第21話『宗方三明の絶望の恋路②』

【Side.宗方三明】


 僕は学校や国光先輩の事でいっぱいいっぱいで今まで知らなかったけど、父さんと母さんが夜逃げした訳はこうだ。


 何でも内部告発があって父さんの会社の違法行為の数々が明るみに出て、会社はあっという間に経営難に陥り、事業のため融資して貰った金を返せなくなったみたいだ。


 それで父さんと母さんは借金を僕に押し付けて夜逃げする事を選んだらしい。


 俺は秘書の人に勧められるまま早速モデル事務所など周りに相談して弁護士を紹介して貰い、俺に借金の取り立てが来ないよう法律的な手を打った。


 おかげで両親とは法的に縁を切った事になり、住んでた家は差し押さえられて事務所が紹介してくれたアパートに引っ越す事になったり、貯金もごっそり減ったりと、ゴタゴタし過ぎて学校にも行けなかった。


「ふう……」


 両親の夜逃げから大体二週後、やっと落ち着く事が出来て部屋で一息ついた。


 そしてここしばらく国光先輩と連絡が取れなかった事を思い出して、スマホを手に取った。


 国光先輩は僕が忙しくなり始めた時に励ましてくれたから、ちゃんとお礼も言わないと。


 最初は国光先輩と花京院さんを両天秤に掛けていたけど、今では偽装とはいえ付き合っていて、今回みたいに辛い時には励ましてくれてたから、僕の心のウエイトは国光先輩の方に傾いている。


 僕にとっての癒しはもう国光先輩しかいないんだ。


 もう花京院さんの事はいいから、国光先輩を振り向かせるのに注力しよう。


 お礼のついでにデートの約束も取り付けるのもいいかも知れない。


『久しぶりです、国光先輩。忙しくて連絡出来なくてすみませんでした。ようやく時間が取れましたので今電話でお話出来たりしますか?』


 レインメッセージを送って返事を待つのに数分後、既読が付いた後返信が来た。


『いいわよ。こっちから掛けるわね』


 僕がそのメッセージを読んですぐ、国光先輩から電話が掛かって来た。


『もしもし宗方くん?忙しいのは片付いた?』


「あっ、はい。こんな時間にすみません」


『いいわよ。こっちからも話があったから』


「そうですか。……取りあえず、僕の問題は片付きました。引っ越す事にはなりましたけど。それと、励ましてくれてありがとうございました」


『そう』


 心なしか国光先輩の口調が素っ気ない気がする。


 何かあったのか?それとも単に時間が遅かったからとか。


「えっと、先輩の話は何でしょうか?」


 この時、僕は国光先輩の話を葛葉くんとデートしてた時の感想とか、関係が進展しそうだとか、それとも偽装の為のデートをしようとか、その辺りだろうと呑気な事を考えていた。


『私、あんたのお父さんを追ってる借金取りに誘拐されてたの』


 だから国光先輩から告げられた言葉に、僕は頭がぶん殴られたような気がした。


「え?」


『あんたの父親の借金を息子の恋人に返させるとか言ってね』


「今大丈夫なんですか!?」


 女性を攫って金を返させるとか、そんなのいかがわしい事をさせるに決まっている。


 くそっ!父さんが借金を残して逃げたりしなかったら!


『幸い、葛葉くんと花京院会長にすぐ助けられたから無事よ』


「そう……ですか……」


 また葛葉くんか。


 国光先輩に大事無かったのは幸いだけど、僕が知らない所で僕の関係する事件が起こって、それでまた葛葉くんにいい所を取られてしまって悔しい。


 いや、本当は感謝すべきだろうけど。


『それでね、花京院会長に色々言われて考えが変わったの。私、花京院会長から葛葉くんを奪うのは諦めてこのまま葛葉くんの愛人になるから、宗方くんは私も花京院会長も諦めて欲しい』


 でも国光先輩から続く言葉が、僕を絶望に突き落とした。


「え……?どうしてそんな……」


『花京院会長がね。葛葉くんの愛人になれば受験とか、大学の学費とか、大学を卒業した後の就職もサポートしてくれるって言われたわ。それに……葛葉くんの子供を産んだらその養育もサポートしてくれるって』


「そんな……、考え直してください!そんなの、ただ金に囲い込まれるだけじゃないですか!」


『確かにバカな誘いに乗ったのかもね。でも考え直すのは無理よ。あんなに格好良く助けられたらもう忘れられないし、それ抜きでも学費や就職のサポートは大きいもの』


「そんなの、僕だって出来ます!」


『あなたが?はっ、出来るわけないでしょ。あなたのお父さんの会社は社長のお父さんが夜逃げして潰れて、金だって自分の面倒見るだけで精一杯なのに?』


「それは……頑張ります!高校を卒業したらすぐ働いて、先輩が働かなくても済むくらいに稼いで、僕が養います!」


 高校を卒業したらそのままアイドルデビューする予定だから、ヒット出来れば国光先輩を余裕で養えるはずだから!


『そう。……悪いけど、あまり当てにならないわね。大人しく諦めて他を探せばどう?切り替えるのは得意でしょ?』


 さっきから国光先輩の言葉の端々に棘を感じる。


 でも、僕は国光先輩だけを見ると決めたばかりだから諦められなかった。


「もう嫌なんです!好きな人を取られて諦めるのは!お願いです、何でもしますから僕を捨てないでください!」


 電話での会話だというのに、僕は頭を下げてお願いした。


『……少し待ってね』


 僕の切実さが届いたのか、国光先輩は一回マイクをミュートしたように静かになった。


 そして待つこと十数分、また国光先輩の声が聞こえた。


『宗方くん、今何でもするって言ったわね?』


「……はい!何でもします!」


『じゃあ、将来的に私があなたと偽装結婚したとして、そのまま私が葛葉くんの子供を産んで育ててもいい?』


「は……?」


 そのとんでもない言葉に、僕は返事に詰まった。


 でも何でもすると言った直後に限度があると手の平を返したらそのまま僕の信用は地に堕ちる。


 それに、ただ僕を試すためだけに言ったのかも知れない。


「は……い。大丈夫です」


『その子の父親は宗方くんという事にして、葛葉くんたちから養育費を貰わなくてもいいの?』


「はい」


『結婚した後も、あなたから貰った金で葛葉くんとデートしたり、葛葉くんにプレゼントしてもいい?』


「……はい」


 今更何を言われても、僕はもう引き返せない。


 だから何を言われても、頷く事しか出来なかった。


『そう。その言葉、忘れないでね。まあ、あんたが後になって気が変わっても、私が葛葉くんの所に行けば済む話だけど』


「そんな事しません!約束します!」


『じゃあ、その証拠に裸で土下座する動画を撮って送ってくれる?約束を破ったらそれをネットに上げるから』


「分かりました、この後すぐにでも」


 僕は何言っているんだろう。自分でも分からなくなって来た。


『ありがとう、宗方くん』


「……いえ」


 気のせいか、僕が偽装彼氏の話を受けた時と同じように、国光先輩が電話の向こうで笑っている気がした。


 こうして僕は、取り返しのつかない人生の選択をしてしまった。



―――――――――――――――

 流石にこれ以上引き延ばせないと思って、国光先輩誘拐については端折りました

 宗方くんの結末は本人公認の托卵先&マルチ貢ぎ奴隷ENDです(恭一非公認)


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