全部立ったままの俺に向かう様にしながら、俺はコートの両端にボールを打ち返し、相手に忙しなく走らせる事でスタミナを削って差をつける技だ。


 コツは相手がボールを打つ際に球に掛かるスピンを先読みして、自分が立ってる方に返って来る様前もってスピンをコントロールして打つ事。


 この辺は読み合いで、そもそもボールに掛かったスピンが分かるとか、自分がボールに掛けるスピンを繊細にコントロールするとか、難しい事この上無いんだがイチゴのアドバイスを受けて再現出来る様になったのだ。


 そして今までの試合運びで鈴木くんが打球に掛けるスピンの癖を分析しきったので、この技で勝負に出た訳だ。


「くっそー!こんなふざけたやり方に負けるかー!」


 鈴木くんは更にやる気を出して来た。


 まあ、この技にやられるって事はつまり読み合いで完全に負けてるって事だから、ムキにもなるか。


 あとここまで露骨な事した以上、次からは鈴木くんも打ち方を色々変えて俺のスピン読みを外して来るだろうからこの技は使えないだろう。


 それでも十分な程に鈴木くんのスタミナを奪えた。


 そのまま試合が続いたが、ここから先に鈴木くんが俺からポイントを取る事は無かった。


 ユウリがエリアと呼んだ例の技を使う使わない以前に、試合が長く続いた上にさっきので鈴木くんのスタミナはもう限界なのだ。


 だから単純にラリーを続けるだけで、鈴木くんはすぐにボールに追い付けなくなったり、打球がネットを越えられなかったり、逆にコートから大外れする。


「そこだ、恭っち!〇〇ショットだ!」


 その上、こっちにはほぼバウンドしない決め球もあって鈴木くんは下手に俺の打球をバウンドさせられないのだから、戦力の差は歴然だ。


「勝者!悠翔高校テニス部の葛葉恭一!」


 そのまま俺は鈴木くんに無難に圧勝した。


「うおおおお!!やった!!!」


 ……なぜか俺よりも武田先輩の方が激しく喜んだが。


 続いて武田先輩のシングルス2が始まり、武田先輩もギリギリで勝利して俺たち悠翔高校のテニス部は予選大会優勝と本選進出を果たした。



――――――――――――――――

 いつもの如く即落ち……させようかとも思いましたが、せっかくなので勝負シーンを一部書いてみました

 お察しの方も多いかと思いますが、ユウリがエリアと言ってた例の技の元ネタは手〇ゾーンで、流石にまんまゾーンって言うのもあれだったのでボカしました

 明日はついに鈴木くんのBBSメンブレあります

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