第22話【裏・風紀委員長の未練②】

【Side.国光ラン】


 花京院会長は私が葛葉くんを諦める為の思い出作りの為、葛葉くんとデートさせてくれると言った。


 ……これから孤立するであろう宗方くんの味方をする事を条件に。


 なぜ花京院会長が宗方くんが孤立すると予見出来てるかは置いておこう。


 既に私が入っているチャットグループでも、生徒会での話を盗み聞きしたという体で宗方くんの噂は色々出回っている。


 なので花京院会長が予見出来てもおかしくはない。


 分からないのは、どうして私に味方しろと言うのかだ。


「どうしてそんな事を?」


「国光さんが宗方さんに優しくしたら、宗方さんは今度は国光さんに目を向けるでしょう?なのにそんなあなたさえも恭一さんに取られたと宗方さんを絶望に突き落としたいのです」


「趣味悪いわね」


 でも、共感は出来る。


 私としても、写真騒ぎの事で葛葉くんと伊藤さんが付き合っているとの既成事実が出来た時にシラを切った事や、

 体育祭のリレーで葛葉くんを蹴落とそうとした反則が自分の父親の指示だったというのに、自分だけ逃れようとしているのは度し難いと思っている。


 そんな宗方くんに気を持たせてから振るくらい、何てことない。


 花京院会長も似た様な気持ちだろう。


 でも甘い。


 私とデートさせるなんて隙見せたら、私が葛葉くんを振り向かせて取っちゃうわよ?


「いいわ。やってあげる。でも、葛葉副会長とデートさせてくれるって話、ちゃんと守って」


「ええ。何なら契約書でも書きますか?」


「しないわよ。こんなふざけた話、書面に残しても信じて貰えないもの」


 これで話は終わったと思い、私は席から立ち上がった。


「じゃあ、デートの予定は後でまた調整しましょう」


「分かりました」


 私はそのままカフェを出て、つい期待で浮足立った足取りで家路についた。


 まさか葛葉くんとデート出来るなんて……!


 楽しみね。どんな服を着て行ったらいいかしら。


 上手く行けば、初めてのデートなのにそのままホテルに連れ込まれたりして。


 それで花京院会長よりも私が良いって思ってくれたりするかも!


 ……ああ、そういえば宗方くんの相手もしないといけないんだっけ。


 まあ、適当に普段通りでいいでしょう。




 高校に登校する平日になり、私は宗方くんの様子を見に行った。


 すると宗方くんが昼休みになってすぐ葛葉くんたちのいる教室に向かいそうだったのを見かけた。


 何やってんのよ。考え無しなの?


 内心で毒づきながら、私は宗方くんを引き止めて噂についても教えて色々忠告する。


 ついでに、噂については宗方くんとその父親は別と言って宗方くんを擁護する事を言ったら、尻尾を振る犬みたいに懐いてくれた。


 まさかそれで数日後、私に告白して来るとは思わなかったけど。


 それも、私と葛葉くんのデートが決まった日に。


 間の悪いグズね。


 これがデートの後に葛葉くんを諦められた後なら考えたのかも知れないけど、今はとにかく無理。


 むしろこいつの所為で、葛葉くんから「宗方くんと仲良くしてください」とか言ってまた振られる可能性も高い分、邪魔なまである。


 だからハッキリ振ったけどしがみ付かれたので、葛葉くんを諦めた後に告白の返事も考え直すとキープのつもりで答えた。


 その後、楽しみな気持ちでデートの待ち合わせ場所の公園に着くと、葛葉くんが先に着いてベンチに座っていた。


「ごめん葛葉くん。待たせた?」


「いえ、俺も今来た所です」


 葛葉くんは私の質問に答えて、ベンチから腰を上げた。


 私服のシャツを着たの葛葉くんも格好いい……!


「それで国光先輩。このデートが終われば、俺の事を諦めてくれるんですよね?」


 葛葉くんは大事な確認といった感じで嫌な事を聞いて来た。


 つまり、このデートが最初で最後だから応じたのだと言外に仄めかしている。


 ここでNOと言ったら、葛葉くんはすぐ帰ってしまうかも。


「……うん。すぐには無理だけど、頑張るから」


「分かりました。では行きましょうか」


 それで私と葛葉くんのデートが始まった。


 最初は大型映画館のプレミアのカップル席で今話題になってる映画鑑賞。


 その後は映画館に併設されたカフェで映画の感想を交わした。


 支払いは全部葛葉くんが出した。


 どうやら今日のデート費用は全部葛葉くんが出すつもりらしい。


 それだけじゃなくて近場の繫華街に出てウィンドウショッピングをして回る途中、綺麗で気になった宝石入りのネックレスを見続けていたら、葛葉くんがドンと買ってプレゼントしてくれた。


 遠回しなおねだりしたみたいで恥ずかしい……。


 でも嬉しかった。


 ネックレスの値段は……聞いたら色々怖くなりそうだから知らないでいよう。


 ……しかし、後腐れなく諦めさせる為にとはいえ、ちょっと頑張り過ぎではないだろうか。


 こんな贅沢なデート、一度経験したら次も期待したくなるのに。


 ウィンドウショッピングの後は夜景の見える高層ビルのレストランで夕食。


 この手のお店って、ドレスコードとか、テーブルマナーとかあるんじゃないかと心配したけど、不必要に騒ぎさえしなければ大丈夫なお店だと葛葉くんが教えてくれた。


 デザートも食べ終わった後は黒塗りの高級車で家まで送って貰った。


 ホテルには連れて行って貰えなかったのは残念だけど、凄いデートだった。


「では国光先輩。これでお別れです」


 家の前で車から降りた後、葛葉くんがそう言う。


「葛葉くん。最後にキスしてくれない?」


「……すみません」


 最後に勇気を絞り出してお願いしたけど、葛葉くんは謝って断り車に乗り込んだ。


 そのまま私が引き止める暇もなく車は去って行く。


 私は車が見えなくなるまで見送ってから、家に戻り自分の部屋のベッドの上に倒れた。


 葛葉くん、脈なしだったな……。


 今回のデートの費用が全部葛葉くん持ちだったり、終始丁寧にエスコートしてくれたのは、どうせ最初で最後だからいい思い出にして私が諦められるように気を遣っただけなのかも。


 デート中、何度もさり気なく……ううん、割と露骨に誘ったりしたけど全部流されてしまったし。


 結構傷付いた。


 素直に諦めて宗方くん辺りに乗り換えた方がいいかな。


 でも諦められない。また今日みたいなデートをしたい。


 ううん、流石に毎回今回みたいなのでは、葛葉くんの負担が大きくて私が金目当てに近寄ってるみたいだから、次からはグレードを落として支払いを割り勘にしてもいい。


 とにかくまた葛葉くんと一緒にいたい。


 そして私だけを見て欲しい。


 でもそのチャンスも終わり……。


 ……いや、実は完膚なきまでに終わった訳ではない。


 私が花京院会長に、それこそ土下座でもしてまだ葛葉くんを諦められないとお願いしたら、またデートさせてくれる可能性もある。


 問題は、花京院会長に頭を下げたくない私のプライドと、そもそもそんな事許して貰える可能性が低い事。


 むしろ頭の下げ損になる可能性が高い。


 ……落ち着こう。


 デートが終わったばかりだから気持ちが浮ついているだけかも知れない。


 一晩寝たら、頭も冷えて考えが変わるかも。


 とにかく、今日はもう寝よう。


 私は簡略に風呂に入ってからパジャマに着替えて、そのままベッドで眠りについた。




 翌日、やや億劫な気分で登校し、葛葉くんを諦めるかどうか悩みながら時間を過ごした。


 そして午前の休み時間にちょっとした用事で廊下を歩いていたら、葛葉くんとすれ違った。


 私の姿を見た葛葉くんは、無言で会釈だけしてそのまま通り過ぎて行った。


 たったそれだけで、私の気持ちは決まった。


 こんな風に他人行儀なまま終わりたくない。


 また、葛葉くんに私を見て欲しい。


 その為には……。


「お願い……します!私、まだ葛葉くんを諦められないの。また葛葉くんとデートさせて!」


 昼休み時間。


 私は生徒会室で花京院会長と二人きりで会って、頭を下げてお願いした。


 花京院会長の顔は見えないけど、きっと困惑しているか私を見下して笑っているかのどちらだろう。


「……国光さんがそこまでおっしゃるのなら、私も協力するのはやぶさかでありませんが、恭一さんを納得させるのに骨が折れますね」


 確かに。


 葛葉くんが浮気みたいな真似をするような人だったら、そもそもあのデートでそれっぽい言葉で私を誘って来ただろう。


 それをしなかったという事は、少なくとも私をそういう相手に見ていないという事。


「そこで、国光さん。偽の恋人を作るつもりはありませんか?」


「は?」


 意外に言葉に、顔を上げて花京院会長の表情を確かめる。


 花京院会長はいい事を思い付いたと言う風に手を合わせて笑っていた。


「偽の恋人を作って、その相手との関係を円満に保つため、男側の意見を聞きたいなど言って恭一さんを誘うのです」


「それは……」


 確かにそれっぽい建前ではある。


 でも葛葉くんがそれを信じてくれるかどうかが未知数だ。


「ちょうどいい相手もいるじゃないですか。恭一さんは宗方さんを友達と思っていますから、彼が偽の恋人なら恭一さんも前向きに国光さんの相談に乗ると思いますよ?そしてその相談にかこつけて擬似デートを楽しむんです」


 確かに悪くない考えだ。


 宗方くんには一回振ったけど、その後に私の恋を応援すると言質を取っている。


 それを使えばあるいは。


 でも不安要素がある。


「どうして私にここまで親切にしてくれる訳?私はあなたの事を目の敵にしてたのに」


「そうでしたね。でも国光さんは私の先輩で、風紀委員長としてこの学校の秩序を守るのに尽力していただきましたから。これでも尊敬しているのですよ?ですから出来れば仲良くしたいのです」


「……そう」


 花京院会長は笑顔で言うけど、どこまで本気なのか分からない。


 まあいい。


 そうして隙を見せている内に、私が葛葉くんを奪えば終わる関係だ。


 好意でも余裕でも好きなだけ見せていればいい。


「分かったわ。宗方くんに相談してみる」


「ええ。結果が出ましたら教えてくださいね」


 それで私は花京院会長と別れて生徒会室を出た。


 スマホを確認すると、宗方くんから話し合いに誘うレインメッセージが来てた。


 せっかちね。でもいいか。


 宗方くん。あなた、私が好きって言ったわね。


 なら私の為に踏み台になってくれるよね?




――――――――――――――


 ユカが幼馴染を生贄にする時もそうでしたが、本作では100%善良なヒロインっていない……訳ではありませんが希少です


 土曜日のアリア視点に続きます

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