第14話『彼女に格好いい所見せて欲しいとお願いされたので頑張ってみた』

【Side.葛葉恭一】


 宗方くんのライバル宣言の後、俺とケイコがホテルに出入りする写真を学校に貼られるハプニングはあったが、それ以外はこれといったトラブルは無く体育祭の準備が進んでいる。


 あの写真……タイミング的には俺を蹴落としたい宗方くんが怪しいけど、宗方くんはそういう事する性格には見えないし、俺を蹴落としたいなら他にもやりそうな奴は沢山いるから断定できないな。


 結局、特に実害も無かったので犯人探しはうやむやになった。


 いや、害と言えば俺とケイコが付き合ってるっていう既成事実が出来上がった事があるか。


「ねえ恭一くん。今日の放課後は時間ある?」


「いや、今日は生徒会があるから難しい」


「そう。いつもの教室で待ってもいい?」


「時間かかるかも知れないぞ」


「大丈夫。私、恭一くんの彼女だから。仕事する彼氏を待つくらい何てことないよ」


「……そうか」


 それでケイコが色々調子付いた。


「恭一あんた最近、ケイコと結構仲いいわね」


「……まあ、既成事実が出来てしまうとな」


 おかげでユカからは白い目で見られたり、


「あああああああっ!学校での、恭一さんの恋人の座があああああっ!!!」


 裏でアリアさんが悔しさで喚き散らしてはいるが。


 最後にはイチゴが犯人を探して仕返しするって事で何とか落ち着いたらしい。


 イチゴの仕返しとか相手がちょっと哀れに思えるが、まあ元々俺に攻撃して来たんだから同情する筋合いは無いか。




 写真事件の他にはこれと行った事はなく、順調に体育祭が始まった。


 ……が、ちょっとあって体の調子が悪い。


「恭一さん?どうしました。調子が悪そうですが」


「いや、ちょっと腰がな」


 隠してたつもりだが、顔色に出てたのかアリアさんに心配された。


 てかそもそも俺の腰が痛い原因って、昨夜も色々やってたというのに朝っぱらからアリアさんが「ゲン担ぎ」とか抜かして襲って来た所為なんだが。


 なのにアリアさんばかりケロっとしているのを見ると、何とも言えない気持ちになる。


 取りあえず、腰が痛い理由は邪推される前に誤魔化しておくか。


「ここ最近、机仕事が多かったからかも知れない」


「そうですか。もうそろそろ本番ですので、それまでに休憩所で横になってますか?」


「……そうさせて貰うよ」


 本番で動けなくなったりしたら色々困るからな。


 少々行儀悪いが、ここは素直に甘えさせて貰うとしよう。


 簡易テントを張って日陰になっている休憩所に入り、床に敷かれたシートの上で横になって休んでいると、ユカがやって来た。


「恭一、大丈夫?」


「まあ、筋肉痛みたいにちょっと痛むくらいだから、休めば良くなるさ」


「そう。イチゴから栄養ドリンクを預かって来たわ」


 ユカは手に持ってたハンドバックからドリンクの入ったボトルを取り出して、俺の横に置いた。


「あと、イチゴからの伝言よ。お願いがあるから、レインを確認して欲しいんだって」


「ああ、後で見てみるよ」


「じゃあ、私は運営の仕事があるから帰るけど、お大事にね」


 そう言い残して、ユカは心配そうな顔をしながらも休憩所を出て行った。


 残った俺はスマホを手に取ってレインアプリをチェックする。


『きょーくん。今日の体育祭は本気出して恰好いい所見せて欲しいの。それで私たちの嫌いな相手に煮え湯を飲ませられるから』


 するとイチゴからこんなメッセージが来てた。


 彼氏をちょっと便利に使い過ぎな気もするが、彼女が彼氏にいい所見せて欲しいなんて普通の恋愛でも良くある事だから、まあいいか。


 問題はその次のメッセージだった。


『それと、最後のリレーでは反則もあるかも。もし横からぶつかりそうだったら避けて、服を掴まりそうだったら、そのまま脱いで対処してね。せっかくだから上半身裸になって色々サービスするのはどう?』


 反則を予想出来てる所とか、その対策ついでにファンサービスさせるとか、色々ツッコミ所が多い。


 でもまあ、イチゴの予測だからな。用心して越したことはないか。


 ……しかし、俺とイチゴの距離も微妙に遠くなったものだな。


 最初、俺はイチゴとだけ内緒で付き合ってたのに、いつの間にかイチゴ以外の恋人がどんどん増えて、さらに他の女子と付き合っているって既成事実まで出来てしまった。


 そしてイチゴとは内緒でレインメッセージで会話するだけな状態。


 家に帰ればイチゴと一緒にいれるものの、それだって他の女子もいるシェアハウスだから二人きりという訳ではない。


 これって、俺とイチゴが本当に付き合っているのか、イチゴは本当に俺の事が好きなのか、少しずつ疑問に思えて来た。




 それから、休んだ甲斐もあってか、調子を戻した俺は本番で色々活躍出来た。


 最後のリレーではイチゴが言った通り色々あったが、体育祭は何とか無事に終わった。


 リレーで起こった、風紀委員長の国光先輩と西組のランナーが衝突した事や、俺が北組のランナーに反則の邪魔をされた事は、結果的に被害を受けた東組がそれでも勝ったので他二組へのペナルティは無い物となった。


 が、直接トラブルを起こした生徒には後で事情聴取と処罰が待ってる。


 そして体育祭の閉会式。


『今回の体育祭の優勝は……東組です!おめでとうございます。では代表生徒は壇上へどうぞ』


 点数が横並びの状況で最後のリレーで勝った事で、優勝は俺が所属する東組となった。


「本当にいいのか?俺がトロフィーを受け取って」


「けっ。何度も言わせるなよ。お前じゃないと逆に不満が出るっての」


 俺が同じ東組の男子に聞くと、その男子は不満そうにしながらもそう答えた。


 彼は東組の男子リーダーに近い立ち位置の生徒で、もし東組が優勝した時は彼がトロフィーを受け取る手筈だった。


 俺はどちらかと言うと運営側に近くて、あれもこれも俺がやってしまうと妬み僻みを買ってしまうからな。


 しかしいざ優勝すると、最後のリレーで俺の活躍が凄過ぎたという事でトロフィーを受け取る役を譲られてしまったのだ。


 俺は男子たちに疎まれているが、それでも男子たちが認めざるを得ない活躍だった……らしい。


「……分かった。じゃあ」


 俺は壇上にあがり、運営代表のアリアさんから優勝トロフィーを受け取った。


「恭一さん。かっこ良かったですよ」


 その時、アリアさんに小声でそう言われ、頬に口付けされた。


「「きゃーー!!」」


「「「うわああ!!」」」


 そして色んな悲鳴で会場が沸いた。


 学校の人気者の俺とアリアさんのロマンティックなシーンを目の当たりにして興奮したり、または嫉妬や傷心による悲鳴だろう。


 ……後者の比率が多そうではあるが。


 しかし、学校での俺は予想外のトラブルでケイコと付き合っている事になっているんだが、アリアさんは俺にキスなんかしてそこら辺どうするつもりだろう。


 まあ、パフォーマンスで押し切れるか。


「ありがとう。今日の事は忘れないよ」


 俺は無難に答えて、東組の所へ戻って行った。


「くそー!花京院さんのキスを受けられると知ってたらやっぱ俺が出てたのに!」


「バカね。あれは葛葉くんだからやったんでしょ」


 そこでは組の男子リーダーが悔しがって、それを組の女子リーダーが窘めていた。


 ここはスルーでいいだろう。


「ねえ、あれってやっぱ花京院さんも葛葉くん狙いって事よね?」


「つまり葛葉くんと花京院さんと伊藤さんで三角関係って事?えーどうしよう!?どっちが勝つの?」


「既に付き合っている伊藤さんに分があるとは思うけど、相手はあの花京院さんだからね……」


 他には、女子たちが俺たちの関係を色々噂している。


 こっちもスルーでいいか。二股よりは三角関係って放置した方がいいだろう。


「ねえ、葛葉くん。これから打ち上げするんだけど、一緒に行くよね?」


「いや、悪い。後片付けとか生徒会の仕事があるからな。俺抜きで楽しんでくれ」


 閉会式まで終わった後打ち上げに誘われたが、俺は無難に断って校舎へ向かった。


 後片付けとか生徒会の仕事があるというのは方便では無く本当だ。


 それに、リレーで反則をした生徒たちへの事情聴取も待っている。


 これが、実は裏で宗方くんに指示された事だった……とかならないといいんだが。


 不安で気も足も重い……。


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