第4話『宗方三明の挑む恋路①』

【side.宗方三明】


『今日も相談に乗ってくれてありがとう』


『いえ。これくらいの事で宗方さんの学校生活の手助けになるのなら』


 幼馴染のケーちゃんへの初恋にやぶれた所で花京院さんに声を掛けられて以来、今日も今日とて僕は花京院さんとレインでチャットを交わしている。


 僕を悠翔高校に招いたのは自分だからと、僕が学校生活を嫌いにならないように気に掛けてるらしい。


 だから落ち込んでいた僕を見て相談があればいつでも、と僕とレインIDを交換したのだ。


 実際に夜の空いた時間にメッセージを送ると、用事があったりしなければほぼ毎回返事をくれてた。


 そして今ではほぼ毎日の夜に花京院さんとチャットを交わすのが僕の新しい日課で、癒しだ。


 もっと仲良くなりたくて学校で声を掛けたり、放課後の遊びに誘ったりもしたけど、それらは「お互い噂になったら困る立場だから」と避けられているけど。


 僕としてもケーちゃんに失恋してすぐ相手を変えるように見せては周りに不信感を持たせるだろうから、今はまだ我慢だ。


「葛葉くん、この前はごめん!僕が言い過ぎた!」


 それより前に、僕は葛葉くんを呼び出して、この前に色々言った事を謝った。


「いや、あれは俺も色々無神経だったから、気にしないでくれ」


 幸い、葛葉くんは快く許してくれて仲直り出来た。


 実は謝った理由は反省したから、ってだけじゃないけど。


 花京院さんは葛葉くんのいる溜まり場の教室にいる事が多い。


 葛葉くんがクラスからファンの女子たちを連れて溜まり場に行くと、クラスの教室には女子が少数しか残らなくなるので、それに居心地の悪さを感じた残りの女子たちも全員溜まり場に行くんだとか。


 花京院さんも例外なく。


 だから葛葉くんに思う所はあるけど、彼とは仲良いままこの溜まり場に来れるようにして、花京院さんとの接触機会を増やした方がいいと思ったからだ。


 ……まさか、花京院さんも葛葉くんと付き合って……じゃなくて。


 葛葉くんは花京院さんとも仲良いとか、そんな理不尽で不公平な話、無いよな?


「あの、葛葉くん。ちょっとお願いがあるんだけど」


「ん?何だ。出来る限り力になるぞ」


「えっと。実はあの後色々あって、花京院さんが好きになったんだ。だからその……花京院さんと付き合える様に手伝って欲しい」


 でも不安だったので、葛葉くんと廊下で二人きりになった時に、探りのつもりでそうお願いした。


 葛葉くんはもうケーちゃんと付き合ってるし、その事で僕に負い目もあるだろうから、手伝わない理由は無いはず。


「……すまん。それは手伝えない」


 なのに葛葉くんは顔色を変えて断った。


「どうして?」


「理由は言えないが、手伝えない。……邪魔はしないから、自分で頑張るか他を当たってくれ」


「……分かった」


 凄く怪しいけど、あまり突っ込んでも藪蛇になりそうだったので引き下がった。


 取りあえず邪魔はしないって言ったから、それを信じよう。




「三明。次の週末に花京院さんとの会食の予定がある。お前も参加しろ」


 夕方の家で。


 部屋で次の日の準備をしていると、父さんが来てそう言った。


「急だけど、どうして僕も?」


「花京院家の経営する会社の一つと契約を結んだついでに会食をする事になってな。もし向こうからもお嬢さんのアリアさんが来たら、お前らは歳も同じだから流れで交際や婚約の話もでるかも知れないだろ」


 ああ、そういえば父さんは僕を資産家の孫娘の花京院さんとくっつけて会社をもっと大きくしようとしてたんだっけ。


 ちょっと前なら余計なお世話だと言ったかもだけど、今となっては素直にありがたい。


 花京院さんも僕みたいに親の意向で僕とくっつけられるかも知れないし、それをきっかけに花京院さんと仲良くして、そのまま付き合ったりも出来るかも知れないから。


 週末は……モデルの仕事が入ってたけど、事務所に頭を下げてキャンセルしよう。


 言っちゃ悪いけど、モデルの仕事よりは家と恋愛の方が大事だから。


 そして週末、僕は気合を入れて父さんたちの会食に参加したけど。


 花京院さんは来てなかった。


 正確に言うと、父親の花京院利幸としゆきさんは来てたけど、娘のアリアさんは来てなかったんだ。


「花京院さん。こちらは息子の三明です。将来的にお世話なる事もあるかと思い紹介しようと連れて来ました」


「よろしくお願いします」


 父さんの紹介の続いて僕は頭を下げる。


「ええ。確か三明くんはウチの悠翔高校に転入してましたね。こちらこそよろしく」


 利幸さんは穏やかな物腰で挨拶を返して来た。


「所で花京院さん。お嬢さんは来ていないのですか?」


「娘は他に予定があったので連れて来ませんでした。あまりこういう場に連れ回しても嫌われるでしょうから」


 そうか。少なくとも利幸さんは父さんみたいに花京院さんを僕とくっつける気はないのか。


「そうですか。所でウチの三明と、そちらのお嬢さんは歳も同じで、高校も同じ所に通っているんです」


 それに気付かないでか、気付いた上であえてなのか、父さんは更に切り込んで行った。


「どうですか?ウチの三明と花京院さんの所のアリアさんを交際させてみるのは?三明はこれでも現役でモデルをやっていて、甲斐性も人気もあるんですよ」


「そのようですね。しかし結構です。ウチの娘にはもう相手を決めてますので」


 が、呆気なく断られた。


「え……?」


 父さんが間抜けな声を出したけど、僕も意外だった。


 花京院さんにもう相手がいる?


 しかも父親の利幸さんが認知していて?


 それが利幸さんが決めた政略結婚の相手なのか、それとも恋愛相手だけど利幸さんが認めた相手なのかは分からない。


 でも僕が花京院さんと付き合うのに大きい障壁になるだろうとは簡単に理解出来た。


「そうですか。それは残念です。話は変わりますが……」


 父さんはそれ以上僕を利幸さんに勧めたりせず、当たり障りのない話題でその場を誤魔化した。


 でも帰り道の車で。


「三明。花京院アリアさんの相手が誰か、学校で調べ上げろ」


 運転席に座っている父さんは助手席に座っている僕に言って来た。


「どうしてそんな事を?」


「決まってる。相手の粗探しをして引き剥がすんだよ。そうしたら、お前が付け入る機会も出来る」


「それは……」


 ちょっとどうかと思う。


 でも花京院さんが悪い相手と結婚させられるくらいなら……。


「分かった。やってみるよ」


 そう思い、僕は父さんに頷いて返した。




 週明けの学校にて。


 僕は情報収集のため、昼休み時間に葛葉くんたちがいる溜まり場に向かった。


 あそこには花京院さんの友達も多いから、何かしらの情報を得られるかもと思って。


 なのに、別の情報を知ってしまった。


「見てこれ!葛葉くんが出てるの!」


「本当だ!葛葉くんって、モデルの仕事辞めてなかったっけ?」


「ちょっとした事情で特別に出たらしいよ」


「そうなんだ。私も帰りに買おうかな」


 女子たちが盛り上がってるあの雑誌って、僕が仕事をキャンセルしたネット雑誌だよな?


 葛葉くんが代わりに出てたのか。


 僕が出なくなったネット雑誌を見て女子たちが盛り上がるとか、ちょっと複雑だけど仕方ないか。


 そんな事よりも聞き込みを始めよう。


 僕は溜まり場にいながら葛葉くんに興味を示さない、教室から非難しただけに見える女子に声を掛ける。


「ねえ。ちょっといいかな」


「ん?宗方くん?どうしたの?」


「ちょっと知りたい事があって。えっと、花京院さんの事だけど、誰と付き合っているとか、そういう話聞いた事ある?」


「それって……」


 その女子は戸惑いながら同じ教室の離れた所にいる花京院さんと……葛葉くんを見回してから僕に向き直り、小声で返事した。


「……公言してる訳じゃないけど、裏で葛葉くんと付き合っているんじゃない?多分」


「え?」


 何でそこでまた葛葉くんの名前が?

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