第10話『後輩に二股掛けられたらしい・上』
「葛葉先輩!
ある日の朝。
登校して教室に向かう途中、下級生に見える男子が突然現れてそんな事を言って来た。
真由美って、言い方はあれだが最近俺のファングループに入った
「君、名前は?それと岸本さんとはどういう関係だ?」
「お、俺は
「あいつ、彼氏いたのかよ……」
つい舌打ちをしそうになる。
最近、こういう……彼氏持ちの女子が俺に寄って来て起こるトラブルが多いな。
こういうのが嫌だから彼氏持ちはグループから抜けるように常々言ってるんだけど、ならばと彼氏がいるのを隠してグループに居座る女子が増えて来た。
理由は、大体察せられる。
人数の都合でローテーションになってるが、遊びに行く時は必ず俺の奢りで、高過ぎない範囲内ならちょっとした小物やアクセサリーも俺が買ってあげる。
そして俺から色んな意味で女子に手を出す事はない。
……ケイコたちからは逆に手出されてしまったが、とにかく俺からは出さない。
つまり、サイフ的にも性格的にも優しくて安全に遊べるイケメンだから、都合よく思われているんだろう。
彼氏にも内緒にして遊ぶくらいに。
「……分かった。岸本さんにも話しを聞いておくよ。あ、念のために君の連絡先とか教えて貰っていいか?」
「え?ええ、はい」
俺があまりにも素直に頷くから、本間くんは拍子抜けしたようすで俺と連絡先を交換した。
何気に男性の連絡先を登録するのは久しぶりだな。
他には父親とか、イチゴやアリアさんの家族とか、あと生徒会の加藤先輩と、テニス部の武田先輩くらいだ。
つくづく、俺って本当に男友達いないな。加藤先輩や武田先輩とも遊んだりする仲じゃないし。
だから本間くんは、せっかくの縁だから大事にしようか。
昼休み。
いつもの様に昼飯を持って、溜まり場の空き教室に移動した。
繰り返し説明すると、溜まり場とは俺と俺の友達やファンの子たちが占領している空き部屋の事だ。
初期の頃は俺がいるクラスの教室に集まってたのを、他の男子からクレームを受けて場所を移したのだ。
空き部屋を占領するとか普通に問題行動だが、溜まり場に来る女子の中に悠翔高校理事長の孫娘にしてこの高校のお姫様なアリアさんも混ざっているから、教職員も下手な事を言えない。
アリアさんが混ざっている建前は、俺がクラスの女子たちも連れて空き教室に行くとクラスに残る女子は少数で、女子たちは男子に囲まれるのを嫌がって俺目当てじゃなくても溜まり場に来て、そこにアリアさんもいるだけ……となっている。
空き部屋に入ってすぐ、俺たち席を取って昼飯を食べ始める。
「いただきます」
「召し上がれ」
俺の昼飯は最近定番になりつつあるユカの手作り弁当だ。
もっと言うと、イチゴやアリアさん、リナの昼飯もユカと手作り弁当で、同じ人が作ったとバレないようにおかずを一部ずらしてる。
そして校内食堂で食べたり、購買でパンや弁当を買う人は後で合流する。
「こんにちは先輩!今日も来ましたー!」
しばらくすると、岸本さんが教室に来た。
が、教室にいる人たちが白い目で岸本さんを見る。
「あれ?ちょっと空気悪くないですか?」
岸本さんは理由が分からない風に首を捻る。
仕方ないので、俺が理由を言った。
「……岸本さん。彼氏いたんだってな」
「えっ、いえいえ。いませんよ、彼氏とか。いたらここに来れないじゃないですか」
両手を振って否定する岸本さん。
本気なのか白々しく演技してるのかちょっと見分けがつかないな。
「本当に?本間健士郎くんって一年知らないのか?」
「健士郎くん?あっ、ああー!あいつはストーカーなんです!本当に困ってたんですよ~。葛葉先輩、追っ払ってくれませんか~?」
岸本さんが両手を合わせて媚びるように言う。
「ストーカー?本当にか?」
「本当ですよ!私の事疑うんですか~?傷付きますよー」
正直疑ってる。
すごく怪しい。
ただ、証拠や裏取りとか無いから、嘘と決めつけるのも早い。
「……分かった。この話はまた今度な」
「はい!あっ、今日の放課後ですけど、遊びに行けますか?そろそろ私の番なんですよー」
岸本さんの番、というのは遊びに連れていくローテーションの話だ。
毎回、溜まり場に集まる女子を全員連れ回すと色々大変になるから、人数をローテーションで絞っているのだ。
ちなみにその管理はユカやカヨたちがしている。
「悪い。今日は生徒会の仕事があるから無理だ」
「えー。それじゃあ、生徒会の仕事が終わるまで待ってもいいですか?それで二人きりで遊びにいくのは……」
「それもやめてくれ、皆真似してしまう。明日は空いてるからもう少し待ってくれないか」
「そうですかー。分かりました!では明日楽しみにしてますね」
そこから流れるように、最近あった事や、流行りのドラマなどに話題が移り、色々喋りながら昼休み時間を過ごした。
放課後。
生徒会室に向かう前に、俺は本間くんを呼び出して話を聞く事にした。
「えっと、葛葉先輩。真由美の事で話って何ですか?手を引いてくれるんじゃないんですか?」
「その事だが本間くん。岸本さんは彼氏はいない、君はストーカーだって言ってたけど、どうなんだ?」
「え?」
直球で聞くと、本間くんは心外そうに聞き返して来る。
「だ、誰が、いや真由美ちゃんがそう言ったんですか!?」
「ああ。聞いてみるか?」
俺のスマホにはイチゴ手製の盗聴アプリが入ってて、常時録音状態だから昼休みでの話も当然録音されてた。
それでイチゴにお願いしてその時の会話だけ切り抜いた所を本間に聞かせた。
「……そんな……真由美ちゃん……」
本間くんはショックを受けて項垂れる。
「今日この後だって……デートに行く約束だったのに……」
「その約束って、いつしたんだ?」
「昼休みが終わる前に、レインでしました」
それって、俺と遊べないと分かった後に誘ったという事か?
岸本さん、これ絶対俺か本間くんをキープ扱いしてるだろ。
「それで、君はこれから岸本さんとどうするつもりだ?」
「それは…………」
本間くんは言い切れないまま押し黙った。
まあ、そう簡単に割り切れないか。
せっかくだ。決心をつけるのに手伝ってあげよう。
今まで何度も彼氏もちの女子を寝取ったとか不本意な風評被害を受けてた事に鬱憤が溜まってた事もあるし、本間くんは今までで一番穏便に接してくれてたからな。
「本間くん。良かったら、協力しよう」
「え?何をですか?」
「それは勿論、岸本さんの本音を知るのにさ」
俺は本間くんに、今日のデートはそのまま向かい、岸本さんに俺との関係を探るように指示た。
ついでに妙に金使いが荒くなってないかもチェックするようにと。
そして夕方になり、リビングでソファに座ったままアリアさんに膝枕していると本間くんからレインが来た。
『真由美ちゃんは先輩の事を、友達付き合いの延長で相手してるだけの、顔と金で調子に乗ってる鼻持ちならない奴って言ってました。後、最近金が浮く事があったって言って本当に金使いが荒くなってました』
ふーん。なるほど?
岸本さん、そういうコウモリみたいな真似するんだ。
「ふーん、なるほど?舐めた真似してくれますね」
横で俺のスマホ画面を覗いたアリアさんがそんな事を言った。
俺と似た感想でびっくりなんだけど。
あれか?長く付き合った恋人だから考え方が似て来たというのか?
すごい微妙だ。
「恭一さん、あの岸本さんを退学……は難しいですが、転校するように追い詰めましょうか?」
「さらっと怖い事言うなよ。岸本さんは……こっちで対応するから手出ししないでくれ」
「なるほど。分かりました」
俺はそのままアリアさんとイチャつきながら一日を終わらせた。
さて、ここからどうしようか……。
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