第12話『宗方三明の戦う恋路③』
【Side.宗方三明】
ついに体育祭がやって来た。
『宣誓!私たちは……』
開会式では僕が選手宣誓を行う事になった。
ちょっと照れくさいけど、そもそも僕はこの高校の広告塔みたいな存在として呼ばれたのだから、仕方ない所もある。
何よりも花京院さんにお願いされての事だから、断る選択肢はない。
「宗方くん!かっこ良かったよ!」
「ああ、うん。ありがとう」
開会式が終わり西組の所に戻ると、クラスメイトの女子たちに囲まれた。
この時期の体操服は短袖のシャツと半ズボンで、みんな同じ服装をしている。
みんな僕のファンみたいの子たちだから、モデルにしてアイドル準備中の身としては邪険に出来ない。
けど、こんな所を花京院さんに見られて、「結局は僕も女子に囲まれてチヤホヤされるのが好き」みたいな事を花京院さんに思われるのでは?と思うと不安になる。
クラスメイトの女子たちと話しながら花京院さんの遠目で様子を伺うと、花京院さんは生徒会長として生徒会役員や体育祭の実行委員たちと話し合いをしていた。
そうなると当然、話し合いする相手に生徒会副会長の葛葉くんもいて……。
「恭一さん?どうしました。調子が悪そうですが」
「いや、ちょっと腰がな。……ここ最近、机仕事が多かったからかも知れない」
「そうですか。もうそろそろ本番ですので、それまでに休憩所で横になってますか?」
「……そうさせて貰うよ」
しかも花京院さんと葛葉くんはお互いを下の名前で呼び合っている。
二人は去年から同じクラスだったらしくて、生徒会も一緒だから友達として仲が良くてもおかしくはない。
でも気のせいが、葛葉くんと話す花京院さんが楽しそうに見えて焦る気持ちになった。
早く花京院さんの気持ちを射止めないと、本当に花京院さんまで葛葉くんに取られてしまう……!
良くない緊張感を持ったまま、体育祭の本番が始まった。
僕が参加する最初の種目は障害物及び借り物競走。
偶然にも、葛葉くんと一緒に出ている。
ここは負けられない。
「よーい、スタート!」
競技が始まってすぐ、僕は誰よりも早くハードルなどの障害物を飛び越え、お題が書かれたカードがあるテーブルに着いてカードを手に取った。
僕のお題は……
『髪を染めた人』
そのお題を見てすぐ思い付くのは、髪を緑色に染めたケーちゃんの事だった。
でもケーちゃんとは色々あったから、僕には協力してくれない気がする。
って、すぐ後から葛葉くんが来ている!急がないと!
仕方ない、取りあえずお願いするだけお願いしてみよう。
「ケーちゃん!ついて来てくれない!?」
僕はカードを片手に、グラウンド外周にいるケーちゃんに駆け寄ってお願いした。
「………」
でもケーちゃんは僕の声が聞こえなかった風に目をそらした。
スルーされた!?
ここまで堂々とスルーされると本当に来るのがあるんだけど!
「ケーちゃん!?」
「ちょっといい?」
驚く僕に、赤い髪の女子が声を掛けて来た。
確かこの子はケーちゃんや葛葉くんの友達の……
「……小林さん?」
「ケイコは多分こう思っている。『私、あなたにケーちゃんって呼ばれる関係でもなければ、筋合いも無い』と」
「え」
スルーされたのって、呼び方の所為!?
「ごめんケイコ!取りあえずお題でも見て欲しいんだ!」
「………」
ケイコでもダメなの!?
「伊藤さん!お願い!」
「何?」
苗字呼びでやっと、ケーちゃんは話を聞いてくれた。
「このお題だけど、手伝ってくれないかな」
僕はケーちゃんに『髪を染めた人』のお題が書かれたカードを見せた。
「嫌」
「え」
でも即座に断られた。
「私、あなたの事が嫌いだから手伝いたくない。話聞いてあげたからもういいでしょ?変な注目されてるからさっさとどっか行ってくれない?」
「う……」
確かにダメで元々だったけど!
ここまで時間掛けさせられた上に冷たく断られるとは思わなかった!
まずい!時間が!
って良く見ると小林さんの髪の毛、赤!
名前や顔つきからして日本人だろうし、流石にこの子も染めたよね?
「小林さん!手伝って貰える!?」
「私?……このお題は無理」
小林さんは感情を乗せない表情で答えた。
「え?」
「私の髪の毛の色、赤で地毛だから」
「そんな……」
まさかの落とし穴に崩れ落ちそうになったが、何とか持ちこたえた。
早く他の人を探さないと!
「カヨ!これ、頼めるか?」
その時、葛葉くんが『トモダチ』と書かれたお題のカードを持って来た。
しまった!時間を掛け過ぎた!
「分かった」
小林さんはそのまま葛葉くんの手を掴んでゴールに向かって行く。
今回は少し意味合いが違うけど、また僕が先に誘った女の子を葛葉くんに取られた!
いや、それもあるけど……。
「えっと……、ケーじゃなくて伊藤さん。大丈夫?」
「何が?」
恐る恐る尋ねると、ケーちゃんは冷たい声で返事した。
「葛葉くん、伊藤さんじゃなくて小林さんの方を連れて行ったけど」
「別に?私は恭一くんの友達じゃなくて彼女だから。ふふん」
最後だけ、妙に嬉しそうにするケーちゃんを見て、僕は胸が締め付けられる気がした。
ってそれよりも試合!
僕は慌ててお題の人を見つけてゴールに着いたけど、時間を掛け過ぎた事で大幅に順位を落とす事になった。
「大丈夫だよ宗方くん!こんなのって所詮は運込みのお遊びだから!」
「うん。そうだね。次、頑張るよ」
同じ組の女子たちは慰めてくれたけど、他でもない葛葉くんに負けた事が僕の心を曇らせた。
「流石恭一さんです!まるで敵無しですね!」
「ありがとう、アリアさん」
だって、今葛葉くんは同じ組だからとは言え、花京院さんに手放しで褒められているんだから。
それが羨ましくて仕方なかった。
それだけじゃない。
次の種目の二人三脚競走。
僕は出ないが、東組では花京院さんと葛葉くんが出た。
そう、二人がペアを組んで。
カースト的な意味合いで、どちらかが出るならその相方が務まる人は他にいないので仕方ないかも知れない。
けど、どうしても羨ましかった。
僕だって、花京院さんと密着したり、息を合わせて一緒にゴールしたかった……!
花京院さんと葛葉くんのペアはこれでもかってくらいぴったりと息を合わせて、順当かのように圧倒的一着でゴールした。
「やっぱり花京院さんと葛葉くん、お似合いだよね……」
「あれで本当に付き合ってないの?てか、葛葉くんが伊藤さんって子と付き合っているって本当?」
それを見て、周りの女子たちが噂する。
僕だって……、僕だって花京院さんが好きなのに、どうして葛葉くんばかり!
ケーちゃんだけで十分だろ、僕から奪うのは!
「やりましたね、恭一さん!私たちベストパートナーですよ!」
「ああ、一着だったしな」
どうしても羨ましい……!
心の奥で湧き上がる黒い嫉妬を抑えながら、僕はじっと勝利の喜びを分かち合う花京院さんと葛葉くんを見つめた。
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