第15話【裏・災い転じて……】

【Side.アミ】


 一年の三学期が終わる頃、私は突如転校する事になった。


 理由はお父さんが投資に失敗して、私が来年も悠翔高校に通う学費を払えなくなったから。


 ただでさえライバルが多いのに、転校して恭一くんと距離が開いてしまったら、もう勝ち目がなくなる!


 父さんの都合に巻き込まないで!と怒る気持ちもあったけど、養われる身で我が儘ばかり言ってられない。


 私はやむを得ず、本当に渋々と転校を受け入れた。


 そして恭一くんや友達に転校の事を伝えると、ファミレスでささやかなお別れ会を開いてくれた。


 恭一くん以外の顔触れが伊藤さんとか、鈴木さんとか、小林とか、斎藤さんとか……全部ライバルなのか微妙だったけど。


 少なくとも別れを本気で惜しんでくれた、とは思う。


 解散する間際、私は恭一くんを連れ出して二人きりになった。


 他の子たちも多分気付いて、最後だから見逃してくれたみたい。


「ねえ、恭一くん。私、恭一くんの事が好き」


 私も最後だからと勇気を振り絞って告白した。


「ごめん。吉田さんはいい人だと思うけど……俺は彼女がいるから吉田さんの気持ちには答えられない」


 でも振られてしまった。


 ああ、やっぱり無理か……。


 ほんの一抹の可能性として彼女と別れて私と付き合うって言ってくれるとか、せめて二番目ならばって答えてくれるかもって期待してたけど。


 振られるのも予想してたけどキツいな……。


「分かってる。でももう学校も変わって離れてしまったら、友達としても疎遠になってしまうから……最後に思い出が欲しいの」


 泣きそうになるのを何とかこらえて、恭一くんに縋り付いて言った。


「分かった、最後だからな」


 恭一くんは私を抱きしめ返してキスしてくれた。


 ああ、本当に最後だからこうしてくれたんだって、嫌でも伝わる。


 唇を離した後、しばらく見つめ合う。


 あっ、ダメ。泣いてしまう。そしたら恭一くんに迷惑掛けてしまう。


「……ありがとう、じゃ!」


 泣いてしまう前に、逃げるように、いや文字通り逃げ出した。


 恭一くんは追いかけて来てくれなかった。


 ああ、これで本当に私の初恋が終わったんだな……。


 転校さえなかったら、もっとアピールして振り向いて貰えるチャンスがあったかな?


 部屋のベッドで泣きながら、たらればの事ばかり考えてしまう。


 目一杯泣いたら、少しは気持ちも落ち着いた。


『恭一くん、さっきはごめんね。でもありがとう。これからもちょくちょく連絡するから、友達としてよろしくね』


 あんな別れ方したから心配かけるかもと思って、恭一くんにレインメッセージを送った。


 振られたのに友達に残ろうとする自分が、未練がましくて笑ってしまう。


『無事に帰れたならいいよ。こちらこそよろしく』


 すぐに恭一くんから返事が来た。


 もしかして心配してずっとスマホを見てくれてたのかな?


 どうしよう、まだ諦め切れないよ……。




 私の転校先は家の近くにある普通の公立の高校。


 でも服装の規則とかは悠翔よりも厳しい。


 それで両親や転校先の先生とかに銀色に染めた髪を黒に染め直すように言われたけど、「考えなしに染め直すと髪の毛にダメージが入るし、ダメージに気を使うなら時間も金も掛かるから嫌」と駄々をこねた。


 なんて言い訳。


 本当は恭一くんに近付きたくて染めた髪を戻すと、本当に全部終わる気がして嫌だったから。


 結局、髪が伸びて黒くなっても染め直さなず、いいくらいに伸びたら染めた部分を切るという事でお互い納得した。


 私の未練も髪が伸びるまでか……。


 二年生の新学期に合わせて転校した後は、髪の色で悪目立ちした以外は割と無難な学校生活を送れた。


 そして二週目くらいになった頃、クラスに新しく編入生が来た。


「長岡修二です。家庭の事情でこちらに編入する事になりました。これから一年、よろしくお願いします」


 その編入生は何と、前に依藤さんに協力して罠に嵌めた長岡修二だった。


 転校生と編入生で何が違うのかって言うと、私みたいな転校生は前の学校から籍を移した事だけど、編入生は高校から籍を移すのじゃなくて、高校生ではない在野?みたいな身分から直接高校に入る事らしい。


 という事は長岡くん、悠翔を退学されたんだ……。


 出来れば知らない振りをしたかったけど、間の悪い事に長岡の席は私の隣になり、長岡に顔と名前を覚えられていて、クラス中に知り合いだって知られてしまった。


 詳しい話は昼休み、と何とか長岡くんとの話を保留した後、レインで依藤さんに相談した。


『長岡修二が私のいる高校に編入して来たけど、どうしよう?』


『適当に仲良く過ごす振りをして探って欲しいの。後このアプリも入れて』


 依藤さんからそう返事が来て、アプリファイルも送られて来た。


 続く説明によると、このアプリは依藤さんが作ったスパイアプリの一種で、スマホの常駐してマイクで音声を拾い依藤さんが持ってるサーバーに送るらしい。


 代わりにスマホの充電を早く減らすから、モバイルバッテリーを買うようにとお金まで振り込まれた。


『上手く行ったら、またきょーくんとデート出来るように協力するから』


 最後にそう付け加えられて。


 やっぱり恭一くん、依藤さんと付き合ってたのか……。


 あの地味な依藤さんと……。


 見た目なら私が可愛いって自身あるのにな……。


 そして何よりも、彼氏の恭一くんを他の女に切り売りするような子に負けてるってのが納得いかない……!


 恭一くん、絶対騙されてるよ。


 それとも何か弱みでも握られてるの?


 恋心とは少し違う、闘争心に火が付いた。


 そっちが隙を見せるというなら、私が奪っちゃうんだから!


「ねえ吉田。長岡とはどういう関係?」


 次の休み時間。

 クラスの女子にそう聞かれた。


 ああ、長岡くんってこの学校からすると顔偏差値高くてちょっと狙ってるから私に探り入れて来たんだな。


「ただの知り合いだよ。それにね……」


 私が長岡くんと仲いいとか、裏で付き合ってるみたいな変な誤解が広まる前に、クラスメイトたちに長岡くんの情報を回した。


 長岡くんとは、向こうから付き纏われてるだけの知り合いで、実は長岡くんは前の学校で問題を起こしていて、転校ではなく編入という事はまた問題を起こして退学されたからだろうと。


 そしたら「顔はちょっといいのに、問題児はちょっと……」という感じでクラスメイトの女子は長岡に冷めたみたいだ。


 昼休みになって、長岡くんと話をするために校庭に出た。


 心なしか、見送ってくれるクラスメイトの眼差しが同情的だった。


「アミさんもこっちにいて驚いたよ」


「えっと、まあ。親の事情でね。それよりも…」


 勝手な名前呼びを指摘しようとしたら、長岡は遮るように被せて言う。


「でも良かったじゃないか。これで葛葉とも距離を置けて!アミさんだけでもあいつから解放されて嬉しいよ!」


 ……は?


 なんでそんな事を言うの……?


 ……いや、落ち着こう。


 こいつの中で、私は恭一くんに脅されてたって設定だった。


 その設定を考えると、こいつがこう言う事も間違ってはない。


 でもムカつく!!!


「ごめん!言葉を遮っちゃって。なんて言おうとしたの?」


 はまたも身勝手に話題を変える。


 ぐつぐつと煮えたぎる様な怒りを押さえて、名前呼びについて訂正した。


「とにかく、同じく悠翔高校から来た人同士仲良くしよう!」


「……分かった。友達としてね」


 最後はそう締めくくった。


 けど、私が恭一くんと離れ離れになったのを喜んだ事を絶対ユルサナイ。


 こんな奴、また依藤さんに嵌められればいい。




 放課後。

 校門で長岡が知らない女子と会ってどこかに行くのを見かけた。


 私は依藤さんに言われた事を思い出し、その後ろを尾行した。


 途中、コンビニでモバイルバッテリーを買うのと、依藤さんのスパイアプリを入れるのも忘れない。


 長岡と女子はカフェの中に入ったので、私もこっそり付いて行って近くの席に座った。


『スパイアプリが動いてるだけで十分だから、吉田さんは充電にだけ気をつけて』


 その後どうすべきか依藤さんに相談すると、そう返事された。


 それで私は一人でカフェに時間を潰しに来た振りをして、コーヒーを飲みながら席でスマホを適当にいじった。

 ご丁寧に経費と言って依藤さんからコーヒー代も振り込まれた。


 ついでに私も、長岡と花園さんって呼ばれた女子の話に聞き耳を立てた。


 信じ難い事に、恭一くんがあの二人の仲のいい子を脅して手籠めにしてるらしい。


 そんな羨ま……こほん。


 そんな酷い事、恭一くんがする訳ないでしょ!


 と思っていたら。


『本当は逆。きょーくんが島川トモリに脅されて手籠めにされている。花村リンゴは島川トモリを出し抜こうとして長岡に嘘をついている』


 例のスパイアプリで話を聞いてたのか、依藤さんからレインメッセージが来た。


 恭一くんを脅して手籠めにするとかそんな羨ま……こほん。


 酷い事するなんて!許せない!


 絶対助けてあげるから待っててね、恭一くん!


 あの二人の話が終わった後、長岡に見つかるというハプニングがあったけど、適当に誤魔化してカフェを出た。




 そして次の指示を待つように言われて数日。


 やっと依藤さんから連絡が来た。


 どうやって調べたかは分からないけど、そろそろ長岡が動くから、私も送られて来る証拠データを警察に持ち込んでから、依藤さんが教える住所に恭一くんを助けに行って欲しいと。


 私はまっすぐ近くの交番に行って、お巡りさんに友達の恭一くんが女たちに脅されてイジメられてると相談し、依藤さんから貰った音声データも再生して聴かせた。


 私も初めて聞いた内容だけど、恭一くんは本当に脅されていた。


 お巡りさんは私の話を聞き入れて応援を呼んでくれて、一緒に依藤さんに教えて貰った島川さんの家に押し掛けた。


 家の中では長岡と島川?みたいな女子が言い争っていて、ベッドの上で恭一くんが下着姿で倒れていて、その体には新しい傷がいくつもあった。


「恭一くん!大丈夫!?」


 私はすぐ恭一くんの様子を確かめたけど、恭一くんは反応してくれなかった。


 もしかしたらあの音声データであったみたいに、何かしらの薬を飲まされたのかも。


 私はその事をお巡りさんに伝え、救急車を呼んで恭一くんと病院に送った。


 その傍らに長岡と島川トモリが暴行と強制わいせつで逮捕されたみたいだけど、私にはどうでもよかった。


 恭一くんはそのまま入院した。


 色々おかしな薬を飲ませられた事と、体を傷付けられてた事と、強制わいせつの被害で心に負った傷を癒す為にしばらく静養するみたい。


 島川トモリは脅迫、強制わいせつ、違法薬物取り扱いなどで、長岡は暴行で逮捕されてて、現在判決待ちらしい。


 最後に、島川トモリとグルで長岡をそそのかした花村リンゴはまだ捕まっていない。


 どうやら警察が動いたのに感づいて隠れたみたい。


 多分、花村リンゴも恭一くんの弱みになるデータを持っているだろうから、知らない所で出て来て恭一くんを脅さないか不安だけど……。


「ねえ、ちょっと話さない?」


 って、私が通学してる所に出て来たんですけど!!


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