第8話『これって色々逆だと思う』

【Side.葛葉恭一】


 中間テストが終わった。


 俺の成績は八教科全部合わせて783点。


 ほぼ満点に近い点数だ。


「色々忙しいでしょうに、ここまでの成績を維持出来るなんて、流石恭一さんです」


 シェアハウスのリビングで成績を確かめ合うと、アリアさんが俺を褒めてくれたが。


「全科目満点を取ったアリアさんに褒められてもな……」


「私たちはカラクリがありますから」


 そう。アリアさんだけでなく、イチゴやユカも全員800点満点を取った。


 別にアリアさんが権力を使ってテスト問題を流して貰ったとかではない。


 イチゴが自分が予想したテスト問題をアリアさんとユカに渡して、アリアさんもユカも騙された気持ちでその問題を丸暗記した。


 二人とも地頭はいいから、丸暗記くらい時間さえ掛ければいけただろう。


 そしてイチゴの予想問題がドンピシャに嵌って満点になったのだ。


 俺も予想問題は見せて貰ったが、流石にズルし過ぎる気がして半分くらいしか見なかった。


 だからこそ、783点止まりになった訳だが。


「それと恭一さん。こちら、今日もお願い出来ますか?」


「……ああ」


 アリアさんがスマホを差し出して来たので、それを受け取って代わりに俺のスマホを渡す。


 これはちょっと前から始まった日課で、なんと俺がアリアさんに成り代わって宗方くんとレインでチャットするのだ。


 元々はアリアさんが宗方くんのメンタルケアの為に接触したらしいが、他の男とチャットするのが浮気だと疑われそうだからと俺に代行をお願いした訳だ。


 それでまあ、アリアさんの言い分も理解出来たので素直に引き受けた。


 俺のスマホをアリアさんに渡すのは、俺だけがアリアさんのスマホを操作するのはちょっと割に合わないからと要求された事で、それも承諾した。


 俺がアリアさんになりすまして宗方くんの相談に乗る傍ら、アリアさんは俺のスマホのあれこれを覗いて楽しんでいるようだが……まあ、いいだろう。


 見られて困るのはもうスマホに入れてないからな。


 それにしても、宗方くんがアリアさんを好きになるとはな。


 基本的に美人で人当たりもいいから、人気なのは分かるが。


『花京院さん。今日も話し相手になってくれてありがとう』


『いいえ。これくらいはお安いご用です。これからもお気軽に相談してください』


 でも宗方くんがアリアさんだと思ってレインで相談に乗ってるのは俺で……。


 ……深く考えるのはよそうか。


 俺は応援も邪魔もしないから、宗方くんが勝手に頑張ればいい。


 それでもし、アリアさんが宗方くんに乗り換えるような事があれば、少しはアリアさんに失望するかもだが、ハーレムを崩せるかも知れないからな。




 中間テストが終わった後は、体育祭の時期が近付いて来た。


 時期としては半端かもだが、そこは学校の都合で決まったのだろう。


「はい、それじゃ各自出張する種目を決めたいと思います」


 クラス委員長のケイコが教壇に立って話を進める。


 生徒会長のアリアさんが委員長もするのがいいかもって話もあったが、アリアさんはあまり他の生徒たちの出番を奪い過ぎでも悪い、とこういう場面での出番は辞退している。


 そして話し合いが進み、俺が出る種目は綱引きと借り物競争、そしてリレーに決まった。


 大体が女子による他薦で決まったのだが、揉めたりはしなかった。


 不必要に俺と摩擦を起こせば、同じクラスにいるアリアさんが不愉快な思いをするかも知れなくて、それが自分たちの首を絞めるだろうと理解しているからだ。


 そもそもこのクラスの構成員はアリアさんの意見が反映されたもので、男子もそういう事を理解出来る人から選ばれたというのもある。


「恭っち!今年の体育祭も楽しみだね!バッタバッタに無双してやってよ!」


 休み時間になるといつもの面子で集まり、ユウリがはしゃぎながら言う。


「うん。去年は賭けで結構稼げてた。恭一は能力の割に男子人気が低いから、男子相手になるとオッズが結構高め」


 その隣でカヨが際どい事を言う。


「カヨお前、去年そんな事をしてたのか。今年はやるなよ?捕まったら擁護出来ないからな?」


「えー。いい稼ぎなのに」


「小遣いは欲しかったら俺がやるから、どうしてもやる理由がないなら、やるな」


「……うーん。分かった」


 俺のサイフから出血はあったが、カヨは何とか納得してくれた。


「いいの?葛葉くん。そんな事して」


 俺とカヨのやり取りを見ていたケイコが心配そうに言う。


「いいさ。友達が捕まるよりはな」


 あまり健全な関係とは言えないだろうが、色々今更だからな。


 周りからしたら、カヨたちはとっくに俺が囲ってるように見えるだろう。


「そ。いずれ恭一に養って貰うつもりだから、ちょっと前倒しになるだけ」


「え……。それはちょっと……」


 カヨの堂々な逆ヒモ宣言にケイコは引き気味になるが、カヨは気にしてなさそうだ。


「ダメよ、恭一。そんな事したらこの先ずっとタカられるわ。お金を払うなら代わりに何かしら働いて貰わないと」


 が、そこでユカからNGが入った。


「むっ。女房が出て来たか」


「勝手に言ってなさい。お金も仕事もこっちで用意するから、詳しい相談は後ね」


「……仕方ない」


 カヨが不満気にするも頷く。


 最低限働くつもりはあるようで感心した。


「えっと、ユカっち?割のいいバイトならウチにも紹介して欲しいなー、なんて」


 聞いてて自分も稼ぎが欲しくなったのか、ユウリがユカに頼み込んだ。


「いいわよ。一人も二人も変わらないもの」


 ユカは簡単に受け入れるけと、個人的に人を二人も雇う金は何処で出るんだ?


 ……イチゴかアリアさんからか?


 そうなら随分と仲良くやれてるみたいだな。


「えっと、ユカ。私もいいかな?」


 自分だけ除け者にされるのを気にしたのか、ケイコも乗りかかる。


「ええ。放課後に纏めて来なさい」


 どうやら今日の放課後はプチ女子会が開かれそうだ。


 今日は生徒会の仕事も特にないのでこのまま一人暇になるのか、と思いきやスマホが通知でバイブした。


 確認すると、宗方くんからのレインメッセージだった。


『葛葉くん。ちょっと二人だけで話したい事があるけどいいかな』


 宗方くんが相談か。アリアさん絡みか?


『いいけど、時間と場所は?』


『放課後に、学校からちょっと離れた所にある路地裏でいいかな』


 学校の外を指定して来るとは、本気で周りに知られたくないみたいだな。


 場所が路地裏なのがちょっと心配になるが、せっかく頼ってくれたんだから出来る限り答えよう。


『分かった。ではその時に会おう』


 そう返信を返した放課後。


 ケイコたちの遊びの誘いを断り、約束した場所へ向かう途中。


 ふと、そこに着いたら、宗方くんが集めたゴツい人たちが待っていて、痛い目に遭いたくなければアリアさんやケイコから手を引け……とか言われるんじゃないかって想像してしまった。


 いや、まさかな。


 あの大人しそうな宗方くんがそんな事するはずないだろう。


 でも万が一そうなったら……、まあこっちも容赦しないが。


 そんなどうでもいい事を考えながら約束した場所に着くと、本当に宗方くんがコツい人たちと一緒にした。


「兄ちゃん。金持ってるだけ出せや」


「でないとその綺麗な顔がボロボロになるぜ。モデルなんだからそれは嫌だろ?」


「えっと……はは」


 って、宗方くんがカツアゲされてるじゃないか!


「お前ら!そこまでにしろ!」


 俺はカツアゲ現場に割って入りながら叫ぶ。


 その最中に、宗方くんが女性だったらこれは恋愛もののワンシーンだったかも……とどうでもいい事を思ってしまった。

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