第9話『吉田アミのその後』

 島川の事件が終わって間もない頃。


 俺は友達……のはずの吉田さんとデートに出掛ける事になった。


 事件の時に手伝って貰ったお礼なのだが、彼女持ちの俺がお礼でも他の女子とデートって浮気だろ。


 なのにイチゴ、アリアさん、ユカの三人は全員俺の背中を押してデートに送り出した。


 たまに……本当にたまになのだが、あの三人が俺を好きなのか疑わしい時すらある。


 疑ってもしょうがないか。


 イチゴとは絶対別れる気はないし、アリアさんとユカにはこっちから別れを切り出しても聞いて貰えなかったからな。


 だから非常に残念だが、今すぐこのハーレムみたいな関係から抜け出す事は出来ない。


 なのでせめて、これ以上増えないようにしなければ……。


「お待たせ、恭一くん!」


「いや、まだ約束時間前だからな」


 待ち合わせ場所の駅前に先に着いて待っていると、吉田さんが駆け寄って来た。


 放課後すぐ待ち合わせたので、お互いに制服姿だ。


「一応どこに行くか考えておいたけど、吉田さんは行きたい所とかある?」


「私は恭一くんと一緒ならどこでもいいよ!」


「そうか。じゃあ今日はゲーセンにでも行くか」


 デートにはちょっと風情が足りないかもだが、友達同士だからこんなものだろう。


「分かった!」


 吉田さんからも特に不評はなかったので、ゲームセンターへ遊びに行く事に。


「所で吉田さん」


「ん?何?」


 移動中、ちょっと気になる事があったので吉田さんに声を掛けた。


「その髪、染め直したりしないのか」


 俺はつむじの部分だけ地毛の黒い色になってる髪の毛を目線で指した。


「あー、うん。色々言われたけど、せっかく染めたのを黒に染め直すのも面倒だから、地毛が伸びるまではこのままにしようかなって」


「そうか。やっぱ学校が変わるとそのままって訳にも行かないな」


「……恭一くんは。どっちかに染めきった方がいいの?」


「いや、余程奇抜じゃなければあまり気にしない」


「そっかー」


 そしてゲームセンターに着き、俺と吉田さんは二人プレイのゲームを一緒にしたり、片方がゲームしているのを観戦したり、ゲームセンターにあるプリクラ機でプリクラを撮ったりした。


 遊んでいるとあっという間にに時間が過ぎ、ゲームセンターから出ると日が暮れてた。


「今日はそろそろ解散しようか」


「えっとね、恭一くん。私、今日はまだ帰りたくないなー……なんて。一緒に遊ぶのも久しぶりだから……ね?」


 吉田さんが見方によってはそういう意味で誘ってるように俺を引き留める。


 いや、この目の色は誘ってるんだろう。


 問題は、俺が彼女持ちだから吉田さんの誘いに乗り気じゃないって事か。


「吉田さん……」


 どう穏便に断ろうか、言葉選びに悩んでいたら。


「あれ~。吉田じゃん!」


 不意に横から知らない声が割り込んで来た。


 振り向くと、吉田さんと同じ制服を来た女子二人がいた。


「あっ、二人とも……」


 どうやら知り合いみたいで、吉田さんがその二人に反応する。


「隣にいるのって誰?すごいイケメンなんだけど」


「って、モデルとかネット配信者やってる葛葉恭一じゃない?どういう関係?」


「えっと、それは……」


 早速俺について問い詰められ、吉田さんはたじろぎながらチラチラと俺の様子を伺って。


「わ、私の彼氏なの!」


 と答えてしまった。


「ええ!?これが吉田の彼氏!?」


「マジで!?信じられないんだけど!」


 吉田の友達?二人は驚いて目を丸くした。


 いや、信じられないのはこっちもなんだが。


 訂正するため口を開こうとしたら、その瞬間にポケットのスマホがバイブした。


 ………。


 ああ、これは絶対イチゴからだな。


 大方、否定するなとかそういう内容のレインメッセージだろう。


 以心伝心はばっちりだ。


 内容はよろしくないがな。


「本当だよ。……ね?恭一くん」


 吉田さんが不安そうな顔でこっちに振る。


 まあ、嘘ついた訳だからな。


「……ああ、吉田さんとは付き合っている」


 ここで否定したらその後の吉田さんの友達付き合いが心配になるので、色々仕方なく吉田さんの嘘に頷いた。


「えええ!?ちょー以外ー!」


「葛葉って、もっといい相手と付き合ってそうだったのに。例えば同じ悠翔の花京院アリアとか」


「ははは……、流石に花京院さんと付き合うのは恐れ多いよ」


 実は本当に裏で付き合っているんだけど、このタイミングでは言えないな。


「そうなんだ。話変わるけどさ、私たち、これからカラオケに行こうとしてたんだけど、二人も一緒にどう?」


「えっと……どうしよう?」


 友達の提案に、吉田さんは俺の顔色を伺うように聞いて来た。


 悠翔にいた頃とは違って弱気だな。


「吉田さん、この後家族と予定があるって言ってたんじゃないか?」


「ん?……あ……!そうだった!ごめん!私はこれで帰るから!」


 吉田さんは一度首を傾げるも、すぐ俺の意図に気付いて友達二人に向かって両手を合わせた。


「そう?じゃあ葛葉だけでもどう?」


「いや、彼女を差し置いて他の女子と遊ぶのも気が引けるから、俺も遠慮するよ」


「じゃあ今度!吉田と一緒にどう?」


「そうだな。いいよね?吉田さん」


「あ、うん。いいよ」


 そして話の流れで、俺は吉田さんの友達二人と連絡先を交換して解散した。


 どう見てもあの二人が吉田さんを出汁にして俺と仲良くしたいように見えるが……まあ今更か。


「ただいま」


「お帰り。早かったわね」


 家……というよりシェアハウスに帰ると、エプソンを着けているユカが出迎えてくれた。


 女子とデートした帰りに恋人(三人目)が迎えてくれるとか……色々何とも言えん。


「吉田さんとデートして来るって聞いたから、最悪朝帰りするんじゃないかっておもってたけど」


「いや、流石にな……」


「そう。夕ご飯と風呂、どっちからするの?」


 もう結構遅い時間なのに俺一人に合わせてこんな対応してくれるとか、ユカって大分オカン……ごほん、優しいな。


「風呂から入って来るよ。夕飯はその後で頼むよ」


「そう。じゃあその間に夕ご飯の用意するわね」


 そして風呂に入ってる間、スマホをチェックしていると吉田さんかれレインが来た。


『恭一くん!さっきは付き合ってるって嘘ついちゃってゴメン!』


 少し考えてから、返信を書いた。


『大丈夫。すぐどうこうなるって訳じゃないから』


『でも、恭一くんって配信とかしてるから、噂とかになると……』


『別に恋愛NGな芸能人でもないから大丈夫さ。……まあ、後で穏便に別れた事にしてもらうけど』


 そこで既読が付いて、返信が来るまで結構間が空いた。


『その事だけど……、来年までは付き合ってる事にして貰えない?』


『何故に?』


『実はあの二人とはちょっとノリが合わないけど、今の私って見た目の所為で他に友達がいないの。それで恭一くんと付き合って別れたとか言ったらあの二人にずっといじられるから……』


 ふむ。どうしたものか……。


 確かにあの場では吉田さんを心配して否定しなかったが、一年となると色々支障がありそうだが。


 悩んでいると、イチゴからレインが来た。


『We're OK』


 いやだからOKじゃないんだよな。


 しかもWeわたしたちって、まさかアリアさんやユカも入ってるのか?


 吉田さんに待って貰える様にメッセージを打ってから、アリアさんとユカに確認するメッセージを送ってみた。


 すると、二人から肯定の返事が来た。


「ッスゥーーー」


 一人だからか、つい変なため息が出た。


 仕方ない。


 俺は悩んでから吉田さんに返事を送った。


 吉田さんが周りに俺と付き合っているち言うのは構わなくて、友達付き合いに参加するのも良いと言った。


 でもあくまでも偽装で、最長でも来年度には解消する事。


 途中で吉田さんにもっといい相手が出来たら、事後報告でも構わないので遠慮なく乗り換えて貰う事を了承して貰った。


『ありがとう!これからもよろしくね!』


 でも分かっているのかいないのか、吉田さんの返事に不安になる。


 それに偽装とはいえこれで恋人も四人か……。


 いや、リナやケイコたちを入れると八人……!


 やばい……、眩暈が……。


 俺はそのまま意識を失って風呂の仲で倒れ、俺が風呂から出るのが遅いのを訝しんだユカに発見され事なきを得た。


 眩暈は普通に長湯してのぼせただけだった。

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