第17話『宗方三明の転落する恋路③』

【Side.宗方三明】


 あれから僕の学校生活は微妙な感じになった。


 リレーの反則を指示したり、葛葉くんとケーちゃんの写真を学校に貼った犯人が僕だって噂が学校中に持ち切りになったせいで。


 でも幸い、ちょっと腫れ物扱いで孤立しているだけで、イジメになってはいない。


 そもそも今の悠翔高校は理事長の孫娘の花京院さんが通っている事もあってイジメとかに厳しいのもある。


 しかし何より大きい理由は、国光先輩だけでなくあの葛葉くんも「まだ確実な証拠も出てないから、不用意に宗方くんを悪く言うのは止めた方がいい」と僕を擁護したからだ。


 それで、主な被害者の葛葉くんがそう言うのならば……と僕が直接悪意をぶつけられる事はほぼ無かった。


 まあ、これを機に僕の地位を上から引きずり落とそうとする男子もいるからゼロでは無いけど。


 逆に女子は大体、葛葉くんの言葉で頭が冷えて様子見に回ったり、迂闊な事をして葛葉くんに嫌われたくなかったりして、遠巻きに見てるか普段話してた子に無難に挨拶される程度で収まった。


 葛葉くんに庇って貰ったという事実に、彼をライバル視してたのは僕の方だけだったのかと落ち込む一方。


 噂に惑わされず、僕を庇ってくれた国光先輩に心が揺れた。


 我ながらチョロいとは思うけど、短期間で二度も失恋して、しかもこれ以上ないくらい気持ちを踏みにじられた後に、優しくして貰ったんだから仕方ないと言いたい。


 本当に国光先輩が好きになったのか、自分の気持ちに確信はまだ持てない。


 でももし、僕がモタモタしている間に国光先輩までも他の男に取られるのは避けたい。


 さらにそれが万が一またも葛葉くんに、ってのは絶対に嫌だ。


『国光先輩。話がありますけど、今日の放課後に時間大丈夫ですか?』


 だから僕は昼休み時間に、告白する為に国光先輩をレインで誘った。


『レインでは出来ない話?』


『はい。直接話したいです』


 そこで国光先輩が悩んだのかしばらく間が空いた。


『いいわよ。風紀委員会室でいい?』


『すみません。学校の人たちに聞かれたくないので、駅前のカフェとかで大丈夫ですか?』


『分かったわ。でも、私も放課後に予定があるから早めに会いましょう』


「……よしっ!」


 取りあえず、国光先輩を呼び出すという第一段階をクリアしてガッツポーズを取った。


 まだ告白が成功した訳ではないけど、勝算は高いと思う。


 僕は顔は現役でモデルやるくらいにいいし、その仕事で稼いでいるから甲斐性もある。


 すぐに受け入れて貰うのは難しくても、お試しから始めるのなら行ける可能性が高い。


 今度こそは負けない!




 放課後、僕は期待を膨らませながら待ち合わせ場所のカフェに入った。


 国光先輩はまだ来ていなくて、先に席と飲み物を取って待っていると国光先輩が到着した。


「ごめんなさい。待たせたわね」


 遅れて到着した国光先輩はそのまま僕の前の席に座る。


 目が行くのは、今の国光先輩は高校の制服じゃなくて私服を着ているのと、気のせいかいつもより綺麗に見える所だった。


 もしかして化粧してる?


 僕を意識してお粧ししたのなら嬉しいかも。


「いいえ。大丈夫です」


「そう。レインでも伝えたけど、この後用事あるから話は早めにお願い」


 大事な用事なのか、国光先輩はやや不機嫌な顔で急かすように言う。


 これはもしかして、告白するには間が悪いか?


 いや、逆にこの後意中の相手と会う予定とかあって、その為にお粧ししたのなら、むしろ今じゃないと間に合わなくなる可能性もある。


「えっと、じゃあすぐこういう事言うのはちょっと情緒が無いかもですけど……。国光先輩、好きです。僕と付き合ってください」


 僕は頭を下げてそう申し出た。


 国光先輩の顔が見えないまま、お互い沈黙したままの時間が流れる。


 そしてついに、国光先輩が口を開いた。


「……ごめんなさい。私、好きな人がいるの」


 返事はお断り。


 少しは予想してたけど、やっぱりショックが大きい。


「……そうですか。その、失礼にならないのなら、国光先輩が好きな相手について聞いてもいいですか?もしかしたら協力出来るかも知れないので」


 半分は嘘だ。


 国光先輩が好きな相手を知り、その相手と僕を比べて僕が勝る所を探したい気持ちもある。


 これじゃあ、葛葉くんの粗探しをしようとした父さんを悪く言えないな……。


「無駄よ。あなたに出来る事はもうないもの」


「え?」


「私が好きな人は、葛葉副会長だから」


「……え」


 また?


 また葛葉くんあいつか!


「でも葛葉くんは花京院さんと……」


「ええ。だからあなたに協力したのよ。あの二人を引き裂く為にね」


 そう言われて、すぐ納得してしまった。


 僕が花京院さんを狙ってた様に、国光先輩も葛葉くんを狙ってて、お互いの利益が一致したから国光先輩は僕に協力してたんだと。


 そしてこの前の体育祭で僕が葛葉くんに完膚なきまで負けて、もう僕が葛葉くんと花京院さんの間に割り込むのは無理になった。


 だから国光先輩は僕に協力出来る事はないと言ったのだと。


「どうして……葛葉くんなんですか。他にも男は沢山いるのに」


 つい、不満をぶちまける様な言葉を口に出してしまった。


 直後、その言葉で国光先輩を怒らせるんじゃないかと緊張したが、幸いその様子は無かった。


「次々と相手をすぐに切り替えるあなたには分からないでしょうね」


「ぐっ」


 国光先輩の言葉が胸に刺さる。


「……まあ、もういいけど」


「はい?」


 国光先輩の言葉の意図が分からず、僕は聞き返した。


「私、実は体育祭の後、葛葉副会長に告白したの。……振られたけどね」


 あっ、じゃああの時、国光先輩が泣いてたのってそれで……。


「じゃあどうして、僕の告白を断る理由に葛葉くんを……?」


「それでもどうしても諦め切れなくて悩んでいたら、葛葉副会長の彼女さんから提案があったの。私が葛葉副会長を諦められるように、最後の思い出作りとして葛葉副会長とデートさせてくれるって」


「へっ?」


 それを言った葛葉くんの彼女って、ケーちゃんと花京院さん、どっち?


 いやそれよりも 国光先輩が葛葉くんとデート?


「まさか、この後の予定って……」


「ええ。葛葉副会長とのデートよ。あまり長居して知り合いに見られると誤解されそうだから、私はもう行くわね」


 そして国光先輩は速足でカフェを出て行こうとする。


「待ってください!」


 僕はそんな国光先輩の手首を掴んで彼女を引き止めた。


「何?」


 国光先輩は明らかに不機嫌な様子で僕を見る。


 でも僕もめげない。


「そのデートが終わって、葛葉くんの事を諦められた後なら、僕との交際も考え直して貰えますか?」


「……いいわよ。だから離して」


 国光先輩は僕の手を振り払い、速足でカフェを出た。


 その後、窓越しに見える国光先輩の後ろ姿は、僕との約束などもう忘れたかのようで、葛葉くんとのデートを楽しみにしてるのか、ややスキップ気味で街を歩いていた。


「……くっ!」


 残された僕は、悔しい気持ちで拳を握りしめた。


 どうして僕じゃダメなんだ!


 どうして葛葉くんがいいんだ!


 顔だって、経済力だって葛葉くんに負けないのに!


 葛葉くんは他にも色んな女の子と付き合っているのに!


 僕なら誠実に一人だけと付き合うのに!


 これで葛葉くんに好きになった相手を取られるのも三度目だ。


 いや、でも。最後の思い出作りという事だから、そのデートさえ終われば、僕にもチャンスは回ってくるはず。


 今はとにかく耐えるんだ。そうしたらいつかは…………。


―――――――――――――――

 微妙に引っ張る感じになってすみません

 この後にヒロインたちの視点を見せてからすぐトドメを刺します

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