第2話『テニス大会でのBSSアゲイン・①』

「頼む葛葉くん!次の大会に助っ人として出てくれ!」


 ある日の昼休み。


 いつもの溜まり場の教室で昼飯を食べてから友達と駄弁っていたら、テニス部部長の武田たけだ貴之たかゆき先輩が入って来るなり頭を下げてそう言って来た。


「はあ……。いつの大会ですか?」


 急に頼んで来たのには呆れたが、断る理由も無かったので取りあえず予定を聞いてみた。


「来週末だ。実はもう君の名前でエントリーしてる」


「また急ですね」


 勝手にエントリーされたのは……まあいいか。


 予定も無かったし、基本的に頼まれたら参加するつもりだったから。


「今回の大会は規模が大きい奴の予選でな。本選まで行って上位入賞するとスポーツ推選も視野に入るんだ」


「……そうですか」


 スポーツ推選狙いとか意外に私欲まみれな理由だな。


「頼む!個人戦ならともかく、団体戦は他のメンツも強くないとダメなんだ!葛葉くんの力が必要だ!」


 武田先輩は頭を下げたまま両手を合わせる。


 あまり気を揉ませるのも悪いから早く返事するか。


「分かりました。後で詳しい日程と場所とかを教えてください」


 承諾の返事をすると武田先輩は明るい表情で顔を上げた。


「ありがとう!君が出てくれるなら百人力だ!じゃあまたあとで!」


 武田先輩は笑顔のまま教室を出て行った。


「恭っち、またテニス大会に出るん?」


 武田先輩が立ち去った後、近くで会話を聞いてたユウリが質問して来た。


「まあ、予定に無理が無ければ出ない理由もないからな」


 俺は思ったままの理由を述べて答えた。


「そう。じゃーちょっとお願いしたいのがあるんだけど、ここじゃちょっと話しづらいから、放課後にウチの部屋に来て貰ってもいい?」


 その瞬間、ユウリの言葉を聞いた同じ教室にいる女子たちの視線が集まった。


 ……この年頃で女子が男子を部屋に誘うんだから、色々邪推もするか。


 この手の邪推は気にするだけ無駄なのでスルーするが。


「今日は放課後に生徒会の仕事があるから、その後に直接行っていいか?」


「うん。全然オッケー」


 ユウリとも一年以上の付き合いで家の場所も知っているから、そう約束を取り付けた。


「それ、私も混ざっていい?」


 ユウリと同じく、近くにいたカヨが割り込んで来た。


「いいよ。恭っちを待つ間に遊ぼ?」


「うん。ユウリの部屋は漫画が……もごもご」


 カヨが何か言いかけた所で、ユウリが急いでカヨの口を塞いだ。


 大方、ユウリの部屋は漫画が多いから暇つぶしする物も多い……とか言おうとしたんだろう。


 だが、ユウリは親しい友達以外にはオタクな趣味を持っているのを隠している。


 ただでさえ俺と親しいという嫉妬を買いやすいポジションにいるのに、世間的に品の低い趣味を持ってるとか攻撃材料にされかねないからな。


「えっと、ケイコっちはどうするん?」


 一人だけハブるのは不味いと思ったのか、ユウリはケイコにも聞いた。


「私は……家の用事があるから今日はいいかな」


 ケイコはやんわりと断った。


 ケイコがワザとユウリの部屋に行くのを避ける理由もないので、ここは言葉取りの理由と受け取っていいだろう。


 ちなみにユカは今アリアさんのグループで話しているので会話に加わって来ない。


 二年生になって同じクラスになってから、ユカは生徒会繋がりでアリアさんのグループにも入り、堂々と俺とアリアさんのグループを行き来しているのだ。


「そっかー。じゃあ恭っち。放課後待ってるからね!」


「ああ」


「……3P」


「違うから!」


 ボソッとカヨが不穏な事を呟いて、ユウリがすぐ否定した。


 まあ、ユウリの用事なんて会話の流れからテニス大会絡みだろう。




 そして放課後。


 生徒会の仕事を終えた後ユウリの家に向かい、玄関でユウリに迎えられてそのままユウリの部屋に入った。


「恭一来たの?」


 ユウリの部屋では、カヨが自分こそが部屋の主だと言いそうな感じでふんぞり返って漫画を読みながら寛いでいた。


「ああ。寛いでいるな」


「うん。畏まっていてもしょうがないから」


「それもそうだが……」


「飲み物取って来たよ~」


 カヨと一、二言交わしていると、ユウリがジュースが入ったカップ三つを持って来た。


 実はこのジュース、俺が来る途中で買って来た手土産でもある。


「うむ。大儀」


 カヨがふんぞり返ったままジュースを受け取る。


 何様だって言いたいが、カヨの態度が友達内でのノリだというのは俺もユウリも知っているのでスルーする。


「で、ユウリのお願いって何なんだ?」


 俺もジュースを受け取り、早速本題に入った。


「うん。テニスの大会でね。ちょっとやって欲しい事がある訳よ」


「……何を?」


「これ!」


 ユウリは部屋にある本棚からある漫画を手に取って見せて来た。


「この漫画の技を実際にやって欲しい訳!」


 その漫画は、アニメ化もして一時期流行ったテニスの漫画だった。


「……ユウリ。流石に、漫画と現実は別だぞ?」


「それくらい分かってるって!でも、序盤に出る技ならまだ現実でも出来るレベルだし、せっかく恭っち程のイケメンが出るんだから、実写みたいなのを見てみたいじゃん!髪型とかもキャラに似せてさ!」


 ユウリが駄々をこねるみたいに言う。


 気持ちは分からなくもないが、この漫画の技ってハッキリ言って効率が悪いんだよな。


 逆方向にバウンドする打球とか、そもそもバウンドしない打球とか、大きく打ちあがってはアウトラインギリギリで落ちる打球とか。


 腕に凄い負荷が掛かかって普通の打球よりもスタミナを大きく奪うのに対して漫画より効果が薄いのだ。


 そういう球を打って来ると分かったら、それだけで対策はいくらでも立てられるからな。


「……いいんじゃない?どうせ恭一にとって大事な大会でもないから、疲れて来たらその時に休めば」


 横になったまま話を聞いてたカヨがそんな事を言って来た。


「だよね。カヨっちもそう思うよね!」


 ユウリは味方を得て喜んだ。


 完全に他人事だと思ってるな。


 確かに俺は大会で負けてもプライド以外に失う物とか無いんだが。


 仕方ない。少しくらい合わせてやるか。


「……たまに打つだけだからな」


「うん!ありがと恭っち!写真と動画も取るから!」


 黒歴史になりそうな記録を取るとか何言ってるだ?


 ……いや、これもせっかくという奴か。


「好きにしろ」


 それから大会までの間、俺は漫画に出る技の内に実際にやれそうな技を練習した。


 シェアハウスがあるマンション内のフィットネスゾーンにテニスコートもあるので、そこを使って。


 練習してる技は、ボールがバウンドせずに地面を転がる打球だ。


 ただ、それっぽい球は打てる様になったが、それでも地面から少し浮いてて打ち返せなない事も無さそうで、体力使ってこの球を打つくらいなら普通に打った方がいいのでは?と思えた。


「きょーくん。テニス技の練習してるの?」


 考えてる途中、イチゴが現れて聞いて来た。


 まあ、俺の動向は常にイチゴに知られているから、何故テニス技の練習を知ったのか気にするほどでもないだろう。


「ああ。でもしっくり来なくてな」


「それならねー」


 イチゴが文字通り手取り足取り俺のフォームを矯正しながら打ち方のアドバイスをしてくれる。


 そしてアドバイスに従ってボールを打つと、さっきまでとは大きく変わって地面すれすれに直線でバウンドする球が打てた。


「はい、これで完成ー。パチパチパチ」


「……ありがとな、イチゴ」


 これが出来る俺の身体スペックもそうだが、出来るようにアドバイスするイチゴの頭脳ってやっぱり凄いな……。


「ねえきょーくん」


「ん?」


「せっかくだから、もう一つ、技の練習をしない?」


 イチゴは悪戯っぽくそう提案して来た。



―――――――――――――――

 サブタイと話の流れから察してる方もいると思いますが、あのキャラがまた出ます

 ネギを背負ったカモのように!()


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