第6話『葛葉兄妹の新しいお仕事』

 島川の事で色々あった後。


「なあイチゴ。俺に出来る仕事とかあるか?」


 色々と思う所があってモデルのバイトはもう止めようと決めて、俺はイチゴに新しい仕事について相談した。


「恭一さん。お小遣いくらいでしたら、私が家の相談して私の家から出して貰えるようにします。その代わり、私と婚約して将来結婚して一緒に事業を切り盛りして返していただければ……」


 そしたらシェアハウスのリビングで一緒に話を聞いていたアリアさんがそう言って来た。


「いや、ヒモも婚約もちょっと……」


 でも俺は断った。


 そもそも既にイチゴと婚約みたいな約束をしたから今まで貢いで貰ってて、そろそろそれも限界だから仕事しようって話だからな。


「じゃあ配信とかどう?」


 話を聞いたイチゴはそう提案して来た。


「配信?」


「そう。ゲームとか、歌とか、絵描きとか」


「いや、前の二つはともかく、何故絵描きを?」


「ちょっときょーくんに描いて欲しい絵があってね。大丈夫。上手く描く方法は私が教えてあげるから」


 配信か……。


 ちょっと不安だが、相談しておいて食わず嫌いするのもあれだな。


「分かった。やるだけやってみるよ」


「ねえ、私に出来る仕事とかは無い?」


 同じくリビングにいたユカが聞いたが。


「ん?グラドルでもやれば?」


 イチゴはユカの大きい胸を睨みつけながらそう返した。


「ええ……、不特定多数に体見せるのはちょっと……」


 ユカは庇うように自分の体を腕で抱きしめた。


 そしてチラチラとこっちを見ている。


「……俺もユカたちの体を他の人に見せたくないな」


 こういう事を言って欲しいんだろうと察して、そのまま言った。


 こっちも恥ずかしいんだが、リップサービスくらいはな。


「そうよね!恭一も嫌だもんね!」


 ユカは嬉しそうに声を弾ませた。


「恭一さん!配信するのでしたら、機材が要りますよね!それは私が最高級の物で用意します!」


 それにアリアさんが対抗するみたいに申し出る。


「ああ、アリアさんもありがとう。頼りになるよ」


「いえ。私は恭一さんの恋人ですから!」


 アリアさんは誇るように胸を張る。


 とにかく、そういう訳で俺の配信者デビューが決まった。


 機材はイチゴが見繕った物をアリアさんが購入し、空いた部屋に搬入してそこを配信部屋に使う事にした。


 機材の購入費用については、後で何らかの形で返そうと思う。


「これが機材の操作マニュアルで、こっちは配信の台本ね。NGな言動とか書いてあるから絶対読んでね」


 準備する間、イチゴから配信に向けた手引きもして貰った。


 それだけじゃなくて、宣伝用のSNSアカウントもイチゴが管理してくれるらしい。


『ああ、どうもこんばんは。葛葉くずのは恭一です。この度ネット配信を始める事になりました。それで初回はですね、最近流行りのこのゲームをプレイしようと思います』


 そして放課後や週末の空いた時間に、週四回くらいの頻度で配信を始めた。苗字は読み方をちょっとボカして。


 すると……バズった。


 自分の事ながら引くくらい凄い勢いで。


「恭っち!登録者数、あっという間に十万人越えたね!おめでとう!」


「昨日の配信も良かった」


「恭一くんが段々遠く……」


 配信の事は学校でも知られて、ユウリたちに色々言われたりもした。


 さらに、俺のファンの子が増えてクラスの教室や溜まり場の教室に訪れる女子も多くなり、放課後に校門前で出待ちされる事とかもあった。


 その反動で俺に嫉妬した男子が俺の個人情報をネットにバラ撒く事もあったが、それはイチゴとアリアさんが対応してくれた。


 ユカは俺が配信に集中出来るように家事の当番を代わってくれたり、配信が終わる時間に合わせて夜食を作ってくれたりと支えてくれた。


 本当に色々恵まれていると実感する。


 逆にこの関係から抜け出せないように包囲されて来てる気もするが……後で考えよう。


 配信はすぐ収益化されて、それで得る収入だが目が飛び出るくらいヤバかった。


 本当に金が入るのは先の事だが、この分だとイチゴに小遣いを貰う事もすぐ無くなりそうだ。




「きょーくん。そろそろ絵を描いて欲しいの」


 夕方のリビングで、次の配信内容について相談すると、イチゴがそう言って来た。


 そう言えば配信で絵を描いて欲しいとも最初に言われてたな。


「どんな絵を描いて欲しいんだ?」


 最初の頃は絵を描いた覚えが無くて怖気づいてたんだが、配信の経験を積むとその考えも変わった。


 例えばゲーム実況の配信だが、特にゲームが上手くなくても構わない。


 配信者がゲームに一喜一憂する所とか、プレイスタイルに自由度が高いゲームをどのようにプレイするのかをみたい人が多いのだ。


 俺の場合はスーパープレイとか言われて話題になるのが多いが。


「知り合いの子たちをバーチャルライバーにデビューさせようとしてるんだけど、そのデザインをお願いしたいの」


 でもイチゴの言葉は予想の斜め上を行ってた。


 バーチャルライバーとは何かの説明は、今時知ってる人の方が多いと思うので省略しよう。


「Ⅴライバーのデザイン?それを配信で描くのか?」


「話題性があっていいでしょ?」


「綺麗に描けないがいいのか?」


「一発で綺麗に描けなくていいよ。むしろ練習込みで長く配信しよう」


「……やってみるよ」


 金貰ってデザインする訳でもないからな。


 上手く出来なかったら、その時にやっぱ無しってすればいいだろう。


 それでⅤライバーのデザインという事は伏せて、『オリジナルの美少女キャラを描いてみる』といった企画で複数回に分けた配信を始めた。


 最初は液タブの使い方に四苦八苦したり、根本的な画力が足りなくてあまり良い絵が出来上がらなかった。


 でも配信あいだ毎にイチゴにアドバイスして貰って数を重ねる事で、八回目の絵描き配信でリスナーたちも絶賛するようなキャラが二人出来上がった。


 そしてイチゴがそのキャラのLive2Dモデルを制作して、そのモデルを使った新しい個人のⅤライバーがデビューしたのだが。


『えーと。初めまして。この度Ⅴライバーになった一葉リリです。ご存知の方もいらっしゃるかもですけど、ネット配信者の葛葉恭一さんがデザインして下さったキャラですが、ちょっとした伝手で、そのモデルを使ってデビューさせていただきました。よろしくお願いします』


 一人目のキャラ。一葉リリは名前やデザインをイチゴに指定された明るい茶色の癖っ毛を肩の下まで伸ばしたキャラだ。


 で、そのキャラから聞こえる声がどうも耳に馴染んでいた。


「なあイチゴ。この子って、リナじゃないか?」


 だからスマホの画面を見せてイチゴに直球で聞いてみた。


「そうだよ?」


 イチゴはあっけらかんと肯定した。


「……そうか」


 最初は予備かと思ったが、道理で配信用機材を余分に買った訳だ。


 リナのⅤライバーデビューについては、いかがわしい事する訳でも無いから反対とかはしない。


 心配があるとすればリナがこの前アリアさんの指名で生徒会の庶務に就任したから、それと両立出来るかくらいだが、それを言ったらシェアハウスの面子は全員生徒会役員なんだから十分支え合えるだろう。


 だからリナのⅤライバー活動は普通に応援する。


 そして二人目のキャラ、二葉ヒカリ。こっちもイチゴに名前とデザインを指定されてて、藍色のショートヘアに白のメッシュが入り、さらに瞳に星形のハイライトが入ったキャラだ。


『どうもこんばんは!二葉ヒカリです!この度葛葉恭一さんのデザインされたキャラでデビューしました!先にデビューしたリリちゃんとは姉妹になるのでしょうか?これからよろしくお願いします!』


 で、声に聞き覚えがある上に、妙にトーク慣れしている。


 しかしどこで聞いたのか思い出そうとすると、急にストレスが押し寄せて来て頭がぼーっとなり心臓が締め付けられる来がして来る。


 こっちの中身については、気にしない事にしよう。


 ……と思ったのに、ちょっと覗いた裏掲示板サイトで一葉リリと二葉ヒカリ両方の中身が割れてた。


 恐ろしいネット社会……。


 一葉リリ=葛葉リナについては、Ⅴライバーとそのデザイナーは親子みたいに呼ばれる事があるが、この場合は中身が本当に兄妹だったと概ねいい方に受け入れて貰えた。


 ただ二葉ヒカリの中身はあの島川トモリだったようだ。


 そして当然、犯罪歴付きの元アイドルだと炎上した。


 正直俺もびっくりした。


 声を聞いてストレスを受けた原因って、まんまこいつの正体の所為だったのか。


 イチゴって、いつの間に島川との伝手を得たんだ?


 それだけでは留まらず、二葉ヒカリの配信に夢川アカリ(島川の芸名)のファンだった人たちまで押し寄せて来て、島川の引退の原因である強制わいせつについて追及されてた。


 これに対して島川、もとい二葉ヒカリは。


『え?夢川アカリ?誰の事ですか?ヒカリとは違う人ですよ。あまり配信に関係ない事ばっかり言うとブロックしちゃいますからね♪』


 突っ張ってゴリ押した。


 Ⅴライバーに中の人はいないという設定と、そこを掘り下げない暗黙の了解を全面に押し出したのだ。


 こいつメンタルつえーな。


 正直、感心した。


 ただ、中身はともかくキャラをデザインした俺とはどういった関係なのかという質問もあって。


『え?私ときょーパパの関係ですか?それはですね……』


 それを聞いた二葉ヒカリは色々喋った。


 喋り過ぎた。


 直接的な表現は使わなかったが、俺にお願い脅迫して関係を迫り、やる事やった事を暗示させる言葉が多かった。


 それで視聴者およびファンの反応は阿鼻叫喚となった。


 女性のⅤライバーはアイドルではないが、それに近い処女性を求められたりする。


 だが二葉ヒカリはそういうファンを死滅させたのだ。


 それだけでなく夢川アカリ引退の真実が明かされたような物だったので、そっちのファンも死滅した。


 ただ、そのあまりにも非現実的さに、二葉ヒカリが言った事は本当にやった事ではなく、あくまでヤバい妄想と解釈する人たちも出た。


 どっちしろ二葉ヒカリはヤベー奴と認識されて、そういうキャラを好むファン層が二葉ヒカリを推した。


 逆に処女性を求めるファンは一葉リリの方に移る事になった。


 リリの中の人のリナは俺と兄妹だから(義理とは知られてない)、そういう疑惑からは安心だからと。


 …………うん、まあ、知らない方が、いや知られない方がいい事もあるよな。


 そのリナリリの中身も俺と関係を持ってたとか……な。


―――――――――――――――

 三章のちょっとした後日談でした

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