第11話『後輩に二股掛けられたらしい・下』

 本間くんといろいろ相談した翌日。


「こんにちはー」


 相も変わらず岸本さんがケロっとした顔で溜まり場に顔を出した。


 岸本さんは俺を見つけてすぐ近寄って来ようとしてたけど、それを他の女子が止める。


「岸本さん。あなた、昨日の放課後他の男子とデートしてたね」


「ここのルール知らないの?葛葉くん目当てなら、他に男作っちゃダメだって」


 これって、ちょっと見方変えると悪役な先輩たちにいびられるヒロインの図だな。


 岸本さんの自業自得だけど。


「え?他の男とデート?何の事ですか?」


 岸本さんは惚けるように首を傾げる。


「惚けないで。証拠の写真だってあるんだから」


 女子の一人がスマホの画面を見せる。恐らく昨日本間くんとデートした写真が映ってるのだろう。


「あー!これは違いますよ。これは元カレで今はストーカーなんです」


「何度惚けるの。これは昨日撮った写真なのよ」


「え?これが昨日の写真だって証明は出来ますか?昔の写真を入手して昨日の写真だって嘘ついてるかも知れないのに?」


 証拠にケチをつけるとか、強かだな……。


「葛葉先輩!助けてください!他の先輩たちがイジメますー!」


 岸本さんは女子たちと睨みあう途中、そう俺に泣き付いて来た。


「岸本さん。昨日の放課後、デートしてなかったのなら何してたんだ?」


「えー!?葛葉先輩も私を疑うんですか?ショックですー」


「言わないと疑ったままになるが」


「……ちっ」


 えっ、小さくだけど、岸本さんが舌打ちする音が聞こえたんだが……。


「昨日はですね、一人で街をふらついてました。本当ですよ?」


「そうか。で、本間くんとは付き合ってないんだな?」


「はい!何なら葛葉先輩がシメて追っ払ってくれてもいいですよ?」


 はい、ここまで言われたらもう決定的だな。


「……だそうだ」


 俺は岸本さんから目を離し、掃除用具入れのロッカーに向けて言う。


 するとロッカーが開き、中から本間くんが出て来た。


「えっ……健士郎くん?」


「真由美ちゃん……俺の事を陰でそういう風に言うんだね……」


 戸惑う岸本さんに悲痛な顔の本間くん。


 修羅場だなー。


 説明すると、本間くんは俺が前もって手引きしてロッカーに入らせてた。


 その所を他の女子に見つかったりもしたが、岸本さんに対する仕込みだと説明すると受け入られて黙って貰らえた。


「ち、違うの!これは……えっと……その……」


 岸本さんは何か言い訳しようとするが、目が俺と本間くん、そしてこの教室にいる女子たちの間をさまよって言い淀んだ。


 どっちに付けばいいのか迷ってるみたいだな。


 しかしその迷いがさらに岸本さんの心証を悪くした。


「……もういいよ。別れよう」


 とうとう本間くんが岸本さんに別れを告げる。


「ちょ、ちょっと待って!」


「葛葉先輩、手伝ってくれてありがとうございました」


 本間くんは岸本さんを無視し、俺に頭を下げてから教室を出て行った。


 残された岸本さんに、女子たちの嘲笑や軽蔑といったマイナスな視線が集まる。


「……!」


 いたたまれなくなった岸本さんは、俯いて教室から逃げ出した。


「ざまぁないわね。葛葉くんに二股かけようとした報いよ」


 女子たちが岸本さんを笑う。


 俺は……女子ってこういう所こえーなと思った。




 放課後。

 俺はイチゴの勧めで屋上に向かった。


 屋上に着くと、二、三人のグループでたむろってる生徒たちの他に、一人で黄昏れている本間くんが目についた。


「よお。元気無いな」


「はあ……。あっ、葛葉先輩……」


 ため息をついてた本間くんが俺に気付いて振り返った。


「愚痴なら聞くぞ」


「えっと……。俺って何が悪かったんでしょうね……。真由美ちゃんと付き合ってから、本当に彼女の事を大事にしたつもりだったのに……。結局、顔が良くて金も持ってる人がいいんでしょうか……」


 本間くんは俯いたまま愚痴り出す。


「どうだろうな」


 顔が良くて金も持ってる人、と言われるとアリアさんが顔が浮かぶ。


 ただ、それでも俺はアリアさんよりもイチゴが好きだし、いざとなればイチゴを選んでアリアさんを捨てる心の準備も出来ているから、顔と金が全てだとは言い切れない。


「せめて顔だけでも良かったら……って思うんです。……まあ、無い物ねだりですけど」


 本間くんの言葉に、俺は一つ閃いた。


「いや、印象を良くする事なら出来るぞ」


「え?」


 本間くんが驚いてこっちを見る。


「整形する訳じゃないから、すぐに効果は出ない上に地味でだるいが、それでもいいなら、俺について来るか?」


 俺の申し出に、本間くんはすごく悩んでから、ゆっくり頷いた。


 それから俺は本間くんに対して、スキンケア用の化粧品を渡したり、顔を悪くする生活習慣をやめる様に言ったり、髪型などの身だしなみについてアドバイスしたり、健康な体を保つためにトレーニングを指示したりした。


 費用については取りあえず俺が出したが、将来的には本間くんが自分で負担して貰うつもりなので費用の内訳も教えた。


 本間くんは弱音を吐いたりもしたが、割と素直に俺の指示に従って自分磨きに勤しんだ。


 そして一か月が経つ頃。


 本間くんの印象は見違えるように変わった。


 劇的な変化があった訳ではないが、髪型が小綺麗になり、健康的に汗を流してスキンケアもしっかりしてたから顔や肌にツヤが増したのだ。


 それでハッキリイケメンと呼べる程ではないが、一目見て良いって思える感じになった。


「葛葉先輩!ありがとうございます!おかげで自分に自信を持てるようになって新しい彼女も出来ました!」


 昼休みの溜まり場に、本間くんが喜々とした顔で報告に来た。


「そうか。良かったな」


「これも全部葛葉先輩のおかげです!」


「いやいや、君の努力の賜物だ」


「それでも感謝してます!俺、一生先輩について行きます!」


「葛葉くんと本間くん、先輩と後輩……アリかも」


 俺と本間くんのやり取りを見て、溜まり場にいた女子一人が不穏な事を呟く。


「重いから一生はついてくるな」


 だから本間くんを突き放す様に言った。


「ちょっと!何で健士郎くんが葛葉先輩と仲良くなってる訳!?私が先に目付けてたのに!」


 本間くんとほのぼのとした感じでいると、突然岸本さんが溜まり場に入って来たが。


「知るか。日頃の行いの差だろう」


 冷たくスルーした。


「ほら、出で行きなさい」


「ちょ、ちょっと!待って、何でえええ!!」


 そのまま岸本さんは溜まり場から連れ出された。


「……ぶざまぁ」


 ボソッと、カヨが岸本さんの後ろ姿を見届けながら呟いた。


 ともかく、今回の一件で俺は二股を掛けようとした女子を振り払い、慕ってくれる男子の後輩を得た。


 まあ、たまにはこんな終わり方もいいよな?


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