第18話【裏・ウィーキッドミーティング】
【Side.アリア】
「くふふふふふ。笑ってしまうくらいに上手くいったねー」
シェアハウスのリビングで、長ソファで横になりながらタブレットPCを弄るイチゴさんがさぞ愉快そうに笑っています。
やや下品な笑い声ではありますが、まあいいでしょう。
私は斜め向かいにあるソファに座ったまま、のんびりとお茶を飲みながらイチゴさんを見守ります。
「自分では手を汚さずとも都合が良くなるよう、周りに自分で悪い事をさせる。悪い事の理想形だねー」
「あの体育祭のリレーでの反則の事ですか」
「そうだよ」
体育祭のリレーでの反則。あれは確かに宗方さんの父親が指示した事ですか、さらに掘り下げると実はイチゴさんがそうなるように誘導した事です。
写真の一件で買収してた生徒は、いざ実際に行動した後にそのしっぺ返しが怖くなって宗方さんの父親からの第二、第三の指示を拒むようになりました。
それで宗方さんの父親は新しい手駒になる生徒を探しました。
イチゴさんはそんな宗方さんの父親の耳にワザと金に靡きそうな生徒の情報を流しながら、彼がその生徒に接触してどの様な工作を指示するか、すべて予測してたのです。
それだけじゃなくて宗方さんの父親に情報を流した生徒はあえて口が軽い生徒を選別し、取り調べであっさりと背後関係を吐くようにも仕向けました。
……まあ、最後に恭一さんの服を掴んだ北組の生徒は、単純にカッとなってやっただけで宗方さんの父親とは関係ありませんでしたが。
国光さんとぶつかった生徒が宗方さんの父親の指示だったと自白した際に、自分も宗方さんに責任をなすりつけようと乗りかかっただけで。
私はそれが嘘だったと分かっていましたが、信じた振りした方が都合がいいと思って追及せず聞き入れました。
おかげで学校では宗方さん一家を叩きやすそうな空気が出来上がっております。
恭一さんが宗方さんを庇って過激化してないのは予想外でしたが、概ね上出来と言えるでしょう。
しかしこれは……やりがい搾取と似ていてやりがい搾取がギリギリマシに思える邪悪なやり方ですね。
集団の為に起こるやりがい搾取とは違い、自分個人の為にやって自分が成果を得ていると勘違いさせ、その労力と成果を他人に搾取される事も気付かせない所が特に。
例えば今回のリレーの反則も、イチゴさんが反則するように誘導はしましたけれど、イチゴさんから恭一さんを蹴落とす反則をさせろとは一言も伝えてません。すべて宗方さんの父親が勝手にした事です。
おぞましい思考とやり方ですか、そもそもやろうと思って本当にやれるのは、人の思考を読んで誘導出来るイチゴさんくらいでしょう。
私は……イチゴさんを敵に回さず、むしろ自分も誘導されたとはいえ恭一さんと交際出来て、今はそんなイチゴさんの能力を自分の右腕みたいに使える今の状況にほっとしています。
利己的な言い分ではありますが、他人よりもまずは自分からですので。
「さて、次は……、宗方さんちの会社で働いている社員さんの不満を爆発させて、色んな違法行為を内部告発するように仕向ける事だね~」
イチゴさんは適当なメロディを口ずさみながらタブレットPCの画面を叩きます。
イチゴさんがそうすると言ったからには、本当にそうなるのでしょうね。
会社の違法行為と言っても、どこでも大なり小なりやる陳腐な事でしょうが。
私たちを敵に回したのが運の尽きですね、ご愁傷様です。
ああ、そう言えば花京院家が抱える会社の一つが、宗方さんの所の会社と契約を結んでました。
飛び火する前に対処するよう、お父様にも伝えませんと。
「これで仕込みは終わり……っと。それとアリアちゃん。宗方何某と、国光先輩だけど、私の計画を聞いて貰える?」
「あら、あの二人にも手を出されるのですか?」
あの二人は私の玩具ですので、イチゴさんも私に気を遣って今まで手を出さなかったのに、どのような心変わりでしょう。
「そうだよ。だってさ、考えてみようよ。きょーくんは貴重な男友達だからって何かとあの宗方何某を気に掛けてるのにさ。宗方何某はきょーくんの優しさにつけ込んでアリアちゃんやケイコちゃんを奪おうとしたの、許せなくない?」
「……確かにそうですね」
イチゴさんのおっしゃる通りです。
私たちの恭一さんの気持ちを裏切って踏みにじる
「だから、国光先輩を使って宗方何某を更にどん底に突き落とすの」
「
去年の二学期、恭一さんたちが生徒会に入った辺りから国光さんが本気になったのか、恭一さんへ積極的にアプローチしようとしてたので、イチゴさんと手を組んで排除してたのを覚えています。
当時の私はまだ恭一さんへの独占欲が強かったですので。
ただ、最近になって色々考え方が変わり、国光さんを末席にでもハーレムに入れるのはどうかと、イチゴさんたちと相談しました。
でもその際、イチゴさんは珍しく拒否したのです。
何でも「ユカちゃんとキャラが半分くらい被ってて食傷だから要らない」なんてよく分からない理由で。
「そうだけど、宗方何某相手にちょうど使いやすいのがあの先輩だからねー。まあ、ハーレムには入れないけど、ちょーっとだけ、いい思いさせてあげるくらいはいいかなーと」
「そうですか。して、その計画は?」
「それはねー。宗方何某、アリアちゃんにも振られたら次は国光先輩に頷く可能性が高いでしょ?その国光先輩を、きょーくんを餌にして操って宗方何某を絶望させるの」
他人を恋心を利用して別の他人を貶める事をさらっと思い付くとか、この人の中身は鬼か悪魔でしょうか。
「しかし、国光さんは体育祭の日に、恭一さんに告白してそのまま振られたのでは……?」
振られた時点で恭一さんへの思いを諦めた可能性も高いと思うのですが。
「それも含めて、アリアちゃんかケイコちゃんが国光先輩に接触して、まだきょーくんに未練があるか探って貰いたいの」
「分かりました」
これは、私が出るべきでしょう。
伊藤さんですと、学年や一般生徒と風紀委員長の立場の差で逆に国光さんに脅されかねません。
そうなると、形はどうあれ身内への情に脆い恭一さんは国光さんを拒絶して餌に使う所ではなくなります。
なので国光さんと堂々と張り合える私が適任でしょう。
「まあ、あのリレーの事があったから、すぐに吹っ切れたりはしないだろうけど」
「まあ、確かに……」
あのリレーでの逆転勝ちは凄まじかったですからね。
しかもただ勝っただけでなく、国光さんが転んだという失態を揉み消しての勝ち。
あれは落ちますね。
だからこそ、その後すぐに国光さんが恭一さんに告白したのでしょうけど。
結果振られはしましたが、まだ一週間も経ってないので簡単に諦められるとは思えません。
「それでもし未練があれば、自分の彼氏にいつまでも未練を持たれても迷惑だから、一回デートさせてあげるからそれで諦めろ~と釣るの」
「それなら恭一さんの了承も要るのではないですか?」
「きょーくんも自分を諦める為の思い出作りで、私たちが許可してて、過度なスキンシップも無しという事なら強く拒んだりはしないと思うよ。……まあ、一回では終わらないだろうけど」
一回で終わらない、という所は私も同意します。
恭一さんがエスコートするデートには、私から資金を存分に投入しますから。
国光さんは夢見心地で贅沢の沼に落ちて、まだ諦められないと必ず次回をお願いするでしょう。
「そうやって国光先輩には半端な期待を持たせたままきょーくんと宗方何某の間をフラフラさせて、宗方何某にも半端な期待を持たせてー。限界が近い所に……くけけけけけ……」
イチゴさんはまるで注文した服が届くのを楽しみにしてる様子で計画を垂れ流します。
こんな人に悪意をぶつけられる
好きになる相手さえ間違えなかったら、私たちに潰される事も無かったでしょうに。
いえ、ウチの悠翔高校に転入して来た時にもう伊藤さんが好きだったのなら、その後私が死体蹴りに行くのも決まっていて、そう思うと最初からこうなる運命だったのかもですね。
ご愁傷様です。
「ああ、でもアリアちゃん、脇が甘いんじゃない?」
イチゴさんがふと思い出した様に私に言葉を投げ掛けました。
「何がですか?」
「体育祭の後に、きょーくんとキスしてる所を宗方何某に見せつけた事。その場面の写真でも取られてたらどうするの?」
イチゴさんに指摘されて、私は初めて自分のミスに気づきました。
確かにあの写真まで学校で出回ると、恭一さんの評判に致命的です。
「……すみません。確かに甘かったです」
私は素直に謝りました。
「まあ、今からでも手を打てば何とかなるかな。宗方何某はまずケイコちゃんに写真を見せるはずだから、そのケイコちゃんに対処をお願いすればね」
「分かりました。私から相談してみます」
その後はイチゴさんの助言に従い、宗方さんが写真を見せそうな相手の伊藤さんと相談しました。
もし宗方さんが写真を持って伊藤さんに接近したのなら、隙を突いて写真を処分して欲しいと。
見返りに今度のデートを色々支援すると言うと、伊藤さんは引き受けてくれました。
結果、伊藤さんは成功的に写真を破棄出来ました。
ちょっと喋り過ぎで、スマホを物理的に破壊したのは過激な気もしますが、結果を見れば上出来だと思います。
壊したスマホの代金などは私が立て替えましょう。
さて、この後は国光さんの番です。
三度目の正直という言葉もありますが、二度あることは三度あるという言葉もあります。
果たして宗方さんはどちらになるか、楽しみですね……?
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