第20話『気付けば沼の中』
【Side.ユカ】
最初、アリアがユウリを、イチゴがカヨを恭一のハーレムに引き込んで、それに対抗するように私もケイコを引き込み三つの派閥が出来そうな流れだったけど。
引き込んだ人数があの二人と人数が同じだと私の強みが無いから、私は頑張ってユウリとカヨを自分の方に取り込んだ。
形としては、アリアやイチゴだけじゃなくて私とも仲良くして、もし私があの二人と喧嘩する時には中立でいて欲しいと言ってね。
まだ本格的に派閥が作られる前で、ユウリやカヨは別に喧嘩しながら恭一を取り合いたいとは思わなかったので、思ったより簡単に取り込めたわ。
「ユカっち!昨日教えた新作アニメはどうだった?」
HR前の教室にて、登校して来たユウリが声を掛けて来た。
「まあまあ面白かったわよ」
私はユウリを取り込む作戦として、共通の趣味で仲良くなる方法を選んでいたわ。
幸い、ユウリはアニメオタクな趣味があって好き嫌いを把握しやすかったからというのもあるから。
「そうなんだ。ウチ的には、あのアニメのヒロインはユカっちに似てると思ってるんだけど」
「はあ?どこがよ」
「そこ!そのツンデレみたいな口振りとか、ツインテールの髪型とか、あと、おっぱいが大きい所!」
「色々言い返したい所だけど、最後のはセクハラだからね?」
「あちゃ、ユカっちはツンデレじゃなくてただの辛辣だったかー」
随分と好き勝手言ってくれてるわね。
まあ、親しみの証として許してあげるけど。
「じゃあ今日の放課後にさ。二人でどっかで感想会しない?」
「いいわよ。今日は暇だからね」
流れのまま放課後の予定を決め、私とユウリは放課後に約束通り適当なカフェで最近のアニメの事で色んな感想を交わした。
アニメとかあまり趣味じゃないけど、昔幼馴染が好きだった物を理解しようとしてあれこれ見てた過去もあって、結構スムーズにユウリとも打ち解けられた。
……皮肉な事にね。
「そういえばユウリあんた、オタクな後輩を振ったらしいわね」
「ん?……ああ、あの子の事?それがどうかしたん?」
「ちょっと気になってね。彼氏作らない割には、恭一とは友達止まりで進展しようとも見えないから」
「ほほ~。マダムは旦那さんの女の動向が気になりますか~」
「茶化さないで。私、その呼び方好きじゃないから」
つい、目に力が入ってしまった。
「怖い怖い。えっと、恭っちとどうなりたいだったかだっけ。……まあ、高校卒業までは今みたいな感じで一緒に遊んだり奢って貰ったりして、卒業した後はその時の状況を見て考える……って感じかな?」
「それって、考えてないのと一緒じゃない」
「あはは……。そうかも。正直、恭っち程のイケメンに奢って貰ったり、イロイロと遊んで貰ったりしてるアニメみたいな事、いつまでも続くと思えないからね。だから今だけ、ゆる~く夢見ていたいな~って」
確かに。
恭一って女性関係にさえ目を瞑れば、ありえないくらいハイスペックなのよね。
しかも一緒に遊ぶ女子に毎回奢ってあげられる程金も持っているし。
女性関係だって、恭一から手を出したりはしないし、女子から迫って仕方なくエッチする時も避妊を徹底するから、遊ぶだけなら凄い都合のいい相手かもね。
「それに、本気になるならユカっちやアリアっちがライバルになるけど、ウチじゃ勝てる自身が無いからね」
「じゃあ他に彼氏作らないのは?」
「そこはまあ、恭っちっておかしな所で真面目だから、私が彼氏作ると恭っちに遊んで貰えなくなりそうじゃん」
「それはそうね」
繰り返しになるけど、恭一の所に集まる女子には他に彼氏作るくらいなら、そっちに行けってルールもあるから。
「ウチもカヨっちほどじゃないけど、恭っちに奢って貰えて小遣いが浮いてるのに色々助かってるから、距離置かれるとキツイのよねー」
ユウリはオブラートに包んで言っているけど、詰まる所は恭一を都合のいい遊び相手として扱っているのよね。
今更過ぎで咎められないけど。
「とまあ、ウチはこんな感じだから、これからもよろしくという事で一つ!」
ユウリは両手を合わせてこっちの顔色を伺って来る。
実際、私の意思一つで恭一のハーレムにおけるユウリの扱いを決められるかも知れないのよね。
気持ちを言えば、ユウリとの体の関係は断って欲しいと思っているけど、今は一人でも仲間が欲しいからそんな事出来ないのよね。
「……分かったわ。でも恭一を都合よく扱うのが度を過ぎたら承知しないからね」
「うん!気を付ける!」
ユウリが調子よく答える。
それで話題か切れ、私はユウリと別れてシェアハウスに帰った。
夕食と風呂を済ませ、やる家事も無いのでリビングでのんびりしていたら、恭一が帰って来た。
そう言えば、今日は恭一がケイコやアミとデートする日だったわね。
「お帰り、恭一」
今日はちょっとダラケたい気持ちだったのでソファに座ったまま首だけ回して迎えた。
「……ああ、ただいま」
恭一はゲッソリと疲れた顔で答える。
あれは多分、ヤって来たわね。
イチゴが恭一のスマホに入れた盗聴アプリで、デートがどんな感じだったかイチゴに聞けば知れるはず。
私はアリアやイチゴとは違うから、恭一が他の女とどんな事してたのか掘り下げる気はあまりないけど、一応恋人としてチェックするべきかしら。
「疲れてそうね。風呂はすぐに入れるけど、ご飯はどうするの?」
「……飯は食べて来たから、風呂だけにするよ」
元気のない声で答えた恭一はバスルームに向かって歩き出し、途中で足を止めてこっちを向いた。
「……なあユカ。俺たち……いや、俺の女性関係は本当に色々あったから今更な事が多いけど、今日みたいなドッキリは勘弁してくれ。アミとケイコがプチ修羅場になって気まずかったから」
それだけ言い残して、恭一は再びバスルームに向かう。
これは……失敗したわね。
女子同士の相性について完全に失念していたわ。
ただでさえ女性関係でツラい思いをしている恭一を更に苦しめるなんて。
アリアに知られたらしばらくマウント取られるわね。
それだけじゃなくて、恭一からも心の距離が遠ざかった気がする。
長期的にアリアやイチゴを押し退けて好感度を上げる作戦だったのに!
「はぁ……」
自己嫌悪でため息が出てしまう。
謝っても……意味ないわね。
もう過ぎた事だし、これからどうして欲しいのかも言われちゃったから。
それで私はしばらく悶々とした気持ちのまま時間を過ごす事になった。
翌日の放課後。
今度はカヨの相手をするためにあるアパートの部屋で会う事になった。
恭一が掴まらなかった代わりに私が呼ばれた訳。
この部屋だけど、元々は恭一が一人暮らししてた時に使ってた部屋らしい。
何でも、いつ突然あのシェアハウスを出る事になっても大丈夫なように契約を残してるとか。
そしてプチ家出したカヨにここを紹介して、家に居づらい時に自由に使っていいと言ったとも聞いた。
その繋がりで私も恭一にここを使う許可を貰って、ここをちょっとした溜まり場に使わせて貰ってる……けど……。
「はあ……」
私は前回の失敗からまだ立ち直れずにいた。
横で携帯ゲーム機であそんでいたカヨが、そんな私を見て眉をしかめた。
「ユカ、ため息ウザイ」
「んなっ」
この子は……、自分から私を呼んだ癖に、言う事に遠慮が無いわね。
「恭一と喧嘩でもした?」
「喧嘩……ではないわね。私が悪かったという事で済んだ話だから」
そして今回の事でまだ恭一から嫌われてはいない……と思いたいけど。
分からない。
恭一ってアリアの彼氏しながら、内心ではアリアを嫌ったりしてるから。
ひょっとしたら私ももう手遅れなのかも。
そう思うと、先の事が恐ろしく思えてしまう。
「ユカって、大分贅沢な事言ってる」
「は?」
そんな私に、カヨは冷や水を掛けるような言葉を投げ掛けた。
「ユカは私たちより半年も遅く恭一と出会ったのに、私たちよりも早く恭一の隣に居座った。その上にもう恭一の気持ちまで欲しがるとか、人生舐めてる」
「なっ……」
恭一に集って人生舐めてそうなカヨに言われるなんて……。
でも確かに、今の私ってバカな幼馴染に失恋した事以外、もっといい彼氏が出来たり、その彼氏を共有する相手に引き上げられる形で金持ちみたいな暮らしをしていたりと、他所から見ると大分贅沢な状況だったりする。
だからって恋愛は妥協しろというのは別の話だけど、他所からしたらそうも言いたくなるかも。
「だから何よ。私は悪い事なんてしてないわよ」
言ってすぐ、自分にブーメランが刺さる。
彼氏に他の女を宛がうのって……悪い事よね?多分。
「……羨ましい」
「え?」
「私もユカみたいに楽に恭一と仲良くなりたかった」
「……あんたね」
カヨの言葉は、純粋に恭一が好きだから出た言葉じゃないのが見え透いてて、身構えた自分がバカらしくなった。
「あまり恭一を都合良く扱わないでね」
「でも、甘えると大抵受け入れてくれるから楽」
分かる。
私も恭一本人の了承無しに彼女になったのに、それからちゃんと彼女扱いしてくれてるから。
「それでもよ。恭一にも限度はあるんだから」
この前の悪戯だって、知らない内に恭一の限界に軽く触れたのかも知れない。
本当に反省して自重しないと。
「……分かった。気を付ける」
カヨは素直に頷いてくれた。
アリアとイチゴも分かってくれるといいけど。
それからもうしばらくまったりしてから、私とカヨはそれぞれ家路についた。
「なあ、そこのかわい子ちゃん。今帰り?良かったらちょっとお茶して行かない?」
家に帰る道中、知らない男から声を掛けられた。
如何にも遊び慣れてる感じで、これはまた直球なナンパね。
「結構よ。私、彼氏いるから」
「そんな事言わずにさ。ちょっとお茶するだけなら彼氏もうるさく言わないって」
「それはあんたが決める事じゃないでしょ。さっさと失せなさいよ」
「……っ、この。あまり舐めた事言うと痛い目を見るぞ?」
私がきつく言い返すと、ナンパ男は顔色を変えて詰め寄って来た。
身構えながら防犯ブザーを鳴らす準備をすると……。
「そこまでにしろ」
不意に現れた恭一がナンパ男の肩を掴んで止めた。
「は?誰だよてめぇは」
「そこの子の彼氏だ。喧嘩の相手が欲しいなら、俺がなってやろうか?」
しばらく恭一とナンパ男が睨み合い……。
「ちっ!」
ナンパ男は舌打ちしてから去って行った。
本気で喧嘩になるのは避けたかったのだろう。
「ふぅ。ユカ。突き放すのは分かるが、もう少し言葉を選んでくれ。一々逆上させたら君が危ない」
「心配してくれたの?」
「まあな。……一応彼氏だし、そうでなくても友達のつもりだからな」
「そう」
恭一は冷静なつもりで言ってるみたいだけど、若干照れながら自分を私の彼氏だと言ってるのが嬉しくなった。
私の事を意識していて、まだ本気で嫌いになった訳じゃないって感じられたから。
おかげでちょっとだけ不安になってた私の気持ちにまた熱が上がる。
「ふふ。じゃあ帰りましょうか」
「ああ」
私は嬉しい気持ちを隠さないまま、恭一と腕を組んで家に帰った。
シェアハウスに着いて早々、恭一と腕を組んでるのを見たアリアに睨まれたけど、別にいいでしょ。
私はいつまでもあんたたちと仲良くいる気はないから。
……と意気込んだけど。
「嘘でしょ」
後日。私はちょっと気になって、シェアハウスで使わせて貰ってるコスメやシャンプーなどの日用品や、食事の費用を私一人分だけ計算してみた。
したら、生活費がここに引っ越してくる前より数倍は跳ね上がってると知った。
「私の生活水準、上がり過ぎ……?」
これじゃあ、アリアたちを蹴落として恭一を一人占めした先が心配になる。
最近、コスメにしろ食材にしろ高い物がただ高いだけじゃないという違いも分かって来たから、もう知らなかった頃には戻れないし、安易に安物を使いたいとも思わない。
一度上がった生活水準は下げるのに苦労するって話を、身を持って実感した。
恭一の稼ぎに頼る手もあるけど、結婚前から負担を掛けたくない。
そしてこれを知った私が、アリアたちとの決別に踏み出せるのか、不安になってしまった。
―――――――――――――――
今のユカの日常はこんな感じになります
次はリナの話です
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