第21話『リナはシンデレラ気分』

【Side.リナ】


 あたしはなが……ううん、葛葉くずは理奈りな


 今年、高校一年生になる女の子!


 そんなあたしには他の人とは違う所がある。


 それは……葛葉恭一という凄いイケメンでハイスペックでお金持ちの義理のお兄さんがいるという事!


 もう本当に色々凄いんだから!


 中学までは家が貧乏で色々ひもじい思いをしながら行きたい高校に行けるのかも不安だったけど。


 ある日突然親戚の葛葉家の人が私を引き取って代わりに育てるって言ってくれた。


 それからはもう、恭一兄さんやその彼女さんたちに可愛がられて私もちょっとだけお金持ちの仲間入り。


 シンデレラになったみたい!


 あっそうそう。


 恭一兄さんって彼女さんが沢山いる。


 ちょっと爛れてそうだけど、兄さんほどのイケメンならそれくらい当然だよね。


「葛葉さん!お兄さんに私の事を紹介して欲しいの」


「俺は花京院会長に紹介して欲しい!」


 そんな凄い人たちに囲まれて、あたしも当然注目されている。


 あくまでも葛葉恭一の妹やアリア先輩が可愛がる後輩としてだけど。


 兄さんたちに比べたらあたしなんて何の取り柄もない普通の女の子だけど、幸いか入試で首席を取ったから「妹の方は大した事ない」とかは言われてない。


 それだけじゃなくて、入学して間もなくアリア先輩から生徒会庶務に任命された。


 そして生徒会でアリア先輩より下級生はあたしだけで、兄の恭一兄さんが副会長で、普段からアリア先輩から露骨に可愛がられている事もあって、もしかしたら葛葉リナが次の生徒会長?って一目置かれてたりもしている。


「葛葉さん!好きです!付き合ってください!」


 ある日。


 あたしは教室の机に入ってた手紙で屋上に呼び出され、クラスメイトの男子に告白された。


 沢山注目された影響であたしもそれなりに人気になったみたい。


「ごめんなさい。あなたとは付き合えないの」


「そんな……どうして!?」


 当然断ったけど、男子は食い下がって来た。


「どうしてって……。あなたとはただのクラスメイトだし、あたしは他に好きな人がいるから」


「くっ……。それでも、俺は諦めないから!」


 その場はそれでお開きになったが、その男子はそれからも教室とかであたしにしつこくアピールして来て……。


「ちょっと!葛葉さんが迷惑してるのが分からないの!?」


「これだから男子は!」


 結果、見ていた女子たちに怒られてクラスで吊るされた。


 主にあたしを通して兄さんやアリア先輩と仲良くしたい子たちで作られた取り巻き?みたいなグループだけど。


 それがここで役に立ってくれるなんて思わなかった。


 兄さんやアリア先輩曰く、「理由は何であれ好意的に接して来る内は無下に扱う事もない」らしいので、あたしも無難に相手していたけど。


 やっぱり、人気者の先輩たちの言う事は正しかったんだ。


「ねえ、葛葉さんは誰が好きなの?」


 あの事があった後のある日の教室にて。クラスメイトの女子との雑談の最中にそんな事を聞かれた。


「むっ、ごほっごほっ」


 唐突でむせかけたけど。


「……えっ、あたしが好きな人?」


「そう。いるなら誰なのか気になって」


 これって、あたしとターゲットが被らないようにする探りだよね?


 あたしが好きな人って言えば……兄さんだけど。


「えっと……」


 流石に言えないよね。


「まさか葛葉先輩だとか言わないよね?」


 って言われてるし!


 いや、牽制かな?


「まさか!兄妹じゃない!」


 あたしが何か言う前に、他の女子が言い返す。


 外堀埋めに来たのかな。


 まあ、あたしと兄さんが義理の兄妹だという事は内緒にしてるから、当然の事を言ったのかも知れないけど。


 何故内緒にしてるのかと言えば、あたしもこの子たちのライバルになり得ると知られたら手の平返されたり、牽制が強くなるのが怖いから。


「えっと……まあ……、特にいないかな。どうしても兄さんと比べてしまうから……」


 なので誤魔化すように答えた。


「それもそうか。葛葉先輩みたいな人って、そうそういないもんね」


「あっ、私は葛葉先輩もいいけど宗方先輩が気になるかも」


 それでクラスメイトの女子たちは納得して取り留めのない話を続けた。


 まあ、色々事情があってこの高校に通ってる内は堂々の兄さんと付き合うのは出来ないけど。


 その代わり、夜には……ふふふ……。




「ねえ、リナちゃん。Ⅴ《バーチャル》ライバーやってみない?」


 ある日。イチゴ姉さんが私にそう提案して来た。


「Ⅴライバー……ですか?」


 Ⅴライバーが何かは知っている。


 でも何故それをイチゴ姉さんが?


「実はこの前きょーくんにⅤライバー用のキャラデザインをお願いして、私がそれの2DLiveモデルを作ったの。それでせっかくだから、最初は知り合いに使って欲しくて。あっ、機材とかはこっちで用意するから安心して」


「ぜひ!やらせてください!」


 少しでも自慢出来るものが欲しかったし、他でもない兄さんと姉さんの支援のある話だったので、あたしは一も二もなく頷いた。


 その後、デビューの準備が整うまでの間、あたしは姉さんからⅤライバーとしての必要な素養やNGな言動についてのレクチャーを受けて、


『えーと。初めまして。この度Ⅴライバーになった一葉リリです。ご存知の方もいらっしゃるかもですけど、ネット配信者の葛葉恭一さんがデザインして下さったキャラですが、ちょっとした伝手で、それを使ってデビューさせていただきました。よろしくお願いします』


 ついにあたしはⅤライバーの一葉リリとしてデビューした。


 一葉リリは明るい茶色の癖っ毛を肩の下まで伸ばしたキャラで、もしかして最初から狙って?と思うくらいに私に似てた。


「リナちゃん!一葉リリの登録者数、あっという間に十万人を突破したよ。やったね!」


 そして一葉リリは……あたしが思ってた以上に人気になった。


「えええ!!!」


 これにはカラクリがあって、実はネット配信者もやっている兄さんが一葉リリのデザインを配信で一からやってたのだ。


 それで兄さんのファンを通して事前PRみたいな効果が出てたみたい。


「葛葉さん!配信見たよ。流石葛葉先輩の妹だね!」


「ちょっと!葛葉さんが一葉リリだっては秘密って言っただろ!」


 それだけじゃなくて、一葉リリの中身があたしだっていうのもバレてしまった。


 兄さんのファンであたしを知っている人が声が同じだと察したらしい。


 Ⅴライバーの中身はあって無いような物という暗黙の了解があるから、面と向かってあたしを一葉リリと扱う人は少ないけど。


 学校であたしを一葉リリとしても扱うのは、その辺の暗黙の了解を知らない一部の生徒だけ。


 とにかく、何の特技もなくただ妹分として見られるだけだったけど、あたしにもやっと胸を張れる物が出来た。


 でも事はそれだけでは終わらず……。


「えええっ!?二葉ヒカリってトモリちゃんなの!?」


 あたしより後にデビューした二葉ヒカリってⅤライバーが炎上してたのでちょっと調べてみると、その中身が島川トモリちゃんで、彼女がアイドルデビューして間もなく犯罪に手を出して引退した履歴を晒されて叩かれていた。


 確かに二葉ヒカリの声を聞き直すと、トモリちゃんの声の良く似ていたし、ネットでもそれなりの根拠があってトモリちゃんだって断定しているんだろう。


 でも……あたし、一葉リリとして二葉ヒカリと姉妹コラボする予定、取ってしまったんだけど。


 正直、あたしとしてもトモリちゃんがやった事は許せない……けど。


 兄さんと付き合いたい気持ちでやったことだから、少しは理解出来なくもない。


 つまり、あたしがトモリちゃんに抱いてる気持ちは結構複雑。


 そんなトモリちゃんと仲良く……じゃなくて。


 上手くやれるのかな?


 そんな不安を抱いていざコラボ本番に望むと……。


『きゃあああっ!ヒカリちゃん、何で酷い事するの!?』


『リリちゃん。実はこのゲーム。巷では友情破壊ゲームって呼ばれてるんだよねー』


『どうして初コラボでそんなゲーム選んだの!?あたしの事嫌い?』


『ううん。姉妹だし、大好きだよ?』


 悩む暇もなくトモリちゃん……じゃない、ヒカリちゃんに振り回されてしまった。


 コラボの反応は概ね好評だったけど。


 もしかしたらあたしの複雑な気持ちに気付いて、気を遣ってくれたのかも?


 そう思うと、デビューしてすぐ引退したとはいえ、元アイドルのプロって凄いなーと。


 ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ感心した。


―――――――――――――――

 まとまりのない感じになりましたが、今のリナの日常はこんな感じです

 次は絶対にありえない、手遅れなIFのお話になります

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