第12話【With恭一シミュレーション!①】
【Side.アリア】
「これが小4の体育祭の時に私たちの組が優勝した時の写真ね」
「そう。で、イチゴあんたはどこ?」
「私はぁ、騒がしいのは苦手だったから離れた方で見てただけだったなぁ。あ、写真取ったのはきょーくんのお父さんね」
「あんたね……」
イチゴさんの部屋にて。
私とユカさんとリナさんはイチゴさんが持ってる昔のアルバムを見ています。
島川さんたちの件でイチゴさんが恭一さんと幼馴染だったと知って、「なら昔の写真とかあるのでは?」と思い直接聞いてみたら「ある」と返されて、今の鑑賞会に至るのです。
恭一さんにも昔のアルバムを見せて欲しいと言った事はありますが、当時はイチゴさんとの関係を隠してたからか「実家に置いて来て今どこにあるのかも分からない」とはぐらかされてたので、昔の恭一さんの写真を見るのはこれが初めてです。
子供の頃の恭一さん……可愛らしいですね。
小1の時までは微妙に冴えない感じですが、時期を追うごとに顔立ちが良くなってます。
そして一緒に写っている、今と対して変わらず地味な子供のイチゴさんを見ると……なんというか、妬けてしまいます。
「私だって、恭一さんと幼馴染になって子供の頃から色々遊びたかったです。そうすれば恭一さんと最初に交際するのも私に……いえ、そもそも私が恭一さんを一人占め出来たはずでしたのに……」
そんな思いからつい愚痴が出てしまいました。
「いや、流石にそれは望み過ぎでしょ。それに幼馴染になったからって必ず上手く行く訳じゃないんだからね」
すると横でユカさんが突っ込んで来ました。
「流石、ユカさんが言うと説得力がありますね」
「……ちっ」
「……あはは」
ちょっと嫌味を込めて返すと、思い当たる節があるユカさんは苦い顔で舌打ちし、リナさんは苦笑いします。
面白い反応ですが、いじりが過ぎたのかもですね。
「まあまあ、喧嘩しないで。みんなには後で良い物用意してあげるから」
喧嘩するつもりはありませんが、無言で空気が険悪になる前に、イチゴさんが仲裁しました。
「ふん」
それでユカさんもこちらへの敵意を収めました。
「喧嘩はしませんが……良い物って何ですか?」
「それは……今から準備するから楽しみにしててね」
イチゴさんは内緒とばかりに人差し指を自分の唇に当てました。
まあ、あまり期待せずに待ちましょうか。
それでおよそ十日後、
夕方になってイチゴさんが私たちをイチゴさんの部屋に呼び集めました。
その部屋の真ん中にあるテーブルの上に、私とユカさん、リナさんの人数分のゴーグル型のVR機器がありました。
ご丁寧に誰用なのか名前も書き込まれて。
「ほら、このVR機器に私が作ったシミュレーションゲームがあるからそれで遊んでみてね」
イチゴさんは私たちに向けて身内にプレゼントを渡す感じで言います……が。
「はい?……イチゴさんが……VRのゲームを作った……?」
「まあ、グラフィックと声とかは私の声以外は作り物だけどね」
「いえ、そういうのではなく。イチゴさんって、そういった技術を持ってたのですか?」
ユカさんやリナさんも同じような疑問を持ってる様子で、私が代表してイチゴさんに聞きました。
「そうだよ?」
イチゴさんはそれがどうかしたのか?といった感じで返事します。
「それは……まあ……すごいですね」
信じられない……とは言えません。
考えてみれば、スマホのアプリも作ったりしてIT方面で色んな能力を持っている所を見せられて来ましたから。
ただ、ここまで出来るとは思いませんでしたが。
イチゴさんが私に頼らずに三人分のVR機器を用意した財力も、その技術で得た物なのかも知れません。
「では、ありがたく」
「まあ、暇つぶしにさせて貰うわよ」
「えっと、ありがとうございます」
私たちはそれぞれイチゴさんに一言お礼を言い、自分の名前が書かれたVR機器を手に取って各自部屋に戻りました。
「楽しんでねー」
去り際、イチゴさんがあやしく笑ったのが気になりましたが。
私は自分の部屋で早速VRゴーグルを着けて電源を入れました。
そして両手にコントローラーを持って操作し、イチゴさんが作ったと思わしきゲームアプリを起動します。
【With恭一シミュレーション!】
VR画面で、ゲームアプリと同じ名前のタイトルが浮かんでイチゴさんの声で読み上げられます。
ネーミングとか色々思う所はあるんですが、ここは抑えて『NEW GAME』に行きましょう。
『わたし、かきょーいんアリア!おかねもちの家にうまれた女の子!よんさい!』
ゲームを開始して早々、ナレーションが聞こえます。
これって……、まさかツールとかで作られた子供の私の声ですか?
確かに私の声に似てますけど……、逆に似すぎてて不気味ですね。
『きょうもようちえんであそんでいたら、しらない子にこえをかけられたの!』
『えっと、アリアちゃん?いっしょにあそばない?』
このゲームって一人称視点なのでしょうか。
子供みたいに低い目線で、ゲームの私?と同じ年頃に見える地味な男の子が目の前に現れました。
すぐ後に、選択肢が現れます。
【いっしょにあそぶ】
【ふつうな人とはあそばない】
ふむ。下ですね。
私はあくまで恭一さんと幼馴染になりたいのであって、それ以外の羽虫はお断りですから。
『わたし、あんたみたいなふつうな人とはあそばないの!みのほどをわきまえてきえて!』
ゲームの中の私が結構辛辣な言い方をしますが、イチゴさんが思う子供の頃の私ってこういう感じなのでしょうか。
実際の子供の頃の私はもうちょっとお淑やかで両親の言いつけを守って周囲に優しく接したと思いますが。
あ、でも幼稚園の頃は少し増長してて……
……深く考えるのは止めましょうか。
『そうなんだ。じゃあぼくはほかの子とあそぶから』
男の子は大した未練を見せずに去って行きます。
直後、画面が暗転しました。
そして暗い画面で一生一人で生きる私の姿が映されます。
続いてイチゴさんの声でナレーションが響きました。
『こうしてアリアちゃんは、その傲慢のツケで望んだ相手を振り払い、一生一人で生きるのでしたー。ジ・エンド』
そして目の前に【BAD END・アルバム、ちゃんと見た?】という文字が現れました。
え?バッドエンド?……アルバム……?
「あっ」
もしかして……さっきの男の子って、子供の頃の恭一さん!?
そう言えば小学校の恭一さんの写真の姿に似てるかもです!
でも気付かないですよ!
大体イチゴさんが恭一さんと出会ったのは小学校だって話じゃないですか。
どうしてこのゲームの私は幼稚園で恭一さんと出会うんですか?
『それはね、アリアちゃんが小学生になると習い事で忙しくなったり、人間関係で色々擦れてきょーくんと仲良くなれないからだよ』
そんな私の考えに反論するみたいに、イチゴさんの声が聞こえて来てギョッとしました。
VRゴーグルを外して周りを見渡しても、私の部屋にイチゴさんはいません。
……という事は、私の考えを予測しての録音……?
まさか、色々録音してるのですか?
『ほら、やり直すか、今日はもうお休みするか選んで』
ってまたイチゴさんの声が!
ピンポイント過ぎませんか!?
イチゴさんの先読みに恐ろしさを感じつつ、私はVRゴーグルを着け直してゲームを最初から再開しました。
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この話、最初はまた夢オチとかIFにしてみようとして、何度もBADEND踏んだら面白そうだなーってなってシミュレーションゲームをする話になりました
書いてみると長くなったので続きます!
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