第5話『宗方三明の挑む恋路②』

【Side.宗方三明】


「葛葉くんはケ……伊藤さんと付き合っているんじゃなくて?」


「え?いやいや、伊藤さんはただの取り巻きでしょ。一年の頃からそうだったし」


「でも……」


 この前、葛葉くんがケーちゃんを車で送ってた所を見たんだけど。


 って言えない。


 不純異性交遊でケーちゃんが突き出されてしまう。


 すでに失恋した後とはいえケーちゃんは初恋相手で幼馴染だから、振られた腹いせで告発とかみっともない真似は出来ない。


「ほら、宗方くんだってファンの子たちを冷たくあしらったりしないでしょ?そういう事よ」


 僕が口をつぐんでいると、女子は補足みたいに説明してくれた。


 ファンの女の子をつまみ食いなんてした事のない僕には、分かるようで分からない例えだったけど、一々突っ込んでられない。


「……だったらどうして、花京院さんと葛葉くんは付き合ってるって事を内緒にしているんだ?」


「それはね。今年のウチの高校、新入生や転入生が多かったでしょ?……って宗方くんも転入して来たからあんまり分からないか」


「まあ、そういう話は聞いた事あるよ」


「そうなんだ。で、新入生や転入生が多いのって大体は文化祭で有名になった葛葉くんや花京院さん目当てっぽくて、花京院さんはここの理事長の孫娘だから、学校のために内緒してるってのが通説だけど」


「なる……ほど……」


 その話は分からなくもない。


 俺だって誘われて転入したけど、葛葉くんをアイドルに勧誘する目的もあったから。


 でもそれだと、葛葉くんとケーちゃんの関係は一体?


 もしかして……二股?


 ケーちゃん、葛葉くんに騙されてる?花京院さんも?


 ……確かめた方がいいかも。


 僕はレインでケーちゃんをこっそり屋上に呼び出した。


「話って何?」


 それで屋上に来てくれたケーちゃん、凄い不機嫌そうだったが。


「えっと、葛葉くんの事だけど。裏で花京院さんと付き合ってるかもって噂があるんだけど。ケー……ケイコって二股されてない?」


「だったら何?」


「え?」


「私、花京院さんとも仲良く出来てるの。だから余計な口出ししないで」


 ええ??


 まさか……、ケーちゃんも知っていながら葛葉くんと?


「今の呼び出しだって恭一くんは知ってて送り出したんだけど、あんたが絡むと私が恭一くんに捨てられそうだから、もう私に絡まないで」


 そう言ったケーちゃんは屋上から去って行った。


 えええ……。


 僕の初恋って、二股する相手に敗れたのか?


 それだけじゃなくてその次の恋も?


 ……いや、まだ花京院さんも葛葉くんと付き合ってるって決まった訳じゃない。


 花京院さんの話も聞かないと。


 気を紛らわすついでに花京院さんを探す為、フェンス越しに屋上の下を見渡した。


 そして、今もっとも見たくない物を見てしまった。


 花京院さんが、葛葉くんと一緒に下校していたのだ。


 僕とは一緒に帰ってくれなかったのに!


 どうしてよりによって葛葉くんと!


 ……いや、よく見れば二人きりじゃなくて斎藤さんや依藤さんや葛葉くんの妹さんとも一緒に帰っている。


 あの五人は皆生徒会役員だから、その繋がりで一緒に帰ってるのかも。


 でもこのままじゃ不味い。


 僕が接触する回数を増やして花京院さんからの好感を増やそうとしたように、葛葉くんだって花京院さんと接触する回数が多い。


 だから今はどうか知らないけど将来的に花京院さんが葛葉くんの事を好きになるかも知れない。


 何とか……何とか、状況を変えないと。


「あなた、そこで何しているの?」


 その時、後ろから声を掛けられた。


 振り返ると、長い髪を一本結びで束ね、腕に風紀委員の腕章を付けた女子生徒がいた。


 ネクタイの色からして上級生だ。


「もう放課後よ。部活じゃないなら帰りなさい」


「ああ、はい。すみません」


 俺は素直に頭を下げて屋上から出ようとする。


「ちょっと待って」


 が、何故か呼び止められた。


「はい?」


「あなた。花京院会長が気になるの?」


 風紀委員の先輩は僕が見てたフェンスの向こう側を見ながら言う。


「……えっと」


 頷いていいんだろうか。


 もし「花京院会長に近付くな」とか言ったらどうしよう。


 花京院さんはこの高校の理事長の孫娘だから、そういう事を言う人がいてもおかしくなさそう。


 迷って口籠っていると、先輩が先に口を開けた。


「良かったら、手伝ってあげようか?」


 先輩が言ったのは意外な内容で、何となく、葛葉くんに重なって見えた。


 それから詳しい話をしようって事で風紀委員の委員会室に移動する事に。


 僕と先輩は向かい合って椅子に座った。


 移動中に自己紹介し合って聞いた事だが、この先輩の名前は国光くにみつらんというらしい。


「それで、僕を手伝うってどういう事ですか?」


「言葉の通りよ。あなたが花京院会長に気があるなら、付き合えるように協力してやってもいい」


 まだ乗っかっちゃダメだ。


 僕の失言を引き出す罠かも知れない。


「どうして僕が花京院さんに気があると思うんです?」


「さっき屋上から見てたじゃない」


「たまたま目に入っただけですよ」


「そう?気のせいならいいけど。でも花京院会長が葛葉副会長と裏で付き合ってるのかもっていう噂は知ってる?」


「……ええ」


 その噂が一番、今僕の心を揺さぶっているんだから。


「今はどうか知らないけど、時間が経つ程に本当の事になる可能性が上がるわよ。私の腹を探る暇なんて無いと思うけど?」


 その通り。あの二人がいつ急に付き合う事になってもおかしくない。


「でも、どうして国光先輩が手伝ってくれるんですか?」


「それはね。私は花京院会長が嫌いなのよ。だから彼氏でも作って弱点でも作らせればいいと思っているの」


「そうですか」


 僕は花京院さんが好きなのに、この人は嫌いなのか。


 なら将来的に、この人は僕と争う関係になるかも知れない。


 でもそれは僕が花京院さんと付き合えたらの話。


 この高校に転校して来た僕には味方が少ないから、期間限定だとしても味方は欲しい。


「……分かりました。手伝ってください」


「契約成立ね」


 結局僕は国光先輩と手を組む事を決め、その文字通り握手を交わした。


「それで、これからどうするんですか?」


「そうね。……あなた、葛葉副会長とは仲いいかしら」


「えっと……それなりにですね」


 僕としてはケーちゃんと花京院さんの両方と仲がいい葛葉くんに色々思う所があるが。


 面と向かって喧嘩した事はないから、葛葉くんは僕の内心については知らないはず。


「それじゃあ、そろそろ中間テストも近いから、それを口実に葛葉副会長を勉強会に誘いなさい」


 国光先輩はビシッと立てた指を僕に突きつけてそう指示して来た。


―――――――――――――――

 国光先輩、実は一年の文化祭の頃からずっと出す予定はあったのにタイミングが無かったキャラだったりします

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