第7話『宗方三明が挑む恋路③』
【Side.宗方三明】
初めての勉強会は、最初は勉強する空気ではなかったものの、最終的には無事に終わった。
そもそも、国光先輩が介入して来る事自体は予定通りだったけど。
次は、流れで花京院さんも勉強会に誘って自然に接する機会を増やす事。
その後は国光先輩が葛葉くんの注意を引き付けている間に、僕が花京院さんにアプローチするというのが、国光先輩が指示した作戦だった。
……だけど、それ以前に僕の成績が危険過ぎた。
え?悠翔の勉強って難し過ぎない?
今回の目標に葛葉くんより高い成績を取って花京院さんにアピールするってのもあるけど、このままじゃ無理そうなんだけど。
聞けば葛葉くんは普段上位10位前後に入ってるって言うし。
赤点すら心配している僕が勝てるのか?
僕も会社の社長で金持ちの家に生まれて出来た顔で色々得した人生暮らしてたけど、葛葉くんは家はともかく顔は僕と同じくらいに良くて、勉強も出来るとかスペックがチート過ぎない?
認めるのは悔しいけど、葛葉くんにケーちゃんを取られたのも仕方ない気すらして来た。
いや、弱気になるな。このままだと花京院さんまで取られてしまう。
とにかく今日も花京院さんとレインで会話した。
『勉強会はどうでしたか?』
『大変だったよ。僕の勉強が追いついてなくてね。このままじゃ赤点になるかも。花京院さん、もし良かったら花京院さんも勉強会に参加して勉強を見てくれない?』
つ、つい流れで誘ったけど、大丈夫か?
大丈夫だよな?普段から僕の学校生活を気にしてくれてるから。
『すみません。予定を確かめる必要がありますので、少し考えさせてください』
って即オッケーして貰えなかった。
モデルやってた経験からして、保留は大体お断りに繋がるんだけど。
希望を持って大丈夫なのか?
『でも、宗方さんなら赤点を取っても、補習や進級にあまり響かないようにしますので、心配しなくてもいいですよ』
まあ、広告塔にしようと呼んだから配慮してくれるのかな。
普段なら喜んだかもだけど、今は葛葉くんに成績で勝ちたいから、あまり喜べないかも。
『ありがとう。でもせっかく学校に通ってるんだから、勉強も頑張ってみるよ』
ただ、それを率直に伝える訳にもいかないので、取りあえず花京院さんから悪印象を受けないように無難な返事を返した。
翌朝、花京院さんから続きの返事が来た。
『すみません。私は家族が呼んでいただいた家庭教師の方に勉強を見ていただく事になりましたので、そちらの勉強会には参加出来そうにありません』
と。
やっぱ断られてしまったか。
でも理事長の孫娘だからとテストで忖度されるんじゃなくて、家庭教師に教えて貰うとしても自分で勉強するとか、花京院さんってえらいんだな。
僕も負けないように頑張らないと。
まずは国光先輩と相談しよう。
あの人は元々、僕が花京院さんにアプローチする間に葛葉くんの気を引くために勉強会の監督になったのだから。
何度も二人で相談してる所を見られると周りに誤解されるからと、あの人ともレインIDを交換してたんだ。
『花京院会長が勉強会に出なくても、私は監督を続けるわよ。風紀委員の立場もあるし、花京院会長目当てだったと周りに知られたくないから』
レインメッセージで花京院さんが勉強会に参加しない事を伝えると、国光先輩からそう返信が来た。
確かにそうかも。
国光先輩は風紀委員として教室を占領して勉強している葛葉くんたちを見張るって建前で勉強会を監督したんだ。
僕だって花京院さん狙いと知られるのは不味いから今更勉強会を抜けるのは出来ないし、それならちゃんと勉強する空気にしてくれる国光先輩がいれば助かるかな。
取りあえずは本気で成績が危ないし、学校に便宜を図って貰うと花京院さんへのアピール的に不味いから、勉強だけ頑張ろう。
それから勉強会は毎日のように開かれ、僕もモデルの仕事やアイドルデビュー準備のレッスン、親からの用事とかが無い時は出来るだけ参加した。
勉強会の途中に知った事だけど、驚くべき事にあの不真面目そうな鈴木さんや小林さんでも僕より勉強出来てた。
地味に傷付いた。
成績があの二人より下となると本気で格好つかない。
「すみません、国光先輩。ここ、教えて貰えたりしますか?」
「ええ、いいわよ」
僕は主に国光先輩に勉強を教えて貰い。
「ごめん、葛葉くん。ここ、分かる?」
「ああ、ここは……」
必要ならば葛葉くんにも頭を下げて勉強を教えて貰った。
協力関係の国光先輩はもちろんの事、葛葉くんも僕の下心は知らないから快く教えてくれた。
今ではもう可能性の低い話だけど、葛葉くんに勉強を教えて貰ってその葛葉くんに成績で勝ち、それで花京院さんに見て貰うのは葛葉くんへの裏切りになるのかな?
……いや、大丈夫なはず。
葛葉くんにはケーちゃんがいるし、花京院さんにアプローチするのも邪魔はしないって言ってたから。
そしてついに、中間テスト本番が来た。
テストの手ごたえは……凄く良かった。
もしかしたら、葛葉くんにも勝てるんじゃないかと思えるくらいに。
「えっ、中間テストの成績は順位を発表しないの?」
「そ。学期の終業式前に期末テストの結果と合わせて張り出されるよ」
しかしテスト用紙を返して貰った後、よく話相手になってくれる女子のクラスメイトに、中間テストの順位は発表されないって教えて貰った。
困ったな、それじゃあすぐに葛葉くんとの成績を比べられないけど。
ちなみに俺の中間テストの成績は、八教科全部合わせて683点だった。
平均を取ったら、一教科に85点あたり。
正直心配してた以上にいい成績で驚いた。
葛葉くんって僕よりも忙しそうであまり勉強出来なかったはずだから、これならワンチャン葛葉くんに勝てるかも。
取りあえず、もう定番となった溜まり場の教室に向かう。
「やっとテスト終わった!ねぇねぇ葛葉くん!放課後に遊びに行こうよ!」
「あなた、成績どう?私はね……」
教室に着くと中ではもう結構な人が集まっていて、テストから解放されてはしゃいでたり、成績に自身がある人たちは成績を比べたりしていた。
この空気なら、さり気なく葛葉くんの成績を聞き出せるかも?
「えー!葛葉くんって、全部で783点なの!?凄いじゃん!」
って、尋ねるよりも前に聞こえたんだけど。
え?783点?
僕よりちょうど100点多い?
「去年はテニス部の団体戦大会に出て決勝まで行ってたよね?しかも葛葉くんは全勝で」
「勉強にスポーツも出来るとか、素敵!」
そんな……、顔が良くてスポーツも勉強も出来るとか、そんなのもうチートだろ。
どうすればそこまで出来るんだ。
「いやいや、花京院さんとかには負けるよ」
おだてられた葛葉くんは手を振りながら謙遜する。
「あー、花京院さんは800点の全部満点だっけ」
え?花京院さんは800点?
どうすればそんな点取れるんだ?
「ねえ、宗方くんは成績どうなの?」
その時、隣に来ていた女子生徒が僕の成績を聞いて来た。
「え?僕?」
「うん。勉強、頑張ったよね?」
「えっと……」
僕の683点は葛葉くんや花京院さんに比べると見劣りするから、あまり教えたくない。
でも、この溜まり場で勉強会を提案したのは僕だから、自分だけ逃げるのも……。
「683点……だけど」
「すごいじゃない!勉強会を始めたばっかりの頃は分からない所だらけだったのに。葛葉くんもそう思わない?」
「ああ、本当に頑張ったな」
突然水を向けられた葛葉くんは素直に僕の成績を褒めてくれた。
まあ、葛葉くんは僕が対抗してたって知らないからね。
どうせなら花京院さんに褒められたいけど……。
チラッと見ると、花京院さんは自分のグループに囲まれて雑談をしていた。
でも学校で僕と花京院さんの繋がりは薄いのもあって、どうも僕が割り込める空気じゃない。
あーあ、早く帰って花京院さんとチャットで話したいな……。
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