第16話『歌う道化③・飴玉舐める片手間で』
【Side.リンゴ】
最悪!
まさか誰かが警察にチクってたなんて!
私はその場にいなかったから捕まらなかったけど、取り調べで私の存在が露見するだろうから、私まで捕まるのも時間の問題ね。
アイドルやってた事だけが取柄のただ学生な私が本気で警察から逃げられたりしない。
ならばせめて、あいつに……依藤イチゴに痛い目を遭わせてやる……!
そもそも先に恭一を好きになって目を付けてたのは私なのに。
だから小学校で友達をそそのかして告白ブームを起こしたのに。
普通、告白するなら一番可愛い私でしょ?
なにに恭一はあんな地味なイチゴに告白して!
絶対何かズルしたでしょ!
でなければ私を差し置いてイチゴなんかに告白する訳ないじゃん!
その腹いせにイチゴをイジメたけど、それで恭一が動いて嫌われて散々だった。
あれから別の中学校に進学して、イチゴを選んだのを後悔させる為に人気アイドルにまでなったのに、全然興味持たれてなかったし。
その後色々調べて、恭一があの
あの恭一が女遊びする様になったのか、それともただサルが嫌いだったのかは知らないけど、サルと仲良い振りをしたら奪ってくれるかもと思った。
でも私だけじゃ嫌いな人同士勝手にやれってなるかもと思ってトモリんを巻き込んだ。
都合のいい事に、トモリんも読者モデルをしてた恭一に一目惚れしててすぐ乗って来てくれた。
そのままトモリんと組んで、
何よ、サルもトモリんも好き勝手暴走して!
サルは奪いに来る以前に退学されるし。
トモリんは直球な犯罪に手を出すし。
まあ、私も途中まではいいかなと思ったけど。
結局こうなってしまったじゃない!
これも全部、最初に私から恭一を奪ったイチゴが悪い!
そもそもイチゴが身の程を弁えて恭一から身を引いていればこんな事にはならなかった!
だからこれから私がする復讐も正当な物よ!
私は朝から、例の高校の通学路になる道である人を待ち伏せした。
そして目当ての相手が一人で歩いているのを見かけた。
間違いない。トモリんのマンションの玄関で警察と一緒に入った銀髪の女の子だ。
私は後ろからその子に駆け寄って抱きしめた。
「ねえ、ちょっと話さない?」
「えっ?あなたは……」
「いいから、こっち」
私はほぼ強引に女の子の腕を引っ張って人気のない路地裏に連れ込んだ。
移動中に名前を聞いて、吉田亜美だとも知った。
「ねえあなた。恭一の事、好き?」
「えっと、それは……」
「まあ、好きでしょうね。でないと警察を呼んで恭一を助けたりしなかったでしょうから」
話のペースを握る為に、吉田さんの返事を聞く前に私が話を進める。
「ねえ、恭一の事好きならさ。こういうの欲しくない?恭一の恥ずかしい写真とか、トモリん……他の女の子とエッチな事してる写真や動画とか、あと恭一の妹の恥ずかしい写真もあるよ」
スマホの画面を次々とフリックして実際の写真を吉田さんに見せつけた。
「私は遠からず警察に捕まるだろうけど。その前に私の仕返しに協力してくれたらこのデータを吉田さんに渡してもいいよ。そうしたら恭一の事を好きに出来ると思うけど」
「……えっと、何を手伝えばいいの?」
吉田さんは生唾を飲んでそう聞いて来た。
これは落ちたね。
実は私が警察に捕まって取り調べされる時に、吉田さんの事をチクったら吉田さんも道連れだけど。
チクるかどうかはその時の気分次第かなー。
同日の夕方。
私は吉田さんに、悠翔高校でイチゴの出待ちをして何とか放置された倉庫街に呼び出す様にお願いした。
先に空き倉庫で待っていると、イチゴがのこのこと吉田さんの後を着いて来た。
「えっと……、リンゴちゃん?きょーくんの写真がまだ残ってるって聞いたけど……」
なるほど、そういう設定で呼んだのかな。
まあ、私のレインで別れたかどうか知らないけど、恭一の弱みだからそりゃホイホイ来るよね。
「そうよ。私が持ってるの。警察に捕まるのも時間の問題だから、その前に憂さ晴らしでネットにバラ撒いてやろうかと思ってね」
「やめて!そんな事しないで!何でもするからデータを消して!」
イチゴが悲痛そうに叫ぶ。
いい気味ね。
「何でもするって言ったね?じゃあ……ちょっと痛い目と恥ずかしい目に遭って貰おうかな……。吉田さん!」
私の掛け声に、吉田さんがイチゴを取り押さえた。
「な、何するの……?」
イチゴが怯えた顔になってる。
「どうしようかな?取りあえずひんむいて写真を撮ってネットに学校と名前付きでバラ撒くとか、後は子供とか産めない体にしようかな。もし私が少年院に送られている間に万が一にも先越されたくないからね」
私はこれ見よがしに、床に転がってた鉄パイプを拾い上げ、コンビニで買っておいたライターでパイプの先を炙った。
「ひっ」
イチゴは怯えた様に悲鳴を上げた……けど。
「ひっ、ひ、ひひひひ、ふはははははっ!!!」
いきなり笑い出した。
恐怖でおかしくなったのかな?
まあいいか。
「吉田さん。イチゴをひんむいちゃって!」
私の指示に、吉田さんは一度イチゴの拘束を解いた……けど、イチゴを放置して私に襲い掛かって来た!
「えっ!?」
不意打ちだったので、そのまま鉄パイプとライターを奪われ、それらを遠くに投げ捨てられ、私は吉田さんに取り押さえられた。
「まさか、吉田さん。裏切ったの!?」
そう聞いても、吉田さんは答えないまま私を睨むだけ。
その敵意ありありの目に、少なくともイチゴに逆に脅されて裏切った訳では無いと気付いた。
「リンゴちゃ~ん。何でもするって言葉が、一番何でもしないって、芸能界とかで学ばなかったのかな?」
イチゴは生意気にも私を見下ろしながら言う。
屈辱ぅ……!
「君は本当にいい道化だったよ。後手に回った振りをしたり、君に怯える振りをしたり、雑な演技までしたりと、滑稽で笑いをこらえるのが大変だったよ」
イチゴはスカートのポケットから飴玉を取り出して、袋を破り口の中に入れた。
「笑いをこらえようと飴玉を舐めるようにしてたけど、おかげで舌の上に飴玉を転がすのが得意になったよ。ほ~ら、レロレロレロレロ」
何よ、どこかのアニメみたいに飴玉を舌の上に転がしやがって!
「君たちの相手なんてね。飴玉舐めながら放置して、後手の後手に回った後でも余裕なんだよ。レロレロ。釈迦の手の平のサルもとい、私の舌の上の飴玉みたいにね。レロレロレロレロ」
自分が優勢だからと露骨に挑発しやがって、イチゴのくせに……!
「レロレロレロレロ、レ~ロレロレロレロレロ。……ペッ!」
イチゴは突然、飴玉を私の顔に向かって吐いた。
半端に溶けた飴玉が、私の頬に粘り付く。
「あ~もう飽きた。舌も疲れたし、飴玉は当分いいかな」
イチゴはポケットから残りらしい飴玉を取り出して、私の顔に一個ずつ、袋を開けないまま投げつけた。
袋にリンゴ味って書かれてるけど、私への嫌味?
「ねえ、どんな気持ち?下に見てた私にいいようにされてどんな気持ち?」
「最悪よ!」
「それは良かった」
イチゴォォォ、ほっんとうに満足そうに笑いやがって!
「実はさっきから君が私をひんむいて写真撮るとか~、赤ちゃん産めない体にするとか~そう言ってたのを全部録音したから。これを警察に持ち込めば刑務所……いや少年院行きは固いかな?おめでとう」
「くうううう!!!」
何とか吉田さんの拘束を振り解いてイチゴをぶん殴りたかったけど、思ったより吉田さんの力が強くて拘束を解けなかった。
「君たちには一応、感謝もしてるよ。お陰でアリアちゃんがいい感じに仕上がったからね。だから、ちょっとした褒美も考えなくもないよ?」
「は?褒美?」
思いもしなかった言葉に、つい聞き返してしまった。
イチゴはニヤリと笑って、私に耳打ちする。
「今回の事や、君がトモリちゃんと組んできょーくんに色々したのは黙ってあげる」
「は?」
「その代わり、今後何かあったら私の言う事聞いて欲しいなー」
こいつの言いなりになるとか、屈辱にしかならない。
でも、警察に突き出されて社会的に人生が終わるのは避けたい。
「……分かった。あんたの言う通りにしてあげる」
「ありがと。じゃあ今日はもう帰っていいよ」
イチゴがニッコリ笑ってそう言うと、吉田さんが私を放した。
私は二人を睨み付けたい気持ちに駆られたけど、そうするとイチゴの気が変わるかも知れなかったので私はすぐにその場から退散した。
それから数日間、私は家に籠ってネットニュースなどを見て回りながら世間の反応を探った。
幸い、恭一の件で加害者側に私の名前が出る事はなかった。
むしろトモリんが使ってた怪しい薬物を仕入れてたウチの事務所の社長が、それを使って事務所のアイドルを食ってたらしく、それで社長も逮捕された。
その被害者候補として私の名前がちらっと名前が挙がるだけだった。
私はそんな被害に遭ってないけど、ちらっとそういう噂は聞こえてて、本当にあの社長に狙われてた可能性もあったと思うとゾッとする。
正直、被害者候補に挙がっただけで芸能人としては致命傷だけど、犯罪者になるよりは被害者の方がギリギリマシだと割り切った。
悠翔高校からは、せっかく呼び寄せたのに評判がガタ落ちしてしまった事を責められる事はなく、むしろ同情的に対応してくれた。
通学については私自身が色々大変になるだろうから、一時的に通信制に切り替えてもいいと言われた。
目当てだった恭一からは嫌われただろうからもうあの高校に通う理由はないけど、学歴は確保したかったので私は通信制の話を受けた。
これでしばらくは潜り生活かー。
いざという時の為に自己管理はしっかりしないと。
トモリ、社長、サル、吉田、そして誰よりもイチゴぉ……。
覚えておきなさいよ。絶対に仕返ししてやるからね。
―――――――――――――――
これでトモリンゴ視点もすべて終わり、次は章最終話となるイチゴ視点になります
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます