第3話『宗方三明の険しい恋路③』

【Side.伊藤ケイコ】


 私はクリスマス後の冬休みに、ユカに手伝って貰って恭一くんとエッチさせて貰った。


 振られてそのまま終わりかと思ったけど、恭一くんと繋がれて夢みたいな時間だった。


 もしかしたらこのままユカを押し退けて私が恭一くんと付き合えるようになるんじゃないか、なんて夢も見た。


 でも名前で呼び合うようになった以上の進展がないまま二年新学期の時間が過ぎた。


 その間、私がユカに手引きして貰った事はあっても、恭一くんから求められた事は一回も無かった。


 恭一くんって、エッチしても私の事友達としか見てないのかな……。


 そう思っていた私に、更なるピンチが訪れた。


 私の幼馴染だった宗方三明くんが現れたのだ。


 しかも露骨に私にアプローチして来てる。


 それだけじゃなくて、恭一くんは明らかに宗方くんを応援している。


 つまり恭一くんは私を宗方くんに押し付けようとしているのだ。


 私は恭一くんに捨てられると思って心臓が凍るような思いをした。


 既にユカと付き合っている恭一くんが私を避けるのは分かる。


 でもこのまま終わりたくない……!


 だから私は学校でユカに相談した。


 恭一くんに捨てられたくないからと言って、その彼女に泣きつくとかみっともないかもだけど、なりふり構ってられない。


「ふうん。あの宗方に乗り換える気はないの?」


 ユカはあまり気の無さそうに言って来た。


「恭一の代わり……と言ったら悪いけど、宗方もいい相手だと思うんだけど」


「しないよ。私が好きなのは恭一くんだから」


 むしろ宗方くんは……邪魔。


 アレがいる所為で、みんな恭一くんから乗り換えろって言われてるんだから。


 確かに子供の頃は仲良かったけど、それこそ子供の頃の話だし私は恭一くんじゃないとダメなんだから。


「そう。じゃあちょっと待ってて」


 私の答えを聞いたユカはスマホで誰かを呼び出した。


「こんにちは伊藤さん」


 来たのは……花京院さんだった。


 話を聞けば、恭一くんはユカとだけじゃなくて花京院さんとも付き合ってるとの事。


 それを知った私は凄く悔しい気持ちになった。


 もう二股してるのに、どうして私はダメなのかと。


「ねえ伊藤さん。私たち、お友達になりませんか?」


 でもアリアさんは私の手を掴んで、そう言ってくれた。




【Side.葛葉恭一】


 ある金曜日、生徒会の仕事を終わらせた後、アリアさんと二人で放課後デートに出掛けた。


 いい加減、生徒会が終わった後にアリアさんかユカとデートするのも慣れたな……。


 それぞれ週に二、三回ぐらいか?


 なのに本命のイチゴとのデートは一月に一回くらいとか、ちょっと訳が分からん。


 俺はアリアさんとプラネタリウムを見てから、高級ホテルで二人きりのランチ。食事の後はそのままホテルの部屋に、とほぼいつもの流れのデートだった。


「今日のデートも楽しかったですね」


「……そうだな」


 このあと本番まで致すなら、イチゴとかユカとかユウリとから呼ばれて来るんだろうな……。


 と思ったら、全く予想外の人が来た。


「えっと、お邪魔します……」


「ケイコ!?」


 ケイコの登場に驚いた俺は、どういう事かとアリアさんの方を向いた。


「伊藤さんはユカさんから紹介していただきました。それでマンネリを避けるために今回は伊藤さんを呼んだのです」


 そう説明したアリアさんはそれがどうかしたのかって感じだった。


 マンネリ回避で他の女の子を入れるって、あの島川の一件以来アリアさんもおかしな方向に歪んでしまったのかも知れない……。


「ちょっとケイコと二人で話させてくれ」


「ええ」


 俺はアリアさんに断ってすぐケイコを部屋の隅に連れ出した。


 アリアさんからそれほど離れてもないから、話し声が聞こえるかも知れないが、それはいいか。


「何で来たんだ?」


「だって最近恭一くんとご無沙汰だったから、それでユカに相談したら花京院さんに紹介して貰ったの」


「そういうのじゃない。宗方はどうしたんだ」


「ああ、やっぱり恭一くんが宗方くんをそそのかしたんだ」


 やっぱりって、気付かれてたのか。


 ケイコは心細そうに俺の服の裾を掴んだ。


「ねえ恭一くん。私を捨てるの?」


「捨てるってそういう事言う関係じゃないだろ」


「でもエッチしたよね?」


「俺の同意無しでな」


 俺が男で良かったな、女だったら色々酷かったぞ。


「ケイコ。俺との関係は考え直せ。分かっただろうが俺は二股するようなクズだぞ。俺なんかよりも宗方の方がずっといい奴だからそっちと付き合ってくれ。俺と関係を持ってた事は秘密にするから」


 俺は必死にケイコを説得した。


「やだよ。私恭一くんの事好きだもん。三番目でもそれ以降でもいいからそばに置いてよ」


 が、ケイコは聞き入れず泣く寸前みたいになった。


 マジで困った。


 あまり女の子を泣かせたく無いが、だからって無節操な関係が許される訳じゃない。


 ケイコは今気持ちに振り回されて現実が見えないだけで、後で頭は冷えれば三番目以降なんて立場に不満を持ち、後悔するに決まっている。


 問題は今のケイコがそれを分かってくれないという事で……。


「いいじゃないですか、恭一さん」


 説得の仕方を悩んでいると、後ろからアリアさんが声を掛けて来た。


「後で気が変わったらその時に考え直してもらっても。それで何か取り返しのつかない事になる訳じゃありませんから」


「アリアさん……」


 この人、最初は俺を独占する気満々で、イチゴもユカも渋々認めてたけど、いずれ追い落とすって構えに見えてたけど、いつから考えを変えたんだろう。


 もう一押しするみたいに、アリアさんが俺に耳打ちする。


「それに、イチゴさんの恩を返すチャンスですよ?」


「イチゴの恩?何の事だ?」


「これはイチゴさんから聞いた事ですが……」


 中学の頃、イチゴがイジメられそうな事があり、イチゴがそのヘイトをケイコに擦り付けてたと、アリアさんが説明した。


「ぐっ」


 ここでイチゴの名前を出すとか、アリアさんも大分イチゴと打ち解けたな……ってそういうのじゃねえ。


 どうして恋人以外の女の子を避けようとしてるのに、恋人が味方じゃないんだ。


 しかも他でもないイチゴの恩を持ち出されたら、強く出れないじゃないか。


「それじゃあ、楽しみましょうか」


 結局、アリアさんに押し負けてしまい、三人でベッドに乗る事になった。


 ………。


 行為が終わった後。


 俺とアリアさんはそのままホテルに泊まって朝帰りだが、ケイコは終電前に帰る予定なのでアリアさんの家の車で送る事にした。


 実際に送るのは俺と運転手さんで、アリアさんはホテルで休んでいるが。


 車がケイコの家の前に着き、そこでケイコを下ろした。


「じゃあまた学校でな」


「うん。えっと、恭一くん。最後にキスして欲しいな……って」


「………分かった」


 運転手さんがいるが、俺たちの関係はもう色々知っているからなー。


 色々諦めた心境で、開けた窓越しにケイコとキスを交わした。


 この時、正直俺は誰も見ていないだろうと油断していた。


 なのに……。


「え?ケーちゃん?葛葉くん……?」


 不意に聞こえた声に振り返ると、そこに宗方が立っていた。


 最悪の相手に見られてしまった……!


「宗方、どうしてここに?」


「僕はケー……ケイコちゃんに告白の返事をするって呼ばれて待ってたんだけど……、それよりもどうしてケイコちゃんが葛葉くんと車に乗って帰って来て、キスしているんだ……?」


 ケイコが宗方を呼んだ?


 俺もどういう事かとケイコの方を見た。


「これが宗方の告白の返事よ。私、葛葉くんと上手く行ってるから邪魔しないで」


「え……?」


「うわ」


 宗方と俺がそれぞれ声を出してしまった。


「葛葉くん!応援してくれるって言ったよね!裏切ったの!?」


 宗方が責めるように俺に問い詰める。


「いや……これは…………すまん」


 俺は何とも言い訳出来ず、ただ謝った。


「もういい!この裏切り者!うわあああああ!!!」


 宗方は叫びながら走り去る。


 俺はそれを追う事も出来る、ただ見送った。


 ああ……、俺の希望が……。


「ふん。いいざまね」


 ケイコは宗方を鼻で笑って家に入ったけど、幼馴染に酷くないか?




【Side.宗方三明】


「僕の初恋が……」


 昼休み時間。


 僕は屋上の隅だ黄昏れていた。


 普段は葛葉くんたちのいる教室に行くんだけど、もうそれもしない。


 行く理由がなくなったから。


 葛葉くんにケーちゃんを取られてしまうなんて……。


 いや、最初からケーちゃんが葛葉くんの事を好きだって知ってたけど、あの振られ方は無い。


 悪意があり過ぎる。


 ケーちゃん、そんなに僕が邪魔だったのか?


 葛葉くんだって、僕を応援してくれるって言ってたのに、あんな時間にケーちゃんを車で送るとか、その前まで何処で何してたんだ。


 斎藤さんと出来てるように見せて、葛葉くん本人もケーちゃんの他に本命いるって言ってたくせに、最初から僕を弄んだのか?


 いや、あの日ケーちゃんに迫られて気が変わったというのもあり得るけど。


 とにかく確実なのは、僕の初恋が終わってしまったという事だけ。


「はあ……」


 憂鬱な気持ちのままため息が出る。


「あら、宗方三明さん?どうかしましたか?」


 その時、声を掛けられて振り向くと、後ろに花京院さんが立っていた。


「何かお困りでしたら、相談に乗りましょうか?」


 優しい笑顔でそう言ってくれる花京院さんの金髪が太陽に照らされ光ってて、彼女がとても綺麗に見えた。


 親に花京院さんと仲良くしろとは言われてて、家の都合で口説かれるのは花京院さんも嫌なんじゃないかって思ってたけど。


 少しだけ、本気になってもいいかも知れない。


 葛葉くんとケーちゃん……伊藤さんの事はもう割り切って仲直りして、僕も新しい恋に進もう。


 で、今回の埋め合わせ……と言ったら悪いけど、葛葉くんは花京院さんと同じ生徒会所属だからまた応援して貰おう。


 葛葉くんはもう伊藤さんと付き合ってるから、今度は裏切られないよね?


―――――――――――――――

 アリアが宗方くんの前に現れて相談に乗ろうとしたのは、死体蹴りしたい彼女の悪趣味です

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