第5話『ある新入生少年の失恋』

【OtherSide】


 僕、小田おだ勝吾しょうごはアニメや漫画に入れ込んでいるオタクだ。


 その上に背も小さく眼鏡もしてるから、他の生徒たちによくバカにされる。


 それでも、僕の味方をしてくれる人が支えになってくれた。


 その人は鈴木すずき優里ゆうり先輩。


 一年上の金髪ギャルな先輩だけど、僕が一人でスマホでアニメを見てた時に声を掛けて来た。


 そしてそのままアニメの話になり、自然にユウリ先輩と仲良くなった。


 オタクに優しいギャルって本当にいたんだ。


 てかユウリ先輩本人がちょっとオタクだったけど。


 これで僕がユウリ先輩と付き合う事になるのを期待するのも自然だと思う。


 だからユウリ先輩と同じ悠翔高校に進学して来た。


 偏差値高いから必死に勉強して、学費も高いから両親に必死に頭下げたけど。


 一応成績上位者は学費の大半を免除して貰える特待生制度があるみたいだけど、俺の頭では無理だった。


 死ぬ気で勉強すればワンチャン行けたかも知れないが、そうしたら成績を維持するために趣味や恋愛を楽しむ事が出来ないから諦めた。


 そして入学後の放課後。


 僕はユウリ先輩を見つけてすぐ声を掛けた。


「ユウリ先輩!」


「ほへ?」


 ユウリ先輩は足を止めて僕の方に振り向いた。


 今気付いたけど、ユウリ先輩の他にも女の先輩が二人いる。


 どっちも着崩したり、メイクしたりしたギャルっぽい恰好の、それぞれ緑と赤の髪色の女性で、金髪のユウリ先輩と合わせると信号みたい。


 ユウリ先輩は首を傾げながら聞いて来た。


「えっと君……誰だっけ?」


「え?」


 まさか僕の事……覚えてない?


 覚えてるのは僕だけ?


 いやいや、ちょっと思い出せないだけのはず!


「小田勝吾です!中学の後輩の!」


「ん?ああー!小田っち!」


 ユウリ先輩は今思い出した様に手を叩いた。


「ゴメンね?ちょっと思い出せなくて」


「いえ、一年も会ってませんから」


「それで、何か用事?」


「えっと……、久しぶりにお話とか……」


 って、今更だけど、もしかして他の二人と一緒に遊びに行く途中だったとか?


 ちょっと恥ずかしい。


 混ぜて貰うのは……流石に無理だよな……。


「ゴメンー。今日は友達と遊ぶつもりだったからちょっと無理かも」


 ユウリ先輩は両手を合わせて謝る。


「そうですよね。すみません。えっと、じゃあ次はいつが……?」


「う~ん。ねえ、恭っちって明日生徒会だったよね?」


 少し考えたユウリ先輩は他の二人に聞いて、赤い髪の先輩が答えた。


「そのはず」


「そっか。じゃあ明日どう?」


「いいですよ」


 その流れで、僕とユウリ先輩はお互いのクラスを教え合った。


「ありがと!じゃあ明日話そうね!」


 そして手を振りながらユウリ先輩と別れた。


 明日……、明日か……。


 何話そう!?


 今期始まったアニメのお勧めや感想とかかな?


 ユウリ先輩はどのアニメ見たんだろう。


 楽しみだ!




 翌日。放課後になると、ユウリ先輩が僕のクラスに迎えに来てくれて、僕はユウリ先輩と一緒に屋上に移動した。


 それで色々話そうとしたけど、ユウリ先輩って最近のアニメはあまり見てないようで僕がアニメのPVを見せながら色々話すばかりだった。


「へー。最近のアニメはこんな感じなんだ。教えてくれてありがとね、小田っち。後で気になったやつ見てみるから」


「はい。それで、えっと……」


「ん?」


「レインIDとか、交換して貰ってもいいですか?そ、その方が、感想とかすぐ話し合えると思うので」


「うん、いいよ」


 僕のお願いに、ユウリ先輩は快くレインIDを好感してくれた。


 ちょっと疎遠になってたから不安だったけど、脈があるのか?


 その日はそれで解散したけど、それからも僕は度々ユウリ先輩と会ってアニメや学校生活の話とかを交わした。


 そんな日常を送るある日。


「おい小田。お前、最近鈴木先輩に色目使ってるみたいじゃないか」


 昼休み時間にユウリ先輩と話してから教室に戻ると、クラスメイトの男子にそう言われた。


「色目って……普通に趣味の話をしてただけなんだけど」


「それが色目だろうが。一応言ってやるけどよ、あの人は止めた方がいいぜ?なんたってあの葛葉恭一の女って噂だからな」


「へ?」


 葛葉恭一って、男の名前?


 その女って……。


「……どういう事?」


「どうも何も、そのまんまの意味だよ。知らないのか?葛葉恭一。二年生で、入学式の代表挨拶した葛葉理奈の兄で、生徒会副会長で、学校で一、二を争うイケメンで、色んな女囲ってるって有名だぞ?」


 言われてみれば、そんな風に色んな女子に囲まれてた人見かけた事あるかも……。


「で、鈴木先輩は葛葉恭一の固定の取り巻きなんだから、もう裏でとっくに色々やってるって噂だ」


「……そんな……」


 ユウリ先輩がそういう風に遊んでるって……。


 そりゃあギャルな見た目だからもしかしてとは思ってたけど……。


「だから、痛い目に遭う前に諦めた方がいいって事だ」


 話はそれだけだって感じで、クラスメイトは去って行った。


 でも、噂ってだけだろ。僕は信じない。


 その葛葉恭一って先輩とは友達付き合いの延長で仲良くしてるだけで、そういう事はしてないと!


『ユウリ先輩。次の週末、新しく上映してる劇場版のアニメを見に行きませんか?』


 でもやっぱり不安だったからレインでデートに誘った。


 劇場版のアニメに誘うっていかにもオタクっぽいけど、共通の趣味がこれだけなんだから仕方ない。


 不安な気持ちのまま、既読と返信を待っていると……。


『ごめーん。それもう友達と見に行く約束してるの。また今度別の見に行こうね』


 って返事が来た。


 そっか、ユウリ先輩、他にもそういう事見に行く友達がいるんだ……。


 ……まさかあの葛葉恭一って先輩じゃないよね?


 いやいや、まさか。


 取りあえず劇場特典とかあるし、一人でも見に行くか……。




 週末。映画館で劇場版アニメを見た後。


 映画館を出る途中、ユウリ先輩を見かけた。


 ユウリ先輩だけじゃない。


 ユウリ先輩とは似ていて違う天然物っぽい金髪と緑眼の綺麗な女の人と、男の僕が見てもびっくりするくらいイケメンな男の人も一緒にいた。


 あの女の人って生徒会長の花京院アリア先輩?


 という事は、あの男の人が葛葉恭一先輩?


 一緒に見に行く友達ってあの二人だったんだ。


 てかまるっきり葛葉先輩に両手の花なんだけど。


 あの三人って本当に友達なのか……?


 どうしても気になって、僕は三人の後をつけたけど、三人はすぐ黒塗りの高級車に乗ってどこかに行ってしまった。


 そこでふと、クラスメイトが言ってた噂の事を思い出した。


 まさか三人でホテルとかに行ったり……してないよね?


 不安な気持ちのまま、僕は家に帰った。


 その後の夕方に探るつもりでユウリ先輩に適当なレインメッセージを送ったけど、翌朝になっても既読にならなかった。


 そして平日。


 僕は早速昼休みにユウリ先輩を屋上に呼んだ。


「小田っち、話って何?」


「えっと、実は前の週末でユウリ先輩が花京院先輩や葛葉先輩みたいな人と一緒にいる所を見たんですけど……」


「あー、見ちゃった?でもそれがどうかしたの?」


 ユウリ先輩は本当にそれがどうかしたのかって風に聞き返して来た。


「えっと……、もしかしてですけど、ユウリ先輩ってあの葛葉先輩と付き合ってたりしますか?」


「そう見える?やー、でもそういう関係じゃないんだよねー」


 そう言うユウリ先輩はいかにも照れくさそうに髪の毛を弄る。


 このままだと手遅れになると、僕の中で警鐘が鳴った。


「あ、あの!ユウリ先輩!じゃあ、僕と付き合ってくれませんか?僕、中学の頃から先輩の事が好きでした!」


 危機感に駆られるまま、つい告白してしまった……!


 僕の告白を聞いたユウリ先輩は目を丸くした。


「えっと……、そうだったの?」


「はい」


 恥ずかしさに顔が熱くなって、僕は顔を下げた。


「その……、あはは。ゴメンね?ウチ、彼氏とか作ると恭っちと遊べなくなるから、高校の内は誰とも付き合わない事にしてるんだ」


「そう……ですか……」


 振られたしまった。


 それだけじゃなくて、断る理由にあのイケメン先輩との付き合いを理由に出されて。


 結局イケメンがいいって事なのか。


 何か泣けて来た……。


「えーと、別に小田っちが嫌いって訳じゃないから、今まで通りちょくちょく会ってアニメの話をするのはいいんだけど……どう?」


 ユウリ先輩がどんな顔をしてそう言ってるのか、よく見えなかった。


「その……すみません!」


 僕は顔を隠して屋上から逃げ出した。


 そして教室に戻る気にもなれず、カバンを放置して家に帰った。


「うわあああああああん!」


 部屋に戻った後は、ベッドに潜りひたすら泣いた。


 僕が先にユウリ先輩と仲良くなったのに、後から出て来たイケメンにユウリ先輩を取られてしまった……!


 僕じゃダメだったのか!オタクじゃ嫌だったのか!イケメンだけが好きに恋愛出来るのか!




「おい、教室にカバン置いて行ってたぞ」


 家に籠っていたら、日が暮れる前にユウリ先輩について言って来たクラスメイトが僕のカバンを持って来てくれた。


「ああ、ありがとう」


 玄関前で、僕はお礼を言いながらカバンを受け取った。


「それよりもお前、結局やってしまったのか」


「?何を……?」


「鈴木先輩の事だよ。告白して振られたんだろ?それを見た生徒がいたらしくて、もう学校中噂になってるぜ」


「え……」


 あれを見られた……?


「それで、明日からしばらく笑い者にされるかも知れないから、知っておいてくれ。じゃ」


 用事を済ませたクラスメイトは、そのまま去って行く。


 鈴木先輩に振られただけじゃなくて、それを笑い者にされるなんて……。


 残された僕はもう全部嫌になって、しばらく不登校になった。


―――――――――――――――

 小田くん……メンゴ

 これは色々逆張りする小説なので

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