第10話『宗方三明の戦う恋路②』

【Side.宗方三明】


 僕たちが体育祭を待ちながら時間が過ぎる途中、事件が起こった。


 誰がやったのかは知らないが、校内の掲示板の所々にある写真が貼られたのだ。


「ねえ、この写真って……」


「葛葉と伊藤さんじゃないか!やっぱり女子に手出してやがった!」


 その写真は、葛葉くんとケーちゃんがホテルを出入りする写真だった。


 写真の反響で学校は大いに荒れた。


「えー、葛葉くん、誰とも付き合わないんじゃなかったの?凄いショックなんですけどー」


「言ったろ、あいつはそう言って裏で色んな女子を食ったんだって」


 今まで不自然なくらいに特定の恋人を作らなかった葛葉くんが、実は裏でちゃんと女子に手を出してた。


 なら今まで恋人を作らなかったのも、色んな女子を食い漁るつもりだったからではないかという意見が出たのだ。


 それで葛葉くんの評価も一転。


 女遊びするクズ野郎……って転落するかと思ったら、そうはならなかった。


「あれ?でも私は葛葉くんに手ぇ出されなかったんだけど?」


 色んな噂が飛び交う際にケーちゃん以外の被害者探しも行われたが、これがびっくりするくらいに出なかったから。


「私は手出されたわよ!私だって葛葉くんの女なんだから!」


「あんたそれまた言ってんの?この前嘘だってバレてたでしょ」


 稀に自分も葛葉くんに手を出された葛葉くんの女だって自称する女子も出たけど、その場合は女子同士の検証が行われてことごとく嘘だってバレた。


「なんだ、結局手出されたのって伊藤さんだけかー」


「いや、斎藤さんたちとかも怪しいでしょ」


「でも、あの写真見ても騒がないんだから、何もないんじゃない?」


「……それとも、何かあって合意が取れてるとか?」


 僕はクラスの女子たちが教室で噂しているのを聞いてただけだったけど。


 色んな話が行き交った結果、葛葉くんが手を出したのはケーちゃんだけって事で落ち着いた。


 そして葛葉くんがケーちゃんにだけ手を出しているなら、それはつまり葛葉くんは裏でケーちゃんと付き合ってる事になり、葛葉くんが女遊びしたって噂は立ち消えた。


 多分、葛葉くんがケーちゃんと付き合ってるって知られるとケーちゃんが女子たちの嫉妬に晒されるので、それに気を遣ったのではないかと結論が出た。


「伊藤さん、ちゃっかりしてるね。見た目以外大人しそうに見えてもう葛葉くんとやってるとか」


「妬ましい……」


 実際、ケーちゃんは女子たちに嫉妬の目で見られる事になった。


「ふふん。私も葛葉くんの彼女~、彼女~」


 でも当人のケーちゃんは葛葉くんの彼女に見られて気を良くしたのか、女子たちの嫉妬は全部流している。


「でもあの二人がホテルに入ったのは不純異性交遊ではないのか?」


 という意見も男子の間であった。


「いや、でもラブホじゃない高級ホテルだから、併設されてるデパートやレストランでデートしたって聞いたぞ?」


「けっ、金持ちかよ」


 でもちょっと背伸びしたデートしたって主張すればそれまでで、葛葉くんとケーちゃんには処罰とか無く、注意で済まされた。


 そんな感じで僕の関わりのない所で騒ぎ起こっては終息するのかと思ったら……。




「それで、あなたは今回の件。関係無いのよね?」


 何故か僕は国光先輩に呼び出されて、風紀委員会室で取り調べされるみたいに問い詰められていた。


 人払いしたのか他の風紀委員はいない。


 僕に気を使ってくれたからか、単に他の人に知られたくなかったからかは分からないけど。


「本当に僕じゃありません。でも、どうして僕を疑うんですか?」


「タイミング的に、葛葉副会長の評判を落とすのを狙って行動しそうなのが、あなたしか思い付かなかったからよ」


 確かにそれは思われそう。


 僕がケーちゃんを取られたり、花京院さんを狙っていて葛葉くんをライバル視しているのを国光先輩は知っているから。


「本当に僕じゃないんです。証拠とかは出せないんですけど。逆に風紀委員で監視カメラの映像をチェックしたりはしてないんですか?」


「風紀委員にそこまでの権限は無いわよ。職員の人たちがチェックしているでしょうけど」


「じゃあどうして僕に取り調べみたいな事を?」


「あなたがやったのなら、それなりの対応を考えようとしたの。……まあ、嘘ついてる様子はないし、あなたがやって無いって信じるわ。疑ってごめんなさい」


 国光先輩は真っ直ぐ僕を見て頭を下げた。


「い、いえ。状況的に、僕を疑うのは確かに仕方ないと思います。だから顔を上げてください」


 それで逆にこっちが申し訳ない気持ちになり、国光先輩に顔を上げるように言った。


「ありがとう。お詫びに……と言うのもあれだけど、お茶でも飲んで行く?来客用の茶菓子もあるけど」


「えっと、じゃあお願いします」


 別にお詫びされる程の事でも無いと思うけど、受けた方が国光先輩の気持ちも楽になるだろうと思って素直に頷いた。


「そういえば、もうそろそろ体育祭ですね。国光先輩は東組でしたっけ」


「ええ。宗方くんは西組だったわね。お互い頑張りましょう」


 この悠翔高校の体育祭では、東組、西組、北組の三つに分かれ、競い合う事になっている。


 元々は東組と西組だけだったけど、今年は増えた生徒数に合わせて新に北組を作ったらしい。


 組分けの基準は、単純にA、Bクラスが東組。C、Dクラスが西組、E、Fクラスが北組だ。


 三年生の場合はFクラスが無いからもう少しフレキシブルな分け方になってるみたいだけど、他人事なので詳しくは知らない。


 で、僕は二年Cクラス、国光先輩は三年Aクラスなのでそれぞれ西組と東組な訳だ。


「はい、頑張ります」


 僕はただ体育祭に参加するだけじゃなくて、そこで葛葉くんよりいい所を見せるって目標もあるから、もう一際頑張らないと。




「三明、最近学校で何か無いか?」


 その日の夕方。


 またも家で父さんに話を振られた。


「ん?何かって?」


「例えば、葛葉恭一のスキャンダルが出回っているとか……な」


「いや、そんな事もあったけど、すぐ終わったけど?」


「何?」


 僕の返事に、父さんは何故か驚いた。


「どうして父さんがそんな話題を振って驚く……ってまさか……」


 そう言えば父さんは葛葉くんについて調べると言ってたはず。


 その調査の結果があの写真……?


「……父さんがやったの?」


「ああ。金に困っている生徒に小遣いを握らせてな」


「どうしてそんな事を?」


「決まっているだろ。お前のライバルを排除するためだ。俺の調べでも、花京院アリアさんの相手はあの葛葉恭一が一番有力だったからな」


 父さんはまるで何でもない様に言う。


「でもあんなやり方……」


「あんなやり方?不貞の証拠を突きつけただけだろ。何も悪い事なんてしていない」


「………」


 確かに葛葉くんの二股を糾弾するのは分からなくもないけど、あんなやり方だとケーちゃんまで悪く言われる事に……。


 でも言えない。


 今の僕は花京院さんを狙っているから、とっくに振られた幼馴染まで心配するとか、葛葉くんみたいに二股しようとするような事。


 それに父さんがやったとバレたら、国光先輩は僕を父さんと一緒に扱ってやっぱり僕が犯人だったって失望して、協力してくれないかも知れない。


「学校で噂になっても何もないなら、今度は俺が直接利幸さんにあの写真を突き出そう。お前はそろそろ体育祭があるんだったな。そこで活躍してアリアさんの目に留まるように頑張れ」


 父さんは突き放すように言っては、自分の部屋に入って行った。


 同じ頑張れでも、父さんと国光先輩でこんなに違う感じになるのか……。


 でも、頑張らないといけないのは確かだ。


 二股するような葛葉くんには絶対に負けない。

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