第9話『宗方三明の戦う恋路①』

【Side.宗方三明】


「三明。俺に何か言う事は無いか?」


 夕方の家で。


 ご飯を食べていると、突然父さんがそう言って来た。


「あ、そういえば、この前中間テストが終わったんだ。後でテスト用紙を渡すから」


「そうじゃない。花京院アリアさんの相手が誰か、調べはついたのか聞いているんだ」


「あっ」


 色々ショックな事が多くて忘れてた。


 そう言えば父さんにそんな事を言われてたんだっけ。


 今の所花京院さんの相手で一番有力なのは葛葉くんだけど……ちょっと微妙な所もある。


 父さんが知りたいのは、花京院さんのお父さんである利幸さんが認知している花京院さんの相手だろうだけど、葛葉くんはちょっと違う気がする。


 だって、二股するような相手を利幸さんが娘の相手として認める可能性は低いって思うから。


 単純に葛葉くんが二股してるって利幸さんが知らないだけって可能性もあるけど。


「どうした?まさか知らないとか言わないよな」


「えっと、それが……同じ学校の葛葉恭一くんって人と付き合ってるかもって噂があるけど、それ以上は……」


「そうか。葛葉恭一だな。分かった。そいつについてはこちらで調べる。お前は他の候補を探りながら、花京院アリアさんにアプローチしろ」


 父さんの出す空気はちょっと不穏だったけど、それで葛葉くんは二股してる証拠を捕まえて利幸さんに突き出せば、葛葉くんもケーちゃんか花京院さんのどちらかは諦めざるを得ないんじゃないかって、少しだけ期待した。




 その後は、今後の相談として国光先輩とチャットする事に。


『683点ね。まあまあ高いけど、葛葉副会長には及ばないわね』


『はい……。正直、葛葉くんがあそこまで勉強出来るとは思わなかったです』


『私は逆に、あなたの成績が思ったより低くて驚いているけど。勉強会でもしょっちゅう聞いて来るしね』


『えっと……すみません』


『いいけど、その程度の成績では葛葉副会長に張り合うのは厳しいわよ?』


 国光先輩から厳しい言葉が続いて、ちょっと心が折れそうになる。


『頑張ります』


『ええ、頑張りなさい。勉強で無理なら次は運動ね。そろそろ体育祭があるのは知ってる?』


『はい』


『じゃあ、頑張ってそこで葛葉副会長よりいい所を見せなさい』


 一方的な指示だけど、確かに他に葛葉くんを出し抜いて花京院さんにアピールする機会も無い。


 体育祭で頑張ろう。


 葛葉くんは運動も出来るらしいけど、僕だって運動は自身がある。


 普段からモデルとして体形を維持するために運動してたり、アイドル準備のレッスン自体が体に厳しいものだから。


 まさか何から何まで葛葉くんが僕より優れてるなんてズルい事は無いよね?


 でも、一人で張り合うだけだと暖簾に腕押しな気がする。


 ちゃんと体育祭で勝負しようって葛葉くんに言わないと。


 いや、それだと勝手に花京院さんを賭ける事になるからダメか。


 なら何も賭けないまま葛葉くんよりいい所見せるって二人に言う?


 ……それが一番マシな気がする。


 言うだけでも、意識されて大分違って来るだろうから。


 そうと決まればさっそく行動だ。


 今はもう遅い時間だから、明日葛葉くんを呼び出して宣言し、その後花京院さんにもレインで伝えよう。




 そして翌日の放課後、本気で誰にも見られたくなかったから葛葉くんを学校から少し離れた所にある路地裏に呼び出したけど……。


「兄ちゃん。金持ってるだけ出せや」


「でないとその綺麗な顔がボロボロになるぜ。モデルなんだからそれは嫌だろ?」


「えっと……はは」


 ガラの悪い人たちに捕まってカツアゲされた。


 場所を路地裏にしたのはミスだったかな。


 変にお金を惜しまずにカラオケの個室にすれば良かった。


 仕方ない。確かに顔を傷付けられるのは困るから、サイフの中身を渡してやり過ごそう。


 そう決めた瞬間。


「お前ら!そこまでにしろ!」


 そんな叫び声と共に、葛葉くんが現れた。


 葛葉くんはそのまま俺とチンピラの間に割って入る。


「なんだ兄ちゃん。この兄ちゃんの友達か?」


「そうだ。お前ら、今なら見逃してやるから失せろ」


 この状況で迷わず友達だと答えるとか。


 僕はその認識につけ込もうとしているんだから、ちょっと良心が痛むんだけど。


 いや、僕は別に不義理な事してる訳じゃない。


 どちらかと言えば、ケーちゃんと花京院さんに二股してる?かも知れない葛葉くんの方が不誠実なんだ。


 僕は悪い事なんてしていない。


 ……今助けて貰うのはありがたいけど。


「は?失せろ?あーあー。俺、久しぶりに切れたぜ。お前、殺してやるよ」


 チンピラの一人は調子は軽いが言葉通り切れたみたいで首を鳴らしながら葛葉くんに詰め寄った。


「そうか」


 けど葛葉くんは一切臆さず、いきなりチンピラのみぞおちにパンチを叩き込んだ。


「ぐはっ!てめぇ……」


 もろにパンチを食らったチンピラは断末魔みたいな言葉を吐きながら、そのまま崩れ落ちた。


「なっ!てめぇよくも!」


 それを見て他のチンピラの一人が怒りながら葛葉くんに殴りかかる。


 でも葛葉くんはそれを避けて、そのチンピラの頭を掴んではコンクリートの壁にぶつけた。


 ドバッ!


 っと生々しい衝撃音がして、二人目のチンピラも頭から血を流しながら倒れた。


 そして葛葉くんが残った三人目のチンピラに目を向ける。


「ひいっ!」


 その最後のチンピラはさっき仲間二人があっという間に倒れたのを見たからか、葛葉くんに睨まれて悲鳴を漏らした。


「この二人を連れて失せるなら、お前は見逃してやる」


「は、はいぃ!」


 怯えまくりなチンピラは仲間二人を引きずりながら逃げて行った。


 それを見届けた葛葉くんはこっちを向く。


「危ない所だったな。怪我とかないか?」


「あ、うん」


 正直、僕もちょっと怖くてビビった。


 さっきまでバイオレンスな場面を見せつけられたから……。


 葛葉くんって喧嘩も強いとか、これじゃあ最後に最後の手段と考えていた、殴り合って負けた方が身を引くってのも出来ないじゃないか。


「それで、話たい事って何だ?何なら場所を変えて聞くか?」


「いや、ここで言うよ」


 さっきの喧嘩を見て葛葉くんに挑むのは怖いけど、別に僕も殴り合いする訳じゃないから大丈夫。


「葛葉くん、僕が花京院さんを好きって言ってたよね?」


「ああ、そうだったな」


「だから次の体育祭で、僕は君より活躍して花京院さんにいい所を見せるつもりなんだ」


「……それは、花京院さんを賭けて俺と勝負しようって話か?俺と花京院さんはそんな関係じゃないんだが?」


 ちょっとだけ、葛葉くんの目付きが厳しくなった。


「でも、学校の皆が君と花京院さんの仲を噂しているし、君たちは生徒会でも一緒だから、僕も心配している」


「そうか。それで?」


「これは僕が君にライバル宣言するだけなんだけど、僕ばかり意識するのは悔しいから、葛葉くんにも意識して欲しかったんだ」


「……そうか。まあ、お互い頑張ろう」


 それで話は終わり、僕は葛葉くんと別れて家に帰った。


『花京院さん。僕は体育祭で頑張るから、応援して欲しい』


 部屋に入った後は、スマホのレインで花京院さんにメッセージを送った。


 その返信はすぐ届いた。


『分かりました。宗方さんが頑張ってくださると、体育祭も盛り上がりますので助かりますので、応援しますね』


 この返事って、花京院さんにとって僕はあくまでも学校の広告塔でしかないって事かな。


 地味にショックだけど、体育祭で何とか振り向いて貰わないと。


 頑張ろう!


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