第16話『宗方三明の転落する恋路②』

【Side.宗方三明】


 週末で、僕は父さんに花京院さんの交際相手が葛葉くんだったと言うかどうか悩み、それと反則を指示したのが父さんだったのか問う正そうとしたけど、そもそも父さんが家に帰って来なかったので話し合うチャンスが無かった。


 電話やレインにも出くて、仕事で忙しいのかも知れない。


 週明け、僕は朝早く登校して校門近くでケーちゃんを待った。


 しばらくしてケーちゃんが登校して来たので、すぐに駆け寄った。


「あっ、ケー……伊藤さん!ちょっといいかな?」


「……何?」


 ケーちゃんは嫌そうな顔をしたけど、無視したりはせず足を止めた。


「葛葉くんの事で話があるけど、ちょっと時間いい?その、人に聞かせられない話だから屋上とかで」


「……いいよ」


 葛葉くんの話と聞いたからか、ケーちゃんはちょっと悩んでから頷いてくれた。


 そして僕はケーちゃんと一緒に屋上へ移動する。


 途中、僕とケーちゃんの組み合わせに周りから注目されたけど、気にせず流した。


「それで、話って何?あなたと噂になって恭一くんに誤解されたくないから、早く言って」


 本当に誤解されたくないからか、屋上に着いて早々、ケーちゃんは本題に入った。


「えっと、この写真を見て欲しいんだけど」


 僕はポケットからスマホを取り出して、画面に葛葉くんと花京院さんがキスしている写真を映してケーちゃんに見せた。


 それを見たケーちゃんは早速眉を動かして反応した。


「何?この写真」


「体育祭の後に偶然撮ったんだ。葛葉くん、君だけじゃなくて花京院さんとも付き合ってるみたい。だからその……ケーちゃん、葛葉くんとは別れた方がいいよ」


「……ちょっと良く見たいから、スマホ貸してくれる?」


「あ、うん」


 ケーちゃんにお願いされて、僕はスマホを渡した。


 ケーちゃんはジッとスマホの画面を見つめながら僕に質問する。


「ねえ、この写真。クラウドとかにバックアップ取ってたりする?」


「あっ、いや。取ってない。そのスマホにあるのだけだよ。でも確かにそうした方がいいかも」


 ありがとう、帰ったらそうする……と言葉を続けようとしたその時。


「そう」


 ケーちゃんはまるでゴミでも捨てるかの様に、僕のスマホを屋上フェンスの向こうに投げた。


「えっ!?」


 僕は反射的にスマホを追って走ったけどフェンスに止められ、地面に落ちるスマホを見送る事しか出来なかった。


「ああっ……」


 この高さで落ちたらもうスマホは無事ではないだろう。


 そして写真のデータも……。


 どうしてこんな事をしたのかと問い詰めようとケーちゃんに振り返ったら。


「ごめんなさい。手が滑ってしまった」


 ケーちゃんは何事も無かったかの様に、むしろやってやったという感じで口端が吊り上がっていた。


「そんな、どう見てもワザとでしょ。何でこんな事したの!?」


「ううん、これはただのミスだから。スマホは後で新品を買って弁償するね」


「あの写真があれば、この前の写真と合わせて葛葉くんの不貞を告発出来たのにどうして!?」


「それが余計なお世話なの。私たち、今の関係で上手くやれてるから」


「え?」


 まさか、葛葉くんの二股って、ケーちゃんと花京院さん公認?


「でもありがとね。この事でポイントを稼げて、これからも花京院さんの許可を貰って恭一とデートしたりと仲良く出来そうだから」


 やっぱり公認なのか!?


 それだけじゃなく、ケーちゃんの口から僕が知りたくない事実を続けて聞かされた。


「しかもただのデートじゃないよ?花京院さんに予算を出して貰って、高級ホテルで食事やショッピングとかした後、そこの部屋で二人きりでお泊りもするんだから。そしてそのまま色々とね?」


 えっ?色々って……まさかエッチな事も?


 じゃあ、あの写真の時ももしかして……?


 ケーちゃん、もう処女じゃない……?


「何驚いているの?この前に出回った写真を見た時に予想出来なかった?宗方くん、もしかしてまだ童貞?」


「そ、そそそそんな事、女の子が軽々しく言っちゃダメだよ!」


「図星ね。モテる癖に意外。あっ、もしかして初めては好きな相手……私とかとしたかったの?でも残念ね。私は恭一くんの女だから、あなたの相手なんて出来ないの」


 ケーちゃんに無慈悲な言葉を告げられ、僕は信じられない気持ちで立ち尽くす。


 え、あの優しかったケーちゃんがここまで酷い言葉を僕に?


「これは花京院さんも同じ気持ちだと思うの。じゃあ、二度と私たちに関わらないで」


 その言葉を最後に、ケーちゃんは屋上を去って行った。




 その後、僕も力無くクラスの教室に戻った。


 けど、何故か教室の雰囲気が妙だ。


 皆から遠巻きに僕を見て妙に避けられている。


 普段だったら女子のクラスメイトたちが集まって来てたのに。


 別にチヤホヤされたい訳ではないけど、普段と違うと妙に不安になる。


 その空気は昼休み時間になるまで続いた。


 僕は違和感を抱いたまま、いつもの様に溜まり場の教室に向かおうとする。


「ちょっと、宗方くん」


 その途中、国光先輩に呼び止められた。


「はい?どうかしましたか?」


「今、葛葉副会長たちのいる教室に行こうとしてるの?」


「そうですけど……」


 何かあるのか?


 ケーちゃんにも花京院さんにも振られたから、今ではもうあの教室に行く理由はもう無い。


 でも、周りはそんな理由知らないから、いきなり僕が顔出さなくなると不自然に思われそうだけど。


「しばらく、宗方くんはあの教室に行かない方がいいと思うわよ」


「えっ、どうしてですか!?」


 聞き返すと、国光先輩は気まずそうに目線を宙に回しながら言う。


「その……。実は、体育祭の反則が葛葉副会長を蹴落とす為に宗方くんが裏で指示したって噂が出回っているわ」


「えっ!?」


 どうしてそれが!?


 いや、知られてもおかしくはないか。


 生徒会室での話を盗み聞きしたとか、反則した生徒たちが他の生徒に話したとか十分あり得るから。


 でもあれを指示したのは父さんだって話だったけど、噂が出回る最中に僕にすり替わったのかな。


「それで色々噂されて、前の写真だって実は宗方くんがやったのではないかって話になって、あの教室に集まる生徒たちの大半はその噂を信じていて、宗方くんを敵視しているわ。ほら、分かるでしょ?」


「えっと……はい」


 あの教室に集まる女子は全部ではないけど、ほとんどか葛葉くんのファンだから。


 僕にも好意的な子だっているけど、葛葉くんと天秤に掛けるとどうなるか分からない。……いや、七割くらい葛葉くんの味方をすると思う。


「だからあの教室に行くのは止めておきなさい」


「分かりました。教えてくれてありがとうございます。でも、国光先輩はあの話を信じてないんですか?」


「ええ。写真の時だって信じるって言ったし、今回の噂だって最初はあなたじゃなくてあなたのお父さんだって話だったからね」


「僕の父さんがやったのなら、僕がやったのと一緒だとか、思わないんですか?」


「思わないわよ。親と子は別人でしょ?」


「……ありがとうございます」


 少し感動したので、頭を下げてお礼を言った。


「いいわよ、これくらいで。じゃあ、私は行くから」


 国光先輩は気にしてなさそうに言い、そのまま歩き出す。


 前に相談ついでに交わした雑談によると、国光先輩は昼ご飯を学食で食べるらしいからそこへ向かっているのだろう。


「あ、あの、国光先輩!」


「何?まだ話があるの?」


 僕はちょっと思い付いた事があり、国光先輩を呼び止めた。


「昼ご飯、学食でしたら僕も一緒に行っていいですか?あの教室には行けなくなったので……」


「……ええ。いいわよ」


 僕の提案を、国光先輩は少し悩んでから承諾してくれた。


「ありがとうございます!」


 そのまま僕は国光先輩と一緒に学食へ向かい、一緒に昼ご飯を食べた。


 ただ、周りから注目されそうで、僕に良くない噂が出回っている事もあって、僕と国光先輩はたまたま同じ時間に学食に入り、近い席で食事するだけだったが。


 それでも国光先輩は僕を信じて味方してくれているのが伝わって嬉しかった。

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