第13話『宗方三明の戦う恋路④』

【Side.宗方三明】


 体育祭は昼休憩に入り、同時に中間結果発表も行われた。


 一位は花京院さんと葛葉くんがいる東組。僕がいる西組は三位だ。


 団体戦なのでこの順位が僕一人の評価じゃないのは知っているけど、どうしても意識してしまう。


 だって、葛葉恭が一位で、宗方明が三位なんだから!


 誰だよ、こんな名前にした奴!……ってお互いの親か。


 どうしてウチの親は僕の名前を三明にしたんだ?僕、長男なのに。


 それと昼休憩になると当然、昼ご飯も食べる訳だが……。


「恭一くん。これ、ユカと一緒に作ったんだけど、食べてくれる?」


「ああ、ありがとうケイコ。ユカもありがとな」


「ふん。ちゃんと味わって食べなさいよね」


「ああ、もちろん」


 遠目に見える葛葉くんはケーちゃんと斎藤さんの手作り弁当を受け取って食べてた。


 付き合ってるとはいえケーちゃんの手作りってだけでも羨ましいのに、あの胸の大きい斎藤さんにまで……!


 どうして葛葉くんにばかり可愛い女子が集まるんだ?スペックだったら僕だって負けないのに!


「皆さん、デザートのアイスをどうぞ」


 それだけじゃない。


 熱中症対策兼食後のデザートとして花京院さんによりカップアイスを配って回ったのだけど。


 花京院さんが直接渡して回ったのは花京院さんと同じ東組の一部だけで、他は生徒会役員や体育祭の実行委員の人たちが配った。


「恭一さん。お疲れ様でした。こちら恭一さんの分です」


「ああ、ありがとうアリアさん」


 生徒会副会長の葛葉くんも配る側だったけど、配り終えた後に花京院さんから手渡しでアイスを受け取ってた。


 僕だって、この体育祭でいい所を見せて花京院さんと付き合えたら葛葉くんみたいに花京院さんから色々と……。


 嫉妬とモチベを燃やしながら、体育祭の後半に挑んだ。




「きゃー!宗方くん一位よ!かっこいい!」


「うん、ありがとう」


 僕は体育祭後半の出場種目である短距離走で一位を取り、同じ組の女子に褒められた。


 でも葛葉くんに勝った訳じゃないし、一番褒めてほしい花京院さんからもあまり注目されていない。


 そもそも同じ組じゃないから、褒めて貰うのは無理があったりもするけど。


 でも、その後にあった玉入れでは葛葉くんが猛活躍して……


「流石です恭一さん!一番活躍してましたよ!」


「ああ、アリアさんもさっきの応援ありがとう」


 葛葉くんは花京院さんに褒められた。


 同じ組だからというのは分かっているけど、嫉妬せずにはいられない。


 そのまま色んな種目の競技を通し、いよいよ最後。


 組対抗のリレーの番が来た。


 奇しくも僕も葛葉くんもラストランナー。


 そして勝点はほぼ横並びで、ここで勝った組が優勝だ。


 これは嫌でも僕と葛葉くんの勝負だと、本人たちも周りも意識せざるを得ない。


「葛葉くん。この試合は僕が勝つから」


 位置について、僕は隣に陣取った葛葉くんにそう宣言した。


「……お互い頑張ろう」


 葛葉くんは社交辞令みたいな言葉を言って、先頭ランナーの方へ目を向けた。


「おいおい、俺は眼中に無いってか?俺だって陸上部所属で、ここで負けるつもりはないんだけどな~」


 その時、反対側の隣にいる北組の男子がそう言った。


 ジャージの襟の色からして、同級生かな。


「あっ、ああごめん。お互いに頑張ろう」


 僕は慌てて北組の男子にそう言った。


 って、葛葉くんが言った社交辞令と一緒じゃん!


「けっ。社交辞令抜かしやがって。覚えとけよ」


 その男子は機嫌が悪そうに答えて視線を外す。


 悪い事しちゃったな。


 でも本当に葛葉くんしか意識してなかったから仕方ない。


『よーい。スタート!』


 間もなくリレーが開始され、僕は自分の番を待った。


 リレーは、どこかの組のランナーが前に出ては逆転されたりを繰り返し、差し引きほぼ横並びのまま進む。


 そして僕たちのすぐ前のランナーの番になった。


 実行委員で性別や学年を合わせたのか、ランナーは全員三年生で女子の先輩たちだった。


 西組のランナーは、よく知らない三年の女子先輩。


 でも、東組のランナーは国光先輩だった。


 国光先輩が走るのと一緒にポニーテールが揺れるのがとても目につく。


 僕と国光先輩は協力関係だけど、さすがにここでワザと手を抜いてくれたりは……しないだろうな。


 目が本気だもの。


 仕方ないので、自分で頑張ろう。


 そのままバトンを渡されるのを待っていると、突然ハプニングが起こった。


 コースを曲がる時、西組のランナーの先輩の肘が国光先輩に当たり、


「きゃっ!?」


 タイミングが悪かったのか国光先輩はそのまま体勢を崩して転んでしまったのだ。


 僕はもちろん、競技を見守っていた皆が驚く。


 肘をぶつけた西組のランナーの先輩も驚いて一度足を止めて振り返るも、勝負を優先したまた走り出した。


 僕もこのまま競技を続けるかどうか迷ったけど……。


 さっきのハプニングを気にせず走ってた北組のランナーが先に着いてバトンを渡し、北組のラストランナーが走り出した。


「はい、宗方くん。お願い!」


 僕も前のランナーの先輩からバトンを受け取った瞬間、国光先輩への心配よりも葛葉くんに勝ちたい欲が出た。


「ごめんなさい!」


 国光先輩へなのか、葛葉くんへなのか、とにかく一言だけ謝ってから走り出す。


 でも先行されてる差があってか、中々北組との差が縮まらない。


 ふと心配になって後ろをチラチラ振り返ると、国光先輩は一人で立ち上がりまた走り出してた。


 転んだ国光先輩は肘と膝を擦りむいてて、血が滲んでいるのが痛々しかった。


「ごめんなさい、葛葉くん!」


「いえ、大丈夫です。それよりも保健委員の所に行ってください」


 葛葉くんは僕や北組よりも大きく遅れてバトンを受け取り、急いで走り出す。


 ……って速っや!


 足の速さが僕の倍くらいあるけど!?


 何だよあのスペック、チートじゃない!?


 もう後ろの様子見る余裕もない。


 このままだと追いつかれて、追い越される!


「うおおおおおお!」


 僕は葛葉くんに負けじとスパートを掛ける。


 でも僕と葛葉くんの差は広がる所か、むしろぐんぐんと縮まり……。


 やがて葛葉くんは僕の隣を抜き去って行った。


「きゃああああ!葛葉くん!頑張って!」


「おいいい!このまま逆転させるな!!!」


 葛葉くんはそのまま北組のランナーに迫り、ハプニングからの逆転に観客たちが沸いた。


「恭一さん!頑張って!」


 応援する声の中に、花京院さんの声までも聞こえる。


 僕はこのまま、何も出来ないで、花京院さんに見向きもされないまま、何もかも葛葉くんに負けてしまうのか……?


 呆然と走っていると、葛葉くんは僕を抜いた勢いのまま北組のランナーのすぐ後ろに迫り、その横を通り過ぎる。


「きゃああああ!葛葉くん!かっこいい!」


「恭一さん!素敵です!」


 同時に葛葉くんを応援する黄色い声の勢いも強くなった。


「この、イケ好かないイケメン野郎が!」


 その時、何を思ったのか北組のランナーが葛葉くんのシャツの裾を掴んで引っ張った!


「反則よ!」


 明確な反則に誰もが驚く。


 でも僕は、もしここまま葛葉くんが倒れて、北組のランナーも失格になると、最後に残った僕が勝つのでは……?とほんの少しだけ期待を持ってしまった。


 この反則は北組のランナーが勝手にやっただけで、別に僕は悪い事なんてしてない。


 だから僕がこのまま勝っても誰も後ろ指さしたりはしないはず。


 ……だったのに。


「ふん」


「ぬわっ!?」


 葛葉くんは掴まれたシャツを素早く脱ぎ捨て、北組のランナーを手を逃れる。


 同時にシャツの脱いだ事で葛葉くんの上半身は裸になった。


「きゃー!」


「葛葉くんの筋肉カッコいい!」


 鍛えられた葛葉くんの上半身裸体を見て女子たちの反応がさらに激しくなる。


 そのまま北組のランナーの反則などただのパフォーマンスだったかの様に、葛葉くんは一着でゴール。


 北組のランナーは反則しても葛葉くんの勢いを止められず、全員の目の前で反則した以上失格も間違いないので戦意を喪失し立ち尽くした。


 僕はそんな北組のランナーの横を通り、遅れながらゴール。


 二着ではあるけど、何も嬉しくなかった。


 何故かって言うと当然、葛葉くんに負けてしまった事もあり。


「恭一くん!一着おめでとう!」


「恭一さん!凄かったです!」


 ケーちゃんと花京院さんが葛葉くんの勝利を喜んでそのまま一緒に葛葉くんへ抱き付いたからだ。


 その二人だけでなく、斎藤さんや普段溜まり場に集まる葛葉くんの友達の女子たちも一緒くたになって葛葉くんに駆け寄り、葛葉くんは揉みくちゃにされる。


 そんな流れもあって葛葉くんがケーちゃんと花京院さんの両方に抱き付かれた事は浮気とは見られなかった。


 でも僕は、他の何よりも、ケーちゃんだけでなく花京院さんまでも包み隠さず葛葉くんに好意を示すのを見て、どうしようもない敗北感に打ちひしがれた。



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 宗方君への追い打ちはまだ続きますが、その前に一回恭一の視点を挟みます

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