第13話【With恭一シミュレーション!②】

【Side.アリア】


 ゲームを再開し、最初の選択肢を【いっしょにあそぶ】と選び直して、ゲームの中の私は無事声を掛けて来た男の子、恭一さんと仲良くなれました。


 そこから話が高速で流れます。


 私と恭一さんは同じ小学校に入学し、そこでも仲の良い友達になります。


 時間帯ごとに断片的に見せられるイベントで、恭一さんが段々今の姿に近いカッコいい顔立ちになっていきました。


 私の友人として恥ずかしい見た目は許されないと、私の家族が生活習慣やお肌のケアを管理したおかげですね。


 ええ、自然とゲームでの私と恭一さんは家族ぐるみの付き合いになったのです。


 お互いまだ子供なのもあって、お互いを異性としては認識していませんが、それでも大事な友達として時間を重ねて行きます。


 現実と違い、ゲームでは私と恭一さんがお互いを「恭一」、「アリア」と気軽に呼び合っているのが新鮮でした。


 現実の私は子供の頃に気の置ける友人がいなかったので、周囲に対して一律に丁寧な態度を取ってそれがそのまま板についてしまっています。


 ですがゲームでの私は恭一さんという幼馴染がいる影響で現実の私よりはフランクな言動が多いです。


 現実でも私と恭一さんが幼馴染でしたらこのような感じに……って今更気付いたのですが、どうして恭一さんは私を未だにさん付けで呼ぶのでしょう。


 私が恭一さんをさん付けで呼ぶのはもう仕方ないとして、恭一さんは幼馴染のイチゴさんだけじゃなくて私より後に入って来たユカさんも呼び捨てですのに、私一人だけ……恭一さんから距離感が……グギギギギギ……。


 ……今は一旦忘れてゲームに集中しましょう。


 そして同じ中学校に上がり、中学生一年の秋頃、ちょっとしたイベントが起こりました。


『アリアさん!私、明後日には恭一くんに告白するから!もしアリアさんも恭一くんが好きなら、それまでに動いて!これが私が通せる最低限の筋だから!』


 そう言って来たのはカールを入れた細い目鼻立ちの花村リンゴさん。


 現実でも恭一さんやイチゴさんと同じ小学校出身で、その後アイドルになり、せっかく私や恭一さんから注目を逸らす広告塔として呼び寄せたのに問題を起こしてくれた人です。


 このゲームでは私の容姿と家柄目当てですり寄って来た取り巻きたちのまとめ役になっています。


 こうして私に事前に話を持ちかけて来たのは、私から恭一さんを掠め取るような形で恭一さんと付き合ったら私の報復が怖いからだろうと、ゲームの私が分析しました。


 この時期にはもう、ゲームの恭一さんはその容姿でモテモテなのです。


 でも私という釣り合いの取れた幼馴染がいるので周りが遠慮していたのですが、はっきり付き合っていない事実に付け込んで来たのです。


 そこで目の前に選択肢が浮かび上がりました。


【恭一はリンゴさんから告白されても私を選んでくれるでしょうから放置!】

【危ない!リンゴさんより早く恭一に告白しないと!】


 ここは上の選択肢ですね。


 文字通り、恭一さんが他を選ぶわけありませんから。


『そう。じゃあ好きにすればいいんじゃないの?』


 選んだ選択肢に応じて、ゲームの私が話します。


『言ったね!今の録音したから、後で絶対に恨まないでね!』


 花村さんは録音アプリが起動しているスマホの画面を見せつけて来ましたが、現実、ゲームとちらの私も涼しく流します。


 このゲームでは私と恭一さんは固い絆で結ばれた幼馴染ですから!


 ぽっと出の花村さんがどれだけ動いても揺らぐはずがありません!


 ……でしたのに。


『アリア。ごめん。俺、花村さんと付き合う事にしたから、今までみたいに一緒にいるは出来ない』


 あの時の明後日となる二日後の朝。


 朝一に車で恭一さんを迎えに言ったら、恭一さんにそう言われました。


『え……?どうして……?私たち……幼馴染だよね……?』


『そうだけど、俺の彼女は花村さんだから。正直、彼女の事はまだよく分からないけど、告白してくれたからには、真剣に気持ちに答えないと』


『わ、私も恭一の事好きよ!お願い!私と付き合って!』


『えっ……?……ごめん。アリアの事は嫌いじゃないけど、そういう相手には見てなかったし、先に告白してくれたのは花村さんだから』


 そのまま恭一さんは私から離れ、離れた場所にいた花村さんと合流して登校して行きます。


 去り際、花村さんがこっちを見て顔に嘲笑を浮かべながら。


 直後、画面が暗転してイチゴさんの声が響きます。


『こうしてアリアちゃんは、幼馴染の立場に胡坐をかいた傲慢のツケを払い、きょーくんを奪われたのでしたー』


 そして【BAD END・幼馴染は負けヒロイン】という悪趣味な文字が目の前に浮かび上がりました。


「ちょっと!どうしてこんな終わりがあるんですか!?」


 本当にイチゴさんがいる訳でもないのに、ついそんな言葉を口に出しました。


 すると、またもイチゴさんの声が聞こえます。


『きょーくんと付き合うなら、これぐらいの事は普通にあるって知ってるよね?これはアリアちゃんときょーくんの関係以外は現実に起こり得た事を想定シミュレーションしたゲームだよ?』


 またも狙いすましたような返事が!


 VRゴーグルをずらして部屋を見回しましたが、イチゴさんの姿は見当たりません。


 まさか、このVRゴーグルに監視の仕掛けが?


『普通にアリアさんの考えを予想しての録音だよ。本物の私は今頃部屋で寝てるんじゃない?』


 ってそういう狙いすましたような返事があるから疑わしいじゃないですか!


 しかも時間帯まで当てて!


 どうしても疑わしたかったので実際にイチゴさんの部屋のドアをこっそり開けて中を確認しました。


 が、イチゴさんは本当にベッドでぐっすり寝ていました。


『これで満足した?てかもう十分遅い時間なんだけど、アリアちゃんは寝ないの?』


 手に持ったままのVRゴーグルからまたもイチゴさんの声が。


 ええ、いいでしょう。録音であるのは認めます。


 中々の洞察力ですね。


 でもまだ寝ませんよ。


 ハッピーエンドを見るまでは!


 そう意気込んで部屋に戻り、ゲームを再開します。


 幸い今回はセーブデータがあったので、例の選択肢からの再開です。


【危ない!リンゴさんより早く恭一に告白しないと!】の選択肢を選び、ゲームの私はその日の内にゲームの恭一さん告白します。


『恭一!私、恭一の事が好き!私と付き合って!』


『えっと……。正直アリアをそういう相手に見てなかったからびっくりしたけど……わかった。アリアがそう言うのなら、俺もこれから真剣にアリアの事を考えるよ。付き合おう』


 それでゲームの私と恭一さんはお付き合いする事になり、お互いの家族は私たちの交際を祝福してくれました。


 そして私は悠翔高校以外にもいくつかの会社を経営している資本家の一人娘ですので、交際相手の恭一さんには入り婿として跡継ぎになるのを求められ、恭一さんは「それがアリアとの交際に必要なら」と真面目に我が家の後継者教育を受け始めました。


 これはもう婚約しているのと同義では?


 と現実の私が思ってた所。


『恭一。これってもう私たち婚約してるよね?』


 ゲームの私も似たような言葉を口走りました。


 それを恭一さんや家族が聞いて、それならばと私と恭一さんは両家公認の婚約者になりました。


 ゲームの話だとは理解しておりますが、恭一さんと婚約している状況に気持ちが舞い上がります。


 中学三年生になる恭一さんは今の恭一さんとそっくりなのもゲームに移入する一因ですね。


 このゲームに出る人たちの3Dモデルにボイス……、本当にイチゴさんが一人で作ったのでしょうか。


 もう諸々ととんでもない技術力ですが。


 この技術力があれば将来花京院家の力に出来るかも知れません。


 そうすれば私の夢の一つでもある、花京院家の事業を拡大して、それで得た収入で悠翔高校を高校だけじゃなくて幼稚園から、それが難しくても小学校からのエスカレート校にして私と恭一さんの子供を通わせる事も叶うのでは?


 最初は恭一さんを独占するつもりでいずれ蹴落とすつもりでしたが……これは逆に恭一さんを共有してでもイチゴさんを手放せないのでは……?


「アリア、返事しなさい!」


 色々考えてた時、不意に声を掛けられると同時に肩を揺さぶられました。


 ゲームを一時停止して、画面を周囲確認カメラモードに切り替えると、いつも間にか横にユカさんがいました。


 VRゴーグルを着けたままでは行儀が悪いので、ゴーグルは外します。


「ユカさん?どういった用事ですか?」


「用事が何かって、あんた今の時間分かってるの?朝ご飯の時間になっても来ないから呼びに来たのよ。まさかそのゲームで徹夜した訳じゃないわよね?」


 ユカさんに責められる目付きで睨まれ、私は気まずくなって目を逸らします。


 しばらくして、ユカさんはため息をつきました。


「はあ……。まあ今日は休日だからいいけど。あんまり夜更かしが続くと肌に悪いわよ。あと、ゲームは一旦やめてご飯食べに来なさい」


 ユカさんはまるで母親みたいな事を言って、私を部屋から連れ出しました。


 食卓には恭一さん以外全員揃っていて、その恭一さんは食事当番だったのか厨房から料理を運んで来ていました。


 今日の朝食は恭一さんの手料理でしたか。勿体なく出来立てを逃してしまう所でしたね。


 というか、ユカさんもリナさんも元気ですけど、もしかしてあのゲームで徹夜したのって……私だけですか……?



 ―――――――――――――――

 想定より長くなったのでまだまだ続きます!

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