第2話『宗方三明の険しい恋路②』
【Side.葛葉恭一】
放課後。生徒会の仕事が無くていつものように伊藤さんたちと遊びに行くある日。
「みんな、急で悪いがこいつも入れてくれ」
俺は宗方を遊ぶメンバーに連れて来た。
「いいよ!宗方くんなら大歓迎!」
「私も!」
本来、俺へのタカリ目的だったり女目当てで来るから、基本男子は弾かれるが、今回に限ってはローテーションで加わる女子たちは歓迎ムードだった。
ただの男子生徒じゃなくて宗方となれば、逆に狙いたいくらいの優良物件だからだろう。
あと、俺が奢らなくても自分の分は自分で払えるからな。
「ふーん。恭っち以外の男ねー」
「まあ、よろしく」
ただ固定メンバーの方、ユウリとカヨの反応はあまり良くない。
でもこれはまだマシな方で。
「ねえ、恭一くん。どうして宗方くんを入れるの?」
「私も気になるわね」
ケイコとユカは露骨に反感ありそうに問い詰めて来た。
「俺もそろそろ男友達が欲しかったんだよ。宗方なら嫉妬して来る事も無いだろうからな」
「ふーん」
ケイコたちは俺が言った理由に、疑わしげな顔をしながらも一先ず納得したみたいだ。
まあ、実際建前だけどな。
本当の理由はケイコと宗方が接する機会を増やして、ケイコと宗方がくっつく可能性を増やそうとする事だ。
宗方には言えないが、ユカに混じってケイコとも体の関係を持った後、ケイコは何かにかこつけて俺に迫って来るのだ。
ただでさえ彼女が三人居て、その内二人と別れるのに失敗したというのに、ズルズルとケイコたちと爛れた関係を続けたくない。
イチゴたちと交渉する時、病み上がりで色々焦っててこれ以上そういう相手を増やさないと甘ったれた条件を出したのが悔やまれる。
その交渉で押されて既に関係を持った相手を捨てたりしないとも約束したが、その時点でもうケイコとは関係を持ってしまってたのだ。
俺はその時、アリアさんやユカとか、当時話に出たリナと吉田さんの事だと思っていて、ケイコたちの事はすっかり頭から抜け落ちてたから。
しかし宗方の登場に光明を見た。
女性の方が自分の意思で抜けるならいいんじゃないかと。
だから「伊藤さんが俺を狙ってるのは知っているが、俺は他に本命がいるから宗方を応援する」と言って宗方をこのグループに誘った。
長岡の時に挫折した押し付け作戦パート2だ。
あわよくばケイコを宗方にくっつけて、ついでに女子人気も持って行って貰おう。
大分ゲスい企みだが、恋人に誠実でいたいと思っての行動だから俺は悪くない……はずだ。
そして俺たちはアイドルデビューを準備してる宗方の歌唱力を知りたいって言う女子たちの要望もあって、カラオケで遊ぶ事に。
まあ、六人越えのグループで遊べる場所なんて限られてるから、大体カラオケかボーリングになるんだがな。
で、そこで歌いたい人が歌ったり、(俺持ちで)軽食を注文して食べながら駄弁ったり、スマホや持ち込んだ携帯ゲーム機で遊んだりと、それぞれ思い思いに時間を過ごした。
その中でも、宗方は自分に寄って来る女子たちの相手をしながら、隙があればケイコに声を掛けていた。
「ねえ、ケイコちゃん。最近の趣味って何かな?」
「……料理とドラマ」
「そっか。料理って家庭的な趣味だね。ケイコちゃんはいいお嫁さんになれると思うよ」
「そうね。私もいいお嫁さんになりたいよ」
が、ケイコの反応は怖いぐらいに冷淡だった。
てか最後のセリフを言いながらこっち見ないでくれるか。
「ねえ、恭一。あんた何のつもり?」
しばらく俺の隣で様子を見ていたユカがまた問い詰めて来た。
「何の事だ?」
「とぼけないでよ。あからさまにケイコを宗方にくっつけようとしてるでしょ?ケイコが可哀想だと思わないの?」
「俺はイチゴがもっと可哀想だよ。幼馴染の彼氏が浮気しまくるんだからな」
俺とイチゴが幼馴染で、最初の恋人である事はもうユカやアリアさんたちにバレてるので、俺にとってイチゴが本命かつ一番好きな相手だというのはもう隠していない。
「そのイチゴが良いって言ってるんでしょ?」
「じゃあ俺も可哀想だな」
割とマジで。
恋人がいるのに恋人以外の異性に回されるとか、俺が男じゃなくて女だったら許されなかったぞ。
「ふーん」
でも残念ながら、今回のユカはケイコの味方であまり俺の気持ちに寄り添ってくれないみたいだ。
そういえばケイコを最初に巻き込んだのもユカだったから、何かしら連携しているのかも知れない。
それからも度々。
宗方のスケジュールが空いてて、俺がケイコたちと遊びに行く日には必ず宗方を誘った。
逆に宗方が空いてないと、ケイコたちとは遊びに行かなかった。
おかげで宗方がケイコと接する時間は大分増えた。
しかしいくら時間を尽くしても、宗方に対するケイコの好感度が上がってる様に見えない。
宗方は見た目の良ければ、人当たりも良い俺に匹敵するイケメンだ。
そんな宗方に頻繫に接して、好意のある素振りを見せられれば、気が移りそうでもあるんだがな……。
実際、一緒に遊ぶクラスメイトの女子の内、あまり親しくない何人かは裏で宗方に乗り換えた節がある。
ユカとかケイコたちなど、裏で出来てそうな相手がいるような俺よりは宗方の方に目がありそうだと思ったみたいだ。
なのに遊びに使う金は俺の奢りとか色々思う所はあるが、まあいいだろう。
俺は最近イチゴがプロデュースした仕事で結構稼いでいるから、これくらいじゃイチゴの予算じゃなくて自腹でも懐が痛まなくなったし、
交際相手なんてイチゴさえ居れば十分だし、そもそもこのグループで遊ぶ事がイチゴの要望で始まった事だからな。
何人離れようと痛くも痒くもない。
「葛葉くん。僕、そろそろケーちゃんに告白しようと思うんだ」
ある昼休み時間。
宗方から話があるという事で、屋上の隅で二人きりになると、宗方がそう切り出した。
「いいのか?まだ脈が……その、薄いように見えるが」
薄い所か無さそうでもあったが、途中で少しだけ言葉を選んだ。
「いいんだ。どうせこのままじゃあ逆に嫌われる一方だから」
そう答える宗方の目は、決意と諦めが半々といった感じだった。
「そうか。俺が言うのもあれだが、成功を祈るよ」
「ありがとう」
そしてその日の放課後。
いつものようにグループで遊びに行って、解散する間際宗方がケイコを誘うのが見えた。
ワンチャンあの二人が上手く行ったら、呼び方を伊藤さんに戻す必要もあるだろうな。
二人を見て思ったのはそんな事ぐらいだった。
家に帰った後の部屋で、今日はユカとイチャついてたら宗方からレインが来た。
『告白の返事は保留になった』と。
律儀に報告しやがって。
「あんた、宗方とレインID交換してたのね」
俺の横からスマホ画面を覗き見たユカが言った。
浮気を警戒したのかも知れないから、スマホ画面を覗いたのは特に文句言わない。
「まあ、一緒に遊ぶ仲だから普通にな」
『その場で断られて無かったって事は、チャンスあるんじゃないのか?頑張れよ』
ユカに相槌を打ちながら、宗方にそう返信した。
「ふーん。そのまま仲良く出来ればいいわね」
ユカはやや冷たい声音で不安になるセリフを呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます