第6話『テスト前の勉強会はお約束』

【Side.葛葉恭一】


「中間テスト対策の勉強会?」


 ある平日の昼休み。


 いつもの様に溜まり場と化した教室で昼飯を食べながら友達と雑談していると、そこに混ざっていた宗方くんが提案して来た。


「うん。僕がここに転校して初めてのテストだから一人じゃ不安で。お願い出来るかな?」


「いいぜ。やろうか」


 あまり悩ます受け入れた。


 俺はどちらかと言うとイチゴに勉強を教えて貰う方だが、一人でも平均点以上は難なく取れるからな。


 それに、数少ない男友達の頼みだ。あまり無下にしたくない。


「ありがとう!時間と場所だけど、放課後に図書室かこの教室とかはどうかな」


「それじゃ今日の放課後にこの教室でやるか」


 一度言葉を区切って、素知らぬ顔をするユウリとカヨを見回した。


「お前らも参加だからな」


「えー!?そりゃないよ恭っち!」


「勉強より遊びたい」


 当然の如くユウリとカヨは反発した。


「でもお前ら、前回のテストもギリギリだっただろ。今からじゃないと間に合わないぞ」


 どうせ赤点取って補習になったらその時に悲鳴を上げるだろうに。


「ちぇー。真面目なんだから」


「その代わり、おやつと飲み物奢って」


「ああ、それくらいは」


 次に、ケイコの方を向いた。


「ケ…伊藤さんはどうする?」


 つい宗方くんの前で下の名前で呼びそうな所を、慌てて言い直した。


 流石に宗方くんの前でケイコと親しそうにするのは無神経だからな。


 ケイコも分かってくれるだろう。


「……ごめん。私は……宗方くんと一緒はちょっと」


 ケイコは露骨に宗方くんを指して断った。


「………」


 それで宗方くんはちょっと傷付いたみたいに俯く。


 マジですまん。あまりきつく当たらない様に言い含めてはいたのだが。


「分かった。ケイコは抜きでだな」


「えー!?ケイコっちだけ抜けるの?」


「ズルい」


 ユウリとカヨがまた不満を表すが。


「いや、ケイコは一人でも勉強出来るからな。君たちとは信用が違うんだよ」


 俺がそう言って不満を押し込んだ。


「ぐぅ」


「ふふん」


 ユウリとカヨは悔しそうに唸る一方、ケイコは俺に信頼されてる事を誇らしげに笑う。


 ケイコも最初の頃より大分図太くなったな。


 ともかくそんな感じで、今日の放課後から勉強会の予定が組まれた。


 ただまあ、俺と宗方くんが参加するとなるとこの溜まり場に来る女子たちが大人しくいるはずもなく。


「葛葉くんと宗方くんで勉強会するの?じゃあ私も入れて!」


「私も!」


 自分も、と多くの女子が声をあげた。


「ああ、他にも参加する分には自由にしていいぞ」


 俺は学校での立ち位置の都合もあるから、来る者拒まずの姿勢で参加を受け入れたけど、こんな大人数で集まって……勉強になるのか?


 その心配は残念な事に当たった。


「なにそれ、うける!」


「でしょ?でね……」


 放課後の勉強会にて、女子たちは勉強そっちのけで雑談に時間を費やしていたのだ。


 まあ、それでも雑談するのは集まりの半分くらいで、残り半分の真面目な面子は黙々と勉強に取り組んでいるが。


 ユウリとカヨは当然の如く雑談する側だ。あいつらは後で個人的に絞って勉強させよう。


 ああ、イチゴやアリアさんやユカは先に家に帰った。彼女たちは家で勉強するだろう。


「葛葉くん、ここ教えてくれる?」


「ああ、これはな……」


「葛葉くんはどう思う?」


「あー、俺は……」


 俺は俺で勉強の質問に答えたり、雑談する女子を話を振られてその応対したりで忙しい。


 学校での俺は甘いマスクで女子に接するとキャラがもう固まってしまったから、今更お話よりも勉強しようとかお堅い事言えないんだよな。


「ねえ、宗方くん。ここが分からないんだけど」


「えっと……ごめん。僕も分からないかも」


 チラッと見ると、宗方くんも女子たちの相手で自分の勉強が進まないみたいだ。


 宗方くんも俺と似たキャラをやっているからな……。


「あなたたち!ここで何しているの!」


 そんな感じで無為に近い勉強をしていると、不意に教室のドアが開いて怒鳴り声が響いた。


 声の方を向くと、顔見知りの人がいた。


 腕に風紀委員の腕章を着け、長い髪をポニーテールに束ねた女性。


 三年生で風紀委員長をしている国光くにみつらん先輩だ。


 今の今まで態々取り上げたりする事はなかったが、俺を中心に何かと騒ぎが起こるのもあって良く顔を合わす仲だ。


 あと俺が生徒会役員で、国光先輩が風紀委員会役員という間柄で仕事で顔を合わせる事も結構ある。


「勉強会をしていたのですが。うるさくし過ぎたみたいですね。すみません」


 俺はすぐ教室の面子を代表して立ち上がり、国光先輩に謝った。


「勉強会?私にはただ集まって遊んでいる様にしか見えないけれど」


 うっ、そう言われると弱いな。


 しかし国光先輩はこちらの言い分を聞き入れてくれた。


「まあいいでしょう。百歩譲って勉強会で集まったのは信じるとして、この空気はいただけないわね」


「すみません……」


 この人に謝るのも嫌に慣れたな。


 大体が女子が俺を囲んで騒いだ所とか、嫉妬した男子に絡まれた所を国光先輩に見つかって咎められたからだけど。


「こうしましょう。私があなたたちの勉強会を監督するわ。あまり勉強から脱線しないようにね」


「えっと、それは……」


 国光先輩に入られると、女子たちの空気が重くなるのだが……。


「じゃあお願い出来ますか?実は僕、転校前の学校と勉強の進み具合が違くて分からない所が多くて……」


 そこで宗方くんが割り込んで来た。


 宗方くん、そこまで勉強の事情が切実だったのか?


「ええ。任されたわ」


 俺の意見を聞かないまま話が進み、そのまま国光先輩が加わる事になった。


「えっと……私、そろそろ帰らないと」


「私も。門限あるから」


 それで勉強会の空気が一転して真面目な感じになると、雑談していた側の女子たちは気まずそうに去って行こうとする。


「待ちなさい。あなたたちは雑談ばかりして勉強出来てないでしょ?それでテストは大丈夫なの?」


 が、それを国光先輩が引き止めて咎める。


「まあまあ。まだ初日ですから大目に見てあげてください」


 俺は国光先輩の前に立って宥めた。


「……まあいいでしょう。やる気もないのにいても邪魔だから」


 それで勉強しない女子たちは去って行き、真面目な女子たちが残って勉強会が続いた。


「じゃあ、ウチもそろそろ」


「私も」


「お前らは残れ」


 ユウリとカヨもそれに便乗して抜け出そうとしたが、俺が引き止めた。


「赤点取って補習にはなりたくないだろ?」


「ぐぬぬ」


 一言忠告すると、ユウリは悔しそうに、カヨは無言で席に座り直した。


「随分と贔屓してるのね」


 横で見てた国光先輩が感想を言う。


「……まあ、入学してからずっと付き合ってた友達ですから」


「友達ね。あの子たちとはホテルとかに行ってやることやってるって噂もあるけど、その辺どうなの?」


「ははは。事実はどうだろうと、風紀委員の国光先輩にイエスと言える訳ないじゃないですか」


 この頃、高校生でも裏でやる人は大体やっているとはいえ、不純異性交遊はバレたら普通に処分を受けるからな。


「それはそうね」


 国光先輩は納得したように頷き、話が途切れて勉強を再開した。


 勉強会の初日の成果はテスト範囲の確認と、お互いの勉強の進み具合のチェックで終わったが、初日だからこんなものだろう。


 ……宗方くんの勉強が思ってたよりも遅れてるのが心配になったが。



―――――――――――――――

 恭一視点に限定すれば割と平和な日常だったりします

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