第22話『IF・もし〇〇が歪む事が無かったら』

 俺の名前は葛葉くずは恭一きょういち


 今年高校一年になる普通……よりは人気のある男子高校生だ。


 そして俺には幼馴染で恋人の女の子がいる。


 彼女の名前は依藤よりふじイチゴ


 丸眼鏡に三つ編みお下げの女の子で、周りには地味だとか言われてるけど、俺にとっては最高の彼女だ。


 何と言ったって、子供の頃から玩具とか勉強とか美容とか全部イチゴの世話になったからな。


 中学生になると周りも色気付き始めて、誰々は顔がいいとか、背が高いとか、運動が出来るとかで持てはやしてた。


 そして顔が良くて、背も高くて、運動に勉強も出来る俺は大層モテた。


 ただ、中学校では俺とイチゴが付き合っているのを隠している。


 イチゴは小学生の頃に嫉妬した女子たちにイジメられた事があるから、またイジメられるのが怖いから隠して欲しいとお願いされて、俺としてもイチゴがまたイジメられるのは嫌だったから受け入れた。


 しかしその所為か俺はフリー扱いされて色んな女子に告白された。


 俺はイチゴの事を隠して恋愛に興味ないと言って全部断ったけど、それでは納得してくれない子もいて大変だった。


 結局は他の中学に付き合っている子がいる設定を作って逃れる事にしたが。


「ねえ葛葉くん。この写真は何かな?」


 それも虚しく、同じクラスの田中さんにイチゴとデートしてる所を見つかって写真を取られてしまった。


「この写真をバラ撒いたら、嫉妬した女子たちが依藤さんをイジメるかもねー。それが嫌なら、私とデートしてくれない?」


 田中さんはそう要求して来た。


「……断る!」


 が、俺はそれを突っぱねた。


 脅されたとしても浮気するくらいなら、俺はイチゴと付き合っていると明かしてイチゴを守る!


 俺に振られた田中さんは逆上して写真をバラ撒き、率先してイチゴをイジメようとした。


 ……が、実際にイチゴがイジメに晒される事はなかった。


 校内に出来た俺のファンの女子たちがイチゴの友達になって守ってくれたのだ。


 ただ、純粋に善意だけでやってくれたとは思えなかったので、どうしてなのか女子の何人かに聞いてみた。


 すると、


「え?依藤さんっていい子だけど、結局見た目で葛葉くんと釣り合いが取れてないからね。いつかは飽きられて別れるかもだし、その間の好感度稼ぎのつもり……の子もいるらしいよ」


 というあまり嬉しくない情報を聞いた。


 ……まあ、期待するだけなら勝手かな。


 後で話が違うって言い出してイチゴをイジメないように目を光らせるが。


 でもそれは杞憂で終わり、俺とイチゴは無事中学を卒業した。


 進学先は都内にある偏差値高めの公立高校に決めた。


 イチゴはびっくりするくらい頭がいいし、俺もそんなイチゴに勉強を教えて貰ったから成績に不安はなかった。


 そして高1の夏休みのある日。


 イチゴと買い物を兼ねたデートをしようと公園前で待ち合わせしてたら……。


「この人が私の恋人です!ですからもう消えてくらだい!」


 そんな言葉と共に、知らない女性が俺の腕に抱き付いて来た。


 緑色の目に金色の髪の、日本人には見えない特徴を持った女性だった。


 歳は……多分俺と近いか?


 そして女性を追うように知らない男が来た。


「花京院さん。その人って、彼氏じゃなくて今会ったばかりの人だよね?」


 その通り。


 まあ、察するにこの花京院さんって呼ばれた金髪の人が、目の前の男のナンパから逃れようと俺に彼氏役を押し付けたんだろう。


 はっきり言って迷惑な話だ。


「そんな事、あなたに証明する必要無いじゃないですか。私たち、これからデートですので行きますね」


 花京院さんは一方的に話を断ち切って俺を連れ出そうとする。


 ……って、勝手に連れ出すな!


 俺はここでイチゴと待ち合わせしているんだぞ!


「すみません。俺、他に彼女がいてその子と待ち合わせしているので、こういうのは止めてください」


 花京院さんって女性を押し退けながら、俺はキッパリと言った。


「え?」


 拒まれるとは思わなかったのか、花京院さんが間抜けな声を出す。


「ほら!彼氏じゃないじゃないか。一人なら俺とお茶しに行こうよ」


 それを見たナンパ男は得意気な顔になって花京院さんを誘う。


「きょーくん、お待たせ!……ん?どういう状況なの?」


 その時、イチゴが到着して俺たちを見回した。


 花京院さんはイチゴの顔を見た瞬間、何か思い付いた顔でナンパ男に言う。


「見てください!あの地味な人と私。どっちがこの人の恋人に見えますか!」


「それは……ごめん。確かに花京院さんの方が釣り合っているよ」


「……え?」


 ……すぞ。


 部外者が好き勝手言いやがって!


 イチゴが傷付いたじゃないが!


 証拠も残らず、俺を特定出来ない方法で闇討ちしてやろうか!


 ……ふう、落ち着こう。


 そんな事実際に言ったり実行する訳にはいかないからな。


「……あんたたちがなんて言おうと、この子が俺の恋人です。じゃあ行こう」


 俺は部外者二人を放っておいて、イチゴを連れてその場を去った。


「あっ、ちょっと待ってください!」


「花京院さん!?待って!」


 が、その二人も俺たちをついて来て、結局揉めに揉めてお巡りさんに見つかり交番まで行く事になった。


 そこで取り調べを受ける時に知ったが、金髪の女性の名前は花京院アリア。ナンパ男の名前は長岡修二。


 どっちもちょっと有名な私立高校の生徒で、長岡くんが花京院さんを一方的に知っていてしつこく声を掛けて、俺を見つけた花京院さんがナンパ避けに巻き込んだ……というのが今回の事情らしい。


 本当に迷惑な話だ。


 おかげでイチゴとのデートが流れてしまったじゃないか。


 それで巻き込まれた俺とイチゴはともかく、花京院さんと長岡くんはお巡りさんに注意(特に長岡に厳しく)して解散となった。


「あの、今回はすみませんでした。でもこの事でしつこかったあの男を学校からも追い出せます。このお詫びとお礼で食事でも……」


 去り際、花京院さんがそんな事を言って来たが。


「いえ、結構です。彼女が誤解しますので」


 言葉通りの理由で即断った。


「それですか。こう言っては何ですが、私の方があの人よりも顔も綺麗で家柄も良いので、あなたにお似合いだと思いませんか?」


 …ろすぞ。


 何勝手にイチゴの事を見下していやがる。


 そもそも、あんたが逆ナンしてどうすんだよ。


「いいえ。あなたには興味ありませんので」


 俺はキッパリ断って花京院さんと別れた。


 しかしその後も度々、花京院さんが現れて俺をお茶や食事、映画などに誘ったりした。


 どうにもあの一件で俺が気に入られたらしい。


 もちろん全部断った。


 それでも花京院さんはしつこく絡んで来て、果てには花京院さんの祖父が理事長をしている私立高校に学費免除の特待生として俺だけ誘われたりもしたが、当然断った。


 あまりにもしつこいので警察にも相談してみたが、ストーカーも男と女では対応に差がある。


(こんな綺麗な人に迫られて何が不満なんだ?)と言われたりはしなかったももの、ほぼそう言いそうな感じで警察はあまり真面目に取り合わず、花京院さんへの対応は注意に留まるばかりだった。


 結局俺は別の行動に出る事にした。


「なあ、花京院さん。俺を君の両親に紹介してくれないか」


「!ついに気持ちを変えたのですね!分かりました。今日すぐにでも!」


 俺の申し出を受け入れた花京院さんは、そのまま俺を花京院さんの家に招き入れて両親に紹介された。


 何か勘違いしているが、まあそっちの方が都合がいいので指摘しなかった。


「それで、ウチの娘とはどういう関係なんだい?」


 そして紹介された花京院さんの親父さんに睨まれたが。


「実が自分、すでに恋人がいるのにそちらの娘さんにストーカーされてまして」


「ん?」


「え?」


 俺の言葉が予想とは違ったのか、花京院親子は首を傾げる。


 そのまま俺は今まで花京院さんにされて来た迷惑行為について花京院さんの親父さんに説明した。


 真顔になった親父さんは俺と花京院さんの顔を見比べて、俺の話が信用に足ると判断したようだ。


「すまない葛葉くん。ウチの娘が迷惑を掛けたね。これからはこんな事ない様にするるし、何なら慰謝料も出すので許してくれないか」


 結果、俺の要求は受け入れられ、親父さんに頭まで下げられてしまった。


 慰謝料については、まだそこまで実害があった訳でもないので断った。


 それでもう花京院さんが俺に付きまとう事はなくなった。


「恭一さん!どうしてー!」


 最後、花京院さんがすがりつく様に叫んだが、どうでもいいか。


「良かったの?きょーくん。あの花京院さん、私よりもいい物件だったのに」


 ただ、イチゴは俺が後悔していないか不安だったみたいでそんな事を聞いて来た。


「いいさ。俺はイチゴさえいれば十分だから」


「……うん。ありがと」


「お礼なんか言わないでくれ。当然の事をしただけだから」


 そして俺とイチゴは、口付けを交わしてお互いの気持ちを確かめた。




 それから少しずつだがイチゴは自分の外見を磨き始め、高校三年生になる頃には俺と並んでも見劣りしないほどの美人になった。


 それで俺とイチゴは誰もが羨む公認カップルになり、そのまま無事に高校を卒業した。


 大学も勿論同じ大学に進学し、その時に合わせて近くの部屋を借りて同棲する予定だ。


 ちょっと喧嘩したりすれ違ったりする事はあったが、大体どっちかが酷くなる前に謝り両成敗にして破局する事は無かった。


 綺麗になったイチゴが他の男に言い寄られて浮気する事もなければ、俺が他の女に浮気する事も無かった。


 ましてや、イチゴが他の女を誘って俺に浮気させる事など断じて無い。


 俺もイチゴもお互いにずっと一途でいる。


 俺は幸せ者だ。


 もしこの人生が夢だとしても、どうか覚めないでくれ。


―――――――――――――――

 負けヒロインになるアリアや、そもそも恭一の前に現れない他のヒロインたちはともかく、恭一には(多分イチゴにも)優しい世界線でした


 今回の間章はここまでです

 その次からの更新は、間章の一部だった宗方くんの話を中編の長さにしてお送りします

 以上諸々、よろしくお願いします

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