四章・宗方三明の険しい恋路

第1話『宗方三明の険しい恋路①』

【Side.宗方三明】


 僕は宗方むなかた三明みつあき


 現役モデルで、アイドルデビュー準備中の高校生だ。


 そして色んな都合で、高校二年生になる今年に私立悠翔高校に転校する事になった。


 悠翔高校からは、ある生徒二人が人気になり過ぎて、その人気を散らすためにと呼ばれた。


 どんだけだよって思って調べたが、あの二人が文化祭でやってたライブステージは確かに本職に負けないくらいで、例の二人も現役アイドルと言ってもいいくらいのイケメンと美少女だった。


 事務所からは、その生徒二人の内片方の葛葉恭一くんと仲良くなって、今後僕がアイドルデビューする時にユニットを組むメンバーに誘うように言われた。


 確かに葛葉くんとユニットを組めるなら心強いけど、そもそも葛葉くんの人気を散らすために僕が呼ばれたから、望み薄だと思う。


 さらに中小企業の社長をしてる父からは、もう片方の花京院アリアさんと懇意になって、ゆくゆく結婚まで行って花京院家に取り入れと言われた。


 けど、裏で葛葉くんと花京院さんが付き合ってたらご破算じゃないか?


 まあそんな感じで周りに大分好き勝手言われて転校したけど、僕にも僕の目当てがあった。


 それは、昔から好きだった幼馴染の伊藤いとう恵子けいこごとケーちゃんが悠翔高校に進学してたと聞いたのだ。


 僕の両親がケーちゃんをあまり良く思わなかったり、俺がモデルの仕事で忙しくなったりして中学の頃には疎遠になってたけど、この悠翔高校でまた出会えるのには縁を感じる。


 だから転校してすぐケーちゃんを探して回ったけど、見つからなかった。


「ねえねえ、宗方三明だよね?サインお願いしていい?」


「あと私たちとお話しない?それとも放課後、どっか遊びに行くとか」


 代わりに僕のファンらしい子たちに囲まれたけど、デビュー後の練習と割り切って相手した。


「あんたたち!廊下でなにしてんの!他の人の邪魔だから他の所に行きなさい!」


 それで女子の固まりが出来上がって、風紀委員の子に怒られてしまった。


「すみません!ほら、皆行こう」


 僕は女子たちが反発する前に、真っ先に謝って場所を移した。


 おかげで騒ぎになる事は何とか回避した。


 女子の固まりと言えば、僕の所以外にもあった。


 それは例の葛葉くんを中心としたグループで、そのグループは慣れた様子で空き教室に移動してた。


 どうも葛葉くんが生徒会の副会長で、同じクラスにいる花京院さんは生徒会長だから、その権限で空き教室を専用の溜まり場にしたみたい。


 そして葛葉くんの取り巻きやファンの女の子たちが教室から去ると、クラスに少数の女子しか残らなくなるから、結局他の女子たちも空き教室について行くんだとか。


 ……と、僕を取り囲んだ女の子が教えてくれた。


「といった感じだけど、宗方くんって葛葉くんに興味ある?それとも花京院さんに?」


「あー、どっちにもかな。一回話してみたいくらいだけど」


 流石に聞き込み過ぎたからか逆に探られで、僕は無難に答えた。


「へえー、爽やか系の宗方くんと真面目系の葛葉くんか……。アリかも」


 そして聞こえたそんな誰かの呟きに少し寒気がしたけど。


 で結局ケーちゃんを見つけられないまま時間が過ぎて、僕は仕方なく先に葛葉くんや花京院さんに接近する事にした。


 二人は放課後なら生徒会室にいるみたいだけど、僕も放課後はモデルの撮影やアイドルのレッスンで忙しいから、昼休み時間に会いに行こうとして例の溜まり場にしてる空き教室に向かった。


 葛葉くんは女の子とばかりつるんでるから男は嫌いかもと思ったけど、それは男子が嫉妬で喧嘩腰に来るのと、おこぼれ目当てで女の子を狙って来るのを女の子たちが嫌ったからであって、僕なら大丈夫だろうって最近仲良くなった女の子に言われてたのだ。


「お邪魔しまーす」


 教室のドアを開いて中に入ると、教室の中では葛葉くんを中心に人集りが出来ていて、その周りには人数の関係ではみ出されたのか、または元から葛葉くんに興味なさそうな女の子たちが各々くつろいでいた。


「あれ?モデルの宗方三明……さん?何か用?」


 ドアに一番近い所にいた女の子が僕に応対してくれた。


「えっと、葛葉くんにちょっと話があるんだけど……」


 本当は花京院さんにも用事があるんだけど、この場でそれを言うと警戒されそうで控えた。


「でも今忙しそうだけど、大丈夫かな?」


「あれはいつもの事だし、初めて来る人を優先するんじゃないかな?一回直接声掛けてみれば?」


「そうするよ」


 僕は助言に従って、葛葉くんの人集りに近付き声を上げた。


「あのー、葛葉恭一くんー?ちょっと大丈夫ですかー?」


 すると葛葉くんはこっちに気付いてくれた。


「ああ。悪い、皆ちょっと道を開けてくれ」


 葛葉くんが言うと、波が割かれる様に道が開いて正面に葛葉くんが見えた。


 でもそれだけじゃなくて、葛葉くんの隣に……。


「あれ?ケーちゃん?」


「あっ。みっ……宗方くん?」


 髪を緑色に染めてギャルっぽくなった幼馴染のケーちゃんがいた。


「知り合いか?」


 葛葉くんが僕とケーちゃんを見比べて聞いて来たので、僕が答えた。


「ああ、幼馴染なんだ」


「そうか。……俺に用事があったみたいだが、先にケ…伊藤さんと話すか?」


 その提案に、僕は少し悩んだ。


 ここに来たのは葛葉くん目当てだけど、やっとケーちゃんを見つけたから。


 どうしてそんな格好をして葛葉くんと一緒にいたのか、色々聞きたい事があった。


 でも葛葉くんに失礼になるんじゃないかな……。


「わ、私はいいよ!後で話すから、先に恭一くんと話して!」


 悩んでいたら、ケーちゃんが代わりに答えた。


 ん?恭一くん?


 名前で呼ぶくらいに親しいの?


「そうか。……で、何の用事なんだ?」


「いや、大した事じゃないんだけど。僕は今モデルやってるけど、アイドルデビューも準備していて、事務所から葛葉くんをユニットメンバーにスカウトして欲しいって言われたんだ」


 僕の言い終えると、周りが騒がしくなった。


「えっ、宗方くんってアイドルデビューするの?」


「葛葉くんも?なら絶対推す!」


 僕と葛葉くんのアイドルデビューは、概ね好評みたいだ。


「あっ、まだ本決まりじゃないから、皆内緒でおねがい」


 フォローも入れておく。


 漏れてまずい情報ではないけど、尾ひれが付き過ぎると困るからね。


 まあ、絶対漏れないって事にはならないだろうけど、漏れた分は先行PVと割り切ろう。


「それって、断ってもいい話だよな?」


 ただ、当人の葛葉くんの反応はよくなかったけど。


「え?流石に強制は出来ないけど、そう聞いてくるって事は……」


「ああ、断る。芸能界に入るつもりは無いからな」


「そうか……、それは残念だよ」


 まあ、断られるんじゃないかってのは薄々知ってたからショックは少ないけど。


 葛葉くんにその気があったのなら、とっくに別口で芸能界デビューしたんだろうから。


「用事はそれだけか?」


「今日の所はそうかな」


「なら次は伊藤さんと話すか?」


 葛葉くんはケーちゃんの方を向いた。


 それでこの教室の多くの女の子たちの関心がケーちゃんに集中する。


 ケーちゃんを悪目立ちさせるとか、これはちょっと下手打ったのかも知れない。


「えっと……、場所変える?」


「ううん。ここで話そう。二人きりになって誤解されたくないから」


 誤解されたくないって……これって脈無し?


 言いながらやたら葛葉くんを気にしてるんだけど、もしかして?


「そうか。じゃあその……久しぶり」


「うん」


「大分感じ変わったね?」


「高校入って変えたから」


「そっか」


 ………。


 気まずい。


 話題が出ない。


 えっ、ケーちゃんと僕ってこんな感じだっけ?


 再会したらそれだけで、色んな事を話せると思ったのに……。


「話って、挨拶だけ?」


「えっと、じゃあケーちゃん。今の連絡先とか教えて貰っていい?」


「え?」


「いや、今はちょっと話題が思いつかないけど、後でまた話す時とかに必要になるかもだから」


「……そうだね。でも宗方くん。ケーちゃんは止めて?恥ずかしいから」


「ああ、ゴメン、気を付けるよ」


 これからはケイコちゃんって呼んだ方がいいか?


 そこで昼休みが終わる時間になり、解散する事になった。


 あーあ。僕の初恋ってこれで終わりか……。


 力なく廊下を歩いていると、ふと肩を掴まれた。


「なあ」


 振り返ると、葛葉くんがいた。


「あんた、伊藤さんの事が好きなのか?」


「へ?」


 まさか彼からそんな事聞かれるとは思わなくて、つい間抜けな声を出した。


 でもそこから続く言葉にはもっと驚いた。


「協力、しようか?」


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