第4話『テニス部のエースが消えた訳』
春休みの途中。
俺はテニス部の部長の
「あら、恭一も学校に行くの?」
玄関に出ようとすると、途中で俺と同じく制服を着たユカと鉢合わせた。
「ああ、テニス部の先輩に呼ばれてな。ユカは生徒会の用事だったか」
「そうよ。せっかくだから一緒に行かない?」
「そうするか」
そのままユカと二人で学校に向かった。
「~♪」
二人きりでご機嫌なのか、移動中ユカはニコニコして俺と腕を組んだ。
わざとなのか、体勢で自然とそうなってるのか、ユカの胸が服越しで俺の腕に押し潰されている。
それが仲良しカップルに見えたのか、すれ違う人たちに生温かい目で見られた。
それだけじゃなくて嫉妬される事もあって。
「葛葉!斎藤を賭けて俺と勝負しろ!」
学校に着いて早々、テニス部員に因縁をつけられた。
この人は……二年の石川先輩だったか。ここのテニス部のエースの。
「知り合い?」
一緒に登校したユカに聞いてみたが、首を横に振られた。
「いいえ?」
「いやいや、何度も一緒に話しただろう!」
石川先輩が慌てながら言うと、それでユカも思い出したって顔をした。
「……ああ、生徒会の仕事で何度か話してたのかも」
「それだけ?」
念のために、ちょっとした期待を込めて聞い直してみた。
「それだけよ。……はっ、勘違いしないでね。この先輩とは本当に何もないから!」
途中で俺の意図に気付いたのか、ユカは必死に石川先輩との関係を否定した。
残念だ。いい感じだったのなら大人しく身を引いたのだが。
「そんな事ないだろ!いつも俺を応援してくれたじゃないか!」
「はい?普通の社交辞令でしたけど……」
「んなっ!」
石川先輩が顔を真っ赤にしたが、スルーして近くにいた武田先輩に聞いた。
「武田先輩、用事って何だったんですか?」
「すまん。石川がどうしても葛葉くんと勝負したいとうるさくて呼んだんだ」
武田先輩は両手を合わせて俺に謝りながら説明した。
「はあ……、俺帰っていいですか?」
「本当にすまん。君と勝負出来ないと次の大会に出ないと言われたんだ。悪いけど勝負してくれると助かる」
「ふう……、それで。ユカを賭けるって具体的にどうしろと?」
そしてようやく、俺は石川先輩に聞き返した。
「俺が勝ったらお前は生徒会を辞めて、斎藤に近付くな!そして斎藤は俺と付き合ってくれ!」
「で?」
俺が聞き返すと、石川先輩が狼狽えた。
「は?で、ってどういう意味だ?」
「それで?俺が勝ったらどうするんですか?」
「それは……俺が大人しく引き下がろう」
「はあ」
話にならんな。
何故に勝負を持ちかけて来る奴はいつも、こっちの時間と労力をただで奪いに来るのか、まるで理解出来ない。
「石川先輩」
そこでユカが話に割り込んで来た。
「何だい?あ、俺の事は
「石川先輩って妹いましたよね?私たちと同学年に。石川先輩は彼女を賭けてください」
「いや、拓也って……」
「………」
石川先輩はしつこく名前呼びを要求するも、ユカは自分が言いたい事は言い終えたとばかりに無言で石川先輩を睨んだ。
「……分かった。俺が負けたら、妹を紹介しよう。デートでも何でも連れて行けばいい」
「今の録音しましたからね。後でやっぱ無しって言わないでくださいよ?」
「もちろん!俺は負けないからな!」
そして俺と石川先輩の勝負が始まり……
………
俺が勝った。
「くそぉ!何で!練習に一回も出ない奴に!」
石川先輩は跪いた体勢で拳で字面を叩く。
何かごめんなさい。
「恭一!カッコよかったよ!」
俺の勝利を見届けたユカがテニスコートに入って俺に抱き付いた。
それを見た石川先輩が顔色を変えて叫ぶ。
「斎藤!俺が負けたけど、そいつだけはやめるんだ!そいつは色んな女に手を出してるクズなんだぞ!君は騙されているんだ!」
しかしユカは聞き入れた様子無く、冷たい目で石川を見返す。
「余計なお世話です。んチュー」
そして見せつけるようにマウストゥーマウスで俺にキスした。
「なっ、う、うわああああああああっ!テニス部のエースって呼ばれた俺があんなチャラチャラした奴に負けて斎藤を奪われるなんて!テニス頑張った甲斐も無いだろ!もうテニスなんて辞めてやる!!!」
それを目撃した石川先輩は、叫びながらどこかに走り去って行った。
えええ。
テニス部のエースが三年の夏も終わる前に引退宣言しちゃったんだけど。
俺は……悪くないよな?
念のため、武田先輩にも聞いてみた。
「武田先輩、石川先輩がテニス部辞めても、俺に責任無いですよね?」
「……ああ。君に勝負を受けさせた俺が責任を持って石川を連れ戻すよ」
すると武田先輩は凄く渋い顔で頷いてくれた。
しかし石川先輩のメンタル回復がすぐ近くにある団体戦の大会までに間に合わなくて、またも俺が助っ人で参加する事になった。
責任は無いと言ったが俺が原因の一部ではあって、理事長からも俺に悠翔高校の広告塔になれと言われてたからな。
大会会場で鈴木くんと会うかもと思ったが、本当にテニスを辞めたのか鈴木くんの姿を見なかった。
そして大会の結果、最終成績は準優勝となった。
決勝までは何とか勝ち上がったのだが、決勝戦の相手が強豪校で俺と武田先輩は勝ったが、他は全敗して優勝を逃したのだ。
「追加予算をつぎ込んでテコ入れまでしたのにまた負けましたか……。まあ、恭一さんの見せ場は最後まであったので、部費削減だけで済ませましょう」
その結果を聞いたアリアさんは、テニス部に割とキツい判決を下した。
俺はもう助っ人に出ない方がいいかも知れん。
最後に、石川先輩の妹を賭けてた件について。
正直興味なかったのですっかり忘れてシェアハウスのリビングでくつろいでいたのだが。
「恭一、石川さんとデートする予定を組んだから、絶対行ってよね」
ユカからそんな不意打ちを受けた。
「……何で?」
「彼女を賭けた石川先輩との勝負に勝ったからでしょ?」
いや、それは今思い出したが。
「なあユカ。俺たち一応付き合ってるよな?」
「一応ね」
「彼氏を他の女子とのデートに送り出すのか?」
イチゴじゃあるまいし。
「私だって好きでやってるんじゃないわよ。でも勝ったのに賭けたのを取りに行かないとあんたが舐められるじゃない」
「別に舐められても構わないんだが」
「私たちが構うから。それにもう約束も取り付けたんだからキャンセルすると向こうに文句言われるわよ」
「文句って……、何で?」
「石川先輩の妹のひろ子さん。あんたのファンだって」
「おおう」
それはまた面倒な……。
「イチゴ……はともかくアリアさんには何て言うんだ?」
「大丈夫よ。例の実験と言ってアリアにも了承と取ったから」
俺の限定的不能の原因を探るアレ、まだ続いていたのか。
ここまで外堀を埋められては、突っぱねる方が面倒そうだ。
「……今回だけだからな」
「そうなるように私も頑張ってみるわ」
不安な事を言ってくれるな。
結局、数日後に俺は石川妹さんとのデートした。
出掛ける際に、ユカに行ってらっしゃいのキスをされたのが色々意味分からん。
「まさか葛葉くんとデート出来るようになるなんて!お兄さんが負けたのに感謝しないとね」
待ち合わせ場所で合流した石川さんは本当に俺のファンだったらしく、デートを喜んでくれた。
ユカと付き合ってるみたいの事を暗示したりもしたが、それはスルーされたけど。
俺目当ての女子の貞操観念ってどうなっているんだ?
……いや、最初の頃は女癖が悪いって噂されてたから、俺に対する期待値が低くなってるのかも知れん。
それで俺たちはウィンドウショッピングをしたり、ゲームセンターで協力ゲームをするなどあくまで健全にデートした。
途中でイチゴからお勧めのラブホの情報が送られて来たけど、無視。
ネットのお勧めに乗ってる飲食店で夕飯を奢り、その日はそれで解散しようとした……が。
「ひろ子!どうしてそいつとデートしてるんだ!?」
突然、同年代の男子が現れてそう叫んで来た。
ひろ子って確か、石川さんの下の名前だったな。
「……石川さん。あの人は誰?」
「し、知らない人かなー」
石川さんに聞くとそう答えられたが、明らかに目が泳いでいるが?
「何でそんな事言うんだ!?俺たち、付き合ってるだろ!?」
「うん?」
付き合ってる?
それはつまり……
「石川さん、彼氏いたのか!?」
俺もびっくりして問い質した。
「彼氏いたのなら、何でデートなんて受けたんだ!」
「ちちち、違うから!あれはただの遊び相手だから!本命は葛葉くんだから!」
逆だろ!俺が遊びで向こうが本命だと言え!それもそれで最低だが!
「ひろ子……俺が遊びって……嘘だろ……?」
石川さんの彼氏もショックを受けたようだ。
「嘘じゃないよ。友達で彼氏いないの私だけなのが恥ずかしかったから、繋ぎで手頃な相手に告って付き合っただけだから。私の本命はずっと葛葉くんだったんだもん」
もんじゃねーよ。
人の純情を弄ぶとか、最低じゃないか。
「繋ぎ……?生まれて初めて告白されて嬉しかったのに……うわああああん!」
石川さんの彼氏は泣きながら走り去った。
あー、これはまた俺が彼氏持ちの女子を寝取ったって噂される流れだな。
そんな予想をしつつ、気まずい空気のまま解散となった。
所が新学期が明けてもそんな噂は流れなかった。
原因をちょっと調べると、石川兄妹も妹さんの(元?)彼氏も知らぬ間に転校してた。
おかげで俺の評判は悪くならなかったのだが……。
まさかイチゴやアリアさんとかが裏で手を回したりしてない……よな?
―――――――――――――――
補足すると、石川妹は再登場させる予定のないキャラです
次はユウリの話です
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