第15話『宗方三明の転落する恋路①』
【Side.宗方三明】
体育祭で何もかも葛葉くんに負けて、閉会式で花京院さんが葛葉くんの頬にキスした時は胸が引き裂かれる思いだったけど、それでも花京院さんを諦めきれなかった。
それに、まだ葛葉くんと花京院さんが付き合うって決まった訳じゃない。
あのキスだって頬にだったから、ただのパフォーマンスだった可能性もある。
今からでも告白すれば間に合うかも知れない。
僕はスマホを手に取り、花京院さんにレインでメッセージを送った。
『花京院さん。大事な話があるんだけど、今日時間取れるかな?』
そしてほんの数分後、返信が来た。
『はい。こちらからもお話する事がありますので。生徒会室へ来ていただけますか?』
取りあえず断られなかった事に安堵しつつ、花京院さんからも話があるのかと首を傾げる。
一体何の話だろう。
これがもし、葛葉くんと付き合い始めたとかなら軽く絶望するけど。
でもわざわざ僕にそんな事を報告するような仲ではなかったと思う。……残念だけど。
それとも葛葉くんと付き合うのを協力して欲しいとか?こっちも辛いけど。
いや、希望的に考えよう。
あの後花京院さんが葛葉くんに告白したけど、葛葉くんはもうケーちゃんと付き合っているから振られて、僕に愚痴を言って慰めて欲しいのかも知れないじゃないか。
そしてその流れで僕を見てくれるのかも。
よし、ちょっと元気が出て来た。
僕は西組の生徒たちからの打ち上げ兼残念会の誘いを「生徒会に呼ばれた」という方便で断り、その足で生徒会室へ向かった。
……のに。
「え!?あの二人の反則が、僕の父さんの指示だったって!?」
生徒会室で、花京院さんから聞かされたのはそんな信じがたい話だった。
「ええ。二人とも、間違いなくそう証言しました。宗方さんを勝たせる為に、宗方さんのお父さんにお金を渡されて指示された、と」
「そんな……」
信じがたいけど、この前の写真騒ぎの犯人が父さんだった事を考えると、あり得なくも無いと思ってしまった。
「それで、宗方さんはこの事を知ってたのか聞きたかったのです」
まずい、このままでは告白する所ではない!
「なっ、ち、違う!僕は知らない!」
花京院さんに疑いの目を向けられたまま言われ、僕は慌てて否定した。
「では宗方さんは何も知らなくて、あなたのお父さんが勝手にやっただけ、という事ですか?」
「そ、それは……、そうなるかも知れないけど……、でも父さんがやったって証拠が出た訳でもないから……」
父親があんな事をする人となると、その息子の僕まで悪く見られてしまう。
だから縋るように何かの誤解や陰謀がある事に望みを賭けたけど。
しかし本当にまずい。
この生徒会室には花京院さんだけじゃなくて、葛葉くんもいるし、斎藤さんとか他にも名前を知らない生徒会役員の人たちもいて、その皆から白い目で見られている。
なのに父親が勝手にやっただけとか、まだ決まってないと半端に庇ってるみたいな返答とか、格好悪過ぎる。
「そうですか。取りあえず信じましょう。話はこれで全部ですので、帰っていただいて構いません」
言葉とは裏腹に信じてなさそうな口ぶりで花京院さんに退室を勧められ、僕は力無く頷いて生徒会室を出た。
そして廊下を歩きながら色々考えてしまう。
あの反則って、本当に父さんが指示したのか?
だったら、余計な事を……。
何一つ上手く行かなかった上に、花京院さんに不審がられてしまったじゃないか。
結局、花京院さんに告白だって出来なかったし。
二回目の恋もこのまま終わってしまうのか……。
しかも他の男に取られたり、本人に振られる以前に、親の余計な手出しで嫌われた事で。
気落ちしていると、スマホがバイブした。
確認すると、花京院さんからレインメッセージが来てた。
『後からすみません。宗方さんからも話があったのを失念しておりました。あんな話の後ですが、ここままチャットでお伝えくださるか、それとも生徒会室に戻っていただけますか?』
ああ、花京院さんも僕から話があったのを思い出したのか。
どうしよう。今告白した所で振られるのは目に見えているけど。
……いや、それでも告白しよう。
まだハッキリ振られた訳でも無くて、後になってあの時告白していれば……と後悔したくない。
『じゃあ今から生徒会室に戻るよ』
『ええ、お待ちしていますね』
簡潔なやり取りの後、僕は生徒会室に踵を返した。
間もなく生徒会室の前に着いてドアをノックしたけど、反応がなかった。
俺が生徒会室に来るのは既に伝えたはずなのに。
おかしいと思い、静かに生徒会室のドアを開けると……、
その隙間から、花京院さんが葛葉くんとキスしているのが見えた。
「え……?」
どうして、あの二人がキスを……?
花京院さん、僕が来るって知ってるはずだよね?
「アリアさん。こんな所で……人に見られたらどうするんだ」
「いいじゃないですか。見せつけてやれば」
そんなやり取りの後、もう一度花京院さんから葛葉くんにキスした。
これはもう確信犯だろう。
二人は僕を呼び出して、見せつけるつもりでやっているんだ。
そしてやっぱり、花京院さんの相手って葛葉くんだったんだ。
くっ、僕だってやられてばかりじゃいられない……!
僕はこっそりとスマホを手に取り、シャッター音が大きく鳴らないように気をつけながらキスしている二人の写真を撮った。
これをケーちゃんに見せつけ葛葉くんの不貞を告発すれば、少なくともケーちゃんは取り戻せるはず!
そして花京院さんに告白する事もすっかり忘れ、そのまま生徒会室を離れながらケーちゃんに連絡しようとした。
でも気付かないのか、それとも無視されてるのか、ケーちゃんが電話にもレインにも出ない。
もし体育祭の打ち上げに行ったのなら、今日はもう学校にもいないか。
明日は週末だから休みでその時に呼んでも答えてくれるとは思えないから、会えるなら週明けかも。
仕方ない。今日はここまま帰ろう。
「あれ?国光先輩……?」
その途中、窓越しに向かい側の校舎から国光先輩らしきポニーテール女子生徒が階段を昇って行くのが見えた。
でも、その後ろ姿がとても力無く見えて、気になった僕は追い掛けてみる事にした。
そして僕は屋上で国光先輩に追いついた。
「……宗方くん?」
僕に気付いた国光先輩が振りかえる。その国光先輩の目元は赤く腫れてた。
「国光先輩?泣いたんですか?」
僕が指摘すると、国光先輩は慌てて片手で目元を隠す。
「!……ええ。ちょっと嫌な事があってね」
「そうですか。……その、もしよかったら、話、聞きましょうか?」
僕も嫌な事があったばかりだから、何か共感して力になれる所があるかも知れない。
「結構よ。あなたには関係ない話なの。一人でいたいから、帰ってくれる?」
でも国光先輩は、明確な拒絶の気配を帯びた声音で答えた。
「分かりました。でもいつでも力になりますから。……では」
僕はそう言い残して屋上を去り、階段を下りながら考える。
国光先輩、何があったんだろう。
もしかして好きな人に振られたとか?
国光先輩には恋愛面で協力して貰っているから、国光先輩の恋愛も上手く行って欲しいと思うけど。
いや、今は人の心配よりも自分の心配をすべきかも。
週明け、ケーちゃんにこの写真を見せる時が無性に待ち遠しい……。
―――――――――――――――
ここから宗方くんの結末がどうなるか、話サブタイで
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