第17話【裏・私の手の平の上で】

【Side.イチゴ】


 トモリちゃんと長岡何某は逮捕され、脅迫のネタも全て差し押さえられた事で、きょーくんは解放された。


 二人共初犯の上にまだ未成年で、長岡何某は罪がそこまで重くなく、トモリちゃんはアイドルだった事を考慮されて全員少年院送りにはならず保護観察で済んでるみたいだけど。


 ああ、トモリちゃんは当然高校からは退学になったよ。


 で、長岡何某は編入した高校からも退学になって、いよいよ家族から本格的に勘当されるみたい。


 田舎の親戚の所に送られて、漁業の労働力にされるとか。


 正直、あそこまで脳破壊をぶちかましたのに復活したのには驚いたけど、あれは形はともかく女を引き付ける何かがあるみたい。


 これからもきょーくんにまた新しい女を差し出しに来てくれるかも知れないから、楽しみにしよう。


 トモリちゃんは、色々あったのを私が拾った。


 きょーくんに使ってた薬繋がりで、芋づる式にトモリちゃんの父親の芸能事務所社長が、その薬を使って裏でタレントに手を出してた事が明るみになったのだ。


 おかげで社長も逮捕。


 保護観察処分を受けたトモリちゃんは母親に預けられたけど、トモリちゃんの両親はどうもそれぞれ別の愛人を作ってたみたいで、突然問題を起こして押し付けられたトモリちゃんはいい扱いをされなかった。


 結局トモリちゃんは家出して、路上で迷ってたのを私が見つけたのだ。


「ねえトモリちゃん。行く所がないなら、私の所に来る?」


「どちら様ですか……?」


「私は依藤イチゴ。君と同じ高校の先輩かな」


「イチゴって……、きょー様の……」


 ああ、リンゴちゃんから私の事聞いたのかな。


 それにきょー様がー。私のきょーくん呼びと通じる所があるね。


「そう。幼馴染で、恋人よ」


 私の答えを聞いた途端、トモリちゃんの目に警戒の色が映った。


「きょー様に手を出した仕返しに、惨めになった私を笑いに来たのですか?」


「それもあるよ」


 堂々と言ってやると、トモリちゃんが歯を食いしばる。


「でもね。君にはちょっと感謝してる所もあるんだー」


「は?」


 トモリちゃんのおかげでいいオカズ……こほん、データが取れたしね。


 きょーくんのあれが起たなくなる条件は、一線越えるくらい嫌いになるので間違いなさそう。


 そんなに嫌いなら、アリアちゃん相手に彼氏やってるのが不思議だけど、そこがきょーくんの真面目さだろうね。


 そのデータに免じてきょーくんの体に傷を付けたのは大目に見てあげよう。


 本当なら八つ裂きにしたいくらいなんだけどね。


 それにしても……、まさかトモリちゃんがきょーくんの赤ちゃんを妊娠しようとするだなんて……。


 きょーくん、ちょっと引くくらい徹底して避妊するから、子作りはずっと先の事だと思ってたんだけどねー。


 私以外の、それも嫌いな部類の女がきょーくんの赤ちゃんを産むって……、いいかも。


 凄くゾクゾクする。


「本当、トモリちゃんには色々気付かされたから」


「……?」


 首を傾げるトモリちゃんに、そっと耳打ちする。


「ねえ。きょーくんが……欲しい?」


「え?」


 トモリちゃんが驚いて私の顔を見た。


「私の言う事聞くなら、仲直りするチャンスをあげてもいいよ?」


 トモリちゃんは物凄く悩んでから、私について来た。


 私はトモリちゃんを、ハーレムハウスに引っ越す前に住んでたアパートの部屋に案内して、家に居辛い時はそこを自由に使っていいと言った。


 保護司の人にはちゃんと連絡するようにも言い付けて。


 こんな事もあろうかと、引っ越した後も部屋の契約を切ってなくて良かったねー。


 詳しい扱い方は追々考えよう。


 最後にリンゴちゃんだけど。


 ぶっちゃけ怖くも何ともなかった。


 イジメられたトラウマ?そんな頃もあったね。


 今は全部忘れたけど。でないとユカちゃんをイジメられるように仕向けるとか出来る訳ないでしょ。


 今は私の都合のいい手駒(なお、噛み付いて来る可能性あり)だし、取るに足らない相手だよ。


 でも最後の最後に面倒な置き土産を残してくれた。


「イチゴさん!花村さんからのレインで、あなたが恭一さんと幼馴染って書いてありましたけど、これは事実ですか!?」


 きょーくんがアリアちゃん以外にも、幼馴染の私と二股を掛けてるってレインメッセージで告げ口したのだ。


 二股の所は承知の上だからまあいいとして。


 私ときょーくんが幼馴染ってバレたら、色々前提が崩れて、疑わしくなるのが面倒なの。


「……事実だよ」


 リナちゃんとユカちゃんはもう知っている状況で、隠し続けてもいずれボロが出るだろうから、私は素直に認めた。


「それじゃあ、もしかして去年。私と初めて会った時は……」


「既にきょーくんと付き合ってたよ」


「ならどうして、私に応援なんか頼んだのですか!」


 やっぱそうなるよねー。


 どこまで本当の事を話そうか。


「例えばね、アリアちゃん。私が先にきょーくんと付き合ってると話したとして。周りにどう映ると思う?どうしてあんな地味な奴と……とか、あれなら簡単に奪えるとか思わない?」


「それは……」


 身に覚えのある例えだからか、アリアちゃんは口をつぐんだ。


「だから先にアリアちゃんと友達になって、アリアちゃんの後押しを受けてきょーくんと付き合った事にすれば、周りへの牽制になると思ったんだけどねー。まさかアリアちゃんに横から取られるとは思わなかったよ」


「ならどうして私が恭一さんと付き合う事になった時に言わなかったのですか」


「ん?決まってるじゃない。アリアちゃん、きょーくんが私を好きだって知ってる上できょーくんを脅して付き合ったんでしょ?そこで実は私ときょーくんが幼馴染で、もう付き合ってたなんて言ったら、アリアちゃんに何されるか怖かったんだもの」


「………」


 アリアちゃんは否定出来ないまま押し黙る。


「だから私ときょーくんの仲を隠したまま、いつか取り戻すチャンスを伺ってたの。丁度アリアちゃん、きょーくんに嫌われてあそこが起たなくなってたから、付け込む隙もあったしね」


「………」


 ここから仕上げかな。


「でもさ。おかげで私、新しい事を知ったんだ。きょーくんが私以外の女の子に取られるのって……凄く興奮するって」


「へ?」


 ザ・責任転嫁。


 私の性癖の原因をアリアちゃんだった事にして罪悪感を押し付けよう。


「きょーくんが本当に好きなのは私だって信じてるのに、脅されて他の女の子の彼氏になってて、そのまま本当に取られてしまうんじゃないかってスリルにね。興奮したの」


「それは……」


 先日、似たような経験があったからか、アリアちゃんは私がおかしいと糾弾して来なかった。


「アリアちゃんにもね。この気持ちを分かって貰えると思うんだ。でないとユカちゃんとまで一緒に暮らしたりしてないもんね?」


 何とも答えないアリアちゃんに、私は静かに抱きついて耳元で囁く。


「きょーくんと一番に結婚したり、赤ちゃんを産むのはアリアちゃんに譲るから、きょーくんのハーレムを作らない?一緒に色々楽しもうよ」


 アリアちゃんは無言のままだったけど、生唾を飲む音が聞こえた。


 ふふふ。完全に堕ちたね、アリアちゃん。


 こちら側にようこそ。




 休日の昼。


 きょーくんが大事な話があるという事で、私たちはハーレムハウスのリビングに集まった。


 ちなみにきょーくんは警察に保護された後、薬の影響とか心の傷とかを心配し、しばらく入院していて今日退院してた。


「色々心配を掛けてすまなかった」


 真っ先に、きょーくんが頭を下げて謝った。


「なんであんたが謝るのよ。あんたは被害者でしょ」


 ユカちゃんがきょーくんを窘める。


「そうですよ。謝るならあたしです。あたしの所為で兄さんが……」


 リナは、自分が呑気にしてた裏で、自分をネタにきょーくんが脅されてた事にショックを受けてるみたい。


 もう済んだ事だけどね。


「形はどうあれ、俺はアリアさんとユカを裏切って浮気してしまった。二人に見せる顔がない。……二人とも、俺と別れてくれ」


 あー、やっぱそう言うのか。


「お断りします」


「私も嫌よ」


 アリアちゃんとユカちゃんは即座に断った。


 予想してたから、どう答えるかもう相談済みなんだよねー。


「浮気されたら別れるって、そんな後からポッと出の女に有利な話認めません。それに、あれは脅されての事ですし、あの二人を呼び寄せたのは私ですから、恭一さんお一人が悪い訳ではありません」


「あんたが色んな女と仲良くするなんて今更だしね。ちゃんと私も見てくれればいいわよ」


「むぅ……」


 食い下がるのは予想外だったのか、きょーくんの顔が渋くなった。


「ねえ、きょーくん。私、アリアちゃんやユカちゃんとこれからも仲良くしたいから、きょーくんが二人と別れて距離が出来るのはやだよ」


 きょーくんの背中を押すように、私は甘え声で言う。


 それできょーくんは折れたのかため息をついた。


「ふぅ………。君たちは、それでいいんだな」


 きょーくんの問いに、私たちは一斉に頷いた。


「分かった。でも代わりに、こっちからも要求がある」


「何ですか?」


「君たちの後押しで、なし崩しに伊藤さんたちとも関係を持ってしまったんだが、これ以上そういう相手を増やすのは止めて欲しい」


「えっ」


 まさかのハーレム拡張阻止に、出端を挫かれたアリアちゃんがたじろいだ。


「だっ、ダメです!」


 そこにリナちゃんが待ったを掛けた。


「あ、あたしだって、寝てる兄さんとじゃなくて、堂々とエッチしたいんですから!」


「は?寝てる俺と……?どういう……ことだ……?」


 初めて聞く衝撃的な事実に、きょーくんが目をむく。


 伊藤さんたち以外と言えば……。


「そう言えば、吉田さんにきょーくんを助ける時に手伝って貰ったお礼を、きょーくんで返すのもあったなー」


「ちょっ、そういうのを俺の預かり知らないで決めるな!アリアさんとユカも何か言ってくれ!」


「私は、その……動画とか撮ってくれるなら……」


「んん?」


「いいんじゃない?リナちゃんと吉田さんも仲間に入れても」


「いやいやいや!」


 それから、話の趣旨がすり替わって揉めに揉めたけど、詳しい内容は割愛して。


 リナちゃんと吉田さんまで仲間に入れて、そこから増やすのはしばらく止める事にした。


 うん、しばらくは、ね。


 足場固めだって必要だし。


 きょーくんのハーレム計画はこれからが本番!


―――――――――――――――

 これにで三章は終了になります

 明日の更新はお休みを兼ねた登場人物紹介と、章あとがきになります<(_ _)>

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