第19話【裏・風紀委員長の未練①】
【Side.国光ラン】
私が葛葉恭一くんの事を認識したのは、去年彼が入学してすぐの頃だった。
何しろ、当時私はもう風紀委員で、葛葉くんは女性関係で色々と悪い噂があったから、警戒する必要があると思ったから。
そして予想通り、葛葉くんの周りに女子が沢山集まって色々騒ぎを起こした事もあった。
そこに私が怒鳴り込むと、反発されるだろうと思った予想に反して葛葉くんが矢面に立ち、ひたすら低い腰で謝った。
それだけじゃなくて、女子生徒がトラブルを起こした時は、積極的に介入して荒れてる女子生徒を宥めて私を助けてくれた。
二学期には葛葉くん……いいえ葛葉副会長が生徒会役員になり仕事での付き合いも増えた。
その度に真面目に仕事に取り組む葛葉副会長を見ている内に、私の心はどんどん彼に惹かれた。
……正直に言って、彼の顔が格好良かったからというのもある。
でも、私の恋には強力なライバルがいた。
葛葉くんの周りに集まる女子たちは勿論だが、最大のライバルは当然花京院生徒会長。
何しろ葛葉副会長と花京院会長は同じクラスで生徒会でも一緒だから接する機会も多くて、外野からは二人がお似合いだといつも噂されていた。
私はそれが気に入らなかった。
いや、そもそも私は元から花京院会長が気に入らなかった。
入学して間もないのに生徒会に入ったり、二学期には信任投票すらもなく生徒会長になったり、彼女が生徒会長を務める生徒会の権限が例年よりも増してたり、彼女が在学している期間限定で屋上が解放されたりと、露骨に花京院会長をお姫様みたいに学校が特別扱いしているから。
私は何度も花京院会長の特別扱いを学校に抗議したけど、「そもそも花京院さんの為に作られた学校で花京院さんを特別扱いして何が可笑しい」という理屈で黙殺された。
何よそれ。
いい所で生まれたら、それだけで何もかも得られる訳?
率直に花京院会長が妬ましい。
あんな生まれてから何の苦労もしてなさそうな人に好きな人まで取られてたまるか。
そんな思いで、私は葛葉副会長と花京院会長の仲が進展しないように邪魔したり、葛葉副会長にアプローチを掛けようとした。
でもそれを全部見透かされたのか、逆に葛葉副会長に近付く機会が減ったり、偶然一緒にいる事が出来ても肝心な時に邪魔が入ったりして、何も上手く行かなかった。
そのまま無為に時間が過ぎ、私が三年生、葛葉副会長が二年生になった。
この高校で葛葉副会長と一緒にいられる時間が後一年も残ってない事に焦ってた時、転校して来てた宗方三明くんが目に入った。
宗方くんは明らかに花京院会長を目で追ってて、彼女を狙っているのが丸分かりだった。
それで使えそうだと思って協力したのに、てんで期待外れ。
葛葉副会長に対抗出来そうなのは顔だけで、勉強も運動も葛葉副会長の足元にも及ばない。
あれで葛葉副会長に張り合おうとしてたとか、正直
葛葉副会長が相手じゃあ、相手が悪かったと言うしかなかったかもだけど。
そして葛葉副会長と宗方くんの差を明確に見せつけられた体育祭のリレーで、私は葛葉副会長に惚れ直した。
葛葉副会長はただ逆転勝ちしただけじゃない。
その前のランナーだった私が他のランナーとぶつかって転んだという失態すら無かった事にしてくれたのだ。
まるで葛葉副会長が私の為に勝ってくれたみたい。
それで我慢出来なくなった私は、生徒会室に向かう途中の葛葉副会長を捕まえて、思いの丈をぶつけた。
「葛葉副会長、ううん。葛葉くん!ずっと前から好きでした!私と付き合ってください!」
「…ごめんなさい。俺は、国光先輩とは付き合えません」
でも振られた。
悩む余地も無く即座に。
「どうして?どうして私と付き合えないの?」
諦められない私は、しがみつく様に聞いた。
すると葛葉くんは気まずそうに目をそらしながら答えた。
「……聞いてるかも知れませんが、既に付き合っている相手がいるんです。だから国光先輩とは付き合えません」
「その相手がそんなに好きなの?別れて私と付き合うのは無理なの?」
私は自分でも醜いくらい葛葉くんにすがりついた。
「無理です」
でも葛葉くんの気持ちは変わらなかった。
「じゃあせめて、誰と付き合っているのか教えて頂戴。私が納得出来る相手だったら諦めるから」
諦めるなんて嘘。
葛葉くんと付き合っている相手の候補は、花京院会長と、伊藤恵子さんがいる。
花京院会長ならともかく、伊藤さんなら勝ち目がある。
もし伊藤さんと付き合っているのなら、上級生にして風紀委員長の立場を使って、伊藤さんに葛葉くんと別れるようにプレッシャーを掛け続ければあるいは……。
「教えられません。今の先輩には特に」
でもそんな私の腹の内を見透かされたように、葛葉くんは冷たい目で答えた。
「ではもう生徒会室に行かないといけませんので、これで」
これで話は終わりだとばかりに、葛葉くんは私の返事も待たずに去って行く。
それで私の恋は失恋で終わった。
その後の週末は何も手につかないまま色んな考えが頭の中を巡るだけだった。
葛葉くんに振られてしまった以上、この恋はもう諦めた方がいいかも知れない。
でも諦めたくない。
今後葛葉くん以上の男に会えるとは思えなくて、どんな男でも葛葉くんと比較して妥協する事になってしまうと思う。
でも葛葉くんにはもう付き合ってる相手がいる。
別れるのを待ってから出直す?
しかし私は葛葉くんより一年先に悠翔高校を卒業する。
そうなると必然的に距離は遠くなり、葛葉くんが私と同じ大学に進学するとは限らない。
先に葛葉くんの進学希望大学を聞き出しても、後から色んな事情で進学する大学が変わる可能性がある。
では今から伊藤さんを締め上げて、葛葉くんの交際関係を聞き出して、伊藤さんと付き合ってたのならそのまま別れさせる?
いや、振られた時の会話の様子からして、そんな事したら絶対に疑われて嫌われる。
振られる時迂闊な事言うんじゃなかった、私のバカ。
そんな感じでああでもない、こうでもないを繰り返していると、不意にスマホが通知のバイブを鳴らした。
「ひゃっ!」
びっくりした。
「誰なのよ、もう」
ぼやきながら通知を確認すると、レインメッセージが来てた。
『国光さん、もしよろしかったらお話しませんか?』
と、今の悩む原因の一つである葛葉くんの恋人候補の、花京院会長からのメッセージだった。
花京院会長は気に入らないが、風紀委員長と生徒会長という関係で業務連絡する必要はあったから連絡先は交換してた。
それにしても、こんな時に花京院会長からお話?
仕事関係の連絡事項……ならメッセージにその旨を書いたはず。
仕事じゃないなら、思い当たる話題は葛葉くんの事。
自分か葛葉くんと付き合っているから手を引けと言うか、もしくは葛葉くんと付き合っている伊藤さんを蹴落とすのに協力しようとか。
どちらでもない可能性もあるけど、断るべきではないと思えた。
私は了承の返事を返し、時間を合わせて個室付きカフェで花京院会長と会った。
「そろそろ受験準備もあるでしょうに、休みの日に呼び立てしてすみません」
「いいから、本題は何?」
のんびりと、注文した飲み物を飲みながら話す花京院会長に対して、私はイラつきながら本題を急かした。
この個室の料金や飲食代は花京院会長が出すらしいけど、個室の料金はともかく彼女に飲み物などを奢って貰うとかお断りだ。
「国光さん、この前恭一さんに告白して振られたようですが、まだ恭一さんが好きだったりしますか?」
くっ。予想通り嫌な事を。
私が葛葉くんに振られたとか、どうやって知ったのか気になるけど、そもそも学校で告白したんだから、どんな形で花京院会長の耳に入ってもおかしくはない。
「だったら何?橋渡しでもしてくれるの?」
まだ花京院会長が葛葉くんと付き合っているのかどうかは知らない。
なので私は探る様にそう言い返した。
これの反応次第で、花京院会長が葛葉くんと付き合っているか分かるかも。
「ええ。いいですよ」
「は?」
「何なら、デートの約束も取り付けて差し上げましょうか。恭一さんを諦める為の最後の思い出作りで」
一瞬、訳分からなくて聞き返したけど、それで返って来た言葉で理解した。
やはり、葛葉くんと付き合っているのは花京院会長だった。
妬ましい。
いい家で生まれただけで理想的な彼氏を含む全てを得るこの女が。
しかし今それよりも気になるのは……。
「葛葉く……副会長とデートを?本当に?」
「ええ。まあ、少しばかりこちらのお願いを聞いていただきますけれど」
「何よ、お願いって」
自分でもちょっと引くぐらい、食い気味で聞いた。
お願いってなんだろう。
デートしたらちゃんと諦めろとか?
それとも今後自分に嚙み付くなと要求するのかしら。
まずは聞いてからだ。
無理の無いお願いだったら、聞いてあげるつもりはある。
「あまり大した事ではありませんよ。週明けに宗方三明さんに悪い噂が出回って彼が孤立すると思いますが、その時に味方になってあげれば十分です」
「そんな事?」
なのに花京院会長が提案したのは、意味の分からない事だった。
―――――――――――――――
話が長くなったので、ここで切ります
続きは宗方にトドメを刺し切った後になります
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