第18話【With恭一シミュレーション!Extra】
【Side.ユカ】
イチゴから貰ったVRゴーグルを着けて、イチゴが作ったゲームを起動する。
まさかイチゴがVRゲームも作れるとか驚いたけど、まあ今更か。
『ねえ、きょーいち。いっしょにおママゴトしてあそぼ?』
『いいよ』
ゲームは小学校低学年から始まり、私が選んだ選択肢に従ってゲームでの私は自分から恭一を遊びに誘って仲良くなった。
……って、私の過去からバカ修二を恭一にすり替えただけじゃない。
いや、修二と幼馴染だった事はもう黒歴史だから、上書きして忘れるには丁度いいんだけど。
でも、イチゴに私の昔の事をここまで詳細に言ったかしら?
いや、リナちゃんにでも聞いたのかもね。
気にせず進めましょう。
『お前ら!ユカをイジメるのはやめろ!みっともないぞ!』
やがて私の幼年期の目玉イベント。
男子たちからイジメられる所を、幼馴染に助けられるイベントが起きた。
ふーん。
ゲームでの私目線でだけど、半分くらい俯瞰してみると、修二じゃなくて恭一に助けられるのもいいじゃない。
イベントを見終えると、遅い時間になって来たので取りあえず寝る事にした。
流石にゲームで徹夜するなんてだらしない事する歳でもないからね。
翌日、ゲームで徹夜したアリアに呆れつつ、私も空いた時間にゲームを進める。
幸い、もう
と言っても、このゲームをやるのは一日に一時間と半くらいまでだけど。
そして連休最後に行った旅行の後にもこつこつとゲームを進めて、やっと現実に近い高校時代にまで進んだ。
この時期のゲームでの恭一は、あいつ……と同じく森マイを痴漢から助け出して惚れられてて、私と恭一を奪い合っている。
意図的に排除されたのか、それともこのゲームの状況だと恭一の義理の妹になる余地がないからなのか、リナちゃんはゲームに出ていない。
そしてとうとう、マイが私に先んじて恭一に告白したけど。
『ユカ、君が好きだ。俺と付き合ってくれ』
恭一はマイの告白を断り、私に告白してくれた。
……ふーん。
ゲームだとは分かってるけど、嬉しいじゃない。
あのバカは練習だとかと言い包められてマイと付き合ったのに、この恭一はちゃんと私を選んでくれたんだ。
『嬉しい……。私も、恭一の事、ずっと好きだったよ』
ゲームでの私は泣いて喜びながら恭一の告白を受け入れて、そのまま付き合う事になった。
「ふう……」
今日はこの辺までかしら。
私はVRゴーグルを頭から外して充電器に差し込む。
明日からはまた学校ね。
あのゲーム、リアル過ぎたから現実とごっちゃにならなければいいけど。
……その日の夜。夢を見た。
子供の私が、同じく子供の恭一と一緒に遊ぶ夢を。
ある意味ゲームに出なかったシーンの穴埋めで、実際の記憶では修二と遊んでたれど。
これもあのゲームの影響でしょうね。
……いや、考えを変えましょう。
私に長岡修二なんて幼馴染はいなかった。
最初から私の幼馴染は恭一とリナちゃんだけだったのよ。
イチゴが作ったゲームはそれを振り返るアルバムみたいな物。
そう思ってあいつの事は完全に忘れる事にしましょ。
そして私は、ゲームで恭一と結婚するハッピーエンドまで見終えるのだった。
【Side.リナ】
イチゴ姉さんが作ってくれたゲームでは、再婚よりも前にお母さんが職を失い生活に苦しんでた所で、現実の時と似たようにあたしは葛葉家に引き取られる事になった。
そのままあたしは恭一兄さんの義理の妹に。
ってええええ!?
お父さんとお母さんって再婚だったの!?
つまり、あの長岡修二とも血の繋がってない義理の兄妹だったという事?
でもこれは姉さんが作ったゲームだから架空の設定かも知れない。
いや、姉さんがリサーチしての内容かも。
今度お母さんに確認してみよう。
『おにーちゃん!あそんで!』
『いいよ。なにしてあそぼうか』
『うーんと。おままごと!』
ゲームでのあたしは雛鳥みたいに兄さんの後をついて回りながら、何をするのも兄さんと一緒だ。
……なんか、おぼろけにあのバカ兄貴の後をついていた子供の頃を思い出してしまうんだけど。
いや、忘れよう。
両親は離婚して、あたしの親権はお母さんと葛葉家が、あのバカ兄貴はお父さんが引き取る事になったんだから。
もうあいつとは兄妹でも何でもない。
あたしの兄は恭一兄さん一人だけだから!
ほど良い所でゲームを切り上げた後、あたしはスマホでお母さんに連絡して、お父さんとは再婚だったのか聞いてみた。
するとお母さんはむしろあたしが忘れてた事に驚いて、お父さんとは再婚だったと教えてくれた。
つまり、あのバカ兄貴とも血が繋がってない訳で。
今はもう離婚しているんだから、本当にあいつとは赤の他人という事!
「あははっ」
あたしは嬉しい気持ちになって小躍りした。
そう言えば、ユカちゃんは上書きとか言ってあいつとやってた事を兄さんともやってたっけ。
あたしもユカちゃんを見習って、あのゲームで記憶の中のあいつを全部兄さんに上書きしよう。
あたしのお兄ちゃんは恭一お兄ちゃんだけだもんね。
それじゃあ、あしたからあのゲームをまた最初からやり直そう。
【Side.恭一】
連休が終わり中間テストを目前に控えた頃。
俺は学校や放課後ではケイコたちと、家ではイチゴたちと一緒にテスト勉強に集中していた。
……が、家での空気がちょっとだけ変わってた。
「ほら、クッキー焼いたわよ」
「ああ、ありがとう」
リビングのテーブルで勉強していると、ユカが夜食を作ってくれたので礼を言った。
「別にいいわよ。こういうのは昔からだし」
「そうか」
昔から、という事はリナやあいつ……長岡に作ってあげてたという事か。
身勝手ながら、それにちょっと複雑な思いを抱いていると、思わぬ言葉を聞かされた。
「あんた、昔から甘い物が好きだったじゃない。だからチョコも入れておいたわ」
「……うん?」
いや、確かに甘い物は好きだが……昔から?
俺とユカは知り合ってまだ一年ちょっと足りないくらいだよな?
昔から……と言うほど長い付き合いではないはずだが。
いや、あくまで主観での基準だからな。
ユカからしたらもう長い付き合いということだろう。
しかし違和感を感じるのはユカだけではなかった。
「あの、お兄ちゃん。ここ、教えて貰ってもいい?」
いつの間にかリナの態度も気やすくなっていたのだ。
それ自体は全然かまわないんだが、タイミングが唐突なので訝しい。
「なあリナ。俺との話し方が大分軽くなったけど、何か心境の変化でもあったのか?」
なので指摘してみたら、リナは理解出来ないみたいに首を捻った。
「?何言ってるのお兄ちゃん。昔からこうだったじゃない」
「ん?」
いや、昔はむしろもっと固い感じだったはずだが。
何だ?ユカといいリナといい、この違和感は。
取りあえずその場は適当に流して、後でイチゴにそれを相談してみた。
「ああ、そうなってしまったんだね」
するとイチゴから、心当たりがありそうな反応が返って来た。
「何か知っているのか?」
「えっとね。私がゲームを作ってあの二人に渡したのは知っているよね?」
「ああ、アリアさんはハマってた、俺と幼馴染になった場合のシミュレーションゲームだった……か……」
そこで一つの可能性を思い付いた。
あの二人……ゲームでの事を現実の記憶だと錯覚しているのか?
「多分、そうだと思う」
口に出して言ってはいないが、イチゴが俺の考えを肯定した。
「アリアさんもそうだが、あの二人はゲームにハマる性格には見えなかったんだけどな」
「それだけ、あの長岡何某の記憶が嫌だったんじゃない?」
「そうか……」
理由は何であれ、知ったからには放っておけないな。
「あの二人に言うの?今の記憶がゲームからの勘違いだって」
「それがあの二人のためだからな」
記憶の歪みは人格の歪みに繋がる。
長岡よりも俺を優先してくれる事に男としてのプライドが満たされる気持ちもなくはないが、ここままではあの二人のためにならない。
「そう。きょーくんがそうするなら、私は止めないよ」
その原因でもあるイチゴからは止められるかもと思ったが、すんなりと送り出して貰った。
それから俺はユカのリナの元に訪れて、二人が俺と出会ったのは去年で、幼馴染ではないと説得した。
二人はそれで目を覚まして本当の記憶を取り戻したが。
「何よ。別にあんたが私の幼馴染でもいいじゃない」
「そうですよ。あいつの事を思い出すだけで気持ち悪いのに……」
ユカとリナは記憶を思い出した事に不満だったみたいで、俺は追加の説得をする事に。
「ユカ。幼馴染かどうかは大事じゃないだろ。今ユカと付き合っているのは俺なんだから」
「……そうよね。今はあんたが私の彼氏だよね」
ユカにはちょっと砂糖吐きそうなセリフを耳元で呟くと、何とか機嫌が治った。
「リナ。俺たちはこれからずっと兄妹なんだ。だからさっきまでみたいに気やすく話してもいいんだよ」
「……それはそう、ですね。……でもちょっと恥ずかしいので、たまにだけ……」
リナも複雑な顔をしたが、何とか納得して貰った。
それでユカもリナも普段と同じように俺に接する事になったが。
イチゴが作ったゲームでアリアさんもユカもリナも影響出まくりとか、色々ヤバくないか?
と思って、ちょっとだけ冷や汗を流した。
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一部要望と、話の流れ的にあった方がいいかも、となって急遽書き上げてみました
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