第16話【With恭一シミュレーション!⑤】

【Side.アリア】


 それはゲームでの私が色んな都合で恭一さんが他の女子と友達付き合いするのを放置してた隙の事でした。


『葛葉先輩……ううん、きょー様。この写真、花京院先輩に見せたらどうなると思いますか?』


『島川……お前、最初からこうする腹積もりだったのか?』


『ええ。だって、初めて見た時からきょー様が私の運命の相手だって感じましたから』


 ある日、島川さんが恭一さんに近付いて眠り薬を飲ませ、寝ている恭一さんに対して色々と浮気の既成事実となりそうな写真を撮り、それで恭一さんを脅しましたのです。


 脅しも最初は二人きりでデートしたり軽いスキンシップを取るくらいでしたが、途中からキスもしたりとエスカレートして行きました。


『もう限界だ!お前とはもう金輪際会わない!今までの事をアリアに話すなら勝手にしろ!』


 エスカレートするスキンシップに色々耐えられなくなった恭一さんは私に今までの事をバレるのを承知で島川さんを突き放そうとしました。


『いいんですか?それならこれを使いますよ?』


 でもそこで島川さんが次のカードを切ります。


『なっ、それは……?』


 そのカードの内容は、花京院家が経営するある会社の幹部の汚職についての情報でした。


『これをマスコミに流すと、きょー様よりも花京院先輩が困るでしょうね♪』


 どのようにして島川さんがそんな情報を得たのかは不明ですが、その情報がマスコミに流されると花京院家の大きなイメージダウンに繋がるでしょう。


『それできょー様。どうしますか?』


『くっ……。分かった。俺の事は好きにしていいから、それは伏せていてくれ』


 結局、恭一さんは私を思うが故に島川さんを受け入れてしまいました。


『いいましたね?じゃあ好きにしますよ♪』


 イチゴさんの自主規制なのか、キス以上の描写はありませんが、十分その先もあったであろう話の流れに色んな妄想が搔き立てられます。


 しまいには島川さんが避妊も拒否して無理やり恭一さんに迫ったらしく、恭一さんの卒業間際に島川さんが妊娠してしまいました。


 それで恭一さんの心が折れて、生まれて来る子供には罪が無いからと、島川さんと生きる事を選んだのです。


 何と言うか……。


 これはゲームで、そもそも私が油断したり日和ったりして恭一さんを放置してた所為もあるからゲームの恭一さんを責める事は出来ませんが。


 現実での島川さんの事件の時に、恭一さんを取られる興奮に夢中になり過ぎて長期に渡って放置してたらこんな未来もあったかもと思うとゾッとしますね。


 ゲームでは恭一さんと島川さんが歪ながらも家庭を作ってパッと見る分には幸せに暮らし、ゲームの私は恭一さんを諦め切れずストーカーになった所で画面が暗転しました。


『こうしてアリアちゃんはきょーくんを寝取られて色々拗らせてしまったのでしたー』


 いつものイチゴさんの声と共に【BAD END・寝取られた婚約者】という文字が浮かびます。


 今回のルートは……色々と捗りました。


 一回休息を挟んでやり直しましょう。


 そう思ってゲームアプリを終了したら……。


「えっ、もうこんな時間……?」


 画面の端に映る時間が、もう夕方前を示してました。


「アリアさん。そろそろ夕飯の時間だが」


 ドアがノックされながら、ドアの向こうから恭一さんの声が聞こえて来ました。


「あっ、はい!すぐ準備して行きます!」


 私は色々致して乱れてた身嗜みを整えてから、念のためバスルームに寄ってシャワーで臭いも落として食卓へ向かいました。


 食事が終わったら一睡してからまたゲーム再開です!


 今度こそハッピーエンドを目指して!



 ★☆★



【Side.イチゴ】


 私が作ってアリアちゃんたちに配ったゲーム【With恭一シミュレーション】だけど、実はちゃんと監視プログラムも仕込んである。


 まあ、常時監視して感想に返事するような仕組みではないけれど。


 監視の結果、ユカちゃんとリナちゃんは割と一直線にハッピーエンドに進んでいて、もうルートも確定して後は消化試合状態。


 だけどアリアちゃんだけ、用意したバッドエンドを尽く踏んでいる。


 いや、長岡何某絡みのバッドエンドだけ回避したのは以外だったけど。


 何かお告げでも受けてたのかな?


 まあ、でもこの勢いだと後から全ルートコンプリートしようとして、あのバッドエンドも回収しそうだけどね。


 逆にユカちゃんとリナちゃんはハッピーエンドを見て、別のルートの存在にも気付けずにゲームを終わらせそう。


 プレイタイムだってアリアちゃんはフルタイムなのに、ユカちゃんとリナちゃんは一日90分くらいだからね。


 アリアちゃんは今……、トモリちゃんにきょーくんを寝取られるルートを見終わった後かぁ。


 バッドエンドルートだと気付いても、すぐ選択肢のシーンをロードせずに最後まで進むとか、製作者冥利に尽きるねー。


 ただ見るだけじゃなくて、それをオカズに色々お楽しみにもなったみたいで。


 正直、最初アリアちゃんの事はきょーくんを挟んで下に敷いて私のプライドを満たすだけの獲物のつもりだったけど。


 まさかここまでの逸材だったとは思わなかったよ。


 元々は高校卒業した後はスーッと距離を置いてそれっきりにしようとしてたけど、今ではお互いずぶずぶになって一緒にきょーくんのハーレム作る仲間になったからね。


 もうお互いに離れられないよ。


 このゲームはそんなアリアちゃん向けに色々勉強になれる事も多いから、是非最後まで楽しんで欲しいね。


 ふふふふふふ。



 ★☆★



【Side.アリア】



『今まで待たせてしまってごめんアリア。俺と……結婚してくれないか』


『ずっと待ってたよ、恭一。……ありがとう』


 卒業式の日。


 お祝いを兼ねたデートの途中。


 予約してた高級ホテルの一室の窓際にて。


 街が輝く夜景を背景に、恭一さんがプロポーズと共に指輪を差し出して来て。


 ゲームの私は感激に涙ぐみながらそれを受け取りました。


「来ましたーー!!!」


 対照的に、現実の私は達成感に両手を振り上げながら叫びます。


 あのバッドエンドを見た後からやり直した私は、悪意を持って恭一さんに近付く他の女子たちを程々に牽制したり、時には恭一さんに直接嫉妬をぶつけたりしました。


 すると真面目は恭一さんも他の女子に目移りする事なく私だけを見てくれて、そのまま卒業式に恭一さんからプロポーズされたのです。


 元々悠翔高校を卒業したら結婚する予定だったとはいえ、サプライズでプロポーズしてくれたのは嬉しいですね。


 それからの人生がダイジェストで流れます。


 私と恭一さんは次の日の内に入籍。恭一さんの苗字か花京院になりました。


 そして高校の友人やお互いの親戚を呼んで盛大な結婚式をあげます。


 世間的には早い時期の結婚ですので多くの方が戸惑われましたが、概ね祝福していただきました。


 概ね……とう事は、高校の招待客の多くは私や恭一さん目当てで、祝福よりも嫉妬が先行してたのです。


 ふふふ。


 女子たちが恭一さんが私と結婚する事に悔し涙を流す様を見るのは中々楽しかったですね。


 逆に男子たちは恭一さんに恨み言を呟いてて、恭一さんは私と違ってそれに心を痛めましたから、今後一切関わらないように致しますが。


 例えば、花京院家が仕切る会社への就職を無条件で弾くとか。


 ……まあ、ゲームでの出来事にちょっと本気になりすぎのような気もしますが。


 ゲームの私も似たような事を考えてたのでいいでしょう。


 結婚式と新婚旅行の後は、一緒の大学に進学しました。


 大学生活の途中に恭一さんは花京院家がたてる新しい会社の社長になりました。


 連動して私も社長婦人です。


 最後には女の子の子供も産み、三人で家族旅行に行く所で幕が降りました。


『こうしてアリアちゃんは、恭一や子供たちと一緒に誰もが羨む勝ち組家族になりましたとさー。パチパチパチ』


 いつものイチゴさんのナレーションと共に、【HAPPY END・奇跡的な家族】という文字が浮かびました。


「やりました!!!」


 ゲームクリアです!


 最初は高々アマチュアの作ったゲームだと見くびってましたが、ここまでいい感じに手こずらせてくれました。


 まあ、面白かったと認めて差し上げてもいいですよ?


 ゲーム画面がタイトルに戻ると、【NEW GAME】と【CONTINUE】の下に【GALLERY】という項目が出てます。


 押してみると、ゲームでのハイライトシーンなどを見返す事の出来るモードのようでした。


 でも、【EMPTY】と気になる項目が散在してました。


 解放されてるシーンなどと配置を合わせて考えれば、これはもしかして……まだ見てない別ルート?


 ハッピーエンドはもう見ましたが、あれ以外にもハッピーエンドがあるのでしょうか。


 それとも……島川さん以外にも、例えば鈴木さんなどに恭一さんを寝取られるバッドエンドが……?


「……ごくり」


 見てみたいです。


 例えイチゴさんが想像したゲームだとしても、色んな恭一を!


 私は好奇心を抑えられず、時間も忘れてゲームを再開しました。


 近日に私の家族が様子を見に来ると言ってた事や、連休中に家族を含めて皆で旅行に行く予定があった事も忘れて。


 ―――――――――――――――

 シミュレーションの話、5000字書ければ十分だと思ったのが、長くなりましたね……

 次は恭一たちとアリアのご家族との対面と、ゲームに嵌ったアリアのエピローグです

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