第13話『踊る道化・終・何度足掻いても絶望』
【Side.長岡修二】
校門で花園さんと再会して俺は、目立つのを避けるために適当なカフェに入った。
俺が転校した学校を花園さんがどうやって知ったのかは聞かなかった。
花園さんはアイドルだから、特殊な情報網でもあるんだろう。
むしろ、態々調べて会いに来てくれた所が、やはり俺のサブヒロインだと実感した。
「それで花園さん、何か用事があって来たの?」
「えー。用事が無いと会いに来ちゃいけないのー?」
えっ、それってただ俺に会いに来てくれたった事?
いつの間にか花園さんの攻略が終わってる!
これが主人公補正か!
もうリンゴって呼ぶ時も近いか?
「い、いや、そういう訳じゃないんだけど……」
わざとらしく、ラブコメの主人公みたいに狼狽えて見せた。
「まあ、用事あるんだけどね」
「あるのかよ」
何だ花園さんも演技だったのか。
流石アイドル、すっかり騙されてたぜ。
「実はトモリんの事で相談があるんだけど……」
トモリんって、アカリちゃんの本名だったよな。
「アカリちゃんがどうかした?」
やはり、俺が悠翔高校から居なくなった事で葛葉の野郎が?
「前のさ…長岡くんが騒いだ事でね。き…葛葉の評判にも被害が出たでしょ?それで騒いだ長岡くんを呼び出したのがトモリんだから、迷惑を掛けたお詫びとしてエ……エッチな要求をされたの。断ったらトモリんが長岡くんと親しいってマスコミにチクると脅して」
「なっ!?」
それって、まんまNTRの間男のやり口じゃないか!
アカリちゃんは俺のヒロインなのに!またあのクズ野郎が!
「葛葉の野郎……」
テーブルを思いっきり叩きたくなるのを、ギリギリこらえた。
「お願い長岡くん。私一人じゃ無理だから、トモリんを助けるのに力を貸して欲しいの!」
花園さんが両手を合わせてお願いして来た。
でもお願いされるまでもない!
「分かった。俺に出来る事なら何でもするよ。何をすればいい?」
「ありがとう!それじゃあ私は葛葉とトモリんがいつ会うのか調べるから、長岡くんにはその現場に突入してトモリんを助け出して欲しいの」
花園さんが諜報で、俺が実動の役割分担かな?
まあ、俺は男だから、荒事になるかも知れない現場突入の方を担うのはいいだろう。
それに俺がアカリちゃんを直接助ければ、それでアカリちゃんが俺に本気で惚れてくれるかも知れないからな。
「それはいいけど、警察とかには相談しないの?」
「証拠がないし、トモリんはアイドルだからそういうのが表沙汰になると凄く困るの」
「そうか……」
だから警察にも相談出来ないと。
俺もアカリちゃんがアイドルじゃなくなるとは嫌だな。
ヒロインとしてのバリューが……じゃなくてもうアカリちゃんがって呼び慣れてるのに、アイドルじゃなくなったらアカリちゃんって呼べなくなるから。
警察に頼るのは、もしアカリちゃんを助けるのに失敗した時にしよう。
そして俺は花園さんと連絡先を交換し、一度解散した。
「あれ?あ…吉田さん?」
店を出ようとした途中、近い席にいたアミさんを見つけて声を掛けた。
一人で来たのかな?スマホをいじってレインでチャットしてたみたいだけど……いや、人のスマホ画面を盗み見するのは悪いか
「あっ、な、なな、長岡くん?!どうしたの?」
急に声を掛けたからか、アミさんは凄くびっくりした。
「いや、驚かせてごめん。見かけたから声掛けただけなんだけど」
「一人で来たの?」
「あ、うん。たまたまね。たまたま」
「そうか。……せっかくだからちょっと話さない?お代わりのコーヒー奢るから」
丁度いい機会だから、アミさんをまた名前で呼べるように好感度を回復させよう、と思ったけど。
「ううん!私、もう帰るから。じゃあね!」
アミさんは鞄を持って席を立ち、そのまま会計を済ませて店を出て行った。
うーん、照れたのかな。
まあいいか。今はサブヒロインの吉田さんよりもメインヒロインのアカリちゃんの方が大事だ。
それから俺は悶々とした日々を過ごした。
アカリちゃんの歌を聞いて心を落ち着かせようともしたけど、歌を聞く度に例の音声データの歌声を思い出してしまい、余計に心が荒れた。
手遅れになる前に早くアカリちゃんを助けたい。
アカリちゃんの処女まで葛葉に奪われるのは嫌だ。
ファーストキスは手遅れかもだけど、処女まで奪われたらアカリちゃんのヒロインとしての命が死ぬ。
だから花園さん、早く頼む……!
そんな俺の祈りが通じたのか、花園さんからレインが来た。
今日これから葛葉がアカリちゃんの家に行くらしい。
野郎!俺も行った事のないアカリちゃんの家と部屋に!
花園さんにアカリちゃんの家の住所を教えてもらい、早速向かった。
「花園さん!お待たせ!」
「長岡くん、早くこっち」
アカリちゃんが住むマンションのエントランスで花園さんと合流した。
早速花園さんにエントランスのドアを開けて貰い、ついでにアカリちゃんの家の合鍵も借りた。
アカリちゃんの両親は中々家に帰らなくて、花園さんが何度もアカリちゃんの家に遊びに行ってたから預かってた物らしい。
「ありがとう花園さん。ここで待ってて!」
予定通り、ここから先は俺一人で行く。
エレベーターに乗ってフロアを移動し、〇〇〇号室のドアの前に着いた。
そのまま合鍵を使って中に入る。
玄関と居間には誰も居なかったが、部屋の一つから声など人の気配がした。
「アカリちゃん!助けに来たよ!」
そこにアカリちゃんと葛葉がいるだろうと確信を持ってドアを開けた。
「へ?」
そうしたら間の抜けた声を出すアカリちゃんと目があった。
アカリちゃんは下着姿で葛葉の上に覆い被さっていて、葛葉も下着だけの姿でベッドの上でぼうっと横になっていた。
どう見てもやる前だ。
このままだとアカリちゃんの処女までこのクズ野郎に!
「うわああああああ!!!!!」
感情のまま葛葉に殴りかかる。
葛葉は不気味なくらいに無抵抗に殴られた。
「ちょっと!何するんですか、このお邪魔虫!」
なのにアカリちゃんが俺を突き飛ばした。
「なっ、アカリちゃん?どうして……?」
「どうしても何も、あなたがきょー様を殴るからでしょうが!」
「何でそいつを庇うんだ!そいつがお前を脅したんだろ!」
まさか、もう心まで葛葉に堕ちてしまったのか?
「は?何バカな事を言ってるんですか。そもそもどうやってここに……。ああ、リンゴ先輩ですか?」
「そうだ。花園さんに君が葛葉に脅されて色々されてるって教えて貰ったんだ!」
「はっ」
アカリちゃんが鼻で笑う。
「アカリちゃん……?」
今までのアカリちゃんとは様子が違う?
ユカたちみたいに葛葉に墜とされて変わってしまったのか?
「いいですか?そもそもですね……」
アカリちゃんが何かを説明しようとした時。
「警察だ!全員大人しくしろ!」
突然警察が入って来て皆身動きを封じられた。
警察!?一体誰か?
その疑問はすぐ解消された。
「恭一くん!大丈夫!?」
警察の後ろから全く予想外の人物、アミさんが現れて葛葉に抱き付いた。
え、アミさん?
まさか、俺を裏切ったのか……?
いやそもそもからして、俺を騙してたのか……?
ユカもリナもマイもアリアもアカリちゃんもアミさんも全部葛葉に……?
俺の目の前は真っ暗になった。
―――――――――――――――
長岡は暴行の現行犯で逮捕されました
この三章での長岡の視点はこれで終わりです
詳しい末路については後に他の人の視点で語られます
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